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第78話 君の盾になる
「周波数、314.159メガヘルツ!」
エリアーナの叫びは、王都中の魔術師たちの祈りが集束する中央広場へと届いた。
制御盤の前に立つ若い魔術師は、その聞いたこともない単位に一瞬戸惑ったが、エリアーナの切迫した声に迷っている暇はないと悟った。
「エリアーナ様がおっしゃっていたのは、このダイヤルだ!」
彼はエリアーナから指示されていた水晶のダイヤルを、震える手で回し始めた。ダイヤルには古代ルーン文字でエネルギーの波長を調整するための目盛りが刻まれている。エリアーナは、そのルーン文字と科学的な周波数の換算を瞬時に行い、彼に伝えていたのだ。
ダイヤルの目盛りが指定された位置にぴたりと合った。
その瞬間、エネルギー砲の砲身である巨大な水晶が、これまでとは比較にならないほど凄まじい輝きを放った。まるで内部で小さな太陽が生まれたかのようだ。
「――全エネルギー、注入完了! 発射準備、整いました!」
若い魔術師が力の限りに叫んだ。
その声は、時計塔の頂上にいるエリアーナの耳にも届いていた。
彼女は観測装置から目を離し、眼下の壮絶な光景を見つめた。
ゴーレムはカイドが命を賭して展開した氷の檻の中で、その動きをほぼ完全に止められていた。巨体は分厚い氷に覆われ、まるで琥珀に閉じ込められた古代の虫のようだ。
しかし、その拘束ももはや限界だった。
ゴーレムの赤い単眼が再び禍々しい光を強め始めている。内部からカイドの氷を力ずくで破壊しようとしているのだ。
そして、そのゴーレムの前で最後の盾として立ちはだかるカイドの姿。
彼から立ち上っていた天を衝くほどの青白い光の柱は、もう風の前の灯火のようにか細く揺らめいていた。
彼の生命エネルギーが尽きようとしている。
「……カイド」
エリアーナの唇から愛しい人の名が、祈りのように零れ落ちた。
その時だった。
まるで彼女の祈りに応えるかのように、カイドが最後の力を振り絞りゆっくりと顔を上げた。
そして、時計塔の頂上にいるエリアーナの姿をまっすぐに見つめた。
その距離はあまりにも遠い。
しかし、エリアーナには彼の瞳に宿る光がはっきりと見えた。
それは絶対的な信頼の光。
『――君を、信じている』
声にはならなかったが、彼の唇が確かにそう動いた。
そして、彼はエリアーナに向かってかすかに微笑んだ。
その笑顔は、エリアーナがこれまで見たどんな彼の笑顔よりも優しくて、そして少しだけ悲しかった。
それは別れの笑顔だった。
「……いや」
エリアーナは首を横に振った。
「いやよ……! 行かないで、カイド……!」
涙が再び彼女の視界を滲ませる。
だが、泣いている場合ではない。
彼がその命を賭して作ってくれた、この最後の好機。
彼が信じてくれた私の、この力を。
今こそ解き放つ時だ。
エリアーナは通信機を強く握りしめた。
そして、広場に向かって最後の、そして全ての想いを込めた号令を叫んだ。
「――撃てええええええええええええっ!」
その声は王都の夜空に木霊した。
それは一人の少女の愛と希望と、そして未来を賭けた魂の絶叫だった。
君が私の盾になってくれた。
だから今度は、私があなたの剣になる。
世界を貫く光の剣に。
エリアーナの叫びは、王都中の魔術師たちの祈りが集束する中央広場へと届いた。
制御盤の前に立つ若い魔術師は、その聞いたこともない単位に一瞬戸惑ったが、エリアーナの切迫した声に迷っている暇はないと悟った。
「エリアーナ様がおっしゃっていたのは、このダイヤルだ!」
彼はエリアーナから指示されていた水晶のダイヤルを、震える手で回し始めた。ダイヤルには古代ルーン文字でエネルギーの波長を調整するための目盛りが刻まれている。エリアーナは、そのルーン文字と科学的な周波数の換算を瞬時に行い、彼に伝えていたのだ。
ダイヤルの目盛りが指定された位置にぴたりと合った。
その瞬間、エネルギー砲の砲身である巨大な水晶が、これまでとは比較にならないほど凄まじい輝きを放った。まるで内部で小さな太陽が生まれたかのようだ。
「――全エネルギー、注入完了! 発射準備、整いました!」
若い魔術師が力の限りに叫んだ。
その声は、時計塔の頂上にいるエリアーナの耳にも届いていた。
彼女は観測装置から目を離し、眼下の壮絶な光景を見つめた。
ゴーレムはカイドが命を賭して展開した氷の檻の中で、その動きをほぼ完全に止められていた。巨体は分厚い氷に覆われ、まるで琥珀に閉じ込められた古代の虫のようだ。
しかし、その拘束ももはや限界だった。
ゴーレムの赤い単眼が再び禍々しい光を強め始めている。内部からカイドの氷を力ずくで破壊しようとしているのだ。
そして、そのゴーレムの前で最後の盾として立ちはだかるカイドの姿。
彼から立ち上っていた天を衝くほどの青白い光の柱は、もう風の前の灯火のようにか細く揺らめいていた。
彼の生命エネルギーが尽きようとしている。
「……カイド」
エリアーナの唇から愛しい人の名が、祈りのように零れ落ちた。
その時だった。
まるで彼女の祈りに応えるかのように、カイドが最後の力を振り絞りゆっくりと顔を上げた。
そして、時計塔の頂上にいるエリアーナの姿をまっすぐに見つめた。
その距離はあまりにも遠い。
しかし、エリアーナには彼の瞳に宿る光がはっきりと見えた。
それは絶対的な信頼の光。
『――君を、信じている』
声にはならなかったが、彼の唇が確かにそう動いた。
そして、彼はエリアーナに向かってかすかに微笑んだ。
その笑顔は、エリアーナがこれまで見たどんな彼の笑顔よりも優しくて、そして少しだけ悲しかった。
それは別れの笑顔だった。
「……いや」
エリアーナは首を横に振った。
「いやよ……! 行かないで、カイド……!」
涙が再び彼女の視界を滲ませる。
だが、泣いている場合ではない。
彼がその命を賭して作ってくれた、この最後の好機。
彼が信じてくれた私の、この力を。
今こそ解き放つ時だ。
エリアーナは通信機を強く握りしめた。
そして、広場に向かって最後の、そして全ての想いを込めた号令を叫んだ。
「――撃てええええええええええええっ!」
その声は王都の夜空に木霊した。
それは一人の少女の愛と希望と、そして未来を賭けた魂の絶叫だった。
君が私の盾になってくれた。
だから今度は、私があなたの剣になる。
世界を貫く光の剣に。
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