ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第53話 対空兵器開発

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竜哭山攻略。そのあまりにも無謀な目標は、しかし「対空兵器の開発」という具体的な道筋が示されたことで、連合軍全体に新たな熱狂を生み出していた。絶望的な状況であるからこそ、人々は明確な希望の光を求めるのだ。

俺は早速、グラーヘイムの頭脳を結集させた、第一回『対ワイバーン兵器開発会議』を招集した。
メンバーは、俺、将軍ガロン、補佐官リリア、生産技術部隊のオークのリーダー、そして、ゴブリン遊撃部隊のリーダー。それぞれの分野のスペシャリストたちだ。

会議室となった王城の一室。その中央のテーブルに、俺は一枚の羊皮紙を広げた。そこには、俺が徹夜で描き上げた、新型兵器の設計図があった。

「……ボス、これは?」
ガロンが、設計図を覗き込み、眉をひそめた。そこに描かれていたのは、彼らが知るどんな武器とも違う、奇妙な機械だった。

「バリスタだ。先日から開発を進めていた、対城兵器。だが、これを対ワイバーン用に改良する」

俺は、設計図を指し示しながら、その構造を説明し始めた。
「基本構造は、巨大な弩(いしゆみ)だ。だが、弦を引くのは人力ではない。この部分に、複数の歯車と、オークの怪力でもなければ回せないほどの、巨大なハンドル(巻き上げ機)を取り付ける。テコの原理を応用し、通常の何十倍もの力で、極太の鋼鉄製の弦を引き絞る」

「そして、放つのはただの矢ではない。先端に、黒曜石を鋭く磨き上げた鏃(やじり)を取り付けた、丸太のような太さの『杭』だ。その重量と、極限まで引き絞られた弦の力で、ワイバーンの硬い鱗さえも貫通させる」

俺の説明に、生産技術部隊のオークのリーダーが、興奮したように身を乗り出した。
「なるほど……! この歯車の組み合わせなら、確かに、凄まじい張力を生み出せる! 我々の建築技術で、台座の強度を確保することも可能でしょう!」

彼の職人としての魂に、火がついたようだった。

「だが、問題は、どうやって空を飛ぶ、俊敏な敵に当てるかだ」
今度は、ゴブリンのリーダーが、冷静な指摘を入れた。
「これほど巨大な兵器では、狙いをつけるのも一苦労だろう。一発撃てば、次弾の装填にも時間がかかる」

「その通りだ」俺は、彼の指摘を肯定した。「そこで、リリア。お前の力が必要になる」

「私、ですか?」
突然名を呼ばれ、リリアが驚いたように顔を上げる。

「ああ。このバリスタに、魔法の要素を組み込みたい」
俺は、設計図の別の箇所を指した。
「一つは、照準器だ。この部分に、魔法の水晶を取り付ける。リリア、その水晶に、望遠の効果と、動くものを追尾する補助線を映し出すような魔法を付与することは可能か?」

「望遠と、追尾補助線……」リリアは、難しい顔で腕を組んだ。「望遠は、風の精霊の力を借りれば可能です。ですが、追尾となると……かなり高度な魔法工学の知識が……でも、古代の文献に、似たような技術の記述があったかもしれません。やってみます!」

彼女の瞳にも、技術者としての探求心の光が宿っていた。

「そして、もう一つ。最も重要なことだ」
俺は、放たれる『杭』の設計図を指した。
「この杭の先端、鏃の後ろに、小さな空洞を作る。そして、そこに、あるものを仕込む」

「……あるもの、とは?」
「俺の、『溶解液』と『麻痺毒』を混ぜ合わせた、特殊なカプセルだ」

俺の言葉に、部屋の空気が凍りついた。

「杭がワイバーンの身体に突き刺さった瞬間、衝撃でカプセルが砕け、毒液が体内に直接注入される。たとえ、杭が致命傷にならなくとも、この毒が奴らの身体を内側から蝕み、動きを奪う。そして、翼の筋肉を麻痺させ、地上へと墜落させる」

物理的な破壊力と、魔法による補助、そして、俺のスキルを応用した化学兵器。
三つの異なる世界の技術と思想を融合させた、ハイブリッド兵器。

それが、俺が考案した、飛竜殺しの弩『ドラゴン・スレイヤー』の全貌だった。

そのあまりにも常軌を逸した、しかし合理的な設計思想に、幹部たちは皆、言葉を失っていた。彼らの常識では、到底たどり着けない領域の兵器。それを、目の前の王は、いとも容易く創造してみせた。

「……勝てます」

最初に沈黙を破ったのは、ガロンだった。
「ボス。これがあれば、我々は勝てますぞ!」

彼の声は、確信に満ちていた。その確信は、すぐに部屋全体へと伝播していく。

開発会議は、その日から昼夜を問わず続けられた。
オークの技術者たちが、巨大な木材を削り、歯車を組み上げる。
鍛冶師たちが、鋼鉄の弦と、黒曜石の鏃を打ち続ける。
リリアは、書庫に籠り、古文書を解読して、魔法の照準器の実現に心血を注いだ。
そして俺は、最も効果的な毒の調合と、全体の指揮を執った。

連合軍の全ての知恵と技術が、一つの目標に向かって結集していく。
それは、もはや単なる兵器開発ではない。
絶望的な脅威に対し、知恵と協力で立ち向かうという、俺たちの国のあり方そのものを体現する、巨大なプロジェクトだった。

グラーヘイムの大鍛冶場からは、来る日も来る日も、希望の槌音が響き渡っていた。
空の絶対王者を、地上に引きずり下ろす、その日を夢見て。
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