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第40話:学園の英雄
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ョンマスターを退け、脱出口を確保した俺たちは、拠点に残っていたルナやリリアーナたちと合流した。
負傷者はいたものの、死者は一人もいない。俺の指揮の下、一年生全員が生還するという、奇跡的な結果だった。
地上への脱出口となった大穴から、生徒たちが次々と外へ出ていく。彼らは太陽の光を浴び、生きて戻れたことを涙ながらに喜び合っていた。
そして、彼らが地上で目にしたのは、洞窟の入り口でオロオロと右往左往するばかりの、引率教師たちの情けない姿だった。
「おおっ!無事だったか、諸君!」
俺たちの姿を見つけたマクシム教授が、安堵と驚愕が入り混じった顔で駆け寄ってきた。
「一体、中で何が……。ダンジョンが突然変貌し、我々も閉じ込められてしまって……」
言い訳がましく語る教授を、救出された生徒の一人が遮った。
「全て、アレン様のおかげです!」
その言葉を皮切りに、生徒たちが口々に俺の功績を語り始めた。
「アレン様が、たった一人で俺たちを導いてくれたんです!」
「神様みたいな指揮で、魔物を蹴散らして……!」
「アレン様がいなければ、俺たちは今頃……!」
感謝と、興奮と、そして狂信的なまでの崇拝。
その全てが込められた視線が、俺一人に集中する。教師たちは、信じられないものを見るような目で、俺と生徒たちの顔を交互に見ている。
一人の生徒が、学年全員を救った。その前代未聞の事実に、彼らの思考は完全に追いついていないようだった。
やがて、マクシム教授が俺の前に進み出た。
彼は銀縁眼鏡を外し、その皺の刻まれた顔を苦渋に歪ませると、俺に向かって、深く、深く頭を下げた。
「……クラインフェルト君。いや、アレン殿。引率責任者として、君に……心から、感謝する。そして、我々の無力さを、詫びたい。君がいなければ、大惨事になっていた。本当に、すまなかった」
教師が、生徒に頭を下げる。
その異常な光景は、この事件の結末を、そして俺の学園内での立場を、決定的に象徴していた。
学園に戻ってからの数日間は、まさに熱狂の渦だった。
ダンジョンでの俺の英雄譚は、救出された生徒たちの口によって、瞬く間に学園中に広まった。
その話には、当然のように尾ひれがついていた。
曰く、俺は未来予知でダンジョンの崩壊を察知していた、だの。
曰く、俺はたった一人で千の魔物を薙ぎ払った、だの。
曰く、俺の体からは聖なる後光が差しており、その光に触れた者は全ての傷が癒えた、だの。
もはや、事実はどうでもよかった。
生徒たちは、自分たちの信じたい「英雄アレン」の物語を、好き勝手に作り上げていったのだ。
俺の平穏な学園生活は、この日を境に完全に終わりを告げた。
廊下を歩けば、俺の姿を見つけた生徒たちが道を開け、尊敬の眼差しで敬礼してくる。
食堂へ行けば、俺のテーブルの周りには、常に人だかりができた。「あのアレン様と同じ空気を吸えるだけで光栄だ」などと、本気で言っている者までいる。
俺は、もはや生きた伝説。歩くパワースポットと化していた。
Sクラスの仲間たちの、俺を見る目も、明らかに変わっていた。
「アレン様は、やっぱり俺たちの光です!あの時、俺、アレン様の背中が本当に大きく見えました!」
カイルの心酔ぶりは、もはや信者の域に達している。
「私の婚約者として、当然の結果よ。でも、少し見直したわ。貴方、思った以上に頼りになる男なのね」
セレスティーティーナはツンとした態度を崩さないが、その瞳の奥には、隠しきれない誇らしさと、そして異性を見る確かな熱が宿っていた。
「極限状況下における、人間の心理掌握と最適行動。貴方は、最高の観測対象であると同時に、最高のリーダーです。今後の観測計画を、全面的に見直す必要があります」
ルナは研究者としての興味をさらに深め、俺を解剖したいという欲求を瞳の奥で爛々と燃やしている。
「ああ、アレン様……!あの時、貴方様は本当に、民を導く聖王のようでしたわ……!私、生涯、貴方様にお仕えいたします……!」
リリアーナの信仰心は、ついにカンストを突破したらしい。
俺を取り巻く勘違いと崇拝の輪は、もはや俺一人の手には負えない、巨大な怪物へと成長してしまっていた。
以前まで俺を評する言葉として使われていた、『クラインフェルト家の麒麟児』という二つ名。
今や、その言葉を口にする者は、誰もいなかった。
神のごとき采配で仲間を導き、絶望の淵から全ての生徒を救い出した奇跡の少年。
そんな俺を賞賛するには、その言葉は、あまりにも陳腐に過ぎたのだ。
生徒たちは、畏敬と親しみを込めて、俺をこう呼ぶようになった。
――我らが『学園の英雄』、と。
俺は、日に日に重くなる名声という名の鎧に身を包み、ただ静かに、空になった胃薬の瓶を眺めていた。
平穏な老後という夢は、もはや銀河系の彼方に消え去ったのかもしれない。
俺の胃は、英雄という称号の重さに耐えきれず、今日もまた、静かに、しかし確実に、その限界を訴え続けていた。
負傷者はいたものの、死者は一人もいない。俺の指揮の下、一年生全員が生還するという、奇跡的な結果だった。
地上への脱出口となった大穴から、生徒たちが次々と外へ出ていく。彼らは太陽の光を浴び、生きて戻れたことを涙ながらに喜び合っていた。
そして、彼らが地上で目にしたのは、洞窟の入り口でオロオロと右往左往するばかりの、引率教師たちの情けない姿だった。
「おおっ!無事だったか、諸君!」
俺たちの姿を見つけたマクシム教授が、安堵と驚愕が入り混じった顔で駆け寄ってきた。
「一体、中で何が……。ダンジョンが突然変貌し、我々も閉じ込められてしまって……」
言い訳がましく語る教授を、救出された生徒の一人が遮った。
「全て、アレン様のおかげです!」
その言葉を皮切りに、生徒たちが口々に俺の功績を語り始めた。
「アレン様が、たった一人で俺たちを導いてくれたんです!」
「神様みたいな指揮で、魔物を蹴散らして……!」
「アレン様がいなければ、俺たちは今頃……!」
感謝と、興奮と、そして狂信的なまでの崇拝。
その全てが込められた視線が、俺一人に集中する。教師たちは、信じられないものを見るような目で、俺と生徒たちの顔を交互に見ている。
一人の生徒が、学年全員を救った。その前代未聞の事実に、彼らの思考は完全に追いついていないようだった。
やがて、マクシム教授が俺の前に進み出た。
彼は銀縁眼鏡を外し、その皺の刻まれた顔を苦渋に歪ませると、俺に向かって、深く、深く頭を下げた。
「……クラインフェルト君。いや、アレン殿。引率責任者として、君に……心から、感謝する。そして、我々の無力さを、詫びたい。君がいなければ、大惨事になっていた。本当に、すまなかった」
教師が、生徒に頭を下げる。
その異常な光景は、この事件の結末を、そして俺の学園内での立場を、決定的に象徴していた。
学園に戻ってからの数日間は、まさに熱狂の渦だった。
ダンジョンでの俺の英雄譚は、救出された生徒たちの口によって、瞬く間に学園中に広まった。
その話には、当然のように尾ひれがついていた。
曰く、俺は未来予知でダンジョンの崩壊を察知していた、だの。
曰く、俺はたった一人で千の魔物を薙ぎ払った、だの。
曰く、俺の体からは聖なる後光が差しており、その光に触れた者は全ての傷が癒えた、だの。
もはや、事実はどうでもよかった。
生徒たちは、自分たちの信じたい「英雄アレン」の物語を、好き勝手に作り上げていったのだ。
俺の平穏な学園生活は、この日を境に完全に終わりを告げた。
廊下を歩けば、俺の姿を見つけた生徒たちが道を開け、尊敬の眼差しで敬礼してくる。
食堂へ行けば、俺のテーブルの周りには、常に人だかりができた。「あのアレン様と同じ空気を吸えるだけで光栄だ」などと、本気で言っている者までいる。
俺は、もはや生きた伝説。歩くパワースポットと化していた。
Sクラスの仲間たちの、俺を見る目も、明らかに変わっていた。
「アレン様は、やっぱり俺たちの光です!あの時、俺、アレン様の背中が本当に大きく見えました!」
カイルの心酔ぶりは、もはや信者の域に達している。
「私の婚約者として、当然の結果よ。でも、少し見直したわ。貴方、思った以上に頼りになる男なのね」
セレスティーティーナはツンとした態度を崩さないが、その瞳の奥には、隠しきれない誇らしさと、そして異性を見る確かな熱が宿っていた。
「極限状況下における、人間の心理掌握と最適行動。貴方は、最高の観測対象であると同時に、最高のリーダーです。今後の観測計画を、全面的に見直す必要があります」
ルナは研究者としての興味をさらに深め、俺を解剖したいという欲求を瞳の奥で爛々と燃やしている。
「ああ、アレン様……!あの時、貴方様は本当に、民を導く聖王のようでしたわ……!私、生涯、貴方様にお仕えいたします……!」
リリアーナの信仰心は、ついにカンストを突破したらしい。
俺を取り巻く勘違いと崇拝の輪は、もはや俺一人の手には負えない、巨大な怪物へと成長してしまっていた。
以前まで俺を評する言葉として使われていた、『クラインフェルト家の麒麟児』という二つ名。
今や、その言葉を口にする者は、誰もいなかった。
神のごとき采配で仲間を導き、絶望の淵から全ての生徒を救い出した奇跡の少年。
そんな俺を賞賛するには、その言葉は、あまりにも陳腐に過ぎたのだ。
生徒たちは、畏敬と親しみを込めて、俺をこう呼ぶようになった。
――我らが『学園の英雄』、と。
俺は、日に日に重くなる名声という名の鎧に身を包み、ただ静かに、空になった胃薬の瓶を眺めていた。
平穏な老後という夢は、もはや銀河系の彼方に消え去ったのかもしれない。
俺の胃は、英雄という称号の重さに耐えきれず、今日もまた、静かに、しかし確実に、その限界を訴え続けていた。
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