鑑定スキルで万物を見抜く俺、実は女の子の好感度も丸見えです

夏見ナイ

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第34話:没落貴族の令嬢

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ワイバーン討伐の成功は、俺たちの名を不動のものにした。ギルド内では「辺境の超新星」などという、少し気恥ずかしい二つ名で呼ばれるようになり、Cランクへの昇格も果たした。金銭的な余裕も生まれ、俺たちの生活は安定し、充実したものになっていた。

そんなある日、俺は一人で街の広場を散策していた。ルナとシルフィは、ギルドで他の冒険者たちと模擬戦をしている。特にシルフィは、呪いから解放されたことで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように、誰彼構わず手合わせを挑んでいるらしかった。もちろん、手加減というものを知らない彼女に、まともに打ち合える者などこの街にはほとんどいないのだが。

広場はいつも通り、人々で賑わっていた。露店が並び、吟遊詩人が陽気な歌を奏でている。俺はそんな平和な光景を眺めながら、これからのことを考えていた。パーティーは順調だが、もっと安定した活動拠点、つまり自分たちの家が欲しい。それに、そろそろ俺自身の戦闘能力も少しは上げておくべきかもしれない。

そんなことを考えながら歩いていると、広場の片隅に小さな人だかりができているのに気づいた。何事かと思い近づいてみると、その中心で一人の少女がうずくまっていた。

少女は上質だが少し古びたドレスを着ており、その顔立ちは気品に満ちている。陽の光を浴びて輝くピンクブロンドの髪は、丁寧に手入れされているようだった。歳は、十七、八といったところだろうか。

彼女は手に小さな杖を握りしめ、何かぶつぶつと呪文のようなものを唱えている。だが、何も起こらない。それどころか彼女の足元で、小さな魔力の火花がパチパチと音を立てて暴発しているだけだった。

「あはは、また失敗してるぜ、あのお嬢様」
「魔法学園にも行けない落ちこぼれが、冒険者になろうなんて百年早いんだよ」
「家名を汚すだけだから、やめときゃいいのにな」

周囲の野次馬たちの心ない嘲笑が少女に突き刺さる。少女は顔を真っ赤にして、悔しそうに唇を噛んでいた。その大きな瞳には涙が浮かんでいる。

没落貴族の令嬢。おそらく、そんなところだろう。プライドだけは高いが、実力が伴っていない。よくある話だ。俺は特に興味も惹かれず、その場を立ち去ろうとした。

だが、その時だった。

少女が、最後の力を振り絞るように再び杖を構えた。

「今度こそ……! 【ファイア・アロー】!」

彼女が叫ぶ。しかし、杖の先から放たれたのは炎の矢ではなく、ポン、という間抜けな音と共に一筋の黒い煙だけだった。

その失敗が、彼女の心を完全に折ってしまったようだった。少女はその場にへたり込み、ついに声を上げて泣き出してしまった。野次馬たちはそれを見てさらに面白そうに囃し立てる。

見ていられなかった。俺は人混みをかき分け、少女の前に立った。

「もう、やめにしたらどうだ。見世物にされているだけだぞ」

俺が声をかけると、少女は涙で濡れた顔を上げ、俺を睨みつけた。

「な、なによ、あなた! 私を笑いに来たの!?」

「別に。だが、これ以上続けても結果は同じだろう」

俺の言葉に、少女はさらに反発した。

「あなたなんかに、私の何が分かるっていうのよ! 私は……私は、やらなくちゃいけないの! 魔法学園の学費を稼いで、ローズベルク家の名を、もう一度……!」

ローズベルク家。確か、数年前に領地経営に失敗し爵位を剥奪された下級貴族の名前だったはずだ。

俺は彼女の必死な姿に、ほんの少しだけかつての自分を重ねていたのかもしれない。俺はため息をつき、彼女に【万物解析】を使った。

【名称:フィオナ・フォン・ローズベルク】
【種族:人間】
【職業:なし(魔術師志望)】
【レベル:2】
【状態:精神的混乱、魔力枯渇寸前】
【スキル:なし】
【ステータス】
筋力(STR): F
敏捷性(AGI): E
体力(VIT): F
知力(INT): A
魔力(MP): S+
器用さ(DEX): D

【備考:魔力総量だけなら、王宮魔術師にも匹敵するほどの膨大なポテンシャルを持つ。しかし、魔力制御に関する基礎的な知識が完全に欠落しており、体内の魔力を全く扱えていない。致命的な誤解をしている可能性が高い】
【アレン・ウォーカーへの好感度:15/100(不信感/濁った灰色)】

「……なんだ、これは」

俺は鑑定結果に度肝を抜かれた。

魔力、S+。知力、A。これは、とんでもない才能の塊だ。シルフィやルナとはまた違う種類の、規格外の才能。それなのに、スキルはなし。レベルは2。

備考欄に書かれた『致命的な誤解』という言葉が、俺の興味を強く惹きつけた。

「……ローズベルク嬢」

俺は少しだけ口調を改めた。

「君は、魔法というものを何か勘違いしている」

「はあ!? あなた、やっぱり私を馬鹿にしに来たのね!」

フィオナは、完全に俺を敵だと認識しているようだった。

「そうじゃない。君はとんでもない才能を持っている。だが、その使い方を根本的に間違っているんだ」

俺は野次馬たちに聞こえないよう、声を潜めて言った。

「例えば、そうだ。君は今、体中の魔力を無理やり杖の先に集めようとしているだろう。血管が切れるんじゃないかというくらい、必死に念じて」

俺の言葉に、フィオナの肩がびくりと震えた。図星だったのだ。

「だが、それは間違いだ。魔法っていうのはもっと自然なものなんだ。体の中を流れる川のような魔力を、ほんの少しだけ指先から流してやるようなイメージでいい。力む必要なんて全くないんだ」

俺には魔法の知識などほとんどない。だが、【万物解析】が彼女の体内の魔力の流れと、魔法を発動するための最適なプロセスを俺に教えてくれていた。

「……何を、言っているの? そんな簡単なはずが……。魔法は、強い意志と膨大な集中力で、無理やり世界を書き換える力だと、父様は……」

「その父君の教えが間違いなんだ」

俺はきっぱりと言い切った。

フィオナは俺の言葉が信じられないといった表情で、呆然と俺を見つめている。彼女がこれまで信じてきた、全ての常識が覆されようとしているのだ。

俺は彼女の前にしゃがみこみ、その小さな杖を優しく取った。

「いいか、よく見てろ」

俺は杖を握り、目を閉じる。そして、スキルが示す通りに自分の体内に存在するごく微量の魔力を、川の流れのようにゆっくりと杖の先へと導いた。

何の力みも、集中もいらない。ただ、自然に。

すると、杖の先から小さな、しかし安定した炎の玉がぽん、と現れた。

それは、フィオナがどんなに頑張っても出せなかった本物の魔法の光だった。

フィオナの大きな瞳が、信じられないものを見るように大きく、大きく見開かれた。

彼女の頭上に浮かぶ好感度の色が、『不信感』を示す濁った灰色から、『戸惑いと興味』を示す透き-透き通った水色へと変わっていくのを、俺は確かに見ていた。

この出会いが、俺たちのパーティーに、そして俺自身の運命に新たな風を吹き込むことになる。

それを、俺はまだ知らなかった。
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