ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第6話 リーダーへの挑戦

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俺が一体のゴブリンを惨殺してから数日が過ぎた。洞窟内の空気は明らかに変わった。以前のように俺を殴りつけようとする者はいなくなり、俺が通る道は自然と開けられるようになった。弱いゴブリンたちは俺の視線を恐れ、幹部クラスのゴブリンたちでさえ、どこか探るような目でこちらを遠巻きに見ている。

暴力は、最も分かりやすい言語だ。俺はそれを改めて実感した。

しかし、状況が好転したとは言い難い。俺は相変わらず最下層の一員であり、まともな食事と安全な寝床が保証されたわけではない。手に入れたのは、一時的な不可侵領域だけ。このままでは、いずれ腹を空かせた別のゴブリンが俺に挑んでくるか、あるいは俺が狩りに失敗して衰弱するかのどちらかだ。

根本的な問題を解決しなければならない。この非効率で、未来のない群れのシステムそのものを変える必要がある。そのためには、トップに立つしかない。

俺の視線は自然と、広場の中心にある巨大な岩に座る一体のゴブリンへと向かっていた。

ボスゴブリン。

この洞窟の絶対的な支配者。その体躯は他のゴブリンとは比較にならないほど大きく、鍛え上げられた筋肉は岩のように硬質だ。全身に刻まれた無数の傷跡が、彼の戦いの歴史を物語っている。その手には、獲物の大腿骨を加工した巨大な棍棒。あれで殴られれば、俺の身体など一撃で肉塊と化すだろう。

俺は冷静にボスの強さを分析する。純粋なパワー、耐久力、おそらくは長年の戦闘で培われた経験。全てが俺を上回っている。まともに戦えば、勝率はゼロだ。

だが、俺には奴が持たない武器がある。知恵と、そしてユニークスキル【弱肉強食】によって得た多彩なスキルだ。

俺は自分のステータスを再確認する。
【溶解液 Lv1】
【毒牙 Lv1】
【硬質外皮 Lv1】
レベルは2。百足を倒し、同族を殺したことで、ステータスは初期状態から見違えるほど向上している。だが、それでもボスとの間には絶望的な差があるだろう。

この差をどう埋めるか。

俺は頭の中で何度も戦闘シミュレーションを繰り返した。

まず、正面からの殴り合いは絶対に避ける。ボスの土俵で戦うのは愚の骨頂だ。俺が活かすべきは、体格差から生まれるスピード。そして、相手が想定しない攻撃パターンだ。

第一手は【溶解液】。目潰しとして使えれば理想的だが、射程は短い。接近しなければならない。
接近すれば、ボスの棍棒の餌食になる。そこで【硬質外皮】の出番だ。致命傷だけは避けるための保険として使う。だが、多用はできない。衝撃までは殺しきれないし、MPの消費も馬鹿にならない。
最大の切り札は【毒牙】。あの巨体にどれほどの効果があるかは未知数だ。だが、一瞬でも動きを鈍らせることができれば、そこに勝機が生まれる。

防御で耐え、隙を作り、毒で動きを止め、致命傷を与える。

言葉にすれば簡単だが、実行は困難を極めるだろう。一度でも読みを誤れば、即死。まさに綱渡りのような戦いになる。

それでも、やるしかない。

このまま最底辺で燻り続けるくらいなら、全てを賭けて王座を奪いに行く。前世で諦めることしか知らなかった俺は、もういない。

決意を固めた俺は、次の食事の分配を待った。狩り部隊が持ち帰った獲物をボスが食らい、幹部が食らい、そして下級ゴブリンたちが争う、いつもの光景。

俺はその争いの輪には加わらず、広場の中央へと真っ直ぐに進み出た。

俺の異様な行動に、争っていたゴブリンたちの動きが止まる。誰もが固唾を飲んで俺の行く末を見守っていた。ざわめきが波のように広がり、やがてそれはボスゴブリンの耳にも届いた。

肉塊にかぶりついていたボスが、ゆっくりと顔を上げる。その黄色い瞳が、血と肉に汚れた口元で、俺を正確に捉えた。

「……ナニカ、用カ。チビ」

地響きのような低い声。それだけで周囲のゴブリンたちが震え上がるほどの威圧感。幹部のゴブリンたちが、威嚇するように俺の前に立ちはだかった。

俺は彼らを無視し、ボスだけを見据えて言い放った。

「挑戦スル」

稚拙なゴブリンの言葉。だが、その意味は誰の耳にもはっきりと届いた。

広場が、水を打ったように静まり返る。そして次の瞬間、爆発的な嘲笑が巻き起こった。

「チビガ、ボスニ!」
「気ガ狂ッタカ!」

ゴブリンたちが腹を抱えて笑い転げる。幹部の一体は、俺を侮蔑の目で見下ろし、棍棒を振り上げた。

「殺サレタイラシイナ」

だが、その棍棒が振り下ろされることはなかった。

「待テ」

ボスの制止の声。幹部は驚いたように動きを止め、ボスを振り返った。

ボスゴブリンは、岩の玉座からゆっくりと立ち上がった。その巨体が立ち上がるだけで、凄まじい圧力が広場全体に広がる。嘲笑はピタリと止み、誰もが支配者の次の言葉を待っていた。

ボスは俺の前に進み出ると、その巨体を見下ろすように俺を睨みつけた。

「オマエ、先日ノ……。名ハ?」
「ゴブ」
「ゴブ。オマエ、ワカッテルノカ。俺ニ挑戦スルトイウコトガ」
「アア。オマエヲ殺シ、俺ガ新シイボスニナル」

俺は臆することなく言い切った。俺の目を見たボスは、一瞬だけ意外そうな表情を浮かべた。そして、ニヤリと残忍な笑みを浮かべた。その口からはみ出した牙が、不気味な光を放つ。

「面白い。久シブリダ。俺ノ前デ、ソコマデ目ノ据ワッタ奴ハ」

ボスは俺の挑戦を、まるで余興のように楽しんでいるようだった。

「イイダロウ。受ケテヤル。群レノ前デ、オマエガドンナ風ニ肉塊ニナルカ、見セテヤル」

挑戦は、受諾された。

「場所ハ、ココダ。時ハ、次ノ狩リノ前。ソレデ文句ハナイナ」
「ない」

俺が頷くと、ボスは満足そうに鼻を鳴らし、再び玉座へと戻っていった。

決まった。もう後戻りはできない。周囲のゴブリンたちは、興味と恐怖、そしてわずかな期待が入り混じった目で俺を見ていた。この群れに、初めて下剋上という概念が生まれようとしていた。

俺はその視線を背に受けながら、静かにその場を離れた。洞窟の隅にある、俺だけの寝床へ。

決戦の時は近い。俺は暗闇の中で目を閉じ、神経を研ぎ澄ませていく。これから始まるのは、ただの殺し合いではない。俺という存在の価値を問う、最初の試練。

勝てば全てを手にし、負ければ死ぬ。

単純で、分かりやすい。それでこそ、この弱肉強食の世界に相応しい。俺は冷たい岩肌に背を預け、静かにその時を待った。
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