追放された【ガチャ師】の俺、鑑定不能のゴミアイテムばかり出ると思いきや、実は神話級の遺物だった件

夏見ナイ

文字の大きさ
9 / 70

第九話 銀狼との死闘

しおりを挟む
テルムの西門を出て半日。街道を外れ、獣道とも呼べぬ道なき道を進んだ先に、その森はあった。
銀狼の森。空を覆う木々の隙間から差し込む光は、どこか青白く冷たい。まるで森全体が月光を蓄えているかのようだ。一歩足を踏み入れると、ひやりとした空気が肌を撫でた。静かすぎる。鳥の声も虫の音も聞こえない。聞こえるのは、自分の足が枯れ葉を踏む音だけ。

(ここだ。間違いない)

レクスが腰に差した【月光のダガーの柄】が、森の魔力に呼応するように微かな光を放ち、温もりを帯びていた。この場所が、失われた刃のパーツと繋がっていることを示唆している。

彼はショートソードを抜き、慎重に森の奥へと進んでいった。深く分け入るほど、空気は密度を増していく。張り詰めた緊張感が、レクスの五感を研ぎ澄ませた。

その時、遠くで一声、長く尾を引く遠吠えが響いた。それは寂しげでありながら、同時に縄張りを主張する力強さを秘めている。

(来たか)

レクスは近くの巨大な樫の木の陰に身を潜めた。やがて、茂みの中から一体の狼が姿を現す。
銀色の毛皮は月光を反射して鈍く輝き、その体躯は普通の狼よりも一回り大きい。鋭い牙を剥き、知性の光を宿した瞳で周囲を警戒している。あれがシルヴァーウルフか。

一体なら、やれる。レクスがそう判断し、飛び出すタイミングを計った瞬間だった。
ガサガサ、と周囲の茂みが一斉に揺れた。一体、また一体と、同じ姿のシルヴァーウルフが姿を現す。数は四体。完全に包囲されていた。

「グルルル……」

四方から唸り声が聞こえる。退路はない。Dランク冒険者パーティですら苦戦するというアニエスの言葉が、脳裏をよぎった。

先手必勝。レクスは最も近くにいた一体に狙いを定め、地面を蹴った。
【月光のダガーの柄】から流れ込む力が、彼の身体能力を限界以上に引き上げている。ゴブリン相手の時とは比べ物にならない速さで、狼の懐に飛び込んだ。

狙うは首筋。しかし、シルヴァーウルフの反応速度はレクスの想像を上回っていた。狼は身を翻して剣をかわし、鋭い爪で反撃してきた。

「速い!」

咄嗟に腕でガードするが、革鎧が容易く引き裂かれ、三本の赤い線が刻まれる。強烈な痛みに顔を顰めつつも、レクスは怯まなかった。強化された力で無理やり体勢を立て直し、ショートソードを逆袈裟に斬り上げる。

ギャイン、と甲高い悲鳴。狼の前足に深い傷を負わせることに成功した。だが、その隙を他の三体が見逃すはずもない。左右と背後から、三体の狼が同時に襲いかかってきた。

絶体絶命。そう思った瞬間、レクスはパーティでの戦闘経験を思い出していた。Sランクパーティの戦闘では、常に敵の注意を引きつける役割がいた。

(囮だ!)

レクスは投擲用のナイフを一本抜き、背後の狼の顔めがけて投げつけた。狙いは正確だったが、狼はそれをひらりとかわす。だが、それでいい。一瞬だけ、背後の狼の注意が逸れた。そのコンマ数秒の隙を突き、レクスは左右から迫る二体の攻撃を最小限の動きでいなす。そして、傷を負わせた一体に再び肉薄した。

一体ずつ、確実に数を減らす。それが唯一の活路だった。
傷ついた狼は動きが鈍っている。レクスは渾身の力を込めてショートソードを突き出した。硬い毛皮と筋肉に阻まれるが、無理やり剣を心臓までねじ込む。

一体撃破。だが、代償は大きかった。残る三体の攻撃を完全に避けることはできず、太腿と脇腹を浅く裂かれていた。じわりと広がる血の感触が、焦りを誘う。

(くそ、このままじゃジリ貧だ)

ショートソードの切れ味は悪く、一撃で仕留めきれない。それが致命的だった。
レクスは距離を取り、アニエスから貰ったポーションを一本取り出した。狼たちが警戒して距離を詰めてこない今のうちだ。一気に飲み干すと、傷口が熱を帯び、痛みが和らいでいく。

体勢を立て直したレクスは、思考を切り替えた。
力で押し切れないなら、知恵を使うしかない。この森の地形を利用する。

レクスは背後にあった巨大な樫の木へ向かって走り出した。狼たちは獲物が逃げると判断したのか、勢いよく後を追ってくる。
木の幹を背にするレクス。これで背後からの攻撃はなくなった。正面の三体と向き合う。狭い場所では、数の有利は活かしにくい。

先頭の一体が飛びかかってくる。レクスはそれを待ち構え、相手が最高到達点に達する寸前に、木の幹を強く蹴った。体は横に飛び、狼の攻撃をかわす。がら空きになった狼の腹に、ショートソードを突き刺した。

二体目。残る二体は同時に左右から挟み撃ちにしてくる。レクスは再び幹を蹴り、今度は上方へ跳躍した。二体の狼が空中で激突し、一瞬動きが止まる。その隙を見逃さず、レクスは着地と同時に一体の首を刎ねた。

残り一体。
最後の狼は仲間が次々と倒されたのを見て、恐怖と怒りで我を忘れていた。ただがむしゃらに牙を剥いて突進してくる。もはや脅威ではない。
レクスは冷静にその動きを見切り、カウンターで剣を振るった。

静寂が森に戻ってきた。レクスの周囲には、四体のシルヴァーウルフの亡骸が転がっている。彼の体も無傷ではなかったが、その瞳には確かな達成感が宿っていた。

ぜえ、と荒い息をつきながら、レクスはその場に膝をついた。
「やった……のか」

自分の力だけで、Dランクの脅威を退けた。その事実が、彼の自信をさらに強固なものにした。
彼はよろめきながら立ち上がり、狼の死体から素材を剥ぎ取り始めた。銀色の毛皮、鋭い牙、そして魔石。これらを使えば、今度こそ。

全ての素材を回収し終えた、その時だった。

森の奥深くから、空気が震えるほどの重低音の遠吠えが響き渡った。
先ほどの狼たちとは比較にならない、圧倒的な威圧感。それはまるで、王の咆哮だった。

レクスは息を飲んだ。森の奥を見据える。そこには、この群れのボスがいる。

(あいつを倒さなければ、本当の素材は手に入らない)

直感がそう告げていた。
レクスは最後のポーションを飲み干し、ショートソードを強く握りしめた。傷ついた体は悲鳴を上げている。だが、心は燃えていた。伝説のかけらをこの手にするため、彼は再び闇の中へと足を踏み出す覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...