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第30話 尊大な居候
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森から工房へ戻った俺は、まず自分の寝室にある唯一の簡素なベッドに、銀髪の少女をそっと横たえた。改めて間近で見ると、その顔色は紙のように白く、唇には血の気が全くない。額に手を当てると、氷のように冷たかった。
「ひどい衰弱だ……」
俺は急いで湯を沸かし、タオルを濡らして固く絞ると、彼女の額や首筋を優しく拭いてやった。薬湯を飲ませてやりたいが、意識がない状態では無理だ。今はただ、体を温めて体力の消耗を防ぐことしかできない。
俺は自分のなけなしの毛布を彼女にかけ、炉に薪をくべて工房全体を暖かくした。
一体、この少女に何があったのか。こんな辺境の森の奥で、なぜ一人で倒れていたのか。謎は深まるばかりだった。
それから数時間。
俺が工房で依頼品の修理に集中していると、寝室の方から、かすかに衣擦れの音が聞こえた。
はっとして顔を上げると、寝室と工房を隔てるカーテンの隙間から、あの銀髪の少女がこちらをじっと見ている。
「気がついたのか!」
俺が安堵の声をかけて駆け寄ると、彼女はゆっくりと姿を現した。
その瞳は、燃えるようなルビーの色をしていた。銀の髪に、雪の肌、そして血のように赤い瞳。この世のものとは思えない、妖精のような美しさだった。
俺は彼女の体調を気遣って、声をかけようとした。
だが、その言葉は、彼女が発した尊大な第一声によって遮られる。
「ほう。我を助けたのは貴様か」
少女は、ゆっくりと俺を頭のてっぺんから爪先まで値踏みするように眺めると、ふむ、と小さく頷いた。
「見上げた心意気だ。光栄に思うがよい、人間」
「…………は?」
俺は、思わず間抜けな声を出してしまった。
助けた相手からかけられる言葉が、それ? 普通は「ありがとう」とか、せめて「ここはどこ?」とかじゃないのか。
俺が呆気にとられているのをよそに、少女は興味深そうに工房の中を見回した。
「随分とみすぼらしい場所だな。鉄の匂いと、埃の匂いが混じっておる。貴様は鍛冶師か何かか?」
「あ、ああ、まあ……」
「ふん。なるほどな」
彼女は何かを納得したように頷くと、ふらり、とよろめいた。まだ体は本調子ではないらしい。
「お、おい、大丈夫か!」
俺が慌ててその腕を支えようとすると、彼女は「無礼者、我に触れるな」と、か細い声で俺の手を振り払った。
その強気な態度とは裏腹に、彼女の体は立っているのがやっとのようだった。
俺はため息をつくと、少し離れたところから声をかける。
「君は森で倒れていたんだ。ひどく衰弱していたから、俺がここまで運んできた」
「……我としたことが、不覚を取ったか」
少女は悔しそうに唇を噛んだ。
「とりあえず、何か腹に入れたほうがいい。温かいスープでも作るから、そこで座って待っていてくれ」
俺が工房の椅子を指さすと、彼女はしばらく逡巡していたが、やがて空腹には抗えなかったのか、しぶしぶといった様子で腰を下ろした。
俺は手早く、干し肉と野菜で簡単なスープを作る。
出来上がったスープを器に入れて差し出すと、彼女は「人間の食い物など……」と呟きながらも、その香りに誘われるようにおそるおそるスプーンを口に運んだ。
そして、その赤い瞳を少しだけ、驚いたように見開いた。
スープを飲み干して少しだけ顔色が良くなった少女は、しかし尊大な態度は崩さない。
「まあ、食えなくはない味だ。褒めてつかわす」
そう言うと、彼女はふぁ、と小さくあくびをした。
「我は少し休む。貴様は、我の眠りを妨げぬよう、静かにしておれ」
そして、当然のように俺のベッドがある寝室へと戻り、再び毛布にくるまってしまった。
一人残された工房で、俺は空になったスープの器を手に、大きなため息をついた。
助けたはいいが、とんでもない厄介事を拾ってきてしまったらしい。
穏やかだったはずの俺の日常が、音を立てて変わり始めている。そんな確かな予感が、胸の中に渦巻いていた。
「ひどい衰弱だ……」
俺は急いで湯を沸かし、タオルを濡らして固く絞ると、彼女の額や首筋を優しく拭いてやった。薬湯を飲ませてやりたいが、意識がない状態では無理だ。今はただ、体を温めて体力の消耗を防ぐことしかできない。
俺は自分のなけなしの毛布を彼女にかけ、炉に薪をくべて工房全体を暖かくした。
一体、この少女に何があったのか。こんな辺境の森の奥で、なぜ一人で倒れていたのか。謎は深まるばかりだった。
それから数時間。
俺が工房で依頼品の修理に集中していると、寝室の方から、かすかに衣擦れの音が聞こえた。
はっとして顔を上げると、寝室と工房を隔てるカーテンの隙間から、あの銀髪の少女がこちらをじっと見ている。
「気がついたのか!」
俺が安堵の声をかけて駆け寄ると、彼女はゆっくりと姿を現した。
その瞳は、燃えるようなルビーの色をしていた。銀の髪に、雪の肌、そして血のように赤い瞳。この世のものとは思えない、妖精のような美しさだった。
俺は彼女の体調を気遣って、声をかけようとした。
だが、その言葉は、彼女が発した尊大な第一声によって遮られる。
「ほう。我を助けたのは貴様か」
少女は、ゆっくりと俺を頭のてっぺんから爪先まで値踏みするように眺めると、ふむ、と小さく頷いた。
「見上げた心意気だ。光栄に思うがよい、人間」
「…………は?」
俺は、思わず間抜けな声を出してしまった。
助けた相手からかけられる言葉が、それ? 普通は「ありがとう」とか、せめて「ここはどこ?」とかじゃないのか。
俺が呆気にとられているのをよそに、少女は興味深そうに工房の中を見回した。
「随分とみすぼらしい場所だな。鉄の匂いと、埃の匂いが混じっておる。貴様は鍛冶師か何かか?」
「あ、ああ、まあ……」
「ふん。なるほどな」
彼女は何かを納得したように頷くと、ふらり、とよろめいた。まだ体は本調子ではないらしい。
「お、おい、大丈夫か!」
俺が慌ててその腕を支えようとすると、彼女は「無礼者、我に触れるな」と、か細い声で俺の手を振り払った。
その強気な態度とは裏腹に、彼女の体は立っているのがやっとのようだった。
俺はため息をつくと、少し離れたところから声をかける。
「君は森で倒れていたんだ。ひどく衰弱していたから、俺がここまで運んできた」
「……我としたことが、不覚を取ったか」
少女は悔しそうに唇を噛んだ。
「とりあえず、何か腹に入れたほうがいい。温かいスープでも作るから、そこで座って待っていてくれ」
俺が工房の椅子を指さすと、彼女はしばらく逡巡していたが、やがて空腹には抗えなかったのか、しぶしぶといった様子で腰を下ろした。
俺は手早く、干し肉と野菜で簡単なスープを作る。
出来上がったスープを器に入れて差し出すと、彼女は「人間の食い物など……」と呟きながらも、その香りに誘われるようにおそるおそるスプーンを口に運んだ。
そして、その赤い瞳を少しだけ、驚いたように見開いた。
スープを飲み干して少しだけ顔色が良くなった少女は、しかし尊大な態度は崩さない。
「まあ、食えなくはない味だ。褒めてつかわす」
そう言うと、彼女はふぁ、と小さくあくびをした。
「我は少し休む。貴様は、我の眠りを妨げぬよう、静かにしておれ」
そして、当然のように俺のベッドがある寝室へと戻り、再び毛布にくるまってしまった。
一人残された工房で、俺は空になったスープの器を手に、大きなため息をついた。
助けたはいいが、とんでもない厄介事を拾ってきてしまったらしい。
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