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第7話 下剋上、そして新たな王
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洞窟の空気が張り詰めていた。広場を埋め尽くすゴブリンたちは、皆押し黙って中央の空間を見つめている。そこには、これから始まる死闘の主役二人が立っていた。
片や、巨大な骨棍棒を肩に担ぐボスゴブリン。その圧倒的な体躯と威圧感は、この洞窟の絶対的な支配者であることを雄弁に物語っている。
片や、血濡れの棍棒を握る俺、ゴブ。ボスの半分ほどの背丈しかない俺の姿は、あまりにも頼りなく見えただろう。
「最後ニ言イ残スコトハアルカ、チビ」
ボスが、地を這うような声で言った。その声には、憐れみと侮りが滲んでいる。周囲のゴブリンたちも、誰もが俺の敗北を、そして無残な死を信じて疑っていなかった。
俺は答えなかった。ただ静かに、ボスの巨大な身体の重心、筋肉の動き、呼吸のリズムを観察する。勝機は一瞬。その一瞬を掴むために、全ての神経を研ぎ澄ませる。
俺の沈黙を降伏と受け取ったのか、ボスは獰猛な笑みを浮かべた。
「ソウカ。ナラバ死ネ!」
咆哮と共に、ボスが動いた。巨体からは想像もつかないほどの速度で距離を詰め、骨棍棒が凄まじい風切り音を立てて振り下ろされる。
俺はコンマ数秒の差で、真横へ跳んでそれを回避した。
ドゴオォン、という轟音。俺が先ほどまで立っていた地面が砕け、土煙が舞い上がった。掠っただけで致命傷。その威力は想像以上だった。
「避ケルカ、素早イ」
ボスは感心したように言いながら、休む間もなく次の攻撃を繰り出してくる。横薙ぎ、叩きつけ、突き。繰り出される全ての攻撃が、俺の身体を容易く粉砕するだけの威力を持っていた。
俺は回避に専念した。ボスの攻撃は大振りで、動きを見切れば避けること自体は難しくない。だが、それは体力が続く限りの話だ。一撃でも食らえば終わり。そのプレッシャーが、じわじわと俺の精神を削っていく。
広場には、ボスの棍棒が空を切る音と、地面を砕く轟音だけが響き渡っていた。他のゴブリンたちは、息をすることも忘れ、この一方的な攻防を見守っている。
数分が経過しただろうか。ボスの額に、わずかに汗が滲んでいるのが見えた。連続の全力攻撃は、流石のボスにも負担になっている証拠だ。
今だ。
ボスの棍棒が地面を叩き、一瞬だけ動きが止まる。その隙を突き、俺は懐へと一直線に踏み込んだ。
「愚カ!」
ボスは即座に反応し、棍棒を振り上げる暇がないと見るや、空いた左の拳で俺を殴りつけようとしてきた。巨大な拳が壁のように迫る。
「硬質外皮!」
俺はMPを消費し、左腕を硬化させてガードを固めた。
ゴッ、という鈍い衝撃。硬化させた腕が痺れ、骨が軋む。だが、なんとか耐えきった。そして、拳を受け止めた反動を利用して、さらに一歩踏み込む。
ボスとの距離は、ゼロ。
「溶解液!」
至近距離から、俺はボスの顔面めがけてスキルを放った。
「グッ!?」
ボスは咄嗟に顔を背けたが、完全に避けることはできなかった。酸性の液体が、ボスの右目に直撃する。
「ギシャアアアア!」
ボスが、洞窟を揺るがすほどの絶叫を上げた。右目を押さえ、苦悶にのたうち回る。視界を焼かれる激痛は、想像を絶するものだろう。
好機。だが、俺は追撃しなかった。怒り狂った獣が最も危険だということを、俺は知っていたからだ。
案の定、ボスは痛みと怒りで理性を失い、見境なく骨棍棒を振り回し始めた。その動きは先ほどまでとは比較にならないほど速く、そして無軌道だった。
「殺ス、殺シテヤル!」
暴風のような攻撃が、俺に襲いかかる。俺は再び回避に転じるが、予測不能な攻撃を捌き切るのは困難だった。
ガッ、と肩を掠めた一撃で、俺の身体は紙切れのように吹き飛ばされた。壁に叩きつけられ、肺から空気が全て搾り出される。
「ぐっ、あ……!」
口から血が溢れた。肩の骨が砕けたような激痛が走る。だが、この痛みこそが、俺が描いた勝利への道筋だった。
息も絶え絶えに立ち上がると、ボスの動きが明らかに鈍っているのが分かった。無差別な猛攻は、奴の体力を著しく消耗させていたのだ。
これで、五分だ。
俺は血を吐き捨て、再びボスに向かって走り出した。
「マダ動ケルカ!」
ボスが、残った左目で俺を睨みつけ、最後の力を振り絞るように骨棍棒を構える。俺もまた、最後のMPを振り絞り、全身に【硬質外皮】を展開した。
これが、最後の一撃。
俺はボスの棍棒を避けることなく、真っ直ぐに突っ込んだ。
凄まじい衝撃と共に、俺の左肩が完全に砕け散った。だが、俺は止まらない。激痛に意識が飛びそうになるのを、奥歯を噛み砕くほどの力で耐えきる。そして、ついにボスの懐に到達した。
「喰ラエ!」
【毒牙】を発動させた俺の牙が、がら空きになったボスの喉元に深く突き立った。
「ガ……フッ……!」
ボスの巨体が、大きく痙攣した。麻痺毒が、その強靭な肉体を内側から蝕んでいく。ボスの目から力が失われ、骨棍棒が手から滑り落ちた。
俺は砕けた肩の腕をだらりと垂らしながら、その場に落ちた巨大な骨棍棒を右手一本で拾い上げる。そして、膝から崩れ落ちようとするボスの前に立ち、その頭上へと棍棒を振り上げた。
「……終わりだ」
振り下ろされた一撃が、ボスの頭蓋を叩き割った。
ボスゴブリンの巨体が、地響きを立てて崩れ落ちる。あれほど広場を支配していた暴力の象徴が、今はただの肉塊と化していた。
洞窟は、死んだように静まり返っていた。
俺は血と汗に塗れ、満身創痍の身体を引きずるようにして、ボスの亡骸へと歩み寄った。そして、全てのゴブリンが見守る前で、その亡骸にかじりついた。
【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【ボスゴブリンの捕食に成功】
【スキル『怪力 Lv1』を獲得しました】
新しい力が、砕かれた身体に流れ込んでくるのを感じた。
その時だった。広場にいた一体のゴブリンが、おもむろにその場に膝をつき、頭を垂れた。それを皮切りに、一体、また一体と、全てのゴブリンが俺に向かってひれ伏していく。
そこには、もはや侮蔑も嘲笑もなかった。あるのは、絶対的な強者に対する、純粋な畏怖と服従だけ。
下剋上は、成った。
俺は血に濡れた顔を上げ、ひれ伏すゴブリンたちを見下ろした。この瞬間から、俺がこの群れの、新たな王だ。理不尽な搾取の連鎖は、俺の代で終わらせる。
洞窟の暗闇の中で、新たな支配者が産声を上げた。
片や、巨大な骨棍棒を肩に担ぐボスゴブリン。その圧倒的な体躯と威圧感は、この洞窟の絶対的な支配者であることを雄弁に物語っている。
片や、血濡れの棍棒を握る俺、ゴブ。ボスの半分ほどの背丈しかない俺の姿は、あまりにも頼りなく見えただろう。
「最後ニ言イ残スコトハアルカ、チビ」
ボスが、地を這うような声で言った。その声には、憐れみと侮りが滲んでいる。周囲のゴブリンたちも、誰もが俺の敗北を、そして無残な死を信じて疑っていなかった。
俺は答えなかった。ただ静かに、ボスの巨大な身体の重心、筋肉の動き、呼吸のリズムを観察する。勝機は一瞬。その一瞬を掴むために、全ての神経を研ぎ澄ませる。
俺の沈黙を降伏と受け取ったのか、ボスは獰猛な笑みを浮かべた。
「ソウカ。ナラバ死ネ!」
咆哮と共に、ボスが動いた。巨体からは想像もつかないほどの速度で距離を詰め、骨棍棒が凄まじい風切り音を立てて振り下ろされる。
俺はコンマ数秒の差で、真横へ跳んでそれを回避した。
ドゴオォン、という轟音。俺が先ほどまで立っていた地面が砕け、土煙が舞い上がった。掠っただけで致命傷。その威力は想像以上だった。
「避ケルカ、素早イ」
ボスは感心したように言いながら、休む間もなく次の攻撃を繰り出してくる。横薙ぎ、叩きつけ、突き。繰り出される全ての攻撃が、俺の身体を容易く粉砕するだけの威力を持っていた。
俺は回避に専念した。ボスの攻撃は大振りで、動きを見切れば避けること自体は難しくない。だが、それは体力が続く限りの話だ。一撃でも食らえば終わり。そのプレッシャーが、じわじわと俺の精神を削っていく。
広場には、ボスの棍棒が空を切る音と、地面を砕く轟音だけが響き渡っていた。他のゴブリンたちは、息をすることも忘れ、この一方的な攻防を見守っている。
数分が経過しただろうか。ボスの額に、わずかに汗が滲んでいるのが見えた。連続の全力攻撃は、流石のボスにも負担になっている証拠だ。
今だ。
ボスの棍棒が地面を叩き、一瞬だけ動きが止まる。その隙を突き、俺は懐へと一直線に踏み込んだ。
「愚カ!」
ボスは即座に反応し、棍棒を振り上げる暇がないと見るや、空いた左の拳で俺を殴りつけようとしてきた。巨大な拳が壁のように迫る。
「硬質外皮!」
俺はMPを消費し、左腕を硬化させてガードを固めた。
ゴッ、という鈍い衝撃。硬化させた腕が痺れ、骨が軋む。だが、なんとか耐えきった。そして、拳を受け止めた反動を利用して、さらに一歩踏み込む。
ボスとの距離は、ゼロ。
「溶解液!」
至近距離から、俺はボスの顔面めがけてスキルを放った。
「グッ!?」
ボスは咄嗟に顔を背けたが、完全に避けることはできなかった。酸性の液体が、ボスの右目に直撃する。
「ギシャアアアア!」
ボスが、洞窟を揺るがすほどの絶叫を上げた。右目を押さえ、苦悶にのたうち回る。視界を焼かれる激痛は、想像を絶するものだろう。
好機。だが、俺は追撃しなかった。怒り狂った獣が最も危険だということを、俺は知っていたからだ。
案の定、ボスは痛みと怒りで理性を失い、見境なく骨棍棒を振り回し始めた。その動きは先ほどまでとは比較にならないほど速く、そして無軌道だった。
「殺ス、殺シテヤル!」
暴風のような攻撃が、俺に襲いかかる。俺は再び回避に転じるが、予測不能な攻撃を捌き切るのは困難だった。
ガッ、と肩を掠めた一撃で、俺の身体は紙切れのように吹き飛ばされた。壁に叩きつけられ、肺から空気が全て搾り出される。
「ぐっ、あ……!」
口から血が溢れた。肩の骨が砕けたような激痛が走る。だが、この痛みこそが、俺が描いた勝利への道筋だった。
息も絶え絶えに立ち上がると、ボスの動きが明らかに鈍っているのが分かった。無差別な猛攻は、奴の体力を著しく消耗させていたのだ。
これで、五分だ。
俺は血を吐き捨て、再びボスに向かって走り出した。
「マダ動ケルカ!」
ボスが、残った左目で俺を睨みつけ、最後の力を振り絞るように骨棍棒を構える。俺もまた、最後のMPを振り絞り、全身に【硬質外皮】を展開した。
これが、最後の一撃。
俺はボスの棍棒を避けることなく、真っ直ぐに突っ込んだ。
凄まじい衝撃と共に、俺の左肩が完全に砕け散った。だが、俺は止まらない。激痛に意識が飛びそうになるのを、奥歯を噛み砕くほどの力で耐えきる。そして、ついにボスの懐に到達した。
「喰ラエ!」
【毒牙】を発動させた俺の牙が、がら空きになったボスの喉元に深く突き立った。
「ガ……フッ……!」
ボスの巨体が、大きく痙攣した。麻痺毒が、その強靭な肉体を内側から蝕んでいく。ボスの目から力が失われ、骨棍棒が手から滑り落ちた。
俺は砕けた肩の腕をだらりと垂らしながら、その場に落ちた巨大な骨棍棒を右手一本で拾い上げる。そして、膝から崩れ落ちようとするボスの前に立ち、その頭上へと棍棒を振り上げた。
「……終わりだ」
振り下ろされた一撃が、ボスの頭蓋を叩き割った。
ボスゴブリンの巨体が、地響きを立てて崩れ落ちる。あれほど広場を支配していた暴力の象徴が、今はただの肉塊と化していた。
洞窟は、死んだように静まり返っていた。
俺は血と汗に塗れ、満身創痍の身体を引きずるようにして、ボスの亡骸へと歩み寄った。そして、全てのゴブリンが見守る前で、その亡骸にかじりついた。
【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【ボスゴブリンの捕食に成功】
【スキル『怪力 Lv1』を獲得しました】
新しい力が、砕かれた身体に流れ込んでくるのを感じた。
その時だった。広場にいた一体のゴブリンが、おもむろにその場に膝をつき、頭を垂れた。それを皮切りに、一体、また一体と、全てのゴブリンが俺に向かってひれ伏していく。
そこには、もはや侮蔑も嘲笑もなかった。あるのは、絶対的な強者に対する、純粋な畏怖と服従だけ。
下剋上は、成った。
俺は血に濡れた顔を上げ、ひれ伏すゴブリンたちを見下ろした。この瞬間から、俺がこの群れの、新たな王だ。理不尽な搾取の連鎖は、俺の代で終わらせる。
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