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第70話:魔物の氾濫(スタンピード)
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「数十万の魔物の大群だと!?」
対策本部にライナス団長の絶叫が響き渡った。
窓の外、西の地平線はすでに黒い津波によって覆い尽くされようとしていた。ゴブリン、オーク、オーガといった人型の魔物から、巨大な狼や空を覆うガーゴイルの群れまで。ありとあらゆる種類の魔物が、統率の取れた一つの軍隊のように王都めがけて進軍してきている。
自然発生的な魔物の氾濫(スタンピード)ではない。
闇の教団によって完全に制御された、死の軍勢だ。
「馬鹿な……! これほどの数の魔物を、どうやって……!」
一人の将軍が顔面蒼白で呻く。
「おそらく、南の火山地帯で手に入れたアーティファクトの力でしょう」
ルナが冷静に、しかし厳しい表情で分析した。
「『炎帝の心臓』。それは魔物の闘争本能を刺激し操る力を持つと、古文書には記されています」
奴らはアーティファクトをすでに兵器として転用しているのだ。
王城の鐘がけたたましく鳴り響く。王国全土に最高レベルの非常事態宣言が発令された。
王都は瞬く間に大パニックに陥った。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々。店を閉め家に閉じこもる商人たち。街の機能は完全に麻痺した。
「くそっ……! 奴らの狙いはこれだったのか!」
カイルが悔しそうに拳を握りしめた。
俺たちが地下の本拠地に気を取られている間に、奴らは王都そのものを外側から食い尽くそうとしていたのだ。
「うろたえるな!」
ライナス団長の雷のような声が、混乱の極みにあった対策本部に響き渡った。
「我々は王都を守る最後の砦だ! 今こそ王国騎士団の誇りを見せる時ぞ! 各部隊長は直ちに持ち場へ向かえ! 城壁の防衛ラインを死守するんだ!」
騎士たちが一斉に動き出す。だが、その顔には絶望の色が濃く浮かんでいた。
王都を守る騎士団の総数は、およそ一万。
対する敵は、その数十倍。
戦力差は火を見るより明らかだった。
「――陛下!」
その時、対策本部の扉が開き、国王アルベルトが数人の近衛兵だけを伴って入ってきた。
その顔には王としての威厳と、そして覚悟が浮かんでいた。
「状況は聞いた。もはや一刻の猶予もない」
国王はまっすぐに俺の前に立った。
そして、その場にいる全ての者たちに向けて厳かに宣言した。
「これより王都防衛戦における全指揮権を、アレン・フォン・クラインフェルトに委任する! 彼をこの戦いの臨時総指揮官に任命する!」
その言葉に、対策本部は水を打ったように静まり返った。
全ての視線が俺一人に集中する。
俺が、この絶望的な戦いの全責任を負う。
国王はこの国の運命そのものを、俺というまだ十八歳の若者の双肩に完全に委ねたのだ。
俺はもはや辞退も謙遜も許される立場ではなかった。
俺は静かに、そして深く国王に一礼した。
「――御意。この命に代えましても、王都を守り抜いてみせます」
俺のその揺るぎない覚悟に満ちた声が、絶望に沈みかけていた騎士たちの心に最後の希望の火を灯した。
そうだ。俺たちにはこの男がいる。
神のごとき知略を持つ『王国の至宝』が。
彼がいる限り、まだ負けてはいない。
対策本部の空気が変わった。絶望が悲壮な決意へと昇華されていく。
俺はすぐさま巨大な王都の地図盤の前に立った。
そして矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。
「ライナス団長! 騎士団を三つの部隊に再編してください! 第一部隊は最も敵の圧力が強いであろう西門の防衛! 第二部隊は北門と南門の遊撃部隊! そして第三部隊は予備兵力として王城前広場に待機!」
「応!」
「魔術師団は城壁の各所に配置! 遠距離からの範囲攻撃で敵の進軍速度を可能な限り削れ! ルナ、君は魔術師団の指揮を!」
「……承知しました」
「カイル、セレスティーナ! 君たちは最も危険な遊撃部隊の隊長だ! 城壁のどこかが破られそうになったら真っ先に駆けつけ、穴を塞げ!」
「任せてください!」
「当然よ!」
「リリアーナ! 君は後方の野戦病院へ! 聖教会と協力し、負傷者の治療の総指揮を頼む! 君の力だけが一人でも多くの命を救える!」
「はいっ! アレン様!」
俺の指示は淀みなく、そして的確だった。
それはまるで、この事態が起こることをずっと前から知っていたかのような完璧な采配。
混乱の極みにあった王都の防衛機能は、俺という一つの脳を得て急速に、そして有機的に動き始めた。
騎士が走り、魔術師が詠唱し、人々がそれぞれの持ち場へと向かう。
絶望に沈んでいた王都は最後の抵抗のために、一つの巨大な生命体のように脈動を始めたのだ。
俺は司令室の窓から、地平線を埋め尽くす魔物の大群を冷徹な目で見据えていた。
陽動。
確かにこれは壮大な陽動だ。
だが奴らは一つ、大きな間違いを犯した。
俺という存在を甘く見ていた。
俺はただの宰相代理でも、ただの英雄でもない。
俺は、このゲームの全てのシナリオを知る唯一のプレイヤーだ。
お前たちが仕掛けたこの絶望的なイベント。
俺が完璧に攻略してやる。
「――全軍に通達!」
俺の声が魔力通信機を通して、王都の全ての兵士たちに響き渡った。
「敵は数こそ多いが、所詮は烏合の衆! 我らが誇り、我らが故郷、そして我らが愛する人々を守るため、一歩も引くな!」
「我々の背後には私がいる! 勝利は必ずや我らのものだ!」
俺の言葉が、兵士たちの心を最後の闘志で燃え上がらせた。
王都の城壁の上で、数えきれないほどの剣と槍が夕日を浴びて鈍い輝きを放った。
王国史上、最大にして最も絶望的な防衛戦の幕が、今、切って落とされた。
俺の胃はもはや何も感じなかった。
目の前の戦いに俺の全てを注ぎ込む。
それだけだった。
対策本部にライナス団長の絶叫が響き渡った。
窓の外、西の地平線はすでに黒い津波によって覆い尽くされようとしていた。ゴブリン、オーク、オーガといった人型の魔物から、巨大な狼や空を覆うガーゴイルの群れまで。ありとあらゆる種類の魔物が、統率の取れた一つの軍隊のように王都めがけて進軍してきている。
自然発生的な魔物の氾濫(スタンピード)ではない。
闇の教団によって完全に制御された、死の軍勢だ。
「馬鹿な……! これほどの数の魔物を、どうやって……!」
一人の将軍が顔面蒼白で呻く。
「おそらく、南の火山地帯で手に入れたアーティファクトの力でしょう」
ルナが冷静に、しかし厳しい表情で分析した。
「『炎帝の心臓』。それは魔物の闘争本能を刺激し操る力を持つと、古文書には記されています」
奴らはアーティファクトをすでに兵器として転用しているのだ。
王城の鐘がけたたましく鳴り響く。王国全土に最高レベルの非常事態宣言が発令された。
王都は瞬く間に大パニックに陥った。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々。店を閉め家に閉じこもる商人たち。街の機能は完全に麻痺した。
「くそっ……! 奴らの狙いはこれだったのか!」
カイルが悔しそうに拳を握りしめた。
俺たちが地下の本拠地に気を取られている間に、奴らは王都そのものを外側から食い尽くそうとしていたのだ。
「うろたえるな!」
ライナス団長の雷のような声が、混乱の極みにあった対策本部に響き渡った。
「我々は王都を守る最後の砦だ! 今こそ王国騎士団の誇りを見せる時ぞ! 各部隊長は直ちに持ち場へ向かえ! 城壁の防衛ラインを死守するんだ!」
騎士たちが一斉に動き出す。だが、その顔には絶望の色が濃く浮かんでいた。
王都を守る騎士団の総数は、およそ一万。
対する敵は、その数十倍。
戦力差は火を見るより明らかだった。
「――陛下!」
その時、対策本部の扉が開き、国王アルベルトが数人の近衛兵だけを伴って入ってきた。
その顔には王としての威厳と、そして覚悟が浮かんでいた。
「状況は聞いた。もはや一刻の猶予もない」
国王はまっすぐに俺の前に立った。
そして、その場にいる全ての者たちに向けて厳かに宣言した。
「これより王都防衛戦における全指揮権を、アレン・フォン・クラインフェルトに委任する! 彼をこの戦いの臨時総指揮官に任命する!」
その言葉に、対策本部は水を打ったように静まり返った。
全ての視線が俺一人に集中する。
俺が、この絶望的な戦いの全責任を負う。
国王はこの国の運命そのものを、俺というまだ十八歳の若者の双肩に完全に委ねたのだ。
俺はもはや辞退も謙遜も許される立場ではなかった。
俺は静かに、そして深く国王に一礼した。
「――御意。この命に代えましても、王都を守り抜いてみせます」
俺のその揺るぎない覚悟に満ちた声が、絶望に沈みかけていた騎士たちの心に最後の希望の火を灯した。
そうだ。俺たちにはこの男がいる。
神のごとき知略を持つ『王国の至宝』が。
彼がいる限り、まだ負けてはいない。
対策本部の空気が変わった。絶望が悲壮な決意へと昇華されていく。
俺はすぐさま巨大な王都の地図盤の前に立った。
そして矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。
「ライナス団長! 騎士団を三つの部隊に再編してください! 第一部隊は最も敵の圧力が強いであろう西門の防衛! 第二部隊は北門と南門の遊撃部隊! そして第三部隊は予備兵力として王城前広場に待機!」
「応!」
「魔術師団は城壁の各所に配置! 遠距離からの範囲攻撃で敵の進軍速度を可能な限り削れ! ルナ、君は魔術師団の指揮を!」
「……承知しました」
「カイル、セレスティーナ! 君たちは最も危険な遊撃部隊の隊長だ! 城壁のどこかが破られそうになったら真っ先に駆けつけ、穴を塞げ!」
「任せてください!」
「当然よ!」
「リリアーナ! 君は後方の野戦病院へ! 聖教会と協力し、負傷者の治療の総指揮を頼む! 君の力だけが一人でも多くの命を救える!」
「はいっ! アレン様!」
俺の指示は淀みなく、そして的確だった。
それはまるで、この事態が起こることをずっと前から知っていたかのような完璧な采配。
混乱の極みにあった王都の防衛機能は、俺という一つの脳を得て急速に、そして有機的に動き始めた。
騎士が走り、魔術師が詠唱し、人々がそれぞれの持ち場へと向かう。
絶望に沈んでいた王都は最後の抵抗のために、一つの巨大な生命体のように脈動を始めたのだ。
俺は司令室の窓から、地平線を埋め尽くす魔物の大群を冷徹な目で見据えていた。
陽動。
確かにこれは壮大な陽動だ。
だが奴らは一つ、大きな間違いを犯した。
俺という存在を甘く見ていた。
俺はただの宰相代理でも、ただの英雄でもない。
俺は、このゲームの全てのシナリオを知る唯一のプレイヤーだ。
お前たちが仕掛けたこの絶望的なイベント。
俺が完璧に攻略してやる。
「――全軍に通達!」
俺の声が魔力通信機を通して、王都の全ての兵士たちに響き渡った。
「敵は数こそ多いが、所詮は烏合の衆! 我らが誇り、我らが故郷、そして我らが愛する人々を守るため、一歩も引くな!」
「我々の背後には私がいる! 勝利は必ずや我らのものだ!」
俺の言葉が、兵士たちの心を最後の闘志で燃え上がらせた。
王都の城壁の上で、数えきれないほどの剣と槍が夕日を浴びて鈍い輝きを放った。
王国史上、最大にして最も絶望的な防衛戦の幕が、今、切って落とされた。
俺の胃はもはや何も感じなかった。
目の前の戦いに俺の全てを注ぎ込む。
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