15 / 96
第15話 ホブゴブリンへの進化
しおりを挟む
意識が浮上する。最初に感じたのは、泥の匂いと、仲間たちの心配そうな声だった。
「ボス……ボス! 目ヲ覚マシテクダサイ!」
ゆっくりと瞼を開くと、生き残ったゴブリンたちが俺の顔を覗き込んでいた。その顔には、安堵と、それ以上に強い畏敬の色が浮かんでいる。
俺はゆっくりと身を起こした。その瞬間、自分の身体に起きた驚くべき変化に気づく。
まず、視界が高い。以前より、明らかに目線が上がっている。見下ろした自分の手は、ずんぐりとしていたゴブリンのそれではなく、より人間のそれに近い、しなやかで力強い指をしていた。肌の色も、くすんだ緑から、より深く、精悍な印象を与える深緑色へと変わっている。
そして何より、力がみなぎっていた。グレートボアとの死闘で負ったはずの骨折や打撲は跡形もなく消え去り、身体の奥底からこれまでとは比較にならないほどのパワーが湧き上がってくる。
これが、進化。
俺はステータス画面を開いた。そこに表示されていた文字列に、俺は息を呑んだ。
【ステータス】
名前:ゴブ
種族:ホブゴブリン
レベル:5
HP:150/150
MP:50/50
【スキル】
・ユニークスキル:弱肉強食
・種族スキル:棍棒術Lv2、夜目、指揮Lv1
・獲得スキル:溶解液Lv1、毒牙Lv1、硬質外皮Lv2、怪力Lv2、嗅覚強化Lv1、跳躍Lv1、危機察知Lv1、突進Lv1、頑強Lv1
種族が、ゴブリンからホブゴブリンへと変わっていた。それに伴い、全ての基礎能力値が爆発的に上昇している。さらに、スキル欄には見慣れないものが増えていた。
【指揮 Lv1】:配下の者の士気を高め、戦闘能力をわずかに向上させる。
【突進 Lv1】:一直線に加速し、対象に強力な体当たりを行う。
【頑強 Lv1】:物理的なダメージに対する耐性が向上する。
グレートボアを食らったことで得たスキルだろう。【突進】と【頑強】。あの重戦車の強さの根幹を成していた二つの能力。それが、今や俺の力となったのだ。
そして、種族スキルとして新たに追加された【指揮】。これは、俺がこの群れの王であることを、システムが認めた証なのかもしれない。
「ボス……ソノ姿ハ……」
狩り部隊のリーダーが、恐る恐る問いかけてくる。
俺は立ち上がった。その身長は、今や彼らゴブリンたちを見下ろすほどに伸びている。体格も一回り大きくなり、全身の筋肉はしなやかに引き締まっていた。醜いだけだったゴブリンの顔つきも、どこか精悍で、威厳のあるものへと変化している。
「俺ハ、進化シタ」
俺が告げると、ゴブリンたちは畏怖の念に打たれたように、その場にひれ伏した。彼らの目には、もはや俺は同族のゴブリンとは映っていない。絶対的な力を持つ、上位の存在。神に近い何かとして、映っているのだろう。
俺はひれ伏す仲間たちを見渡し、この戦いの犠牲を思った。
十八人で挑み、生き残ったのは俺を含めて七人。十一人の仲間が、この森の土となった。その犠牲は、決して軽いものではない。
「立テ」
俺の声は、以前の甲高いものではなく、低く、よく通るものに変わっていた。
「オマエタチノ犠牲ガアッタカラコソ、俺ハ勝チ、進化スルコトガデキタ。死ンダ仲間ノコトハ、決シテ忘レナイ」
俺は泥濘に沈むグレートボアの巨体を見つめた。その肉は、俺たちの貴重な食料となるだろう。そして、その牙や皮は、新たな武具の材料となるはずだ。
「奴ラノ死ヲ、無駄ニスルナ。俺タチハ、モット強クナル。二度ト、仲間ヲ失ワナイタメニ」
俺の言葉に、生き残ったゴブリンたちは静かに頷いた。彼らの目には、悲しみと共に、新たな決意の光が灯っていた。この過酷な戦いを生き延びた彼らは、もはやただのゴブリンではない。俺の組織の中核を担う、真の戦士へと成長を遂げていた。
俺たちは、死んだ仲間たちをその場で弔い、グレートボアを解体して持ち帰れるだけの肉と素材を確保した。洞窟への帰路は、来た時とは全く違う空気に包まれていた。失ったものの大きさは計り知れない。だが、それ以上に大きなものを、俺たちはこの戦いで手に入れたのだ。
洞窟に戻ると、残留部隊は俺の変わり果てた姿を見て、言葉を失った。そして、俺たちが持ち帰ったグレートボアの巨大な牙と肉を見て、二度驚愕した。
俺が、あの森の重戦車を討ち滅ぼしたこと。そして、ゴブリンという種の限界を超え、ホブゴブリンへと進化したこと。その二つの事実は、俺の王としての地位を、もはや誰にも揺るがすことのできない絶対的なものへと押し上げた。
その夜、洞窟ではささやかな宴が開かれた。グレートボアの肉を焼き、生き残った者も、残留していた者も、等しくその肉を分かち合った。それは、勝利の祝宴であると同時に、死んでいった仲間たちへの追悼の宴でもあった。
俺は一人、玉座からその光景を眺めていた。
ホブゴブリンへの進化。それは、俺の成り上がり物語における、大きな一つの到達点だ。だが、俺はまだ満足していなかった。
この身体、この力。これらを以てしても、この広大な森の全てを支配するには、まだ足りない。そして、森の外には、さらに広大な世界が広がっているはずだ。
俺の食欲は、進化によってさらに増大していた。
ただの魔物の肉ではない。もっと多くのスキル、もっと多くの知識、そして、もっと多くの可能性。その全てを、俺は食らいたいと渇望していた。
俺の視線は、洞窟の外、まだ見ぬ世界の闇へと向けられていた。
ゴブリンの王から、ホブゴブリンの王へ。俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
「ボス……ボス! 目ヲ覚マシテクダサイ!」
ゆっくりと瞼を開くと、生き残ったゴブリンたちが俺の顔を覗き込んでいた。その顔には、安堵と、それ以上に強い畏敬の色が浮かんでいる。
俺はゆっくりと身を起こした。その瞬間、自分の身体に起きた驚くべき変化に気づく。
まず、視界が高い。以前より、明らかに目線が上がっている。見下ろした自分の手は、ずんぐりとしていたゴブリンのそれではなく、より人間のそれに近い、しなやかで力強い指をしていた。肌の色も、くすんだ緑から、より深く、精悍な印象を与える深緑色へと変わっている。
そして何より、力がみなぎっていた。グレートボアとの死闘で負ったはずの骨折や打撲は跡形もなく消え去り、身体の奥底からこれまでとは比較にならないほどのパワーが湧き上がってくる。
これが、進化。
俺はステータス画面を開いた。そこに表示されていた文字列に、俺は息を呑んだ。
【ステータス】
名前:ゴブ
種族:ホブゴブリン
レベル:5
HP:150/150
MP:50/50
【スキル】
・ユニークスキル:弱肉強食
・種族スキル:棍棒術Lv2、夜目、指揮Lv1
・獲得スキル:溶解液Lv1、毒牙Lv1、硬質外皮Lv2、怪力Lv2、嗅覚強化Lv1、跳躍Lv1、危機察知Lv1、突進Lv1、頑強Lv1
種族が、ゴブリンからホブゴブリンへと変わっていた。それに伴い、全ての基礎能力値が爆発的に上昇している。さらに、スキル欄には見慣れないものが増えていた。
【指揮 Lv1】:配下の者の士気を高め、戦闘能力をわずかに向上させる。
【突進 Lv1】:一直線に加速し、対象に強力な体当たりを行う。
【頑強 Lv1】:物理的なダメージに対する耐性が向上する。
グレートボアを食らったことで得たスキルだろう。【突進】と【頑強】。あの重戦車の強さの根幹を成していた二つの能力。それが、今や俺の力となったのだ。
そして、種族スキルとして新たに追加された【指揮】。これは、俺がこの群れの王であることを、システムが認めた証なのかもしれない。
「ボス……ソノ姿ハ……」
狩り部隊のリーダーが、恐る恐る問いかけてくる。
俺は立ち上がった。その身長は、今や彼らゴブリンたちを見下ろすほどに伸びている。体格も一回り大きくなり、全身の筋肉はしなやかに引き締まっていた。醜いだけだったゴブリンの顔つきも、どこか精悍で、威厳のあるものへと変化している。
「俺ハ、進化シタ」
俺が告げると、ゴブリンたちは畏怖の念に打たれたように、その場にひれ伏した。彼らの目には、もはや俺は同族のゴブリンとは映っていない。絶対的な力を持つ、上位の存在。神に近い何かとして、映っているのだろう。
俺はひれ伏す仲間たちを見渡し、この戦いの犠牲を思った。
十八人で挑み、生き残ったのは俺を含めて七人。十一人の仲間が、この森の土となった。その犠牲は、決して軽いものではない。
「立テ」
俺の声は、以前の甲高いものではなく、低く、よく通るものに変わっていた。
「オマエタチノ犠牲ガアッタカラコソ、俺ハ勝チ、進化スルコトガデキタ。死ンダ仲間ノコトハ、決シテ忘レナイ」
俺は泥濘に沈むグレートボアの巨体を見つめた。その肉は、俺たちの貴重な食料となるだろう。そして、その牙や皮は、新たな武具の材料となるはずだ。
「奴ラノ死ヲ、無駄ニスルナ。俺タチハ、モット強クナル。二度ト、仲間ヲ失ワナイタメニ」
俺の言葉に、生き残ったゴブリンたちは静かに頷いた。彼らの目には、悲しみと共に、新たな決意の光が灯っていた。この過酷な戦いを生き延びた彼らは、もはやただのゴブリンではない。俺の組織の中核を担う、真の戦士へと成長を遂げていた。
俺たちは、死んだ仲間たちをその場で弔い、グレートボアを解体して持ち帰れるだけの肉と素材を確保した。洞窟への帰路は、来た時とは全く違う空気に包まれていた。失ったものの大きさは計り知れない。だが、それ以上に大きなものを、俺たちはこの戦いで手に入れたのだ。
洞窟に戻ると、残留部隊は俺の変わり果てた姿を見て、言葉を失った。そして、俺たちが持ち帰ったグレートボアの巨大な牙と肉を見て、二度驚愕した。
俺が、あの森の重戦車を討ち滅ぼしたこと。そして、ゴブリンという種の限界を超え、ホブゴブリンへと進化したこと。その二つの事実は、俺の王としての地位を、もはや誰にも揺るがすことのできない絶対的なものへと押し上げた。
その夜、洞窟ではささやかな宴が開かれた。グレートボアの肉を焼き、生き残った者も、残留していた者も、等しくその肉を分かち合った。それは、勝利の祝宴であると同時に、死んでいった仲間たちへの追悼の宴でもあった。
俺は一人、玉座からその光景を眺めていた。
ホブゴブリンへの進化。それは、俺の成り上がり物語における、大きな一つの到達点だ。だが、俺はまだ満足していなかった。
この身体、この力。これらを以てしても、この広大な森の全てを支配するには、まだ足りない。そして、森の外には、さらに広大な世界が広がっているはずだ。
俺の食欲は、進化によってさらに増大していた。
ただの魔物の肉ではない。もっと多くのスキル、もっと多くの知識、そして、もっと多くの可能性。その全てを、俺は食らいたいと渇望していた。
俺の視線は、洞窟の外、まだ見ぬ世界の闇へと向けられていた。
ゴブリンの王から、ホブゴブリンの王へ。俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
73
あなたにおすすめの小説
俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件
夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。
周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。
結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。
M.M.O. - Monster Maker Online
夏見ナイ
SF
現実世界に居場所を見出せない大学生、神代悠。彼が救いを求めたのは、モンスターを自由に創造できる新作VRMMO『M.M.O.』だった。
彼が選んだのは、戦闘能力ゼロの不遇職【モンスターメイカー】。周囲に笑われながらも、悠はゴミ同然の素材と無限の発想力を武器に、誰も見たことのないユニークなモンスターを次々と生み出していく。
その常識外れの力は、孤高の美少女聖騎士や抜け目のない商人少女といった仲間を引き寄せ、やがて彼の名はサーバーに轟く。しかし、それは同時にゲームの支配を目論む悪徳ギルドとの全面対決の始まりを意味していた。
これは、最弱の職から唯一無二の相棒を創り出し、仲間と世界を守るために戦う、創造と成り上がりの物語。
雑魚で貧乏な俺にゲームの悪役貴族が憑依した結果、ゲームヒロインのモデルとパーティーを組むことになった
ぐうのすけ
ファンタジー
無才・貧乏・底辺高校生の稲生アキラ(イナセアキラ)にゲームの悪役貴族が憑依した。
悪役貴族がアキラに話しかける。
「そうか、お前、魂の片割れだな? はははははは!喜べ!魂が1つになれば強さも、女も、名声も思うがままだ!」
アキラは悪役貴族を警戒するがあらゆる事件を通してお互いの境遇を知り、魂が融合し力を手に入れていく。
ある時はモンスターを無双し、ある時は配信で人気を得て、ヒロインとパーティーを組み、アキラの人生は好転し、自分の人生を切り開いていく。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
小国の若き王、ラスボスを拾う~何気なしに助けたラスボスたるダウナー系のヤンデレ魔女から愛され過ぎて辛い!~
リヒト
ファンタジー
人類を恐怖のどん底に陥れていた魔女が勇者の手によって倒され、世界は平和になった。そんなめでたしめでたしで終わったハッピーエンドから───それが、たった十年後のこと。
権力闘争に巻き込まれた勇者が処刑され、魔女が作った空白地帯を巡って世界各国が争い合う平和とは程遠い血みどろの世界。
そんな世界で吹けば飛ぶような小国の王子に転生し、父が若くして死んでしまった為に王となってしまった僕はある日、ゲームのラスボスであった封印され苦しむ魔女を拾った。
ゲーム知識から悪い人ではないことを知っていた僕はその魔女を助けるのだが───その魔女がヤンデレ化していた上に僕を世界の覇王にしようとしていて!?
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる