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第5話 辺境への決意
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どれくらいの時間、そうしていたのだろうか。
降りしきる雨は体温を奪い、指先の感覚はとうに無くなっていた。空腹と疲労で意識が朦朧とする。このままここで朽ち果てるのも、一つの結末かもしれない。そんな考えが、冷え切った頭をよぎった。
夜が明け、雨脚が弱まると、王都の朝がゆっくりと動き出す。市場へ向かう人々や、出勤する役人たちの足音が、俺のすぐそばを通り過ぎていく。誰も、路地裏でうずくまる俺に構いはしない。時折向けられるのは、汚物でも見るかのような憐れみと侮蔑の視線だけだ。
――ここには、もういられない。
その思いだけが、かろうじて俺を突き動かした。震える足で立ち上がり、壁を伝って大通りへと出る。
これからどうするか。仕事を探そうにも、身分を証明するものすらない。そもそも、このみすぼらしい格好では、まともな職にありつけるはずもなかった。
ふと、インナーシャツの内側に縫い付けた小さなポケットに手が触れた。ガイアスたちに見つからないよう、万が一のために隠しておいた数枚の銅貨。これが、俺の全財産だった。
何か、何か活路はないか。
無意識に足が向かったのは、冒険者ギルドだった。情報が集まる場所。今の俺にできることは、それくらいしかなかった。
ギルドの建物は、相変わらず活気に満ちていた。しかし、今の俺にはその喧騒がひどく場違いに感じられ、中に入る勇気は湧いてこない。入り口脇に設置された依頼掲示板の前で、足を止めた。
「高位ゴブリンの討伐」「ワイバーンの巣の調査」――かつての俺たちが受けていたような高ランクの依頼が、華々しく掲示されている。それらを横目に、掲示板の隅へ隅へと視線を移していく。
すると、一番端に追いやられるように貼られた、一枚のくたびれた羊皮紙が目に留まった。
『辺境の町エルフリーデン行き、乗り合い馬車。御者兼護衛を急募。日当、食事付き。未経験者歓迎』
エルフリーデン。聞いたこともない名前だ。地図で確認するまでもなく、王都からは遥か彼方の土地なのだろう。
誰も俺を知らない場所。ガイアスも、リナも、ジンもいない場所。
ここではない、どこかへ。
その衝動が、心の底から突き上げてきた。
俺はポケットの銅貨を強く握りしめる。これが最後の賭けだ。
募集主である荷馬車の元締めを訪ねた俺は、やつれた見た目を怪しまれながらも、「他に希望者がいないから」という理由で、あっさりと雇われることになった。
翌朝、俺は荷台の隅に揺られながら、ゆっくりと動き出す馬車の中から、遠ざかっていく王都の城壁を眺めていた。
追放された場所。全てを失った場所。
だが、不思議と悔しさはなかった。ただ、空っぽになった心が、これから何かで満たされるかもしれないという、淡い期待を微かに感じていた。
俺はもう、振り返らない。
見慣れた景色が完全に視界から消えるまで、ただ前だけを見つめ続けた。
降りしきる雨は体温を奪い、指先の感覚はとうに無くなっていた。空腹と疲労で意識が朦朧とする。このままここで朽ち果てるのも、一つの結末かもしれない。そんな考えが、冷え切った頭をよぎった。
夜が明け、雨脚が弱まると、王都の朝がゆっくりと動き出す。市場へ向かう人々や、出勤する役人たちの足音が、俺のすぐそばを通り過ぎていく。誰も、路地裏でうずくまる俺に構いはしない。時折向けられるのは、汚物でも見るかのような憐れみと侮蔑の視線だけだ。
――ここには、もういられない。
その思いだけが、かろうじて俺を突き動かした。震える足で立ち上がり、壁を伝って大通りへと出る。
これからどうするか。仕事を探そうにも、身分を証明するものすらない。そもそも、このみすぼらしい格好では、まともな職にありつけるはずもなかった。
ふと、インナーシャツの内側に縫い付けた小さなポケットに手が触れた。ガイアスたちに見つからないよう、万が一のために隠しておいた数枚の銅貨。これが、俺の全財産だった。
何か、何か活路はないか。
無意識に足が向かったのは、冒険者ギルドだった。情報が集まる場所。今の俺にできることは、それくらいしかなかった。
ギルドの建物は、相変わらず活気に満ちていた。しかし、今の俺にはその喧騒がひどく場違いに感じられ、中に入る勇気は湧いてこない。入り口脇に設置された依頼掲示板の前で、足を止めた。
「高位ゴブリンの討伐」「ワイバーンの巣の調査」――かつての俺たちが受けていたような高ランクの依頼が、華々しく掲示されている。それらを横目に、掲示板の隅へ隅へと視線を移していく。
すると、一番端に追いやられるように貼られた、一枚のくたびれた羊皮紙が目に留まった。
『辺境の町エルフリーデン行き、乗り合い馬車。御者兼護衛を急募。日当、食事付き。未経験者歓迎』
エルフリーデン。聞いたこともない名前だ。地図で確認するまでもなく、王都からは遥か彼方の土地なのだろう。
誰も俺を知らない場所。ガイアスも、リナも、ジンもいない場所。
ここではない、どこかへ。
その衝動が、心の底から突き上げてきた。
俺はポケットの銅貨を強く握りしめる。これが最後の賭けだ。
募集主である荷馬車の元締めを訪ねた俺は、やつれた見た目を怪しまれながらも、「他に希望者がいないから」という理由で、あっさりと雇われることになった。
翌朝、俺は荷台の隅に揺られながら、ゆっくりと動き出す馬車の中から、遠ざかっていく王都の城壁を眺めていた。
追放された場所。全てを失った場所。
だが、不思議と悔しさはなかった。ただ、空っぽになった心が、これから何かで満たされるかもしれないという、淡い期待を微かに感じていた。
俺はもう、振り返らない。
見慣れた景色が完全に視界から消えるまで、ただ前だけを見つめ続けた。
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