ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第27話 オークの戦闘力

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斥候部隊を送り出してから、五日が経過した。
洞窟内の空気には、日増しに緊張が満ちていく。ゴブリンたちは訓練に身を入れながらも、時折、南の空へと視線を向けていた。仲間たちの帰りを、誰もが待ちわびていた。

そして、六日目の夕暮れ。
見張りのゴブリンが、切迫した声を上げた。

「斥候部隊ガ……帰還シマシタ!」

その声に、洞窟内の全てのゴブリンが動きを止め、入り口へと殺到した。俺も玉座から立ち上がり、彼らの元へと向かう。

だが、そこに現れたのは、出発した時の精鋭たちの姿ではなかった。
五人いたはずの部隊は、二人しかいない。
その二人も、全身が血と泥に塗れ、鎧は無残に砕け散っている。一人は片腕を失い、もう一人も深手を負って仲間の肩に寄りかかっているのがやっとの状態だった。

リーダーの姿は、どこにもなかった。

「……何ガアッタ」

俺の低い声が、静まり返った洞窟に響く。
片腕を失ったゴブリンが、俺の前に崩れ落ちた。その瞳には、未だ恐怖の色が焼き付いている。

「ボス……報告……シマス……」

彼は、途切れ途切れに語り始めた。それは、俺たちの想像を絶する、一方的な蹂躙の記録だった。

斥候部隊は、俺の指示通り慎重に南下を続け、三日目にしてオークの集落へと続く道を発見したという。道には、粗雑だが強力な罠が仕掛けられ、巨大な獣の骨を組み合わせた不気味なトーテムポールがいくつも立てられていた。それは、彼らの縄張りを誇示する、明確な警告だった。

彼らはさらに慎重に進み、ついに丘の上からオークの集落を発見した。それは、もはや集落というより、巨大な木と岩で組まれた砦と呼ぶべきものだった。数十の家々が立ち並び、中央には巨大な鍛冶場らしき建物から黒い煙が上がっているのが見えた。人口は、目算で百を超える。

彼らは、その圧倒的な規模に息を呑みつつも、任務を続行した。集落の周囲を巡回する警備部隊の存在を確認するため、さらに近づこうとした、その時だった。

「……見ツカリマシタ」

報告するゴブリンの声が、震えた。

「風下ニ隠レ、気配モ殺シテイタハズナノニ……奴ラハ、俺タチノ存在ニ気ヅイテイタ。地面ノ僅カナ振動ヲ感ジ取ッタノカ……あるいは、俺タチニハ分カラナイ何かデ」

オークの巡回部隊は、わずか三体だった。
その数に、斥候部隊は一瞬だけ油断したのかもしれない。リーダーは即座に撤退を指示したが、遅かった。

オークたちの速度は、ゴブリンほどではない。だが、その一歩一歩が大地を揺るがし、凄まじい勢いで距離を詰めてきた。

「一体ノオークガ、巨大ナ斧ヲ投ゲテキマシタ。ソレガ……仲間ノ一人ヲ……」

言葉を失い、ゴブリンは自分の失われた腕の付け根を見つめた。おそらく、彼もその一撃で腕を奪われたのだろう。

リーダーは、敵わないと判断し、部隊を分散させて逃げるよう命令した。だが、オークたちはまるで狩りを楽しむかのように、逃げるゴブリンたちを追い詰めていった。

「俺タチノ武器ガ……マッタク通ジナイ。短剣デ刺シテモ、筋肉ニ阻マレル。棍棒デ殴ッテモ、奴ラハ怯ミモシナイ」

彼らが語るオークの戦闘能力は、衝撃的だった。
キラーラビットは、速さという一点において脅威だった。グレートボアは、圧倒的な一体のパワーが脅威だった。

だが、オークは違う。
個々の戦闘能力が、兵士として完成されているのだ。

ゴブリンの数倍はある強靭な肉体。生半可な攻撃をものともしない耐久力。そして、巨大な手斧や歪な剣を軽々と振り回す、純粋な腕力。

斥候部隊は、自慢の機動力と連携で対抗しようとした。だが、オークたちは小手先の戦術など意にも介さなかった。一人がゴブリンたちの攻撃をその身で受け止め、残りの二人が力任せに武器を振るう。ただそれだけで、ゴブリンたちの陣形は紙切れのように引き裂かれた。

「リーダーガ……殿ヲ務メテクレマシタ」

報告するゴブリンの目から、涙がこぼれ落ちた。

「『王ニ報告セヨ。奴ラハ、我々トハ生物トシテ格ガ違ウ』ト……ソレガ、リーダーノ最後ノ言葉デシタ」

リーダーは、二体のオークを相手に、たった一人で立ち向かった。仲間たちが逃げるための、わずかな時間を稼ぐために。その結末を、語る必要はなかった。

静寂が、洞窟を支配した。
生き残ったゴブリンたちは、皆、顔を青ざめさせている。俺たちが次の目標として見据えていた存在が、自分たちの想像を遥かに超える怪物であったという事実。そして、最も信頼していたリーダーの一人と、その部下たちが無残に殺されたという現実。その二つが、彼らの戦意を根底から揺さぶっていた。

俺は、静かに拳を握りしめた。
犠牲は、覚悟していた。だが、これほど一方的な敗北は、想定していなかった。

斥候部隊のリーダーは、優秀だった。彼の判断は、何一つ間違っていなかったはずだ。それでも、覆せないほどの力の差が、そこにはあった。

これが、オーク。
ゴブリンやホブゴブリンが、「数」と「知恵」で戦う種族であるのに対し、彼らは生まれながらにして戦士であり、その「個」の力が、既に一つの完成形に達しているのだ。

「……分カッタ。良ク、生キテ帰ッテキタ」

俺は、生き残った二人の肩を叩いた。
「オ前タチノ持チ帰ッタ情報ハ、仲間タチノ死ヲ決シテ無駄ニハシナイ。約束スル」

俺は彼らをリリアの元へ下がらせ、治療を命じた。そして、広場に残った全部隊に向き直る。ゴブリンたちの顔には、恐怖と不安が色濃く浮かんでいた。

このままでは、士気は下がり、組織は停滞する。

俺は、この重苦しい空気を断ち切るように、宣言した。
「聞ケ! オークハ強イ。ソレハ事実ダ。ダガ、ソレデ終ワリデハナイ」

俺の目に、再び獰猛な光が宿る。

「奴ラノ強サガ分カッタ。ナラバ、ソレヲ上回ル策ヲ練ルマデダ。奴ラノ『個』ノ力ガ強イナラ、我々ハソレヲ上回ル『組織』ノ力デ、奴ラヲ喰ラウ」

正面からのぶつかり合いでは勝てない。ならば、戦う土俵を変えればいい。
俺の頭脳は、この新たな脅威をどう攻略するか、どう料理してやるか、既に次の戦略を練り始めていた。

この敗北は、終わりではない。本当の戦いの、始まりの合図に過ぎないのだ。
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