ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第65話 王の墜落

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竜哭山の頂に新たな王が誕生した。
だが、戦いはまだ終わっていない。

俺の勝利を目撃した麓の連合軍は、士気を爆発させていた。
「ウォオオオオオ! ボスが勝ったぞ!」
「王は墜ちた! 残党を一匹残らず叩き潰せ!」

ガロンの号令一下、これまで防戦一方だった陽動部隊が一斉に反撃に転じた。王を失い混乱に陥ったワイバーンの群れは、もはや統率の取れた軍団ではなかった。ある者は恐慌状態に陥って逃げ惑い、ある者は怒りに任せて無謀な突撃を繰り返す。

地上部隊は、その混乱を見逃さなかった。
バリスタが逃げようとするワイバーンの翼を次々と撃ち抜き、地上へと叩き落とす。そして、墜落して無力化したワイバーンをオークの重装歩兵たちが容赦なく戦斧で解体していく。

それはもはや戦いではなく、一方的な「狩り」だった。

俺は頂上からその光景を静かに見下ろしていた。
リリアの支援魔法の効力は切れ、全身に凄まじい疲労と焼け爛れた背中の激痛が蘇ってくる。立っているのがやっとだった。

俺はイグニールが墜落していった谷底へと視線を向けた。
あの巨体をこのまま放置するわけにはいかない。
彼の力、彼の知識、その全てを俺は食らい尽くさなければならない。

俺は最後の力を振り絞り、崖の縁から身を投げ出した。
【滑空】スキルを発動させ、黒いマントを翼のように広げる。俺の身体は鳥のように滑らかに谷底へと降下していった。

谷底は巨大な岩が転がる殺伐とした場所だった。
そして、その中央に漆黒の山が横たわっていた。
ワイバーンロード、イグニール。
その巨体は片翼をもがれ、全身を強打し、もはや虫の息だった。だが、その瞳にはまだ王としての最後の光が宿っていた。

俺が彼の前に降り立つと、イグニールはゆっくりとその巨大な頭を上げた。
「……来たか。ゴブよ」
「ああ。最後の挨拶に来た」

「フ……。このワシを喰らうのであろう?」
「そうだ。お前の全てを俺が継承する」

俺の言葉に、イグニールは不思議と穏やかな笑みを浮かべたように見えた。
「良いだろう……。どうせこのまま朽ち果てるだけの命。ならば、お主のような規格外の王の礎となるのも悪くはない……」

彼の瞳から急速に光が失われていく。
「頼む……我が同胞たちを……民を……」

それが彼の最期の言葉だった。
空の絶対王者は、静かにその長い生涯の幕を閉じた。

俺はしばしその亡骸の前に黙祷を捧げた。
彼は紛れもなく偉大な王だった。敵としてではなく別の形で出会えていたなら、あるいは良き友になれたのかもしれない。

だが、この世界は弱肉強食。
俺は彼の亡骸に静かに手を伸ばした。
そして、その漆黒の鱗を持つ王の肉を一口喰らった。

その瞬間。
俺の全身を、これまで経験したことのないほどの凄まじいエネルギーの奔流が駆け巡った。

【ユニークスキル『弱肉強食』が発動しました】
【ワイバーンロードの捕食に成功】
【スキル『飛翔』『竜の息吹(ドラゴニック・ブレス)』『王者の威圧』を獲得しました】
【スキル『滑空』が『飛翔』に統合・進化しました】
【スキル『火炎耐性』が大幅に強化されました】
【膨大な経験値を獲得しました。レベルが15にアップしました】

脳が焼き切れそうだった。
ワイバーンロードという規格外の存在が持つあまりにも強大な力が、俺の魂の器を内側から破壊し、そして再構築していく。

【飛翔】:魔力を消費し、自在に空を飛ぶ能力。
【竜の息吹】:体内で生成した高密度の魔力エネルギーを、直線状のブレスとして放つ。地形さえも変えるほどの絶大な破壊力を持つ。
【王者の威圧】:絶対的な王のオーラ。格下の存在を視線だけで屈服させる。

俺が渇望してやまなかった、空を統べる力。
その全てが今、俺の手に渡ったのだ。

俺の背中で焼け焦げていたはずのマントが再び漆黒の輝きを取り戻す。そして、その形状はもはやマントではなかった。
それは竜の翼そのものだった。
魔力で形成された巨大で力強い漆黒の翼。

俺は翼を広げ、ゆっくりと羽ばたかせた。
ふわり、と俺の身体が地面から浮き上がる。

重力という、地上の生物を縛り付ける絶対的な枷から、俺はついに解放されたのだ。

俺は天へと舞い上がった。
眼下に小さくなっていくイグニールの亡骸。そして、遠くで繰り広げられる戦いの終焉。

空から見下ろす世界はどこまでも広く、美しかった。

俺は竜哭山の頂上よりもさらに高く、高く舞い上がっていく。
雲を突き抜け、太陽の光を全身に浴びる。

これが王の見る景色。
これが空の支配者の見る世界。

麓の戦いは終わろうとしていた。
王を失い俺の【王者の威圧】を空から浴びたワイバーンたちは、次々と戦意を喪失しその場にひれ伏していく。

俺の軍勢が空の軍団に完全に勝利した瞬間だった。

俺はゆっくりと戦場へと降下していく。
漆黒の翼を持つ新たな王の帰還。

地上の全ての者たちが俺の姿を認め、息を呑んだ。
ゴブリンもオークも、そして降伏したワイバーンたちも。
誰もがその神々しくも禍々しい姿に、ひれ伏すしかなかった。

俺はガロンの前に降り立った。
「……終わったな」

「は……はい……。我が王……」
ガロンはもはや言葉もなかった。ただ、その目に絶対的な信仰の光を宿し、俺の前にひざまずいている。

この日、グラーヴェ大森林の真の覇者が決まった。
地上の支配者にして、空の新たな王者。

ゴブリンロード、ゴブ。
その名は伝説の始まりとして、この森の歴史に深く、深く刻み込まれることになる。
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