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第57話 希望を求めて辺境へ
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ガイアスの旅は、困難を極めた。
冒険者としての経験があったからこそ、かろうじて生き延びてこられたが、その肉体も精神も、すでに限界に近かった。
雨の日にはぬかるみに足を取られ、晴れた日には乾ききった喉で水を求めて彷徨った。かつては馬や馬車で快適に移動していた街道を、今はただ己の足だけを頼りに進む。
その道程で、彼は何度も自分の過去を呪った。
なぜ、あんなにも傲慢だったのか。
なぜ、仲間を、そしてアルトを、あのようにぞんざいに扱ってしまったのか。
後悔の念が、何度も彼の心を苛んだ。
だが、そのたびに、彼は自らを奮い立たせる。
『神の職人』。
その存在が、彼の後悔を「やり直せる」という希望へとすり替えていった。
「あの職人に会えさえすれば、全てを取り戻せる。もう一度、やり直せるんだ」
それは、もはや自己暗示に近いものだった。
旅を始めてから、一月近くが経っただろうか。
痩せこけ、ボロボロの衣服を纏ったガイアスの姿は、完全に浮浪者そのものだった。
だが、その瞳だけは、異様な光を宿して爛々と輝いていた。
そして、ついにその日、彼は一つの丘の上から、眼下に広がる小さな町を発見した。
決して大きくはないが、家々が整然と並び、畑には緑が豊かに実っている。町の中心からは、人々の活気ある声が風に乗って聞こえてくるようだ。
寂れていると聞いていた辺境の町。だが、その姿は、噂とはまるで違って、穏やかで豊かな空気に満ちていた。
「あれが……エルフリーデン……」
ガイアスは、その光景を呆然と見下ろしていた。
長い、長い旅だった。
ついに、たどり着いた。
彼は、膝から崩れ落ちそうになるのを必死でこらえ、最後の力を振り絞って丘を下り、町の門へと向かった。
町の門番は、ガイアスのあまりの汚い身なりに、一瞬警戒の色を見せた。
だが、彼が「神の職人、アルト殿に会いに来た」と告げると、門番の態度は少しだけ和らいだ。
「ああ、アルトさんのところへ? なら、この道をまっすぐ行って、突き当りを右に曲がったところだ。工房の看板が出てるから、すぐにわかるよ」
その口調は、まるで町の名士の居場所を教えるかのように、誇らしげだった。
ガイアスは、礼もそこそこに、教えられた通りに町の中を進んでいく。
すれ違う町の人々は、皆、穏やかで幸せそうな顔をしている。パン屋の前には、楽しげに談笑しながら並ぶ人々の列。市場では、新鮮な野菜や肉が、威勢のいい声と共に売られていた。
この町の豊かさが、全て、あの『神の職人』からもたらされたものなのだ。
ガイアスの期待は、最高潮に達していた。
やがて、彼は一本の静かな通りの先に、小さな工房を見つけた。
古いが、手入れの行き届いた建物。入り口には、質素だが心のこもった文字で、『アルトの工房』と書かれた看板が掲げられている。
ここだ。
ここが、俺の最後の希望。
ガイアスは、ごくりと唾を飲み込んだ。
自分の薄汚い身なりを改めて確認し、できるだけ憐れみを誘うような、弱々しい表情を作る。
そして、震える手で、その工房の扉を、ゆっくりと叩いた。
コン、コン。
中から、穏やかで、聞き覚えのあるような、若い男の声がした。
「はい、どうぞ。開いてますよ」
ガイアスは、大きく深呼吸をすると、ぎしり、と音を立てて、その希望の扉を、開いた。
冒険者としての経験があったからこそ、かろうじて生き延びてこられたが、その肉体も精神も、すでに限界に近かった。
雨の日にはぬかるみに足を取られ、晴れた日には乾ききった喉で水を求めて彷徨った。かつては馬や馬車で快適に移動していた街道を、今はただ己の足だけを頼りに進む。
その道程で、彼は何度も自分の過去を呪った。
なぜ、あんなにも傲慢だったのか。
なぜ、仲間を、そしてアルトを、あのようにぞんざいに扱ってしまったのか。
後悔の念が、何度も彼の心を苛んだ。
だが、そのたびに、彼は自らを奮い立たせる。
『神の職人』。
その存在が、彼の後悔を「やり直せる」という希望へとすり替えていった。
「あの職人に会えさえすれば、全てを取り戻せる。もう一度、やり直せるんだ」
それは、もはや自己暗示に近いものだった。
旅を始めてから、一月近くが経っただろうか。
痩せこけ、ボロボロの衣服を纏ったガイアスの姿は、完全に浮浪者そのものだった。
だが、その瞳だけは、異様な光を宿して爛々と輝いていた。
そして、ついにその日、彼は一つの丘の上から、眼下に広がる小さな町を発見した。
決して大きくはないが、家々が整然と並び、畑には緑が豊かに実っている。町の中心からは、人々の活気ある声が風に乗って聞こえてくるようだ。
寂れていると聞いていた辺境の町。だが、その姿は、噂とはまるで違って、穏やかで豊かな空気に満ちていた。
「あれが……エルフリーデン……」
ガイアスは、その光景を呆然と見下ろしていた。
長い、長い旅だった。
ついに、たどり着いた。
彼は、膝から崩れ落ちそうになるのを必死でこらえ、最後の力を振り絞って丘を下り、町の門へと向かった。
町の門番は、ガイアスのあまりの汚い身なりに、一瞬警戒の色を見せた。
だが、彼が「神の職人、アルト殿に会いに来た」と告げると、門番の態度は少しだけ和らいだ。
「ああ、アルトさんのところへ? なら、この道をまっすぐ行って、突き当りを右に曲がったところだ。工房の看板が出てるから、すぐにわかるよ」
その口調は、まるで町の名士の居場所を教えるかのように、誇らしげだった。
ガイアスは、礼もそこそこに、教えられた通りに町の中を進んでいく。
すれ違う町の人々は、皆、穏やかで幸せそうな顔をしている。パン屋の前には、楽しげに談笑しながら並ぶ人々の列。市場では、新鮮な野菜や肉が、威勢のいい声と共に売られていた。
この町の豊かさが、全て、あの『神の職人』からもたらされたものなのだ。
ガイアスの期待は、最高潮に達していた。
やがて、彼は一本の静かな通りの先に、小さな工房を見つけた。
古いが、手入れの行き届いた建物。入り口には、質素だが心のこもった文字で、『アルトの工房』と書かれた看板が掲げられている。
ここだ。
ここが、俺の最後の希望。
ガイアスは、ごくりと唾を飲み込んだ。
自分の薄汚い身なりを改めて確認し、できるだけ憐れみを誘うような、弱々しい表情を作る。
そして、震える手で、その工房の扉を、ゆっくりと叩いた。
コン、コン。
中から、穏やかで、聞き覚えのあるような、若い男の声がした。
「はい、どうぞ。開いてますよ」
ガイアスは、大きく深呼吸をすると、ぎしり、と音を立てて、その希望の扉を、開いた。
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