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第52話 竜哭山
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腕の中で冷たくなっていく仲間の亡骸。その軽さが、失われた命の重さを、何よりも雄弁に物語っていた。
俺は、斥候リーダーの最後の顔を、静かに見つめていた。その顔には、恐怖よりも、任務を全うした安堵の色が浮かんでいるように見えた。
「……丁重に、弔ってやれ」
俺の静かな声に、ガロンが黙って頷き、部下に指示を出す。
グラーヘイムは、深い、深い沈黙に包まれていた。つい先ほどまで闘志に燃えていた住民たちの心は、斥候がもたらした「ワイバーンは数十体の軍団である」という絶望的な事実の前に、再び砕け散っていた。
希望の灯火は、あまりにも脆く、あまりにも儚く消え去ったのだ。
王城に戻った俺は、一人、玉座に深く沈み込んでいた。
脳裏に、これまでの戦いがよぎる。
ボスゴブリンとの死闘。キラーラビットの速度。グレートボアの質量。人間の連携。そのどれもが、困難な戦いだった。だが、そこには常に、活路があった。知恵と、勇気と、そして仲間の力で、乗り越えられる壁だった。
だが、今回は違う。
空を支配する、数十体の飛竜の軍団。
その圧倒的な戦力差は、もはや戦術や戦略で覆せるレベルを超えているように思えた。
初めて、心の底から「無理かもしれない」と思った。
前世で、理不尽な労働環境と、無能な上司の前に、全てを諦めてしまった時と同じ、冷たい無力感が、全身を支配しようとしていた。
俺が、ここで諦めたらどうなる?
このグラーヘイムは、いずれワイバーンの気まぐれな炎で、完全に焼き尽くされるだろう。ゴブリンも、オークも、リリアも、ルゥも、全てが灰になる。俺が築き上げてきた全てが、無に帰す。
冗談じゃない。
俺は、強く拳を握りしめた。爪が掌に食い込み、血が滲む。
その痛みが、俺の意識を絶望の淵から引き戻した。
諦める? 誰が。この俺が。
理不尽に殺されるのは、もうごめんだ。食われる側でいるのは、もうたくさんだ。
相手が竜の軍団だろうと、神だろうと、俺の行く手を阻むなら、喰らい尽くすまで。
俺の中で、ゴブリンロードとしての本能が、王としての覚悟が、再び燃え上がった。
俺の思考は、急速に冷静さを取り戻していく。
絶望的な状況。だが、完全に手詰まりというわけではない。
斥候部隊は、全滅した。だが、彼らは、その命と引き換えに、最も重要な情報を持ち帰ってくれた。
敵の本拠地の名。
『竜哭山』。
敵の正体が分からず、どこから来るかも分からない状況が、最も厄介なのだ。だが、今や俺たちは、敵の巣がどこにあるかを知っている。攻めるべき目標が、明確になった。これこそが、この絶望的な状況における、唯一の、そして最大の光明だった。
俺は、再び幹部たちを招集した。
会議室の空気は、鉛のように重かった。誰もが俯き、口を開こうとしない。
俺は、その沈黙を破った。
「竜哭山を、攻略する」
俺の言葉に、幹部たちがハッと顔を上げた。その目には、「正気か?」という色が浮かんでいる。
「無茶です、ボス!」ガロンが、初めて俺に反論した。「我々には、空を飛ぶ手段がない。山に近づくことさえ、できはしません!」
「そうだ。正面から挑めば、我々は赤子のように捻り潰されるだろう。だから、我々は、戦い方そのものを変える」
俺は、ゾルガ長老から受け継いだ【古代知識】と、リリアから聞いた魔法の知識、そして斥候が最後に遺した断片的な情報を、頭の中でフル回転させ、組み合わせていく。
「ワイバーン。奴らは、確かに空の王者だ。だが、王者であるが故の、傲慢さと、弱点があるはずだ」
俺は、一つずつ、仮説を立てていった。
「第一に、ブレス。あれほどの威力のブレスを、連発できるとは思えない。必ず、再使用までのインターバルがあるはずだ」
「第二に、翼。あの巨体を支える翼は、巨大であるが故に、最大の弱点でもある。翼を傷つけられれば、奴らはただの巨大なトカゲだ」
「第三に、地上戦。空での戦いに特化している分、地上での動きは、我々ほど俊敏ではない可能性がある」
俺の冷静な分析に、幹部たちの顔から、少しずつ絶望の色が薄れていく。彼らは、ただ漠然とした恐怖に囚われていただけなのだ。敵を正しく分析し、分解することで、攻略の糸口は見えてくる。
「問題は、どうやって奴らを地上に引きずり下ろし、どうやってその翼を破壊するかだ」
俺は、結論を告げた。
「我々には、新たな武器が必要だ。奴らの硬い鱗を貫き、空を飛ぶ巨体を撃ち落とせるほどの、強力な『対空兵器』が」
対空兵器。
その言葉が、会議室に新たな光を灯した。
「そんなものが、我々に作れるのですか……?」
生産技術部隊のオークのリーダーが、おそるおそる尋ねる。
「作れる」俺は、断言した。「俺の知識と、お前たちの技術、そしてリリアの魔法工学の知識。それらを結集すれば、不可能ではない。我々の知恵と技術の全てを注ぎ込み、飛竜殺しの兵器を創るんだ」
俺の目には、もはや迷いも、恐怖もなかった。
そこには、巨大な壁を前にして、それをどうやって破壊し、乗り越えるかという、挑戦者としての獰猛な光だけが宿っていた。
「直ちに、対空兵器開発会議を開く! 全員の知恵を貸せ! 我々で、竜を墜とす術を生み出すんだ!」
俺の号令に、幹部たちが力強く頷いた。
彼らの心に、再び火が灯った。それは、復讐の火であり、未来への希望の火でもあった。
竜が鳴く山、竜哭山。
その頂きに立つ、空の絶対王者。
俺たち魔森連合の、次なる目標であり、食らうべき最高の獲物。
その攻略に向けた、長く、そして困難な戦いが、今、この絶望の底から、始まろうとしていた。
俺は、斥候リーダーの最後の顔を、静かに見つめていた。その顔には、恐怖よりも、任務を全うした安堵の色が浮かんでいるように見えた。
「……丁重に、弔ってやれ」
俺の静かな声に、ガロンが黙って頷き、部下に指示を出す。
グラーヘイムは、深い、深い沈黙に包まれていた。つい先ほどまで闘志に燃えていた住民たちの心は、斥候がもたらした「ワイバーンは数十体の軍団である」という絶望的な事実の前に、再び砕け散っていた。
希望の灯火は、あまりにも脆く、あまりにも儚く消え去ったのだ。
王城に戻った俺は、一人、玉座に深く沈み込んでいた。
脳裏に、これまでの戦いがよぎる。
ボスゴブリンとの死闘。キラーラビットの速度。グレートボアの質量。人間の連携。そのどれもが、困難な戦いだった。だが、そこには常に、活路があった。知恵と、勇気と、そして仲間の力で、乗り越えられる壁だった。
だが、今回は違う。
空を支配する、数十体の飛竜の軍団。
その圧倒的な戦力差は、もはや戦術や戦略で覆せるレベルを超えているように思えた。
初めて、心の底から「無理かもしれない」と思った。
前世で、理不尽な労働環境と、無能な上司の前に、全てを諦めてしまった時と同じ、冷たい無力感が、全身を支配しようとしていた。
俺が、ここで諦めたらどうなる?
このグラーヘイムは、いずれワイバーンの気まぐれな炎で、完全に焼き尽くされるだろう。ゴブリンも、オークも、リリアも、ルゥも、全てが灰になる。俺が築き上げてきた全てが、無に帰す。
冗談じゃない。
俺は、強く拳を握りしめた。爪が掌に食い込み、血が滲む。
その痛みが、俺の意識を絶望の淵から引き戻した。
諦める? 誰が。この俺が。
理不尽に殺されるのは、もうごめんだ。食われる側でいるのは、もうたくさんだ。
相手が竜の軍団だろうと、神だろうと、俺の行く手を阻むなら、喰らい尽くすまで。
俺の中で、ゴブリンロードとしての本能が、王としての覚悟が、再び燃え上がった。
俺の思考は、急速に冷静さを取り戻していく。
絶望的な状況。だが、完全に手詰まりというわけではない。
斥候部隊は、全滅した。だが、彼らは、その命と引き換えに、最も重要な情報を持ち帰ってくれた。
敵の本拠地の名。
『竜哭山』。
敵の正体が分からず、どこから来るかも分からない状況が、最も厄介なのだ。だが、今や俺たちは、敵の巣がどこにあるかを知っている。攻めるべき目標が、明確になった。これこそが、この絶望的な状況における、唯一の、そして最大の光明だった。
俺は、再び幹部たちを招集した。
会議室の空気は、鉛のように重かった。誰もが俯き、口を開こうとしない。
俺は、その沈黙を破った。
「竜哭山を、攻略する」
俺の言葉に、幹部たちがハッと顔を上げた。その目には、「正気か?」という色が浮かんでいる。
「無茶です、ボス!」ガロンが、初めて俺に反論した。「我々には、空を飛ぶ手段がない。山に近づくことさえ、できはしません!」
「そうだ。正面から挑めば、我々は赤子のように捻り潰されるだろう。だから、我々は、戦い方そのものを変える」
俺は、ゾルガ長老から受け継いだ【古代知識】と、リリアから聞いた魔法の知識、そして斥候が最後に遺した断片的な情報を、頭の中でフル回転させ、組み合わせていく。
「ワイバーン。奴らは、確かに空の王者だ。だが、王者であるが故の、傲慢さと、弱点があるはずだ」
俺は、一つずつ、仮説を立てていった。
「第一に、ブレス。あれほどの威力のブレスを、連発できるとは思えない。必ず、再使用までのインターバルがあるはずだ」
「第二に、翼。あの巨体を支える翼は、巨大であるが故に、最大の弱点でもある。翼を傷つけられれば、奴らはただの巨大なトカゲだ」
「第三に、地上戦。空での戦いに特化している分、地上での動きは、我々ほど俊敏ではない可能性がある」
俺の冷静な分析に、幹部たちの顔から、少しずつ絶望の色が薄れていく。彼らは、ただ漠然とした恐怖に囚われていただけなのだ。敵を正しく分析し、分解することで、攻略の糸口は見えてくる。
「問題は、どうやって奴らを地上に引きずり下ろし、どうやってその翼を破壊するかだ」
俺は、結論を告げた。
「我々には、新たな武器が必要だ。奴らの硬い鱗を貫き、空を飛ぶ巨体を撃ち落とせるほどの、強力な『対空兵器』が」
対空兵器。
その言葉が、会議室に新たな光を灯した。
「そんなものが、我々に作れるのですか……?」
生産技術部隊のオークのリーダーが、おそるおそる尋ねる。
「作れる」俺は、断言した。「俺の知識と、お前たちの技術、そしてリリアの魔法工学の知識。それらを結集すれば、不可能ではない。我々の知恵と技術の全てを注ぎ込み、飛竜殺しの兵器を創るんだ」
俺の目には、もはや迷いも、恐怖もなかった。
そこには、巨大な壁を前にして、それをどうやって破壊し、乗り越えるかという、挑戦者としての獰猛な光だけが宿っていた。
「直ちに、対空兵器開発会議を開く! 全員の知恵を貸せ! 我々で、竜を墜とす術を生み出すんだ!」
俺の号令に、幹部たちが力強く頷いた。
彼らの心に、再び火が灯った。それは、復讐の火であり、未来への希望の火でもあった。
竜が鳴く山、竜哭山。
その頂きに立つ、空の絶対王者。
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