ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

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第37話:リーダーの器

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突然のダンジョン構造変化と、他の生徒たちの悲鳴。
絶望的な状況を前に、Sクラスのメンバーにも動揺が広がっていた。
「どうしよう……。出口が、どこにもない……」
リリアーナが、不安そうに唇を震わせる。
「くそっ!こんな壁、俺の剣で……!」
カイルが焦りからか、岩壁に剣を叩きつけようとする。
「待て、カイル!」
俺は冷静に彼を制した。
「無闇に力を消耗するな。それに、このダンジョンはまだ変化を続けている可能性がある。下手に壁を壊せば、生き埋めになる危険すらあるぞ」
俺の言葉に、カイルはハッとして剣を下ろした。

「アレン、貴方の言う通りだわ。まずは、現状を正確に把握するべきね」
セレスティーナが、いち早く落ち着きを取り戻し、俺に同意する。さすがは王女。肝が据わっている。
「ええ。幸い、私の探知魔法は生きているようです」
ルナが目を閉じ、集中し始めた。彼女の周囲に、淡い魔力の波紋が広がる。
数分後、彼女はゆっくりと目を開けた。
「……状況は、最悪です」
その言葉に、皆が息を呑む。
「ダンジョン内の生徒は、少なくとも十数グループに分断されています。それぞれが孤立し、さらに、本来このダンジョンには生息しないはずの中級以上の魔物が、多数出現している模様。すでにいくつかのグループは、魔物と交戦状態に入っています」

「そんな……!」
リリアーナの顔が、蒼白になった。
このままでは、犠牲者が出る。それも、一人や二人では済まないかもしれない。
教師たちはどうしたのか。彼らも分断され、身動きが取れないのか。あるいは、すでに……。
重苦しい沈黙が、俺たちを支配した。
誰もが、次に何をすべきか分からず、ただ立ち尽くしている。
その沈黙を破ったのは、俺だった。

「――作戦を、開始する」
俺は、静かに、しかし仲間たちの耳にはっきりと届く声で、そう宣言した。
全員の視線が、俺に集中する。
「作戦……ですって?」
「ああ。この状況を打開するための、唯一の作戦だ」
俺は、地面に落ちていた石ころを拾い、即席の地図を描き始めた。それは、俺の記憶にある、原作ゲームのダンジョンマップだった。構造が変化したとはいえ、基本的な骨格は残っているはずだ。
「まず、我々の目的は二つ。一つは、孤立した生徒たちを全員救出すること。そしてもう一つは、このダンジョンから脱出することだ」
俺は地図上の数カ所を、石で叩いた。

「ルナの探知によれば、最も近くにいるグループは、ここ。北東の通路だ。三人組。魔物と交戦中だが、まだ持ちこたえている」
俺はカイルとセレスティーティーナに向き直った。
「カイル、セレスティーナ。君たち二人は、遊撃隊だ。その機動力を活かして、最短ルートで彼らを救助に向かってほしい。救助後は、比較的安全なこの広場まで連れ戻す。ここを、我々の拠点とする」
「分かったわ!」
「任せてください、アレン様!」
二人は、迷いなく頷いた。俺の的確な指示が、彼らの迷いを吹き飛ばしたのだ。

「次に、ルナ」
俺は、天才魔導師に向き直る。
「君には、この拠点の防衛と、さらなる情報収集を頼みたい。君の探知魔法が、我々の生命線になる。逐一、他のグループの位置と状況を、私に報告してくれ」
「……合理的です。承知しました」
ルナは短く答え、再び目を閉じて探知に集中し始めた。

「そして、リリアーナ」
俺は、不安そうな顔で立ち尽くす少女に、優しく語りかけた。
「君には、最も重要な役目がある。救助されてくる生徒たちの、治療だ。これから、怪我人が続出するだろう。君の聖魔法だけが、彼らの命を救える」
「は、はい……!わ、私、頑張ります!」
リリアーナは、自分の役割を与えられたことで、少しだけ顔に血の気を取り戻した。

「じゃあ、アレン様は?」
カイルが、当然の疑問を口にした。
俺は、即席の地図全体を、指でなぞった。
「私は、全体の指揮を執る。そして、この異常事態を引き起こした『元凶』を叩きに行く」
「元凶……!?」
「ああ。ルナの言う通り、このダンジョンは魔法で制御されている。ならば、どこかに必ず、術者がいるはずだ。そいつを無力化しない限り、この悪夢は終わらない」
俺の言葉に、全員が息を呑んだ。
リーダーとして、最も危険な役目を、自ら買って出たのだ。

俺は、仲間たち一人一人の顔を見渡した。
「いいか。これは、もはや訓練ではない。実戦だ。だが、恐れるな。我々はSクラスだ。この学園で、最強の五人のはずだ。そして、我々の背後には、私がいる」
その言葉には、不思議な力が宿っていた。
それは、絶望的な状況にあっても、決して揺らぐことのない、絶対的な自信。
俺のその態度が、仲間たちの心に、勇気の火を灯した。
そうだ。俺たちには、アレンがいる。
この『若き賢者』が、神のごとき采配を振るう、俺たちのリーダーがいる。
彼が導く限り、俺たちに敗北はない。
カイル、セレスティーティーナ、ルナ、リリアーナ。四人の瞳に、迷いの色はもうなかった。そこには、リーダーへの絶対的な信頼と、自らの役目を果たすという、強い決意の光が宿っていた。

「――では、始めよう。救出作戦、開始だ!」
俺の号令と共に、Sクラスは一つの完璧なチームとして、動き出した。
カイルとセレスティーティーナが、風のように駆け出していく。ルナの周囲には、防衛用の魔法陣が輝き始め、リリアーナは、治療の準備を整える。
そして俺は、一人、ダンジョンのさらに奥深くへと続く、暗い通路へと足を踏み入れた。
胃は、相変わらず痛かった。
だが、それ以上に、俺の心は燃えていた。
仲間たちの命、そして俺自身の平穏な老後。その全てを守るために。
俺は、このダンジョンに潜む悪意の元凶を、必ず叩き潰すと、固く心に誓った。
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