ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第26話 南の強豪、オーク族

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人間との戦いから、数週間が過ぎた。
俺の洞窟は、軍事拠点としての様相を一層強めていた。回収した金属製の武具は、ゴブリンたちの体格に合わせて調整され、今や精鋭部隊の標準装備となっている。俺が直接指導した剣術や斧術の訓練により、彼らの戦闘スタイルは棍棒を振り回すだけのものから、格段に洗練されたものへと進化していた。

リリアの魔法講義も続けられている。理解できる者はまだ少ないが、それでも「属性の相性」といった基本的な概念は、狩りの戦術に少しずつ浸透し始めていた。

食料の備蓄は十分。戦力も充実している。
だが、俺の心には常に次なる目標があった。

「全員、集まれ」

俺は幹部――各部隊のリーダーたちと、リリアを広場の中央に集めた。彼らは、俺が何か重大なことを告げようとしているのを察し、緊張した面持ちで俺の言葉を待っている。

「先日、我々は人間を退けた。新たな武器と知識も手に入れた。だが、それに満足している暇はない」

俺は地面に、洞窟を中心とした大雑把な森の地図を描いた。そして、北に人間、東にキラーラビットの草原、西にグレートボアの沼地を記す。最後に、地図の南側を強く指差した。

「我々の次なる目標は、ここだ。森の南部を支配する、オークの集落」

オーク。その名が出た瞬間、ゴブリンたちの間に緊張が走った。彼らの間でも、オークはゴブリンとは比較にならない強さと、残忍さを持つ種族として知られている。グレートボアのような圧倒的な一体の強さとは違う、組織化された暴力の象徴。それが、オークだった。

「オークは、我々より遥かに強く、数も多いだろう。そして、リリアの情報によれば、優れた鍛冶や建築の技術を持っている」
俺は続ける。
「その技術を、俺たちは手に入れる。技術だけではない。彼らの持つ力、知識、そして労働力。その全てを我々のものとし、この群れをさらに強大な組織へと作り変える」

俺の言葉に、ゴブリンたちはゴクリと喉を鳴らした。それは、恐怖と同時に、未知の戦いへの武者震いでもあった。

「だが」と俺は釘を刺した。「正面からぶつかるのは愚策だ。今の我々では、勝てたとしても被害が大きすぎる。戦は、始まる前に八割方決まる。重要なのは、情報だ」

俺は、キラーラビット戦での失敗と成功を例に挙げ、情報収集の重要性を説いた。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。前世の賢人の言葉は、この異世界でも真理だった。

「これより、オークの情報を収集するための特別部隊を編成する。任務は、戦闘ではない。あくまで偵察と情報収集。見つからずに帰ってくることが、お前たちの最大の功績となる」

俺は探索部隊の中から、特に身のこなしが軽く、【危機察知】スキルに優れた者たちを五名選抜した。いずれも、修羅場を潜り抜けてきた歴戦の兵たちだ。

「お前たち五名を、これより『斥候部隊』とする。リーダーは、お前だ」

俺は、探索部隊のリーダーを務めていたゴブリンを指名した。彼は、俺がこの群れのボスになる前から、その抜け目のなさと慎重さで生き延びてきた男だ。この危険な任務には、彼以上の適任者はいない。

リーダーに任命されたゴブリンは、胸を張り、片膝をついた。
「ハッ! この命に代えても!」
「命を懸けるな。生きて帰れ。それが命令だ」

俺は彼の忠誠心を受け止めつつも、冷静に言い放った。

俺は斥候部隊を前に、具体的な任務内容をブリーフィングする。
「お前たちの任務は、第一にオークの集落の位置を正確に特定すること。第二に、その規模、人口、そして防御施設や警備体制を可能な限り詳細に調べること。第三に、集落周辺を巡回する部隊がいるなら、そのルート、人数、時間帯を把握することだ」

俺は地面の地図に、考えられる斥候ルートをいくつか描き、注意点を付け加えていく。

「リリア、オークについて何か知っていることがあれば話してくれ」
俺に促され、リリアが一歩前に出た。
「オークは、非常に鼻が利きます。風下から慎重に近づかなければ、すぐに匂いで気づかれてしまうでしょう。そして、彼らは誇り高い種族ですが、同時に短気で好戦的です。侮辱されたと感じれば、後先考えずに襲いかかってくることもあります。決して、彼らを挑発するような行動はしないでください」

リリアの補足情報は、実践的で非常に有益だった。斥候部隊のゴブリンたちは、真剣な表情で彼女の言葉に聞き入っている。

「良いか。見つかったら、即座に撤退しろ。一人でも多く、情報を持ち帰ることが重要だ。決して、無理はするな」

俺が最後の念を押すと、斥候部隊の五名は力強く頷いた。彼らの目には、危険な任務に赴く者の覚悟と、王から特別な任務を与えられた誇りが宿っていた。

「行け」

俺の号令と共に、五つの影が音もなく洞窟を駆け出していった。彼らは森の闇に溶け込むように、南へと向かう。俺たちに残されたのは、彼らの無事を祈り、そして来るべき戦いに備えて自らを鍛え上げることだけだ。

斥候部隊が出発してから、俺は残った部隊の訓練をさらに強化した。オークとの戦いを想定し、より重厚な陣形や、防御を固めた相手をどう崩すかという、対人戦に近い訓練を繰り返す。

リリアは、冒険者から奪った巻物を解読し、この世界の文字や地理についての知識を俺たちに教えてくれた。ルゥも、彼女を手伝いながら少しずつ笑顔を見せるようになっている。

日々は、静かに、しかし確実に過ぎていく。

俺は訓練の合間に、洞窟の入り口から南の空を眺めることが多くなった。あの空の向こうに、新たな敵がいる。新たな力が、新たな知識が、俺を待っている。

オーク。

お前たちは、一体どんな味で、どんなスキルを持っているんだ?

ホブゴブリンの王の飽くなき食欲と探求心は、既に次なる獲物を捉えていた。嵐の前の静けさの中、俺は静かにその牙を研いでいた。
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