追放された【ガチャ師】の俺、鑑定不能のゴミアイテムばかり出ると思いきや、実は神話級の遺物だった件

夏見ナイ

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第十話 月光のダガー

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森の奥から響く咆哮は、空気を震わせ地を揺るがした。それはただの威嚇ではない。王の威厳そのものだった。レクスはごくりと喉を鳴らし、痛む体に鞭を打って音のする方へ進んだ。

やがて木々が途切れ、月明かりが直接降り注ぐ開けた場所に出た。
そこに、そいつはいた。

他のシルヴァーウルフとは比較にならない巨躯。体長は三メートルを優に超えている。白銀の毛皮はまるで金属のように輝き、その全身から王者の風格が溢れ出ていた。両目は血のように赤く、しかしその奥には高い知性が宿っているのが分かった。シルヴァーウルフ・ロード。この森の主だ。

ロードはレクスを一瞥すると、興味なさそうに鼻を鳴らした。その仕草は、まるで足元の虫けらを見るかのようだった。圧倒的な格上からの、絶対的な侮蔑。

だが、レクスはもう退かなかった。ここで退けば、全てが無駄になる。彼はショートソードを構え、雄叫びを上げて突進した。

ロードは動かない。レクスが間合いに入り、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。しかし、キィンという甲高い音が響いただけだった。ロードの毛皮は鋼鉄のように硬く、安物の剣では傷一つつけられない。

「なっ……!?」

レクスが驚愕に目を見開いた瞬間、ロードの巨腕が薙ぎ払われた。それはもはや爪の攻撃ではない。鉄塊による殴打だった。レクスは咄嗟に腕で防御したが、凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられた。

「ぐっ、は……!」

肺から空気が搾り出される。骨が軋む音が聞こえた。一撃。たった一撃で、戦闘不能寸前に追い込まれた。これが、この森の主の力。

ロードはゆっくりとレクスに歩み寄ってくる。その目には、先ほどの侮蔑に加えて、弱者をいたぶる残虐な光が宿っていた。

(このままじゃ、殺される)

レクスは朦朧とする意識の中で、必死に活路を探した。武器が通じない。力が違いすぎる。万策尽きたか。そう諦めかけた時、腰に差した【月光のダガーの柄】が、これまでで最も強く、熱く輝いていることに気づいた。

この場所の月光と、ロードの強大な魔力が、柄の力を最大限に引き出しているのだ。
身体能力の強化だけではない。何か、もっと別の力が働いている気がする。

(賭けるしかない)

レクスは革袋に手を伸ばした。中には、先ほど倒した四体のシルヴァーウルフの素材が入っている。魔石、毛皮、牙。

(頼む……!)

彼は最後の力を振り絞り、スキルを発動させた。
【ガチャ師】。
シルヴァーウルフの素材全てが、眩い光の粒子となってレクスの手の中に収束していく。ここで刃が出なければ、死ぬ。それだけだ。

ロードはレクスの奇妙な行動を訝しみ、一瞬だけ足を止めた。その数秒が、運命を分けた。

光が弾ける。
レクスの手のひらに現れたのは、一つの美しい刃だった。月の光をそのまま固めたような、半透明の白銀の刃。それは生きているかのように脈動し、腰の柄と強く共鳴した。

刃はレクスの手を離れ、柄へと吸い寄せられる。
カチン。
寸分の狂いもなく、二つのパーツが一つになった。

【月光のダガー】
・神話級武具。月の魔力を宿し、所有者に絶大な力を与える。
・特殊能力『月光吸収』…月光を吸収し、刃を形成・強化する。
・特殊能力『聖なる浄化』…邪悪な存在に対し、追加ダメージを与える。

完全な神話級武具が、今、その手に誕生した。
ダガーから流れ込んでくる力は、柄だけの時とは比較にならない。全身の傷が癒え、力が漲ってくる。

ロードは目の前の獲物から発せられる魔力の質が激変したことに気づき、初めて警戒の唸り声を上げた。そして、先手必勝とばかりに再び襲いかかってくる。

だが、その動きはもう遅すぎて見えた。
レクスはロードの爪を、完成したばかりの月光のダガーで軽々と受け止める。鋼鉄の毛皮をいとも容易く引き裂いた爪が、ダガーの刃に触れた瞬間、パキンと砕け散った。

「グルオオオ!?」

ロードが信じられないといった様子で悲鳴を上げる。
「今度はこっちの番だ」

レクスは低く呟き、地面を蹴った。彼の姿は掻き消えたかと思うと、次の瞬間にはロードの懐にいた。月光を吸って輝きを増したダガーが、閃光のように走る。

ザシュッ、という生々しい音。
ロードの硬い毛皮は、まるで熱したナイフでバターを切るように、あっさりと切り裂かれた。血飛沫が舞い、ロードは苦痛に咆哮する。

勝負は、一瞬だった。
レクスはロードの猛攻を全ていなし、かわし、受け流す。そして、その度に的確な一撃を叩き込んでいった。月光のダガーは、傷を負わせるたびに聖なる光を放ち、ロードの魔力を浄化していく。

やがて、巨体は力なく傾ぎ、地響きを立ててその場に崩れ落ちた。
森に、再び静寂が戻る。

レクスは荒い息をつきながら、その手に握られた【月光のダガー】を見つめた。
美しく、そして恐ろしいほどの力を秘めた伝説の武具。
これが、俺のスキルの真価。

彼は空を見上げた。欠けていた月が、まるで彼の新たな門出を祝福するかのように、煌々と輝いていた。
追放から始まった旅は、ここで一つの転機を迎えた。彼はもう、ただの「ゴミ出し」ではない。
神話の力をその手に握る、唯一無二の存在となったのだ。
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