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第74話 栄誉より日常を
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王都を救った祝賀ムードは、数日が過ぎても続いていた。
俺は、救国の英雄として、王城に用意された最高級の客室で、分不相応な扱いを受けていた。ふかふかのベッド、豪勢な食事、傅く侍従たち。だが、そのどれもが、どうにも俺の肌には馴染まなかった。
その日、俺は再び、国王アルベリオン三世の待つ謁見の間へと呼び出された。
リリアとイグナも、俺の隣に控えている。
「英雄アルトよ、此度の働き、まことに見事であった」
国王は、満面の笑みで俺を称えた。
「そなたへの褒賞についてだが、我らは最大限の敬意をもって、これを決定した」
宰相のグランセルが、った。
「アルト殿を、新たに創設する『救国伯爵』の位に叙し、王都の一等地に、広大な屋敷と領地を与えるものとする!」
謁見の間に、どよめきが起こる。
一代にして、平民から貴族の、それも伯爵の地位へ。前代未聞の、破格の待遇だった。それは、国王が、俺を国の重鎮として王都に引き留め、その力をこれからも国の為に振るってほしいという、強い意志の表れでもあった。
誰もが、俺がこの栄誉を、二つ返事で受け取るものだと思っていた。
だが、俺の答えは、決まっていた。
「……陛下、そのお言葉、身に余る光栄です」
俺は、静かに、しかしはっきりと口を開いた。
「ですが、そのお話、お断りさせていただきたく存じます」
しん、と謁見の間が静まり返った。
国王も、宰相も、他の貴族たちも、信じられないといった顔で俺を見ている。
「……アルト殿。今、何と申した?」
「伯爵の地位も、王都の屋敷も、俺には分不相応です。どうか、お納めください」
国王が、困惑したように眉をひそめる。
「なぜだ? これは、国がそなたに与える、最高の栄誉なのだぞ。何か、不満でもあるのか?」
「いいえ、不満など、とんでもございません」
俺は、ゆっくりと、自分の本当の気持ちを語り始めた。
「俺は、英雄ではありません。ただの、職人です」
「俺の幸せは、誰かのために物を作り、その人が喜んでくれる顔を見ること。それだけです」
「俺の居場所は、王都の豪華な屋敷ではありません。辺境の町にある、あの小さな、埃っぽい工房なんです。そこには、俺を待ってくれている人たちがいて、俺が作るべきものがある。俺は、そこで、これからも物を作って生きていきたい」
俺の言葉に、国王はしばらくの間、何も言わずに、ただじっと俺の目を見つめていた。
やがて、彼はふっと、まるで全ての緊張が解けたかのように、穏やかな笑みを浮かべた。
「……そうか。そうであったな」
彼は、深く頷いた。
「お主は、そういう男であった。富にも、名声にも、権力にも興味はない。ただ、己の信じる道を、まっすぐに歩む。だからこそ、お主は、これほどの奇跡を起こせたのかもしれぬな」
国王は、俺の選択を、その人柄を、深く理解してくれたのだ。
「よかろう。アルト殿の意志、尊重しよう。伯爵位の話は、取り下げる」
彼は、そう言うと、代わりに一つのペンダントを俺に手渡した。それは、王家の紋章が刻まれた、特別な通行証だった。
「だが、これだけは受け取ってほしい。それは、王家の友である証だ。これがあれば、国のどこであろうと、誰であろうと、お主の活動を妨げることはできん。好きな時に王城を訪れ、好きな時に、また国を救ってくれても、構わんぞ」
最後の言葉は、国王の冗談だった。謁見の間に、温かい笑いが起こる。
俺は、そのペンダントを、ありがたく受け取った。
「ありがとうございます、陛下」
「礼を言うのは、こちらの方だ」
こうして、俺は最高の栄誉を自ら手放し、ただの一人の職人として、辺境の町へ帰ることを選んだ。
隣で、リリアとイグナが、誇らしげに、そして嬉しそうに俺に微笑みかけている。
俺たちの向かうべき場所は、もう決まっていた。
愛しい、我が家へ。
俺たちの、本当の居場所へ。
俺は、救国の英雄として、王城に用意された最高級の客室で、分不相応な扱いを受けていた。ふかふかのベッド、豪勢な食事、傅く侍従たち。だが、そのどれもが、どうにも俺の肌には馴染まなかった。
その日、俺は再び、国王アルベリオン三世の待つ謁見の間へと呼び出された。
リリアとイグナも、俺の隣に控えている。
「英雄アルトよ、此度の働き、まことに見事であった」
国王は、満面の笑みで俺を称えた。
「そなたへの褒賞についてだが、我らは最大限の敬意をもって、これを決定した」
宰相のグランセルが、った。
「アルト殿を、新たに創設する『救国伯爵』の位に叙し、王都の一等地に、広大な屋敷と領地を与えるものとする!」
謁見の間に、どよめきが起こる。
一代にして、平民から貴族の、それも伯爵の地位へ。前代未聞の、破格の待遇だった。それは、国王が、俺を国の重鎮として王都に引き留め、その力をこれからも国の為に振るってほしいという、強い意志の表れでもあった。
誰もが、俺がこの栄誉を、二つ返事で受け取るものだと思っていた。
だが、俺の答えは、決まっていた。
「……陛下、そのお言葉、身に余る光栄です」
俺は、静かに、しかしはっきりと口を開いた。
「ですが、そのお話、お断りさせていただきたく存じます」
しん、と謁見の間が静まり返った。
国王も、宰相も、他の貴族たちも、信じられないといった顔で俺を見ている。
「……アルト殿。今、何と申した?」
「伯爵の地位も、王都の屋敷も、俺には分不相応です。どうか、お納めください」
国王が、困惑したように眉をひそめる。
「なぜだ? これは、国がそなたに与える、最高の栄誉なのだぞ。何か、不満でもあるのか?」
「いいえ、不満など、とんでもございません」
俺は、ゆっくりと、自分の本当の気持ちを語り始めた。
「俺は、英雄ではありません。ただの、職人です」
「俺の幸せは、誰かのために物を作り、その人が喜んでくれる顔を見ること。それだけです」
「俺の居場所は、王都の豪華な屋敷ではありません。辺境の町にある、あの小さな、埃っぽい工房なんです。そこには、俺を待ってくれている人たちがいて、俺が作るべきものがある。俺は、そこで、これからも物を作って生きていきたい」
俺の言葉に、国王はしばらくの間、何も言わずに、ただじっと俺の目を見つめていた。
やがて、彼はふっと、まるで全ての緊張が解けたかのように、穏やかな笑みを浮かべた。
「……そうか。そうであったな」
彼は、深く頷いた。
「お主は、そういう男であった。富にも、名声にも、権力にも興味はない。ただ、己の信じる道を、まっすぐに歩む。だからこそ、お主は、これほどの奇跡を起こせたのかもしれぬな」
国王は、俺の選択を、その人柄を、深く理解してくれたのだ。
「よかろう。アルト殿の意志、尊重しよう。伯爵位の話は、取り下げる」
彼は、そう言うと、代わりに一つのペンダントを俺に手渡した。それは、王家の紋章が刻まれた、特別な通行証だった。
「だが、これだけは受け取ってほしい。それは、王家の友である証だ。これがあれば、国のどこであろうと、誰であろうと、お主の活動を妨げることはできん。好きな時に王城を訪れ、好きな時に、また国を救ってくれても、構わんぞ」
最後の言葉は、国王の冗談だった。謁見の間に、温かい笑いが起こる。
俺は、そのペンダントを、ありがたく受け取った。
「ありがとうございます、陛下」
「礼を言うのは、こちらの方だ」
こうして、俺は最高の栄誉を自ら手放し、ただの一人の職人として、辺境の町へ帰ることを選んだ。
隣で、リリアとイグナが、誇らしげに、そして嬉しそうに俺に微笑みかけている。
俺たちの向かうべき場所は、もう決まっていた。
愛しい、我が家へ。
俺たちの、本当の居場所へ。
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