ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第54話 飛竜殺しの弩

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グラーヘイムの総力を挙げた対ワイバーン兵器開発プロジェクトは、数週間の時を経て、ついにその結実の時を迎えようとしていた。

都の北側、城壁の外に設けられた広大な演習場。その中央に、巨大な黒い影が鎮座していた。
それが、俺たちの希望の全てを注ぎ込んだ、試作型対空バリスタ一号機『ドラゴン・スレイヤー』だった。

その威容は、壮観の一言に尽きた。
オークたちが組み上げた黒檀の台座はまるで攻城櫓のように巨大で頑強だ。その上には、鋼鉄を幾重にも重ねて作られた巨大な弩の本体が据え付けられている。二人のオークが、巨大な巻き上げ機に全体重をかけてハンドルを回すことで、俺の腕ほどもある太さの鋼鉄の弦が、ギチギチと音を立てて引き絞られていく。

「ボス、装填、完了しました!」

生産技術部隊のリーダーが、興奮した声で報告する。
弩の上には、長さ三メートル、直径三十センチはあろうかという巨大な『杭』がセットされていた。その先端には、黒曜石を磨き上げた鋭利な鏃が不気味な光を放っている。

俺はバリスタの射手席に座った。目の前には、リリアが心血を注いで完成させた魔法の照準器が取り付けられている。水晶を覗き込むと、遠くの景色がまるで目の前にあるかのように鮮明に映し出された。

「すごいな、リリア。これなら空を飛ぶワイバーンの鱗の模様まで見えるぞ」
「風の精霊の力を最大限に借りました。まだ追尾機能は不完全ですが……」

隣に立つリリアが、少し誇らしげに胸を張った。

演習場には、連合軍のほぼ全ての兵士たちが固唾を飲んで集まっていた。彼らはこの新型兵器が本当に自分たちを絶望から救い出してくれるのか、その目で確かめに来たのだ。

「目標、前方、岩山!」

ガロンが腹の底から響く声で号令をかける。
演習場の約五百メートル先に、標的として設置された家ほどもある巨大な岩山。あれを、このバリスタが砕くことができるのか。

俺は照準器を覗き込み、水晶に映し出された補助線と岩山の中心をぴったりと合わせた。そして、引き金となるレバーにゆっくりと力を込める。

「――撃て!」

俺の号令と共に、レバーを倒す。

瞬間、世界から音が消えた。
いや、あまりにも巨大な衝撃音と振動が、俺の聴覚と平衡感覚を一瞬だけ麻痺させたのだ。

ドゴオオオオオォォン!

地響きと共にバリスタの本体が大きくしなり、極限まで引き絞られていた鋼鉄の弦が解放される。
黒い杭は、もはや目には見えなかった。
ただ、空気を引き裂く甲高い絶叫と、一直線に伸びる衝撃波の軌跡だけが、それが放たれたことを示していた。

そして、次の瞬間。
五百メートル先の岩山が、爆発した。

比喩ではない。文字通り、内側から弾け飛んだのだ。
轟音と共に岩山は無数の破片となって四方八方へと飛び散り、後にはもうもうと立ち上る砂塵だけが残されていた。

「…………」

演習場は死んだような静寂に包まれた。
兵士たちは皆、今目の前で起こった現象が信じられないといった顔で、呆然と立ち尽くしている。
家ほどもあった巨大な岩が、たった一撃で跡形もなく消え去った。

「……う……」

誰かが呻くような声を上げた。
それが、引き金だった。

「「「ウォオオオオオオオオオオオ!」」」

次の瞬間、演習場は地鳴りのような歓声に包まれた。
ゴブリンもオークも種族の垣根なく、ただただ雄叫びを上げ、武器を打ち鳴らし、抱き合って喜びを爆発させている。

「やった……! やったぞ!」
「これなら勝てる!」
「あのトカゲどもを撃ち落とせるぞ!」

絶望の淵にいた彼らの心に、確かな、そしてあまりにも力強い希望の光が再び灯ったのだ。

ガロンが震える手で俺の肩を掴んだ。
「ボス……あなた様は……一体、何者なのですか……。神か、あるいは悪魔か……」
彼の目には、もはや畏敬を通り越した信仰に近い光が宿っていた。

俺は、まだ硝煙の匂いが残るバリスタの射手席で静かに息をついた。
威力は想像以上だった。これなら、いける。

だが、俺はまだ満足していなかった。
「喜ぶのは早いぞ」

俺の声に、歓声が少しずつ静まっていく。

「これはまだ試作品の一号機だ。これを、あと最低でも十機は量産する。そして、これを扱う専門の部隊を結成し、徹底的に訓練を叩き込む。ワイバーンとの戦いは甘くはない。一発でも外せば、次はないと思え」

俺の冷静な言葉に、兵士たちの顔が引き締まる。

「だが」と俺は続けた。「我々の手には今、竜を殺すための牙がある。不可能を可能にするための知恵と技術の結晶が、ここにある。もはや、我々は一方的に狩られるだけの無力な存在ではない!」

俺がそう宣言すると、再び、それを上回るほどの割れんばかりの歓声が巻き起こった。

飛竜殺しの弩、『ドラゴン・スレイヤー』。
その誕生は、単なる兵器の完成を意味するものではなかった。
それは、絶望的な脅威に対し、種族の垣根を越え、知恵と技術を結集して立ち向かうという、俺たち魔森連合の「意志」そのものの顕現だった。

俺は、歓喜に沸く兵士たちを見渡し、静かに空を見上げた。
待っていろ、ワイバーン。
お前たちが支配する空に、俺たちが風穴を開けてやる。
地上の虫ケラたちの本気の逆襲を、その身に刻みつけてやる。
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