ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第44話 ゴブリンロードへの道

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情報の奔流の中で、俺の意識は浮かんでは沈む、を繰り返していた。
ゾルガ長老から受け継いだ知識は、あまりにも膨大で、そして濃密だった。それは、一個人が一生をかけても学びきれないほどの、歴史と技術の集大成。俺の脳は、それを無理やり消化しようと、悲鳴を上げていた。

夢を見た。
屈強なオークたちが、巨大な槌を振るい、岩山に砦を築き上げていく夢。
灼熱の炉の前で、汗を流しながら、一本の剣を鍛え上げる夢。
そして、人間の軍勢に故郷を焼かれ、仲間たちが次々と倒れていく、悪夢。

それらは全て、ゾルガが見てきた光景。彼が経験した、喜びと、悲しみと、そして憎悪の記憶。
【弱肉強食】は、スキルや知識だけでなく、対象が持つ強い「想い」さえも、俺に継承させていたのだ。

どれくらいの時間が経っただろうか。
俺が次に意識を取り戻した時、俺は自分の私室のベッドの上に寝かされていた。

「……ボス! お気づきになりましたか!」

傍らで心配そうに俺の顔を覗き込んでいたのは、ガロンだった。彼の顔には、安堵の色が浮かんでいる。

「俺は……どれくらい眠っていた?」
「丸一日です。ゴブ様が、ゾルガ長老と話された後、突然倒れられたと聞き、皆、心配しておりました」

ガロンは、ゾルガの身に何が起きたのか、薄々感づいているようだった。だが、彼は何も問わなかった。それが、俺とゾルガの間で交わされた、神聖な契約であることを理解しているからだ。

俺はゆっくりと身体を起こした。
すると、自分の身体に、再び異変が起きていることに気づいた。
ゾルガを捕食したことで得た、膨大な経験値。そして、オークの英雄であるガロンを屈服させ、一族を支配下に置いたという、計り知れない功績。それらが、俺の中で眠っていた進化の引き金を、再び引いたのだ。

身体の奥底から、マグマのような熱い力が湧き上がってくる。
細胞の一つ一つが、歓喜の声を上げ、より高次の存在へと再構築されようとしている。

「ガロン、全員をここから出せ。何があっても、中に入るな」

俺のただならぬ様子を察し、ガロンは黙って頷くと、部屋にいた他の者たちを連れて外へ出て行った。

一人になった部屋で、俺は全身を駆け巡る凄まじいエネルギーの奔流に耐えていた。
ホブゴブリンへの進化とは、比較にならない。
今回は、肉体だけでなく、精神そのものが、魂の器が、強制的に拡張されていくような感覚だ。

【進化条件を満たしました。種族進化を開始します】

脳内に、再びあの無機質な声が響く。
視界が、白い光で覆いつくされた。

俺の身体が、巨大化していく。身長はさらに伸び、人間の屈強な戦士さえも見下ろすほどになった。筋肉は、オークのように無骨にではなく、洗練された鋼のように、しなやかに、そして力強く再構築されていく。

肌の色は、深緑から、威厳を感じさせる漆黒に近い色へと変化した。
顔つきも、ホブゴブリンの面影を残しつつも、より知的で、鋭い王者の風格を帯びていく。額からは、二本の短い角が、まるで王冠のように突き出していた。

そして、俺の背中から、何かが生えてくる。
それは、翼ではなかった。漆黒の闘気を凝縮したような、一対のマント。それは、俺の意思に応じて、自在に形を変え、時には盾となり、時には刃となる、魔力の結晶体だった。

光が収まった時、そこに立っていたのは、もはやホブゴブリンと呼べる存在ではなかった。

俺は、震える手で、自分のステータス画面を開いた。

【ステータス】
名前:ゴブ
種族:ゴブリンロード
レベル:10
HP:500/500
MP:300/300

【スキル】
・ユニークスキル:弱肉強食
・種族スキル:魔王の覇気、魔力操作、超再生
・獲得スキル:……(多すぎるため省略)……
・称号:ゴブリンの王、ホブゴブリンの王、オークの支配者、森の侵略者

ゴブリンロード。
ゴブリンという種族が到達しうる、一つの最終進化形態。
その力は、もはや一体の魔物の域を超え、小国の軍隊に匹敵すると言われる、災害級の存在。

種族スキルも、一新されていた。
【魔王の覇気】:周囲の格下の存在に、絶対的な恐怖と服従を強制する。配下の者の能力を大幅に引き上げる。
【魔力操作】:体内の魔力をより精密に、そして強力に操作できる。
【超再生】:たとえ四肢を失っても、時間をかければ完全に再生する。

【統率】スキルは、より上位の【魔王の覇気】へと統合・進化したようだ。その効果は、もはやただの指揮ではない。俺という存在そのものが、周囲に影響を与える、カリスマを超えた何か。

俺は、自分の拳を握りしめた。
力が、漲っている。世界が、違って見えた。空気中に漂う魔力の流れさえも、肌で感じ取ることができる。

これが、ゴブリンロードの力。

俺は、ゆっくりと部屋の扉を開けた。
扉の外では、ガロンをはじめ、連合軍の幹部たちが、固唾を飲んで俺を待っていた。

俺が姿を現した瞬間、彼らは、息を呑んだ。
そして、次の瞬間には、誰に命令されるでもなく、その場にいた全員が、深く、深くひれ伏していた。

それは、恐怖からではない。
畏怖からでもない。

彼らは、真の王の誕生を、その魂で感じ取っていたのだ。
その圧倒的な存在感、全身から発せられる魔王の如き覇気。その前に、ひれ伏すこと以外、選択肢はなかった。

「……顔を上げろ」

俺の声は、部屋全体を、いや、砦全体を支配するように響き渡った。

「我々の、新たな時代の始まりだ」

俺は、ひれ伏す仲間たちを見下ろした。
ゴブリンから始まり、スライムを食い、百足を狩り、同族を殺し、ボスを倒した。
人間と戦い、エルフを仲間にし、オークを屈服させた。

そして今、俺は、ゴブリンロードとなった。

だが、これはゴールではない。
ようやく、スタートラインに立ったに過ぎない。

俺の視線は、もはやこの森には向いていなかった。
人間たちの国。
そして、まだ見ぬ魔王軍。

広大な世界が、俺を待っている。
俺が食らうべき、新たな獲物が、そこには無数にいるはずだ。

ゴブリンロードの成り上がり物語は、ここから、本当の意味で始まろうとしていた。
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