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第28話:エリートクラスの悪夢
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カイルという未来の希望、そして最高の押し付け先を手に入れた俺の心は、ここ数ヶ月で最も晴れやかだった。
もちろん、ヒロイン包囲網はいまだ健在で、俺の胃は相変わらずキリキリと痛んでいる。だが、明確な目標ができたことで、精神的には幾分かの余裕が生まれた。
俺はカイルとの親交を深めることにした。昼食を共にし、訓練場で剣を交え、時には図書館で勉強を教える。その全ては、彼をヒロインたちに引き渡すための布石だ。
カイルは俺の親切を純粋に受け取り、日に日に俺を慕うようになっていった。その真っ直ぐな瞳は、もはや親友を見るというより、師匠か何かを見るような、熱烈な尊敬の色を帯び始めている。
少しやりすぎた感はあるが、問題ない。計画は順調だ。
そんなある日、学園全体に一つの告知が出された。
クラス分けのための、総合実力測定。
入学時の成績はあくまで参考値。この測定の結果をもって、生徒たちは本格的にそれぞれの専門クラスへと振り分けられるのだ。
俺の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
まただ。また、目立つ危険性のあるイベントだ。
入学式の二の舞だけは、絶対に避けなければならない。
「いいか、アレン」
測定の前夜、俺は再び自室の鏡に向かい、自分に言い聞かせた。
「今回は、絶対に手を抜け。目標は、中の上。目立ちすぎず、馬鹿にされすぎず。完璧な中間層を目指すんだ」
ついでに、この測定でカイルに花を持たせる。彼が首席クラスの成績を叩き出せば、その評判はさらに高まり、ヒロインたちの注目を集めるきっかけになるはずだ。俺は彼の引き立て役に徹する。完璧なシナリオだった。
実力測定は、魔法実技と身体能力測定の二部門で行われた。
まず、魔法実技。
的当て、魔力制御、術式構築速度などが評価される。
俺は自分の番になると、意識的に魔力を抑え、詠唱も少しだけたどたどしく行ってみせた。
「――ファイアボール」
放たれた火球は、ごく普通のサイズ。それは真っ直ぐに飛んでいき、的の中心に――寸分の狂いもなく、ど真ん中に着弾した。
しまった。
威力を抑えることに集中しすぎて、制御の精度で手を抜くのを忘れていた。
採点官の教師たちが、ざわめいている。
「な、なんだ今の……?威力は平凡だが、あの着弾精度は……」
「まるで、針の穴を通すような精密さだ。あれは、並の宮廷魔導師でも不可能だぞ……」
俺は顔を引きつらせながら、次の課題へと進んだ。
次は、身体能力測定。
短距離走、重量挙げ、反射神経テストなどが行われる。
ここでも俺は、全力の六割程度の力で臨むことにした。
短距離走では、わざと少しだけスタートで出遅れてみせた。しかし、地獄の訓練で鍛え上げられた肉体は、俺の意思とは裏腹に爆発的な加速を生み出し、ゴール直前でトップの生徒をあっさり抜き去ってしまった。
重量挙げでは、一番軽いバーベルを選んだ。だが、セレスティーナやライナス団長との稽古に慣れきった俺の筋力は、その重さを羽のように感じてしまい、軽々と、それも片手で持ち上げてしまった。
周囲の生徒たちが、ドン引きしているのが分かった。
「……終わった」
全ての測定を終え、俺は抜け殻のようになっていた。
手を抜いたはずだった。確かに、抜いたのだ。
だが、俺の「手加減」の基準が、一般生徒のレベルからあまりにもかけ離れすぎていた。俺の常識が、この三年間で完全に麻痺してしまっていたのだ。
一方で、カイルは俺の期待通り、素晴らしい成績を収めた。
魔法の威力こそ荒削りだったが、その潜在的な魔力量は計り知れないものがあった。身体能力、特に剣を使った反射神経テストでは、貴族の生徒たちを圧倒し、教官たちを唸らせていた。
よし。これなら、彼が首席だ。俺はきっと、中の上くらいの位置に収まっているはずだ。
俺は、淡い希望を胸に、結果発表を待った。
数日後。大講堂に、クラス分けの結果が張り出された。
生徒たちが、自分の名前を探して、歓声や溜息を漏らしている。
俺は人垣をかき分け、自分の名前を探した。
上級クラス、中級クラス、基礎クラス……。どこにも、俺の名前はない。
おかしい。どこかに見落としが?
俺が焦り始めた、その時だった。
張り出された名簿の一番端に、一枚だけ、別の羊皮紙が貼られているのに気づいた。そこには、金文字でこう書かれていた。
【特待クラス(Sクラス)】
そして、その下に記された、わずか五名の名前。
アレン・フォン・クラインフェルト
セレスティーナ・エル・エルドラド
ルナ・アシュフォード
リリアーナ・フォン・シルフィード
カイル・アークライト
俺は、自分の目を疑った。
なんだ、これは。
特待クラス?そんなもの、原作ゲームには存在しなかった。
羊皮紙の隅には、小さな文字で注釈が添えられていた。
『上記五名は、その才能が既存の教育課程の枠を著しく超えていると判断されたため、特別編成クラスにて個別の教育プログラムを実施する』
つまり、俺たちは、学園に隔離されることになったのだ。
俺と、カイルと、そして断罪者(ヒロイン)三人全員が。
背後から、声が聞こえた。
「ふふん、当然の結果ね。貴方と私が、同じクラスでないなんてありえないもの」
勝ち誇ったセレスティーナの笑み。
「合理的です。貴方という最高の研究対象を、常に観察できる環境は望ましい」
無表情で頷くルナ。
「ああ、アレン様……!神は、私に常に貴方様のお側にあるよう、お示しくださったのですね……!」
感涙にむせぶリリアーナ。
「やりましたね、アレン様!俺、アレン様と同じクラスです!」
何も知らずに、満面の笑みで喜ぶカイル。
俺は、その場で崩れ落ちそうになった。
ヒロインたちから逃げ、カイルに彼女たちを押し付ける。その計画が、根底から崩れ去った瞬間だった。
逃げ場はない。俺は、この五人だけのクラスという、閉鎖された空間に閉じ込められたのだ。
それは、エリートクラスなどという生易しいものではない。
俺にとっては、悪夢そのものだった。
俺の胃は、かつてないほどの激痛を発し、学園生活の第二章の幕開けを、高らかに告げていた。
もちろん、ヒロイン包囲網はいまだ健在で、俺の胃は相変わらずキリキリと痛んでいる。だが、明確な目標ができたことで、精神的には幾分かの余裕が生まれた。
俺はカイルとの親交を深めることにした。昼食を共にし、訓練場で剣を交え、時には図書館で勉強を教える。その全ては、彼をヒロインたちに引き渡すための布石だ。
カイルは俺の親切を純粋に受け取り、日に日に俺を慕うようになっていった。その真っ直ぐな瞳は、もはや親友を見るというより、師匠か何かを見るような、熱烈な尊敬の色を帯び始めている。
少しやりすぎた感はあるが、問題ない。計画は順調だ。
そんなある日、学園全体に一つの告知が出された。
クラス分けのための、総合実力測定。
入学時の成績はあくまで参考値。この測定の結果をもって、生徒たちは本格的にそれぞれの専門クラスへと振り分けられるのだ。
俺の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
まただ。また、目立つ危険性のあるイベントだ。
入学式の二の舞だけは、絶対に避けなければならない。
「いいか、アレン」
測定の前夜、俺は再び自室の鏡に向かい、自分に言い聞かせた。
「今回は、絶対に手を抜け。目標は、中の上。目立ちすぎず、馬鹿にされすぎず。完璧な中間層を目指すんだ」
ついでに、この測定でカイルに花を持たせる。彼が首席クラスの成績を叩き出せば、その評判はさらに高まり、ヒロインたちの注目を集めるきっかけになるはずだ。俺は彼の引き立て役に徹する。完璧なシナリオだった。
実力測定は、魔法実技と身体能力測定の二部門で行われた。
まず、魔法実技。
的当て、魔力制御、術式構築速度などが評価される。
俺は自分の番になると、意識的に魔力を抑え、詠唱も少しだけたどたどしく行ってみせた。
「――ファイアボール」
放たれた火球は、ごく普通のサイズ。それは真っ直ぐに飛んでいき、的の中心に――寸分の狂いもなく、ど真ん中に着弾した。
しまった。
威力を抑えることに集中しすぎて、制御の精度で手を抜くのを忘れていた。
採点官の教師たちが、ざわめいている。
「な、なんだ今の……?威力は平凡だが、あの着弾精度は……」
「まるで、針の穴を通すような精密さだ。あれは、並の宮廷魔導師でも不可能だぞ……」
俺は顔を引きつらせながら、次の課題へと進んだ。
次は、身体能力測定。
短距離走、重量挙げ、反射神経テストなどが行われる。
ここでも俺は、全力の六割程度の力で臨むことにした。
短距離走では、わざと少しだけスタートで出遅れてみせた。しかし、地獄の訓練で鍛え上げられた肉体は、俺の意思とは裏腹に爆発的な加速を生み出し、ゴール直前でトップの生徒をあっさり抜き去ってしまった。
重量挙げでは、一番軽いバーベルを選んだ。だが、セレスティーナやライナス団長との稽古に慣れきった俺の筋力は、その重さを羽のように感じてしまい、軽々と、それも片手で持ち上げてしまった。
周囲の生徒たちが、ドン引きしているのが分かった。
「……終わった」
全ての測定を終え、俺は抜け殻のようになっていた。
手を抜いたはずだった。確かに、抜いたのだ。
だが、俺の「手加減」の基準が、一般生徒のレベルからあまりにもかけ離れすぎていた。俺の常識が、この三年間で完全に麻痺してしまっていたのだ。
一方で、カイルは俺の期待通り、素晴らしい成績を収めた。
魔法の威力こそ荒削りだったが、その潜在的な魔力量は計り知れないものがあった。身体能力、特に剣を使った反射神経テストでは、貴族の生徒たちを圧倒し、教官たちを唸らせていた。
よし。これなら、彼が首席だ。俺はきっと、中の上くらいの位置に収まっているはずだ。
俺は、淡い希望を胸に、結果発表を待った。
数日後。大講堂に、クラス分けの結果が張り出された。
生徒たちが、自分の名前を探して、歓声や溜息を漏らしている。
俺は人垣をかき分け、自分の名前を探した。
上級クラス、中級クラス、基礎クラス……。どこにも、俺の名前はない。
おかしい。どこかに見落としが?
俺が焦り始めた、その時だった。
張り出された名簿の一番端に、一枚だけ、別の羊皮紙が貼られているのに気づいた。そこには、金文字でこう書かれていた。
【特待クラス(Sクラス)】
そして、その下に記された、わずか五名の名前。
アレン・フォン・クラインフェルト
セレスティーナ・エル・エルドラド
ルナ・アシュフォード
リリアーナ・フォン・シルフィード
カイル・アークライト
俺は、自分の目を疑った。
なんだ、これは。
特待クラス?そんなもの、原作ゲームには存在しなかった。
羊皮紙の隅には、小さな文字で注釈が添えられていた。
『上記五名は、その才能が既存の教育課程の枠を著しく超えていると判断されたため、特別編成クラスにて個別の教育プログラムを実施する』
つまり、俺たちは、学園に隔離されることになったのだ。
俺と、カイルと、そして断罪者(ヒロイン)三人全員が。
背後から、声が聞こえた。
「ふふん、当然の結果ね。貴方と私が、同じクラスでないなんてありえないもの」
勝ち誇ったセレスティーナの笑み。
「合理的です。貴方という最高の研究対象を、常に観察できる環境は望ましい」
無表情で頷くルナ。
「ああ、アレン様……!神は、私に常に貴方様のお側にあるよう、お示しくださったのですね……!」
感涙にむせぶリリアーナ。
「やりましたね、アレン様!俺、アレン様と同じクラスです!」
何も知らずに、満面の笑みで喜ぶカイル。
俺は、その場で崩れ落ちそうになった。
ヒロインたちから逃げ、カイルに彼女たちを押し付ける。その計画が、根底から崩れ去った瞬間だった。
逃げ場はない。俺は、この五人だけのクラスという、閉鎖された空間に閉じ込められたのだ。
それは、エリートクラスなどという生易しいものではない。
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