ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第15話 ホブゴブリンへの進化

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意識が浮上する。最初に感じたのは、泥の匂いと、仲間たちの心配そうな声だった。

「ボス……ボス! 目ヲ覚マシテクダサイ!」

ゆっくりと瞼を開くと、生き残ったゴブリンたちが俺の顔を覗き込んでいた。その顔には、安堵と、それ以上に強い畏敬の色が浮かんでいる。

俺はゆっくりと身を起こした。その瞬間、自分の身体に起きた驚くべき変化に気づく。

まず、視界が高い。以前より、明らかに目線が上がっている。見下ろした自分の手は、ずんぐりとしていたゴブリンのそれではなく、より人間のそれに近い、しなやかで力強い指をしていた。肌の色も、くすんだ緑から、より深く、精悍な印象を与える深緑色へと変わっている。

そして何より、力がみなぎっていた。グレートボアとの死闘で負ったはずの骨折や打撲は跡形もなく消え去り、身体の奥底からこれまでとは比較にならないほどのパワーが湧き上がってくる。

これが、進化。

俺はステータス画面を開いた。そこに表示されていた文字列に、俺は息を呑んだ。

【ステータス】
名前:ゴブ
種族:ホブゴブリン
レベル:5
HP:150/150
MP:50/50

【スキル】
・ユニークスキル:弱肉強食
・種族スキル:棍棒術Lv2、夜目、指揮Lv1
・獲得スキル:溶解液Lv1、毒牙Lv1、硬質外皮Lv2、怪力Lv2、嗅覚強化Lv1、跳躍Lv1、危機察知Lv1、突進Lv1、頑強Lv1

種族が、ゴブリンからホブゴブリンへと変わっていた。それに伴い、全ての基礎能力値が爆発的に上昇している。さらに、スキル欄には見慣れないものが増えていた。

【指揮 Lv1】:配下の者の士気を高め、戦闘能力をわずかに向上させる。
【突進 Lv1】:一直線に加速し、対象に強力な体当たりを行う。
【頑強 Lv1】:物理的なダメージに対する耐性が向上する。

グレートボアを食らったことで得たスキルだろう。【突進】と【頑強】。あの重戦車の強さの根幹を成していた二つの能力。それが、今や俺の力となったのだ。

そして、種族スキルとして新たに追加された【指揮】。これは、俺がこの群れの王であることを、システムが認めた証なのかもしれない。

「ボス……ソノ姿ハ……」

狩り部隊のリーダーが、恐る恐る問いかけてくる。

俺は立ち上がった。その身長は、今や彼らゴブリンたちを見下ろすほどに伸びている。体格も一回り大きくなり、全身の筋肉はしなやかに引き締まっていた。醜いだけだったゴブリンの顔つきも、どこか精悍で、威厳のあるものへと変化している。

「俺ハ、進化シタ」

俺が告げると、ゴブリンたちは畏怖の念に打たれたように、その場にひれ伏した。彼らの目には、もはや俺は同族のゴブリンとは映っていない。絶対的な力を持つ、上位の存在。神に近い何かとして、映っているのだろう。

俺はひれ伏す仲間たちを見渡し、この戦いの犠牲を思った。
十八人で挑み、生き残ったのは俺を含めて七人。十一人の仲間が、この森の土となった。その犠牲は、決して軽いものではない。

「立テ」

俺の声は、以前の甲高いものではなく、低く、よく通るものに変わっていた。

「オマエタチノ犠牲ガアッタカラコソ、俺ハ勝チ、進化スルコトガデキタ。死ンダ仲間ノコトハ、決シテ忘レナイ」

俺は泥濘に沈むグレートボアの巨体を見つめた。その肉は、俺たちの貴重な食料となるだろう。そして、その牙や皮は、新たな武具の材料となるはずだ。

「奴ラノ死ヲ、無駄ニスルナ。俺タチハ、モット強クナル。二度ト、仲間ヲ失ワナイタメニ」

俺の言葉に、生き残ったゴブリンたちは静かに頷いた。彼らの目には、悲しみと共に、新たな決意の光が灯っていた。この過酷な戦いを生き延びた彼らは、もはやただのゴブリンではない。俺の組織の中核を担う、真の戦士へと成長を遂げていた。

俺たちは、死んだ仲間たちをその場で弔い、グレートボアを解体して持ち帰れるだけの肉と素材を確保した。洞窟への帰路は、来た時とは全く違う空気に包まれていた。失ったものの大きさは計り知れない。だが、それ以上に大きなものを、俺たちはこの戦いで手に入れたのだ。

洞窟に戻ると、残留部隊は俺の変わり果てた姿を見て、言葉を失った。そして、俺たちが持ち帰ったグレートボアの巨大な牙と肉を見て、二度驚愕した。

俺が、あの森の重戦車を討ち滅ぼしたこと。そして、ゴブリンという種の限界を超え、ホブゴブリンへと進化したこと。その二つの事実は、俺の王としての地位を、もはや誰にも揺るがすことのできない絶対的なものへと押し上げた。

その夜、洞窟ではささやかな宴が開かれた。グレートボアの肉を焼き、生き残った者も、残留していた者も、等しくその肉を分かち合った。それは、勝利の祝宴であると同時に、死んでいった仲間たちへの追悼の宴でもあった。

俺は一人、玉座からその光景を眺めていた。
ホブゴブリンへの進化。それは、俺の成り上がり物語における、大きな一つの到達点だ。だが、俺はまだ満足していなかった。

この身体、この力。これらを以てしても、この広大な森の全てを支配するには、まだ足りない。そして、森の外には、さらに広大な世界が広がっているはずだ。

俺の食欲は、進化によってさらに増大していた。
ただの魔物の肉ではない。もっと多くのスキル、もっと多くの知識、そして、もっと多くの可能性。その全てを、俺は食らいたいと渇望していた。

俺の視線は、洞窟の外、まだ見ぬ世界の闇へと向けられていた。
ゴブリンの王から、ホブゴブリンの王へ。俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
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