ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

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第68話:王家の地下迷宮

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『迷いの森』での死闘は熾烈を極めた。
幻惑の魔法に守られた森の魔物たちは狡猾で、そして執拗だった。俺たちはリリアーナの聖なる力を文字通り生命線としながら、数日間にわたって森を彷徨い続けた。
闇の教団もやはり森の中に潜んでいた。彼らは森の幻惑を利用した奇襲を仕掛けてきたが、俺の指揮とSクラスの連携の前には敵ではなかった。
激戦の末、俺たちは森の最深部にあった古代の祭壇で、二つ目のアーティファクト『月光の聖杯』を確保することに成功した。だが、その代償は大きかった。リリアーナは魔力を使い果たして倒れ、仲間たちも満身創痍。俺たちは命からがら森を脱出した。

王都への帰還後、俺たちはつかの間の休息を得た。
だが、休んでいる暇など本来はなかった。闇の教権は俺たちが西へ向かっている間に、南の火山地帯にあった三つ目のアーティファクトをまんまと手に入れてしまったのだ。
これで一対一。残るアーティファクトは二つ。
一つは教団の本拠地にある可能性が高い。そして、残る最後の一つは――。

「――王家の地下に眠っている」
王城の国王陛下の私室。
俺とセレスティーナは、国王アルベルトから王家に代々伝わる極秘の伝承を聞かされていた。
「我がエルドラド王家の祖先は、古の賢者たちと共に魔神を封印した一族。その証として、五つのアーティファクトのうち最も強力な『太陽の王笏』を、この城の地下深くに封印し守り続けてきたのだ」
国王は壁にかけられた巨大なタペストリーを指差した。そこには勇ましい初代国王の姿が描かれている。
「だが、その封印を解くには王家の血を引く者が地下迷宮の『王家の試練』を乗り越えねばならぬ。そしてその試練はあまりにも過酷で、命の保証はない。これまで幾人もの王子や王女が挑戦し、誰一人として帰ってきた者はおらぬ」

国王の言葉に、セレスティーナが息を呑んだ。
彼女ですらこの伝承の存在を知らなかったのだ。
「父上……! ならば私が!」
セレスティーナが決意を込めて名乗りを上げた。
だが国王は静かに首を横に振った。
「ならぬ。セレス、お前は私の、そしてこの国の唯一の跡継ぎだ。お前を失うわけにはいかん」
「しかし、それではアーティファクトをみすみす教団に……!」
「だからこそ、アレンを呼んだのだ」
国王の視線が俺に向けられる。
「アレンよ。其方の知恵と力、そしてセレスへの想いがあるならば、この試練を乗り越えられるやもしれぬ。娘と、そしてこの国の未来を其方に託したい」
それは王からの、そして一人の父親からの悲痛なまでの願いだった。

俺に断るという選択肢はなかった。
俺は静かに膝をつき、その勅命を拝した。
「――御意。必ずやセレスティーナ殿下をお守りし、アーティファクトを持ち帰ることをお誓いいたします」

その日の深夜。
俺とセレスティーナは、王城の地下深く、固く閉ざされた巨大な石の扉の前に立っていた。
カイルたちは地上で待機している。この試練は、王家の血を引く者とその者が認めた伴侶しか足を踏み入れることが許されないのだ。
「……アレン。本当に良いの?」
セレスティーナが不安そうな顔で俺を見上げた。
「貴方を危険な目に遭わせるわけには……」
「今更何を言う」
俺は彼女の肩にそっと手を置いた。
「君の婚約者だろう、私は」
その言葉に、セレスティーナの顔がわずかに赤く染まった。

彼女が石の扉に手を触れ、王家の証である魔力を流し込む。
ゴゴゴゴゴ……。
数百年ぶりに、王家の試練への道が開かれた。
扉の向こうは漆黒の闇。ひやりとした古代の空気が俺たちの肌を撫でた。
俺たちは松明に火を灯し、覚悟を決めてその闇へと足を踏み入れた。

地下迷宮は、その名の通り複雑怪奇な迷路だった。
だがそれだけではない。通路の至る所に、死に至る巧妙な罠が仕掛けられていた。
壁から飛び出す毒矢、突然崩れ落ちる床、幻影を見せる魔法陣。
「きゃっ!」
セレスティーナが足元の石畳の模様を踏んだ瞬間、天井から巨大な刃が振り下ろされた。
俺は咄嗟に彼女の体を抱き寄せ、その場から飛び退く。轟音と共に、刃が俺たちのいた場所を粉砕した。
「……す、すまない」
俺の腕の中で、セレスティーナがか細い声で謝った。
「気にするな。ここからは俺が一歩先を歩く」
俺は彼女を背後にかばい、慎重に先へと進んだ。
俺のゲームで培われたダンジョン攻略知識と、異常発達した危機察知能力が次々と罠を見破っていく。

やがて俺たちは広大なホールに出た。
その中央には、一体の巨大なガーディアンが静かに鎮座していた。
全身を黒曜石の鎧で覆った、王の姿をしたゴーレムだ。
『――来たか、我が子孫よ。そしてその伴侶よ』
ゴーレムが重々しい声で語りかけた。
『我は、初代国王の魂を宿す試練の守護者。我を打ち破り、王たる資格を示してみせよ』

セレスティーナが剣を構えた。
「アレン、援護を!」
「待て、セレス!」
俺は彼女を制した。
「こいつの相手は一人では無理だ。連携でいくぞ」
「しかし……!」
「これは王家の試練であると同時に、『二人』の試練だ。そうでなければ伴侶を連れてくる意味がない」
俺の言葉に、セレスティーナはハッとしたように俺の顔を見つめた。
そして力強く頷いた。
「……分かったわ、アレン。貴方を信じる」

俺とセレスティーナは、初代国王のゴーレムに二人で挑んだ。
セレスティーナがその華麗な剣技で正面から斬りかかり、俺がその死角から魔法と剣技で的確に弱点を突く。
ゴーレムの攻撃は、一撃一撃が山を砕くほどの威力だった。だが俺たちの完璧な連携は、その攻撃をいなし、受け流し、そして反撃の隙を与えない。
それはまるで一つの魂が二つの体に宿ったかのような、究極の剣舞だった。
俺たちの剣が、同時にゴーレムの胸のコアを貫いた。
初代国王は満足げな笑みを浮かべたように、静かに崩れ落ちていった。

その奥の祭壇に、アーティファクトは静かに安置されていた。
太陽の輝きを宿した、荘厳な王笏。
『太陽の王笏』。
俺たちは三つ目のアーティファクトをついに手に入れたのだ。
セレスティーナは王笏を手に取り、その輝きに息を呑んだ。
そして彼女は、俺の方へと向き直った。
その青い瞳は潤み、そして今までにないほど熱い光を宿していた。
「……アレン」
彼女は一歩、俺に近づいた。
「ありがとう。貴方がいなければ、私は……」
その言葉は最後まで続かなかった。
彼女はそっと、その唇を俺の唇に重ねた。

俺の思考は完全に停止した。
胃の痛みも国家の重責も闇の教団の脅威も、全てがどこか遠い世界のことのように消え去っていった。
ただ、彼女の温かさだけがそこにあった。
俺のファーストキスだった。
もちろん、前世を含めて。
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