ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

文字の大きさ
54 / 97

第54話:アジト強襲

しおりを挟む
俺の警告通り、王立水道局の中央浄水場には、闇の教団による巧妙な罠が仕掛けられていた。
職員の一人に成りすました教団員が、王都全域に供給される水に、致死性の高い遅効性の毒を混入させようとしていたのだ。俺たちの警告がなければ、数日後には王都中がおぞましい地獄絵図と化していただろう。
事前に配置されていた騎士団によって、テロは水際で阻止された。犯人は捕縛される寸前で自決してしまったが、その所持品から、奴らのアジトに繋がる、ある重要な手がかりが見つかった。
それは、王都の地下に広がる、古い下水道網の地図だった。その地図には、明らかに人の手で加えられた、奇妙な印がいくつか記されていたのだ。

「――これが、奴らのアジトの入り口に違いない」
対策本部で作戦会議が開かれる。ライナス団長が、地図盤の一点を力強く指差した。
そこは、今は使われていない、忘れ去られた旧市街の地下。入り組んだ下水道が、迷宮のように広がっている場所だ。
「よし!これより、アジトへの強襲作戦を開始する!精鋭部隊を選抜し、直ちに突入するぞ!」
ライナス団長の号令に、騎士たちが奮い立つ。
その時、それまで黙って会議を聞いていた俺が、静かに手を挙げた。

「団長。その作戦に、我々生徒会も同行させていただきたい」
俺の言葉に、会議室がどよめいた。
「なっ……!アレン殿、何を言われる!ここは戦場だぞ!学生の来るところではない!」
ライナス団長が、血相を変えて反対する。
だが、俺は一歩も引かなかった。
「いいえ、団長。この戦いは、我々が始めたようなものです。そして、敵は我々が考えている以上に、狡猾で危険です。彼らは、ただのテロリストではない。異能の力を持つ、闇の魔術師の集団です」
俺は、旧校舎で手に入れた、あの黒い魔導書を取り出した。
「これは、私が奴らから押収したものです。この中には、現代の騎士団の常識では対処できない、禁断の魔術が記されている。我々がいなければ、無用な犠牲が増えるだけです」
俺の言葉と、魔導書が放つ不気味なオーラに、歴戦の騎士たちですら息を呑んだ。

「……アレン様の言う通りです!」
俺の隣で、カイルが力強く声を上げた。
「俺たちの力は、アレン様が一番よく知っている!俺たちは、足手まといにはなりません!」
「そうですわ。王女として、民を脅かす悪を見過ごすわけにはいきません」
セレスティーナも、凛とした表情で続く。
「敵の魔術体系を分析し、弱点を突く。それが、私の役割です」
ルナも、冷静に自らの有用性を主張した。
「皆さんの傷は、私が癒します……!」
リリアーナも、固い決意の瞳で頷いた。
Sクラスの五人。その揺るぎない覚悟を前に、ライナス団長はぐうの音も出なかった。
彼は、苦渋の表情で天を仰ぎ、やがて重々しく頷いた。
「……分かった。だが、決して無茶はするな。常に、我々騎士団の指示に従うこと。いいな!」

こうして、俺たちSクラスのメンバーは、騎士団の精鋭部隊と共に、闇の教団のアジトへと向かうことになった。
深夜。月明かりだけが照らす旧市街は、不気味なほど静まり返っていた。
俺たちは、マンホールの蓋を開け、暗く、湿った地下下水道へと、一人、また一人と降りていく。
鼻をつく、黴と汚水の匂い。足元を流れる水の音だけが、不気味に響いていた。

「……ここだ」
地図の印が示す場所で、俺は立ち止まった。
一見すると、ただのレンガの壁。だが、俺が壁の特定の模様に魔力を流し込むと、ゴゴゴ、と重い音を立てて、隠し通路が姿を現した。
「なんと……!幻術で隠されていたのか!」
騎士たちが驚きの声を上げる。
通路の奥からは、禍々しい魔力の気配が、ひしひしと伝わってきた。

「――突入する!」
ライナス団長の号令と共に、俺たちは一斉になだれ込んだ。
通路の先は、広大な地下空洞へと繋がっていた。そこには、祭壇のようなものが設けられ、十数人の黒ローブの教団員たちが、俺たちの侵入に気づき、慌てふためいていた。
「き、貴様ら!なぜこの場所が……!」
「問答無用!神の敵に、慈悲はない!」
騎士たちが雄叫びを上げて斬りかかる。
地下空洞は、瞬く間に剣と魔法が入り乱れる、激しい戦場と化した。

俺たちSクラスのメンバーも、それぞれの持ち場で戦っていた。
カイルとセレスティーティーナは、騎士たちと共に前線で敵を薙ぎ払い、ルナは後方から的確な援護魔法で敵の術式を妨害する。リリアーナは、負傷した騎士を聖魔法で癒していく。
そして俺は――戦場全体を俯瞰し、敵の指揮官を探していた。
いた。
祭壇の一番奥で、ひときわ強い魔力を放ちながら、部下たちに指示を飛ばしている男。おそらく、このアジトの責任者。教団の幹部の一人だろう。

「ライナス団長!指揮官は俺が討つ!援護を!」
俺は叫び、単身、敵陣の奥深くへと突っ込んでいった。
「アレン殿!無謀だ!」
団長の制止の声も、俺の耳には届かない。
俺の動きに気づいた教団員たちが、俺を止めようと立ち塞がる。
だが、俺は彼らを相手にしなかった。
地面を蹴り、壁を走り、天井のパイプに飛び移る。パルクールのような立体的な動きで、俺は全ての攻撃を躱し、一直線に幹部の男へと迫った。

「小賢しい真似を……!」
幹部の男は、俺に向かって、強力な闇の槍を放ってきた。
だが、俺はその槍を、魔剣の一振りで両断する。
そして、彼が次の魔法を詠唱する、そのコンマ数秒の隙を、俺は見逃さなかった。
俺は彼の懐に飛び込み、魔剣の柄頭を、寸分の狂いもなく、その腹部に叩き込んだ。
「ぐ……あ……!」
幹部は短い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。

指揮官を失った教団員たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、やがて騎士団によって次々と制圧されていった。
激しい戦いは、俺たちの完全勝利で幕を閉じた。
俺は、気絶した幹部の男のフードを剥いだ。その下から現れたのは、貴族の紋章が刻まれた指輪をはめた、見覚えのない男の顔だった。
やはり、教団には貴族も関わっているのか。
俺は、この戦いが、まだ終わっていないことを確信した。

「……見事だ、アレン殿」
ライナス団長が、感嘆と畏怖の入り混じった表情で、俺の肩を叩いた。
「貴殿がいなければ、我々だけでは、これほどの圧勝はできなかっただろう」
他の騎士たちも、俺たちSクラスのメンバー、特に俺に対して、もはや疑いのない、絶対的な信頼の眼差しを向けていた。
俺は、その視線から逃れるように、静かに息をついた。
また、手柄を立ててしまった。
また、目立ってしまった。
俺の胃は、勝利の興奮とは無縁の、冷たい痛みを発していた。
この勝利が、俺をさらに平穏から遠ざける、新たな一歩になることを、俺は嫌というほど、予感していたからだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた

歩く魚
ファンタジー
働きたくない元社畜、異世界で見つけた最適解は――「助成金で生きる」ことだった。 剣と魔法の世界に転生したシンは、冒険者として下積みを積み、ついに夢を叶える。 それは、国家公認の助成金付き制度――ギルド経営によって、働かずに暮らすこと。 そして、その傍で自らの歪んだ性癖を満たすため、誰に頼まれたわけでもない人助けを続けていたがーー 「ご命令と解釈しました、シン様」 「……あなたの命、私に預けてくれるんでしょ?」 次第にギルドには、主人公に執着するメンバーたちが集まり始め、気がつけばギルドは、愛の重い最強集団になっていた。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...