ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第47話 軍備拡張

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グラーヘイムの建設と、法制度の整備。それによって、俺たちの共同体は、もはや単なる魔物の群れではなく、国家としての体裁を整え始めていた。だが、国家とは、内政だけで成り立つものではない。外敵からその平和と秩序を守るための、強力な『軍事力』こそが、国家存立の根幹をなす。

俺は、内政をガロンと長老衆に任せ、本格的な軍備拡張に着手した。その中心となるのが、都の心臓部に建設された『大鍛冶場』だった。

灼熱の炉が、昼夜を問わず赤々と燃え盛る。オークの鍛冶師たちが、巨大な槌を振るい、真っ赤に熱された鉄塊を叩く音は、グラーヘイムの新たな心臓の鼓動のように響き渡っていた。

俺は、ゾルガ長老から受け継いだ【鍛冶技術】の知識を総動員し、彼らの陣頭指揮を執った。
「炉の温度が低い! もっと空気を送り込め! 鉄の質は、温度で決まる!」
「叩き方が甘い! 鉄の不純物を叩き出すように、芯を意識して打て!」

俺の的確な指示に、オークの鍛冶師たちは驚きと尊敬の目を向けた。彼らは、長年の経験と勘で作業を行ってきた。だが、俺がもたらしたのは、温度管理や合金の理論といった、より体系的で効率的な知識。それらは、彼らの職人技と融合し、生み出される武具の質を飛躍的に向上させた。

最初に量産体制を整えたのは、『オーク式戦斧』と『ゴブリン式短剣』だった。
戦斧は、純粋な破壊力を重視した、重厚な作り。重装歩兵部隊のオークたちが、その怪力で振るうことを前提に設計されている。
短剣は、軽さと鋭さを追求した、隠密行動向きの武器。身軽なゴブリン遊撃部隊が、敵の死角から急所を狙うためのものだ。

次に、俺は防御装備の改良に取り掛かった。
これまで、俺たちの鎧は、人間から奪ったものや、魔物の皮をなめしただけの粗末なものだった。だが、大鍛冶場が本格稼働したことで、俺たちはついに、金属製の鎧を自前で生産できるようになったのだ。

「プレートメイルのような全身鎧は、まだ早い。生産に時間がかかりすぎる」

俺は、生産効率と防御力のバランスを考え、『チェインメイル(鎖帷子)』と、胸や肩などの急所を守るための『鉄製プレート』を組み合わせた、ハイブリッド式の鎧を設計した。これなら、比較的短期間で大量生産が可能であり、かつゴブリンやオークの動きを阻害しにくい。

数週間後。
練兵場に整列した魔森連合軍の兵士たちの姿は、見違えるようだった。

最前列に並ぶ、オーク重装歩兵部隊。彼らは、黒光りする鉄の鎧を身に纏い、巨大な戦斧を肩に担いでいる。その姿は、さながら動く鉄の城壁だ。
その後ろに控える、ゴブリン遊撃部隊。彼らは、軽量な鎖帷子と革鎧を組み合わせた装備で、俊敏さを損なうことなく、腰に下げた二本の短剣を煌めかせている。

もはや、どこからどう見ても、ただの魔物の群れではない。
それは、統一された装備と、厳格な規律を持つ、一個の『軍隊』だった。

「見事です、ボス……。我々の軍が、これほどのものになるとは……」
将軍となったガロンが、感無量といった様子で呟いた。

「まだだ、ガロン。これだけでは足りん」

俺の視線は、彼らが持つ武器の、さらに先を見据えていた。
「飛び道具が、あまりにも貧弱だ。現状、石を投げるか、数少ない弓を使うしかない。これでは、空からの脅威や、城壁の上の敵に対処できない」

ガロッシュ砦での戦いで、人間の弓使いや魔術師が如何に厄介だったか、俺は身をもって知っている。遠距離攻撃能力の欠如は、我々の軍の致命的な弱点だった。

「弓を作るにしても、それを使いこなせる射手を育てるには時間がかかる。もっと単純で、威力があり、そして量産可能な遠距離兵器……」

俺は、前世の歴史知識と、この世界の技術レベルを頭の中で天秤にかけ、一つの結論に達した。

「バリスタだ」

「バリスタ……ですか?」
聞き慣れない言葉に、ガロンが首を傾げる。

「巨大な弓、あるいは弩のようなものだ。テコの原理を使い、人間一人では引けないほどの弦を巻き上げ、巨大な矢を放つ。その威力は、城壁さえも砕くだろう」

俺は地面に、バリスタの簡単な設計図を描いてみせた。それは、オークの建築技術と、鍛冶技術、そして俺が持つ物理学の知識を組み合わせた、この世界ではまだ誰も見たことのない、新型の兵器だった。

「こんなものが……本当に作れるのですか?」
「作れる。いや、作るんだ」

俺は、生産技術部隊のオークたちを集め、バリスタの開発プロジェクトを始動させた。彼らは、最初は俺の設計図を半信半疑で見ていたが、実際に試作品を作り始めると、その革新的な構造と、秘められた破壊力のポテンシャルに、次第に目を輝かせ始めた。

軍備は、拡張され続けている。
兵士たちは日々強くなり、装備は近代化されていく。

グラーヘイムは、もはやただの都ではない。
それは、来るべき大規模な戦争に備え、牙を研ぎ続ける、巨大な軍事要塞と化していた。

俺は、試作型のバリスタが、巨大な岩を粉々に砕くのを見届けながら、静かに確信していた。
この力が、いずれ森の外の世界を揺るがすことになるだろう、と。

だが、そのためには、この強大な軍を維持するための、もう一つの重要な基盤が、まだ欠けていた。
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