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第43話 知識の継承
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魔森連合軍の誕生に沸くガロッシュ砦。その喧騒の裏で、俺は静かに行動を開始していた。
俺の次なる目標は、オークの長老。その中でも、最も博識で、一族の歴史と伝統を最も深く理解しているであろう、あの中央に座っていた長老だ。
彼の名は、ゾルガ。
ガロンから聞いた話によれば、彼は数百年を生き、オーク族が経験した繁栄も、そして人間による滅亡の悲劇も、その目で見てきた生き字引のような存在だという。彼の頭の中には、オーク族の建築技術、鍛冶の秘伝、そして、この森に伝わる古い伝承や、魔物の生態に関する膨大な知識が眠っているはずだった。
それは、俺が進化するために、そしてこの組織を真の国家へと発展させるために、是が非でも手に入れたい「情報資源」だった。
だが、問題は、どうやってそれを手に入れるかだ。
力ずくで彼を捕食すれば、ようやく手に入れたオークたちの信頼は、一瞬で地に落ちるだろう。ガロンも、黙ってはいないはずだ。
俺は、正面からの「交渉」を選択した。
その夜、俺はゾルガ長老を、砦の最上階にある、かつて戦士長の間だった俺の私室へと招いた。
「ホブゴブリンの王よ。この老いぼれに、何か用かな」
ゾルガは、警戒心を隠そうともせず、俺の前に座った。
俺は、単刀直入に切り出した。
「ゾルガ長老。俺は、あなたの知識を欲している」
「ほう。知識、とな」
「そうだ。オーク族が持つ、建築、鍛冶、そしてこの森の歴史。その全てを、俺に教えていただきたい。それは、我々魔森連合が、今後生き残っていくために、必要不可欠なものだ」
俺の言葉に、ゾルガは深く刻まれた皺をさらに深くし、長い髭を撫でた。
「教えるのは、やぶさかではない。我らも、お主の軍門に降った身。我らの知識が、連合の役に立つのなら、それに越したことはない。だが……」
彼は、俺の目をじっと見据えた。
「お主が望んでおるのは、ただ知識を『教わる』ことだけではあるまい。違うか?」
その鋭い瞳は、全てを見通しているようだった。俺が持つ【弱肉強食】というスキルの本質を、彼は見抜いているのかもしれない。
俺は、隠すのは無意味だと判断した。
「その通りだ。俺には、対象を捕食することで、その能力や知識を完全に我が物とする力がある。俺は、あなたの知識を、『継承』したい」
俺の告白に、部屋の空気が凍りついた。ゾルガの目に、一瞬だけ厳しい光が宿る。
「……つまり、このワシを喰らう、と申すか」
「そうだ」俺は、臆することなく頷いた。「だが、これは殺戮や略奪ではない。合意の上での、知識の継承だ。あなたの肉体は滅ぶだろう。だが、あなたの知識と魂は、俺の中で生き続け、この連合を導く光となる。俺は、そう考えている」
それは、あまりにも傲慢で、身勝手な理屈だったかもしれない。
だが、俺は本気だった。彼の長年の経験と知恵を、ただ話に聞いて学ぶのではなく、俺自身の一部として、完全に消化したい。それこそが、彼の存在に対する、最大の敬意の払い方だと、俺は信じていた。
ゾルガは、長く、長く沈黙していた。
彼は、俺の顔を、その瞳の奥を、値踏みするように見つめ続けていた。
やがて、彼は重々しく口を開いた。
「……面白い。面白い男よ、お主は」
彼の口元に、笑みとも諦めともつかない、不思議な表情が浮かんだ。
「ワシも、もう長くはない。人間への憎しみに囚われたまま、このまま滅びゆく一族の終わりを見届けるだけだと思っていた。だが、お主が現れた。ゴブリンとオークを束ね、エルフさえも仲間に引き入れ、新たな未来を語る、規格外の王が」
彼は、ゆっくりと立ち上がった。そして、窓の外に広がる、月明かりに照らされた森を見つめた。
「ワシの知識が、本当に、お主の言う『光』となるのなら……。この老いぼれの最後の命、お主に賭けてみるのも、悪くはないかもしれんな」
その言葉は、俺の申し出を受け入れるという、意思表示だった。
「……良いのか?」
俺は、思わず問い返していた。
「構わん。どうせ、もう先のない命だ。だが、一つだけ条件がある」
「何だ」
「ワシの知識を継承した暁には、必ずや、この魔森連合を、人間どもが決して侮ることのできない、偉大な国家へと導くと、この場で誓え」
彼の目には、未来を託す者の、力強い光が宿っていた。
俺は、彼の前に進み出ると、深く頭を下げた。
「約束しよう。ゾルガ長老。あなたの知識と魂は、俺が必ず、この連合の礎としてみせる」
俺たちの間に、静かで、しかし重い合意が成立した。
ゾルガは、満足そうに頷くと、静かに目を閉じた。
「……来い。我が王よ」
俺は、彼の覚悟に応えるように、静かにその首筋へと手を伸ばした。これが、殺戮ではないことを、俺自身に言い聞かせながら。
【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【オーク(長老)の捕食に成功】
【スキル『建築技術 Lv1』『鍛冶技術 Lv1』『古代知識 Lv1』『統率 Lv1』を獲得しました】
スキル【指揮】が、【統率】へと進化した。
そして、俺の脳内に、嵐のような情報の奔流が流れ込んできた。
石を組み上げ、砦を築く方法。
鉄を熱し、叩き、強力な武器を生み出す秘訣。
森に自生する薬草の見分け方と、その効能。
何百年も前にこの森で起きた、人間とエルフの戦争の記録。
そして、オーク族が代々語り継いできた、世界の創世神話。
膨大な知識が、俺の脳を焼き切りそうになる。俺は、その情報の奔流に耐えきれず、その場で意識を失った。
だが、それは敗北の気絶ではなかった。
新たな力と知識を得て、次なるステージへと進化するための、産みの苦しみ。
俺が次に目覚めた時、俺はもはや、ただのホブゴブリンの王ではなかった。
古代の知恵を受け継ぎ、国家を築くための全ての知識を得た、真の王へと、生まれ変わっているのだ。
俺の次なる目標は、オークの長老。その中でも、最も博識で、一族の歴史と伝統を最も深く理解しているであろう、あの中央に座っていた長老だ。
彼の名は、ゾルガ。
ガロンから聞いた話によれば、彼は数百年を生き、オーク族が経験した繁栄も、そして人間による滅亡の悲劇も、その目で見てきた生き字引のような存在だという。彼の頭の中には、オーク族の建築技術、鍛冶の秘伝、そして、この森に伝わる古い伝承や、魔物の生態に関する膨大な知識が眠っているはずだった。
それは、俺が進化するために、そしてこの組織を真の国家へと発展させるために、是が非でも手に入れたい「情報資源」だった。
だが、問題は、どうやってそれを手に入れるかだ。
力ずくで彼を捕食すれば、ようやく手に入れたオークたちの信頼は、一瞬で地に落ちるだろう。ガロンも、黙ってはいないはずだ。
俺は、正面からの「交渉」を選択した。
その夜、俺はゾルガ長老を、砦の最上階にある、かつて戦士長の間だった俺の私室へと招いた。
「ホブゴブリンの王よ。この老いぼれに、何か用かな」
ゾルガは、警戒心を隠そうともせず、俺の前に座った。
俺は、単刀直入に切り出した。
「ゾルガ長老。俺は、あなたの知識を欲している」
「ほう。知識、とな」
「そうだ。オーク族が持つ、建築、鍛冶、そしてこの森の歴史。その全てを、俺に教えていただきたい。それは、我々魔森連合が、今後生き残っていくために、必要不可欠なものだ」
俺の言葉に、ゾルガは深く刻まれた皺をさらに深くし、長い髭を撫でた。
「教えるのは、やぶさかではない。我らも、お主の軍門に降った身。我らの知識が、連合の役に立つのなら、それに越したことはない。だが……」
彼は、俺の目をじっと見据えた。
「お主が望んでおるのは、ただ知識を『教わる』ことだけではあるまい。違うか?」
その鋭い瞳は、全てを見通しているようだった。俺が持つ【弱肉強食】というスキルの本質を、彼は見抜いているのかもしれない。
俺は、隠すのは無意味だと判断した。
「その通りだ。俺には、対象を捕食することで、その能力や知識を完全に我が物とする力がある。俺は、あなたの知識を、『継承』したい」
俺の告白に、部屋の空気が凍りついた。ゾルガの目に、一瞬だけ厳しい光が宿る。
「……つまり、このワシを喰らう、と申すか」
「そうだ」俺は、臆することなく頷いた。「だが、これは殺戮や略奪ではない。合意の上での、知識の継承だ。あなたの肉体は滅ぶだろう。だが、あなたの知識と魂は、俺の中で生き続け、この連合を導く光となる。俺は、そう考えている」
それは、あまりにも傲慢で、身勝手な理屈だったかもしれない。
だが、俺は本気だった。彼の長年の経験と知恵を、ただ話に聞いて学ぶのではなく、俺自身の一部として、完全に消化したい。それこそが、彼の存在に対する、最大の敬意の払い方だと、俺は信じていた。
ゾルガは、長く、長く沈黙していた。
彼は、俺の顔を、その瞳の奥を、値踏みするように見つめ続けていた。
やがて、彼は重々しく口を開いた。
「……面白い。面白い男よ、お主は」
彼の口元に、笑みとも諦めともつかない、不思議な表情が浮かんだ。
「ワシも、もう長くはない。人間への憎しみに囚われたまま、このまま滅びゆく一族の終わりを見届けるだけだと思っていた。だが、お主が現れた。ゴブリンとオークを束ね、エルフさえも仲間に引き入れ、新たな未来を語る、規格外の王が」
彼は、ゆっくりと立ち上がった。そして、窓の外に広がる、月明かりに照らされた森を見つめた。
「ワシの知識が、本当に、お主の言う『光』となるのなら……。この老いぼれの最後の命、お主に賭けてみるのも、悪くはないかもしれんな」
その言葉は、俺の申し出を受け入れるという、意思表示だった。
「……良いのか?」
俺は、思わず問い返していた。
「構わん。どうせ、もう先のない命だ。だが、一つだけ条件がある」
「何だ」
「ワシの知識を継承した暁には、必ずや、この魔森連合を、人間どもが決して侮ることのできない、偉大な国家へと導くと、この場で誓え」
彼の目には、未来を託す者の、力強い光が宿っていた。
俺は、彼の前に進み出ると、深く頭を下げた。
「約束しよう。ゾルガ長老。あなたの知識と魂は、俺が必ず、この連合の礎としてみせる」
俺たちの間に、静かで、しかし重い合意が成立した。
ゾルガは、満足そうに頷くと、静かに目を閉じた。
「……来い。我が王よ」
俺は、彼の覚悟に応えるように、静かにその首筋へと手を伸ばした。これが、殺戮ではないことを、俺自身に言い聞かせながら。
【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【オーク(長老)の捕食に成功】
【スキル『建築技術 Lv1』『鍛冶技術 Lv1』『古代知識 Lv1』『統率 Lv1』を獲得しました】
スキル【指揮】が、【統率】へと進化した。
そして、俺の脳内に、嵐のような情報の奔流が流れ込んできた。
石を組み上げ、砦を築く方法。
鉄を熱し、叩き、強力な武器を生み出す秘訣。
森に自生する薬草の見分け方と、その効能。
何百年も前にこの森で起きた、人間とエルフの戦争の記録。
そして、オーク族が代々語り継いできた、世界の創世神話。
膨大な知識が、俺の脳を焼き切りそうになる。俺は、その情報の奔流に耐えきれず、その場で意識を失った。
だが、それは敗北の気絶ではなかった。
新たな力と知識を得て、次なるステージへと進化するための、産みの苦しみ。
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