ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

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第38話:救出作戦

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俺の指揮の下、Sクラスによる救出作戦は、驚くべき効率で進められた。
「アレン!北東グループ、三名救出完了!拠点へ向かわせる!」
「アレン様!西通路に五名のグループを発見!オーガ二体に追われています!」
カイルとセレスティーナからの報告が、俺がルナを介して展開している簡易的な魔力通信を通じて、断続的に届く。
彼らは遊撃隊として、完璧な働きを見せていた。カイルの突破力と、セレスティーティーナの卓越した剣技。その二つが組み合わさることで、彼らは中級魔物の群れなど、赤子の手をひねるように蹴散らしていく。

「ルナ、次の目標は?」
俺はダンジョンの深部へと進みながら、冷静に指示を仰ぐ。
「……南西エリア。六名。重傷者一名。大型のスコーピオンと交戦中。ですが、そちらに向かうには、今の遊撃隊の位置からは遠すぎます」
「分かった。そちらは俺が向かう。遊撃隊には、東の小部屋に孤立している二人組の救出を指示してくれ」
「了解しました。貴方も、どうか気をつけて」
ルナの感情の読めない声に、わずかな心配の色が滲んだ。

俺は通信を切り、一気に速度を上げた。
ダンジョンの壁を蹴り、天井を走り、最短距離で南西エリアを目指す。
闇の教団の術者がどこにいるのか、まだ正確な位置は掴めていない。だが、このダンジョン全体に満ちる禍々しい魔力の流れを辿れば、いずれその中心へとたどり着くはずだ。
その前に、一人でも多くの生徒を救い出す。

数分後、俺は目的のエリアに到着した。
そこは広大な空洞になっており、天井からは巨大な鍾乳石が牙のように垂れ下がっている。
その中央で、六人の生徒たちが、巨大なサソリ型の魔物を相手に、絶望的な戦いを繰り広げていた。
サソリのハサミの一撃が、かろうじて展開されていた防御魔法を砕き、生徒の一人を吹き飛ばす。彼は壁に叩きつけられ、ぐったりと動かなくなった。
「くそっ……!もうだめだ!」
リーダー格の男子生徒が、悲鳴のような声を上げた。

「――そこまでだ」
俺は、空洞の入り口に静かに佇み、告げた。
俺の登場に、生徒たちも、そして魔物も、一瞬だけ動きを止める。
「ア、アレン様……!?」
絶望の淵にいた生徒たちの顔に、信じられないといった表情と、安堵の色が浮かんだ。
巨大なサソリは、新たな獲物を見つけたかのように、その複数の複眼を俺に向け、キシャアアア、と威嚇の声を上げた。

「下がっていろ。こいつは、俺がやる」
俺は生徒たちにそう告げると、ゆっくりと魔物に向かって歩き出した。杖は、構えない。
サソリは、俺の無防備な姿を侮ったのだろう。その巨大な尾を振り上げ、先端の毒針を俺めがけて突き出してきた。音速を超える、必殺の一撃。
だが、俺はその軌道を、完全に見切っていた。
体をわずかに傾けるだけで、毒針は俺の頬をかすめ、背後の岩壁に深々と突き刺さる。
俺は、その隙を見逃さなかった。
サソリの尾の付け根へと駆け寄り、その硬い甲殻の上に飛び乗る。そのまま、流れるような動きで背中を駆け上がり、頭部の付け根、甲殻の切れ目となっている唯一の弱点へと、魔力を集中させた右手の指先を突き立てた。

「――『ペネトレイト・バレット』」
圧縮された魔力の弾丸が、俺の指先から撃ち出される。
それはサソリの硬い外殻を紙のように貫通し、内部の神経系を寸断した。
巨大な魔物は、悲鳴を上げる間もなく、その巨体を痙攣させ、やがて完全に動きを止めた。

「……終わったぞ」
俺は魔物の死骸から飛び降り、呆然と立ち尽くす生徒たちに向き直った。
「動ける者は、動けない者を担いで、北東にある広場へ向かえ。そこが、我々の拠点だ。治療のできる者もいる」
俺の言葉に、生徒たちはハッと我に返った。
彼らは俺の圧倒的な実力と、その冷静沈着な指揮に、完全に心を奪われていた。
「は、はいっ!ありがとうございます!アレン様!」
彼らは深々と頭を下げると、互いに肩を貸し合いながら、拠点へと向かっていった。

俺は彼らの背中を見送ると、再びルナへと通信を繋いだ。
「こちらアレン。南西グループの救出完了。他のグループの状況は?」
「……素晴らしい手際です。遊撃隊も、東の二人組を救出し、現在拠点へ帰還中。残る孤立グループは、あと三つ。中央の大空洞に集まっています」
「分かった。俺もそちらへ向かう。遊撃隊と合流する」

俺が拠点である広場に戻ると、そこは野戦病院のような様相を呈していた。
すでに十数名の生徒が保護され、リリアーナが懸命に彼らの治療にあたっている。彼女の額には汗が滲んでいたが、その瞳は聖女の名にふさわしい、強い意志の光を宿していた。
「アレン様!」
俺の姿を見つけたカイルが駆け寄ってくる。彼の隣には、セレスティーナもいた。二人とも、多少の傷は負っているものの、その士気は高い。
「よくやってくれた、二人とも。君たちのおかげで、多くの命が救われた」
俺が労うと、二人は誇らしげに胸を張った。

救出された生徒たちは、俺の姿を見ると、畏敬と感謝の眼差しを向けた。
「アレン様……!」
「貴方がいなければ、俺たちは……」
彼らにとって、俺はもはやただの上級生ではない。絶望の闇を照らす、唯一の希望の光。救世主そのものだった。
俺は、そんな彼らの視線から逃れるように、地図を広げた。
「感傷に浸っている暇はない。最後のグループを救出し、全員でここから脱出するぞ」

俺の言葉に、その場にいた全員が、力強く頷いた。
Sクラスのメンバーだけでなく、救出された生徒たちも、俺の指揮下で戦うことを、当然のように受け入れていた。
いつの間にか、俺は学年全体のリーダーとなっていた。
俺の胃は、その重責に押しつぶされそうだった。
だが、もう後戻りはできない。
俺は、この作戦を最後までやり遂げることを、心に誓った。
全ては、俺の平穏な老後のために。
俺は、仲間たちの信頼を一身に背負い、最後の戦場となる中央の大空洞へと、静かに歩を進めた。
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