ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが

夏見ナイ

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第91話:英雄の目覚め

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俺が次に目を覚ました時、目に映ったのは見慣れた王城の一室の豪奢な天蓋だった。
体の節々が鉛のように重い。だが魔神の呪いを受けた時のような、魂が凍てつくような冷たさはどこにもなかった。
代わりに全身を、温かい陽だまりのような穏やかな感覚が包んでいた。

「……気がつかれましたか」
静かな、優しい声がした。
視線を横に向けると、そこにはベッドの脇の椅子に座り、俺の顔を心配そうに覗き込むリリアーナの姿があった。
彼女の顔色はまだ少し蒼白だったが、その瞳にはいつもの生命力あふれる光が戻っていた。
「リリアーナ……。君はもう大丈夫なのか」
俺が掠れた声で尋ねると、彼女はこくりと小さく頷いた。
「はい。アレン様が三日三晩眠っておられる間に、私もすっかり……」
「三日!?」
俺は驚いて上半身を起こした。
あの地下遺跡での死闘から、すでに三日も経過しているというのか。

「無理をなさらないでください!」
リリアーナが慌てて俺の肩を支える。
その時、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「アレン!目が覚めたのね!」
「アレン様!ご無事だったんですね!」
「……生命活動の安定を確認。合理的です」
セレスティーナ、カイル、そしてルナがなだれ込むように部屋に入ってきた。
その顔には隠しきれない安堵と喜びの色が浮かんでいる。
どうやら俺が目覚めるのを、ずっとこの部屋の外で待っていてくれたらしい。

「皆……。心配をかけたな」
俺が言うと、セレスティーナがぷいっと顔をそむけた。
「べ、別に心配なんてしてないわ!私の婚約者がいつまでも寝ているわけにはいかないでしょう!」
その耳が真っ赤に染まっているのを俺は見逃さなかった。
「よかったです……!本当に、よかったです……!」
カイルはもはや言葉にならず、ただ子供のようにその場で泣きじゃくっていた。
ルナはそんなカイルの様子を、「感情の昂りによる涙腺の弛緩。興味深いサンプルです」と冷静に、しかしどこか優しげな瞳で分析していた。

部屋は一気に賑やかになった。
仲間たちが口々に、俺が眠っている間の出来事を話してくれた。
俺たちが地下で戦っている間に、地上ではライナス団長率いる騎士団が王都の治安を完璧に維持していたこと。
魔神が完全に消滅したことで、闇の教団の残党もその魔力の供給源を失い、次々と無力化されていったこと。
捕らえた幹部たちの自白により、教団に協力していた貴族たちも一網打尽にされたこと。
そして、王国に完全な平和が訪れたこと。

「全てアレン様のおかげです」
カイルが涙を拭いながら言った。
「貴方が俺たちを導いてくれたから。貴方が命を懸けて皆を守ってくれたから」
その言葉に、他の三人も力強く頷いた。
俺はそんな仲間たちの真っ直ぐな賞賛の視線を、少しだけ照れくさいような気持ちで受け止めていた。

「……俺一人の力じゃない。皆がいてくれたからだ」
俺は静かにそう言った。
それは謙遜でも建前でもなかった。
俺の心からの本心だった。
俺の言葉に、仲間たちの顔がぱっと輝いた。

その時、部屋の扉が再び静かに開かれた。
入ってきたのは国王アルベルトと、俺の父ルドルフだった。
二人の顔には国の指導者としての威厳と、そして一人の人間としての深い安堵の色が浮かんでいた。
「……目が覚めたか、アレン」
国王が優しい声で俺に語りかけた。
「よくぞ生きて戻ってきてくれた。英雄よ」
その言葉はもはや俺を『王国の至宝』としてではなく、共に国を救った対等な仲間として認めている響きがあった。

父ルドルフは何も言わなかった。
ただ俺のベッドのそばまで来ると、その大きなゴツゴツとした手で、俺の頭を一度だけ無言でわしわしと撫でた。
その不器用な手つきに、厳格な父の最大限の愛情と労いが込められているのが分かった。
俺の目頭が少しだけ熱くなった。

俺はベッドの上で、仲間たちと国王と父に囲まれていた。
それは俺がこの世界に来てからずっと、心のどこかで求めていた光景だったのかもしれない。
破滅の運命に怯え、孤独な戦いを続けてきた俺がようやく手に入れた、温かい安らぎの場所。
俺の胃はもう痛まなかった。
その代わりに俺の心は、じんわりとした幸福感で満たされていた。
英雄の目覚め。
それは長かった戦いの終わりを告げると共に、俺の新しい人生の本当の始まりを静かに告げていた。
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