ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第25話 次なる目標

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洞窟に凱旋した俺たちを、仲間たちが熱狂的に出迎えた。金属製の武具を手に、傷一つなく帰還した狩り部隊の姿は、俺の支配と組織の強大さを改めて群れの隅々にまで知らしめるのに十分だった。

その夜の宴は、これまでにないほどの盛り上がりを見せた。焼かれたロックリザードの肉は豊富にあり、ゴブリンたちは新しい武器を自慢し合い、勝利の美酒に酔いしれていた。リリアとルゥも、今ではすっかり群れに溶け込み、ゴブリンたちと談笑している。

それは、俺が望んだ光景の一つだった。
仲間たちが飢えることなく、怯えることなく、笑い合える場所。

俺は玉座からその光景を眺めながら、一人静かに思考を巡らせていた。
この平穏と繁栄は、脆い砂上の楼閣だ。

武器の問題は、喫緊の課題だ。人間から奪った剣や鎧は、いずれ損耗する。補充のあてはない。俺たちが継続的に戦力を維持・向上させていくためには、自前の生産能力、すなわち鍛冶技術が不可欠。

そして、もう一つ。より根源的な問題がある。
食料だ。

今の俺たちは、狩りの成功に完全に依存している。森の恵みは無限ではない。気候の変動、魔物の移動、あるいは今回のように外部からの侵入者が現れれば、俺たちの生命線はたやすく断たれてしまう。

狩猟に頼らない、安定した食料供給システム。
農耕。その概念が、俺の頭をよぎった。

鍛冶と農耕。
この二つを手に入れて初めて、俺の組織は単なる戦闘集団から、自給自足し、発展していける「国家」の礎を築くことができる。

俺は宴の輪から離れ、リリアの元へと向かった。
「リリア、少し良いか」
「はい、ゴブ様。何か?」

俺は彼女を少し離れた静かな場所へ連れ出し、単刀直入に尋ねた。
「この森に、鍛冶技術を持つ種族はいるか?」

俺の問いに、リリアは少し考える素振りを見せた後、答えた。
「……オーク、という種族がいます。彼らはゴブリンよりも遥かに大きく、屈強な戦士ですが、同時に優れた建築技術や鍛冶の技術を持つと言われています。人間とは敵対関係にあり、森の南部に巨大な集落を築いているとか」

オーク。やはりそうか。
俺の情報収集と、リリアの知識が一致した。

「彼らと、交渉の余地はあるだろうか?」
「……難しいかもしれません」リリアは、慎重に言葉を選んだ。「オークは非常に誇り高く、閉鎖的な種族です。特に、他の種族を見下す傾向が強いと聞きます。ホブゴブリンであるゴブ様が率いる群れであっても、彼らが対等な交渉に応じるとは……」

つまり、力ずくで奪うしかない、ということか。
交渉の選択肢が消えたわけではない。だが、最悪の事態を想定しておく必要はある。

「分かった。もう一つ聞きたい。農耕についてだ。この森で、作物を育てることは可能か?」
「農耕、ですか?」リリアは、俺の質問の意図を測りかねるように、目を丸くした。「不可能ではありません。エルフも、かつては薬草や一部の作物を育てていました。ですが、大規模な農地を開墾するには、森の木々を伐採し、土地を平らにならす必要があります。それには、膨大な労働力と、土木に関する知識が必要になりますが……」

彼女の言葉は、再びオークの存在を指し示していた。彼らが持つという、建築技術。それは、農地開墾にも応用できるはずだ。

全ての道は、オークに通じている。

鍛冶、建築、そして農耕。俺たちの未来に必要なピースは、全て彼らが持つ技術の中にある。そして、彼らを支配下に置けば、屈強なオークの戦士たちという、強大な戦力も手に入る。

目標は、定まった。

俺はリリアに礼を言うと、再び玉座に戻り、宴に興じる部下たちを見渡した。
彼らは強くなった。だが、まだ足りない。オークという、ゴブリンとは比較にならない強豪を相手にするには、さらなる力が必要だ。

俺自身の力も、そうだ。
レベルは6になった。スキルも増えた。だが、まだ進化の兆しはない。次の進化には、一体どれほどの経験値が必要になるのか。

「ボス」
思考に沈んでいると、狩り部隊のリーダーが、戦斧を手に近づいてきた。
「次ノ獲物ハ、何デスカ?」

彼の目には、揺るぎない信頼と、戦いへの渇望が燃えている。他のゴブリンたちも、俺の次の命令を待っていた。

俺は、彼らの期待に応えるように、不敵な笑みを浮かべた。
そして、森の南を指差す。

「次なる目標は、オークだ」

その言葉に、ゴブリンたちの間に緊張が走った。オーク。彼らも、その種族の恐ろしさは噂で知っている。キラーラビットやグレートボアとは、また質の違う脅威。

だが、誰一人として、弱音を吐く者はいなかった。俺がやると言えば、やる。それが、この群れの絶対的なルールとなっていた。

「奴ラヲ喰ライ、技術ヲ奪イ、力ヲ吸収スル。ソシテ俺タチハ、コノ森デ誰モ手ヲ出セナイ、最強ノ国家ヲ築ク」

俺の宣言に、ゴブリンたちが雄叫びを上げた。
ウォオオオオオ、という鬨の声が、洞窟中に響き渡る。

人間との戦いを経て、俺たちの組織は新たな段階へと足を踏み入れた。
それは、もはや単なる生存競争ではない。種族の未来を賭けた、領土拡大と技術革新への挑戦。

ゴブリン王の成り上がり物語、第一章の幕は、ここで静かに下ろされようとしていた。
そして、次なる舞台、オークの王国を巡る第二章の幕が、すぐそこまで迫っていた。
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