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第56話 辺境の「神の職人」の噂
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ガイアスは、王都を出てからひたすら西へ、西へと歩き続けていた。
道中の食料は、森で捕らえた小動物や、道端の野草でなんとか凌ぐ。夜は、洞窟や木の根元で、寒さに身を縮こまらせて眠った。
その姿は、かつてSランクパーティのリーダーとして君臨していた男の面影など、どこにもなかった。ただの、みすぼらしい落ち武者だ。
だが、彼の心の中では、一つの希望だけが、執念の炎となって燃え続けていた。
『神の職人』。
その存在だけが、彼を突き動かす唯一の原動力だった。
道中、いくつかの村や町に立ち寄るたびに、彼はその噂について尋ねて回った。
「エルフリーデンという町を知らないか? そこにいるという、神の職人の噂を」
最初は、誰もが彼を薄汚い浮浪者として扱い、まともに相手にしなかった。だが、彼が諦めずに食い下がると、少しずつ情報が集まり始めた。
「ああ、エルフリーデンのアルトさんのことかい? あの人は、確かに神様みてえな腕を持ってるぜ」
とある村の農夫は、興奮気味に語った。
「俺の知り合いが、あそこの町から嫁いできたんだが、その嫁入り道具の鍋がすごいんだ。どんな料理も焦げ付かず、最高の味に仕上がるってな。今じゃ、村の宝物だよ」
別の町の酒場では、引退した元冒G級冒険者が、感心したように言った。
「エルフリーデンの狩人が、最近市場に質の良い毛皮を卸しているだろう? あれは、『アルトの工房』で作られた必中の矢を使っているからだそうだ。俺も現役時代に、そんな代物があればと、何度思ったことか……」
噂は、どれもこれもが信じがたいものばかりだった。
だが、語る人々の目は、一様に真実の輝きを宿している。
そして、誰もが口を揃えて、その職人の名を「アルト」と呼んだ。
「アルト……?」
ガイアスは、そのありふれた名前に、何の疑いも抱かなかった。
まさか、自分たちが追放した、あの役立たずのアルトと同じ名前だとは、夢にも思わない。彼の頭の中では、「神の職人」は、頑固で年老いたドワーフのような姿で完全にイメージされていた。
噂を聞けば聞くほど、ガイアスの期待は膨れ上がっていく。
この職人なら、俺を救ってくれる。
この職人に、俺の全てを賭ける価値がある。
「その職人は、どんな依頼でも受けてくれるのか?」
ガイアスが尋ねると、人々は少し不思議そうな顔をした。
「さあ……? あの人は、金儲けにはあまり興味がないみたいだぜ。困ってる人を助けるために、腕を振るってるって話だ」
「そうだそうだ。町の人々からは、聖人みたいに慕われてるってよ」
困ってる人を助ける。
その言葉に、ガイアスはほくそ笑んだ。
(今の俺以上に、困っている人間はいないだろう)
彼は、自分の惨めな現状を、むしろ好都合な「交渉材料」だと考えた。
この落ちぶれた姿を見せれば、情に厚いというその職人も、同情して依頼を受けてくれるに違いない。そう、高を括っていた。
エルフリーデンは、もうすぐだ。
ガイアスは、痩せこけた体に鞭を打ち、荒れた道を突き進む。
その先に待つのが、栄光への帰還か、それとも完全なる絶望か。
彼はまだ、知る由もなかった。
ただ、狂信的な希望だけを胸に、一歩、また一歩と、破滅への道を歩み続けていた。
道中の食料は、森で捕らえた小動物や、道端の野草でなんとか凌ぐ。夜は、洞窟や木の根元で、寒さに身を縮こまらせて眠った。
その姿は、かつてSランクパーティのリーダーとして君臨していた男の面影など、どこにもなかった。ただの、みすぼらしい落ち武者だ。
だが、彼の心の中では、一つの希望だけが、執念の炎となって燃え続けていた。
『神の職人』。
その存在だけが、彼を突き動かす唯一の原動力だった。
道中、いくつかの村や町に立ち寄るたびに、彼はその噂について尋ねて回った。
「エルフリーデンという町を知らないか? そこにいるという、神の職人の噂を」
最初は、誰もが彼を薄汚い浮浪者として扱い、まともに相手にしなかった。だが、彼が諦めずに食い下がると、少しずつ情報が集まり始めた。
「ああ、エルフリーデンのアルトさんのことかい? あの人は、確かに神様みてえな腕を持ってるぜ」
とある村の農夫は、興奮気味に語った。
「俺の知り合いが、あそこの町から嫁いできたんだが、その嫁入り道具の鍋がすごいんだ。どんな料理も焦げ付かず、最高の味に仕上がるってな。今じゃ、村の宝物だよ」
別の町の酒場では、引退した元冒G級冒険者が、感心したように言った。
「エルフリーデンの狩人が、最近市場に質の良い毛皮を卸しているだろう? あれは、『アルトの工房』で作られた必中の矢を使っているからだそうだ。俺も現役時代に、そんな代物があればと、何度思ったことか……」
噂は、どれもこれもが信じがたいものばかりだった。
だが、語る人々の目は、一様に真実の輝きを宿している。
そして、誰もが口を揃えて、その職人の名を「アルト」と呼んだ。
「アルト……?」
ガイアスは、そのありふれた名前に、何の疑いも抱かなかった。
まさか、自分たちが追放した、あの役立たずのアルトと同じ名前だとは、夢にも思わない。彼の頭の中では、「神の職人」は、頑固で年老いたドワーフのような姿で完全にイメージされていた。
噂を聞けば聞くほど、ガイアスの期待は膨れ上がっていく。
この職人なら、俺を救ってくれる。
この職人に、俺の全てを賭ける価値がある。
「その職人は、どんな依頼でも受けてくれるのか?」
ガイアスが尋ねると、人々は少し不思議そうな顔をした。
「さあ……? あの人は、金儲けにはあまり興味がないみたいだぜ。困ってる人を助けるために、腕を振るってるって話だ」
「そうだそうだ。町の人々からは、聖人みたいに慕われてるってよ」
困ってる人を助ける。
その言葉に、ガイアスはほくそ笑んだ。
(今の俺以上に、困っている人間はいないだろう)
彼は、自分の惨めな現状を、むしろ好都合な「交渉材料」だと考えた。
この落ちぶれた姿を見せれば、情に厚いというその職人も、同情して依頼を受けてくれるに違いない。そう、高を括っていた。
エルフリーデンは、もうすぐだ。
ガイアスは、痩せこけた体に鞭を打ち、荒れた道を突き進む。
その先に待つのが、栄光への帰還か、それとも完全なる絶望か。
彼はまだ、知る由もなかった。
ただ、狂信的な希望だけを胸に、一歩、また一歩と、破滅への道を歩み続けていた。
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