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第55話:王国の至宝
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闇の教団のアジト強襲作戦の成功は、王都を震撼させた。
連続テロに怯えていた民衆は騎士団の鮮やかな勝利に歓喜し、王都は祝祭のような雰囲気に包まれた。
そして、その勝利の裏に一人の学生を中心としたSクラスの生徒たちの活躍があったというニュースは、瞬く間に英雄譚として広まっていった。
もはや、俺の名を知らない者はエルドラド王国のどこにもいなかった。
『若き賢者』『学園の英雄』という二つ名はすでに過去のものとなっていた。
人々は畏敬と親愛、そして絶対的な信頼を込めて、俺をこう呼ぶようになった。
――『王国の至宝』、と。
「アレン・フォン・クラインフェルトよ。面を上げよ」
数日後。俺は王城の謁見の間にいた。
父ルドルフと共に、国王陛下の前に膝をついている。Sクラスの仲間たちも、その後方に控えていた。
国王アルベルトは玉座から、満足げな、そして慈愛に満ちた眼差しで俺を見下ろしていた。
「其方たちの活躍、見事であった。この国を未曾有の危機から救ったその功績、いくら賞賛しても足りぬ」
国王の言葉に、謁見の間に集まった貴族たちから感嘆のため息が漏れた。
「特に、アレン・フォン・クラインフェルト。其方の知略と勇気なくしてこの勝利はあり得なかったと聞く」
国王は俺に直接語りかけた。
「よって、ここに其方に王国最高の栄誉である『金獅子勲章』を授与する!」
その言葉に、謁見の間がどよめいた。
金獅子勲章。それは建国以来、国に多大なる貢献をしたほんの一握りの英雄にしか与えられてこなかった伝説級の勲章だ。
それを、まだ十五歳の学生が授与される。前代未聞の歴史的な出来事だった。
侍従が恭しく金色の獅子をかたどった勲章を盆に乗せて運んでくる。
国王自らが玉座から降り立ち、俺の胸にその勲章を付けてくれた。
ずしりとした重み。
それは勲章そのものの重さではなかった。
王国からの期待、民衆からの崇拝、そして歴史に名を刻むという逃れられない運命の重さだった。
俺は完璧な貴公子の笑みを浮かべ、深く頭を下げた。
「……もったいないお言葉にございます、陛下。この栄誉、生涯の誇りといたします」
内心では胃が張り裂けそうなほどのプレッシャーで、気を失いそうだったが。
叙勲式が終わると、祝賀の宴が催された。
貴族たちが次から次へと俺の元へ挨拶にやってくる。
「クラインフェルト卿!いや、もはや英雄殿とお呼びすべきですな!」
「我が娘を、ぜひ貴方様にご紹介したい!」
彼らの目には媚びと打算と、そして純粋な畏敬が入り混じっていた。
俺は、その全てを完璧な笑顔で受け流し続けた。もはや手慣れたものだった。
宴の喧騒から少し離れたテラス。
俺が一人で夜風に当たっていると、三つの影がそっと近づいてきた。
セレスティーナ、ルナ、そしてリリアーナだった。
「……アレン。勲章、おめでとう」
セレスティーナが少し照れたように、しかし誇らしげに言った。
「貴方が私の婚約者であることが、これほど誇らしいと思ったことはないわ」
「……貴方の功績を考えれば当然の結果です。ですが、データ上、十五歳での叙勲は歴史上初のケース。貴方はまた新たな観測記録を打ち立てました」
ルナがいつも通りの冷静な口調で、しかしその瞳の奥に確かな賞賛の色を浮かべて分析する。
「アレン様……!本当に、本当におめでとうございます……!貴方様は本当に、この国を照らす光そのものですわ……!」
リリアーナは感極まったのか、その瞳に美しい涙を浮かべていた。
三者三様の祝福の言葉。
俺はそんな彼女たちに、静かに微笑み返した。
「ありがとう、皆。だが、これは俺一人の功績じゃない。君たちがいてくれたから掴めた勝利だ」
その言葉に、三人の顔がぽっと赤く染まった。
空には満月が美しく輝いている。
それはまるで物語のワンシーンのように完璧な光景だった。
だが、俺の心は少しも晴れなかった。
『王国の至宝』。
その称号は俺を破滅から遠ざけてくれたように見えるかもしれない。
だが、実際は逆だ。
それは俺をこの国の中心に、物語の中心に、決して逃れられない形で縛り付ける黄金の鎖だった。
俺が望む平穏な老後。
領地の片隅で、誰にも知られず静かに本を読んで暮らすというささやかな夢。
その夢は、この日を境に完全に、そして永遠に失われたのだと俺は悟った。
俺は仲間たちの祝福を受けながら、心の中で静かに泣いていた。
俺の胃はもはや痛みすら感じなかった。
そこにあるのは栄光の重さに潰された、空っぽの虚無だけだった。
俺の戦いはまだ終わらない。
いや、むしろこれからが本当の始まりなのかもしれない。
俺は夜空の月を見上げ、これから続くであろう胃痛と栄光に満ちた未来に、静かに覚悟を決めるしかなかった。
連続テロに怯えていた民衆は騎士団の鮮やかな勝利に歓喜し、王都は祝祭のような雰囲気に包まれた。
そして、その勝利の裏に一人の学生を中心としたSクラスの生徒たちの活躍があったというニュースは、瞬く間に英雄譚として広まっていった。
もはや、俺の名を知らない者はエルドラド王国のどこにもいなかった。
『若き賢者』『学園の英雄』という二つ名はすでに過去のものとなっていた。
人々は畏敬と親愛、そして絶対的な信頼を込めて、俺をこう呼ぶようになった。
――『王国の至宝』、と。
「アレン・フォン・クラインフェルトよ。面を上げよ」
数日後。俺は王城の謁見の間にいた。
父ルドルフと共に、国王陛下の前に膝をついている。Sクラスの仲間たちも、その後方に控えていた。
国王アルベルトは玉座から、満足げな、そして慈愛に満ちた眼差しで俺を見下ろしていた。
「其方たちの活躍、見事であった。この国を未曾有の危機から救ったその功績、いくら賞賛しても足りぬ」
国王の言葉に、謁見の間に集まった貴族たちから感嘆のため息が漏れた。
「特に、アレン・フォン・クラインフェルト。其方の知略と勇気なくしてこの勝利はあり得なかったと聞く」
国王は俺に直接語りかけた。
「よって、ここに其方に王国最高の栄誉である『金獅子勲章』を授与する!」
その言葉に、謁見の間がどよめいた。
金獅子勲章。それは建国以来、国に多大なる貢献をしたほんの一握りの英雄にしか与えられてこなかった伝説級の勲章だ。
それを、まだ十五歳の学生が授与される。前代未聞の歴史的な出来事だった。
侍従が恭しく金色の獅子をかたどった勲章を盆に乗せて運んでくる。
国王自らが玉座から降り立ち、俺の胸にその勲章を付けてくれた。
ずしりとした重み。
それは勲章そのものの重さではなかった。
王国からの期待、民衆からの崇拝、そして歴史に名を刻むという逃れられない運命の重さだった。
俺は完璧な貴公子の笑みを浮かべ、深く頭を下げた。
「……もったいないお言葉にございます、陛下。この栄誉、生涯の誇りといたします」
内心では胃が張り裂けそうなほどのプレッシャーで、気を失いそうだったが。
叙勲式が終わると、祝賀の宴が催された。
貴族たちが次から次へと俺の元へ挨拶にやってくる。
「クラインフェルト卿!いや、もはや英雄殿とお呼びすべきですな!」
「我が娘を、ぜひ貴方様にご紹介したい!」
彼らの目には媚びと打算と、そして純粋な畏敬が入り混じっていた。
俺は、その全てを完璧な笑顔で受け流し続けた。もはや手慣れたものだった。
宴の喧騒から少し離れたテラス。
俺が一人で夜風に当たっていると、三つの影がそっと近づいてきた。
セレスティーナ、ルナ、そしてリリアーナだった。
「……アレン。勲章、おめでとう」
セレスティーナが少し照れたように、しかし誇らしげに言った。
「貴方が私の婚約者であることが、これほど誇らしいと思ったことはないわ」
「……貴方の功績を考えれば当然の結果です。ですが、データ上、十五歳での叙勲は歴史上初のケース。貴方はまた新たな観測記録を打ち立てました」
ルナがいつも通りの冷静な口調で、しかしその瞳の奥に確かな賞賛の色を浮かべて分析する。
「アレン様……!本当に、本当におめでとうございます……!貴方様は本当に、この国を照らす光そのものですわ……!」
リリアーナは感極まったのか、その瞳に美しい涙を浮かべていた。
三者三様の祝福の言葉。
俺はそんな彼女たちに、静かに微笑み返した。
「ありがとう、皆。だが、これは俺一人の功績じゃない。君たちがいてくれたから掴めた勝利だ」
その言葉に、三人の顔がぽっと赤く染まった。
空には満月が美しく輝いている。
それはまるで物語のワンシーンのように完璧な光景だった。
だが、俺の心は少しも晴れなかった。
『王国の至宝』。
その称号は俺を破滅から遠ざけてくれたように見えるかもしれない。
だが、実際は逆だ。
それは俺をこの国の中心に、物語の中心に、決して逃れられない形で縛り付ける黄金の鎖だった。
俺が望む平穏な老後。
領地の片隅で、誰にも知られず静かに本を読んで暮らすというささやかな夢。
その夢は、この日を境に完全に、そして永遠に失われたのだと俺は悟った。
俺は仲間たちの祝福を受けながら、心の中で静かに泣いていた。
俺の胃はもはや痛みすら感じなかった。
そこにあるのは栄光の重さに潰された、空っぽの虚無だけだった。
俺の戦いはまだ終わらない。
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