ゴブリンだって進化したい!~最弱モンスターに転生したけど、スキル【弱肉強食】で食って食って食いまくったら、気づけば魔王さえ喰らう神になってた

夏見ナイ

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第93話 王国の衝撃

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アラン・フォン・ヴァイスの帰還は、アークライト王国の王都に静かだが、しかし確実な衝撃をもたらした。

彼が持ち帰ったのは、敗北という事実だけではなかった。
『森の魔王』ゴブの圧倒的な力。
飛竜を従える統率の取れた軍団。
そして何よりも、彼が持つ人間とは異なる独自の秩序と、対話の可能性。

その報告は王国の対魔物政策を根底から揺るがすものだった。

国王アークライト三世はアランからの報告を受けた後、数日間にわたり側近中の側近だけを集めた極秘の会議を繰り返した。

「信じられん……。魔物が我々に『警告』と『贈り物』を? 戯言としか思えん」
軍務大臣は最後まで懐疑的だった。

「だが、アラン卿は嘘をつくような男ではない。そして彼が持ち帰ったあのポーションの品質。あれは我が国の宮廷魔術師が作るものに勝るとも劣らない逸品だった。森の奥で、あれほどのものが作られているのは紛れもない事実だ」
宰相は冷静に現実を分析していた。

会議は紛糾した。
強硬派は魔王の甘言に乗ってはならない、今こそ王国全軍を挙げてこの脅威を根絶すべきだと主張した。
穏健派はこれ以上の軍事行動は王国に計り知れない損害をもたらすだけだ、対話の道を模索すべきだと訴えた。

そして、その議論に最終的な決着をつけたのは国王その人だった。

「……皆、静まれ」

国王の静かだが威厳に満ちた声に、会議室は水を打ったように静まり返った。

「我々は選択を誤った。その事実をまずは認めねばならん」
国王はゆっくりと語り始めた。
「我々は『森の魔王』をただの獣の延長と見なし、力でねじ伏せようとした。だが相手は我々と同じ、あるいは我々以上に洗練された思考を持つ『王』だった。その結果が白銀騎士団の敗北だ」

彼は玉座から立ち上がると、窓の外、東の空を見つめた。

「アランが言っていた。『戦わずとも道はある』と。それはあの魔王からの我々への問いかけだ。お前たち人間は力以外の、対話という手段を持ち合わせているのか、と」

「陛下! まさか魔物と交渉をと申されるのですか!」
軍務大臣が声を荒げる。

「そうだ」
国王はきっぱりと頷いた。「もちろん、すぐに友好関係を結ぶなどという夢物語を語るつもりはない。だが少なくとも我々は彼らを知らねばならん。彼らが何を望み、何を脅威と感じるのか。それを知らずして国家の安全保障など語れるはずがない」

国王の決断は固かった。
それはアークライト王国千年の歴史の中で、誰も考えたことのなかった革命的な方針転換だった。

「これより我が国の対グラーヴェ大森林政策を、全面的に見直す」

国王は新たな勅命を下した。

第一に、グラーヴェ大森林への一切の軍事行動を無期限に凍結する。
第二に、森の境界線における警備を強化し、森からの侵入者および森への侵入者を厳しく監視する。
第三に、宰相府直轄の特別情報分析室を設置し、『森の魔王』ゴブに関するあらゆる情報の収集と分析にあたらせる。

「我々は待つ。相手が次の一手をどう打って出るかを。そしてその間に我々は、来るべき『対話』あるいは『決戦』に備え、万全の準備を整えるのだ」

その勅命は王国全土に、静かな衝撃と共に伝わっていった。
特に最前線であるフォート・イーストンでは、兵士たちの間に安堵とそして戸惑いが広がっていた。

あれほどの脅威を放置するのか。
だが、あの悪夢のような魔王と二度と戦わなくて済むのなら……。

アラン・フォン・ヴァイスは騎士団長の任を一時的に解かれ、王都の自邸で静かな療養生活を送っていた。
だが彼の心は一日たりとも休まることはなかった。

彼は国王の決断を支持していた。
だが同時に深い不安も感じていた。

(……あの王は我々が待つことを許してくれるだろうか)

ゴブ。
あの底知れぬ魔物の王。
彼の目的は一体何なのか。
彼が築こうとしている国は人間にとって、果たして共存可能な隣人となりうるのか。
それとも……。

アランは自室でただひたすらに剣を振るい続けた。
ゴブとの戦いで砕かれた自信と誇り。
それらを一つ一つ拾い集めるように。
そしていずれ再び、あの王と対峙するであろうその日のために。

アークライト王国は大きな衝撃を受け、そして静かな内省の時に入った。
それは嵐の前の静けさなのか。
それとも新たな時代の夜明けなのか。

その答えはまだ、森の深い霧の向こうに隠されていた。
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