【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ

文字の大きさ
29 / 65

第29話 王都の喧騒と奇跡の薬

バッカスが『安らぎの庭』を去ってから、数日が過ぎた。
森には、またいつもの静寂が戻ってきた。俺とエリナとフェンだけの、穏やかな時間。俺は、畑仕事に精を出したり、新しく手に入れた『凍てつく銅』で、さらに高性能な鍋を作ったりと、相変わらずのDIYライフを満喫していた。

「やっぱり、この静けさが一番だな」
完成したばかりの銅鍋の輝きを眺めながら、俺は満足げに呟いた。
「そうですわね。ですが、たまには、お客様がいらっしゃるのも、悪くはございませんでしたわ」

エリナは、バッカスがいた時に使っていた食器を磨きながら、楽しそうに微笑んだ。彼女にとって、俺以外の人間との交流は、新鮮で刺激的だったのかもしれない。

「……また、誰か来るかな」
「ふふ、どうでしょう。ですが、もし次に来る方がいらっしゃったら、今度は、わたくしが腕によりをかけたお菓子でおもてなしをしたいですわね」

そんな、平和な会話を交わしていた、ちょうどその頃。
外の世界、アルビオン王国の王都は、一つの噂で持ちきりになっていた。

「おい、聞いたか? ギルドの近くの露店で売ってる、あの緑色の塗り薬のことだよ!」
「ああ、知ってるぜ! どんな怪我も一瞬で治っちまうっていう、魔法の薬だろ? 俺のダチも、昨日、ゴブリンにやられた腕の傷を塗ってもらったら、あっという間に塞がったって、腰抜かしてたぜ!」
「本当かよ!? 高位の神官様が使う『ハイ・ヒール』並みの効果じゃないか!」

酒場や市場、冒険者ギルド。人々が集まる場所では、誰もがその『奇跡の薬』の噂をしていた。
その噂の中心にいるのは、みすぼらしい露店を営む、一人の行商人だった。

「はい、いらっしゃい! 見てってよ、聞いてってよ! どんな傷にも、どんな病にも効く、奇跡の霊薬だよ!」

その行商人こそ、数日前に魔瘴の森から生還した、バッカスその人であった。
彼の店先には、連日、長蛇の列ができていた。客は、怪我を負った冒険者、持病に苦しむ老人、子供の火傷を治したいと願う母親など、様々だ。

バッカスは、彼らが差し出す傷口や患部に、小さな木のヘラで、緑色の軟膏を、ほんの少しだけ、ちょん、と塗りつける。
すると、奇跡が起こる。

深く裂けた傷口は、まるで時間を巻き戻すかのように、瞬く間に塞がっていく。長年苦しめられてきた関節の痛みは、嘘のように消え去る。赤く爛れていた火傷の跡は、赤子の肌のように滑らかになる。

「おお……! 治った! 痛みが、完全に消えたぞ!」
「神様、仏様……! ありがとうございます!」

奇跡を目の当たりにした人々から、歓喜と感謝の声が上がる。
バッカスは、そんな彼らから、治療代として、銀貨数枚を受け取っていた。軟膏そのものを売ることはせず、あくまで「治療」という形で、少しずつ、しかし確実に、富を築き上げていた。

「ふっふっふ……。これもすべて、ルイン様のおかげだ」
バッカスは、客の波が途切れた隙に、懐から大切そうに取り出した、緑色の軟膏が入った革袋を見つめ、ほくそ笑んだ。
あの日、ルインから受け取った、あの塗り薬。
その効果は、バッカスの想像を、遥かに超えていた。魔瘴の森から王都へ帰る道中、試しに、長年患っていた自分の腰痛に塗ってみたところ、あれほど頑固だった痛みが、完全に消え去ってしまったのだ。

この薬は、とんでもない代物だ。
そう確信したバッカスは、これを元手に、一世一代の大勝負に出ることを決めた。
彼は、軟膏を水で薄め、効果の弱い薬草を混ぜることで、その量を数十倍にまで水増しした。それでもなお、その薬の効果は、そこらの高価なポーションを遥かに凌駕していた。

彼の商売は、大当たりだった。
『バッカスの奇跡の薬』の噂は、瞬く間に王都中に広まり、彼は、ほんの数日で、みすぼらしい行商人から、時の人へと成り上がったのだ。

だが、彼の野心は、それだけでは終わらなかった。
「薬だけじゃない……。ルイン様からいただいた、あのお芋とパン……あれも、とんでもない代物だった」

バッカスは、ルインからお土産にもらった『紫怨イモ』のパンを、こっそりと一人で味わった。その、脳が痺れるほどの美味さに、彼は再び衝撃を受けた。そして、試しに、そのパンを、病で食が細っていた隣家の老婆に分け与えたところ、老婆はぺろりとパンを平らげ、翌日には、驚くほど顔色も良くなっていたという。

あの芋には、ただ美味いだけではない、生命力を回復させる、凄まじい力が秘められている。

「ルイン様……あの御方は、いったい、何者なんだ……? 魔瘴の森に住む、美しいエルフ様と、神獣フェンリル様を従えた、謎の賢者……」

バッカスの頭の中では、ルインの存在は、もはや人間を超えた、神に近い何かへと昇華されていた。
そして、彼は決意した。

「もう一度、あの場所へ行こう。そして、ルイン様と、正式な取引をするんだ」

奇跡の薬と、魔法の作物の独占販売権。
それが手に入れば、自分は、ただの行商人から、この国を、いや、世界を動かすほどの、大商人に成り上がれるかもしれない。

「待っていてください、ルイン様! 必ずや、最高の塩と香辛料と、世界中の叡智が詰まった書物をお持ちして、あなた様のご期待に応えてみせますぞ!」

バッカスは、新たな野望に胸を膨らませ、王都の喧騒の中で、固く拳を握りしめた。
彼のポケットの中では、ルインからもらった『紫怨イモ』のかけらが、不気味なほどの生命力を放ち、かすかに蠢いている。

その頃、当のルインは。
「んー、やっぱり、この『絶望の涙塩』だけだと、味付けのバリエーションに限界があるな。早く、普通の塩が欲しいもんだ」

などと、のんきなことを考えながら、新しく作った銅のフライパンで、『追憶ダケ』のソテーを作っていた。
自分の生み出したものが、遠い王都で、とんでもない騒動を巻き起こしていることなど、もちろん、知る由もない。
ただ、バッカスが持ってくるであろう、新しい調味料のことだけを、楽しみに待っていた。

二つの世界。
『安らぎの庭』の穏やかな日常と、王都の喧騒。
その二つを繋ぐ扉は、今、一人の欲に目の眩んだ(しかし、根は善人な)行商人によって、ゆっくりと、しかし確実に、開かれようとしていた。
感想 9

あなたにおすすめの小説

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

【概念剥奪】でポイ捨て無双。~最弱の収納スキルが覚醒したので、聖剣も魔王もゴミ箱に捨てて伝説の竜姫とスローライフ~

寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ファンタジー
「収納しかできない無能な荷物持ちなど、我がパーティーには不要だ。消えろ、ゴミめ」 勇者パーティーの仲間だと思っていた奴らから突きつけられたのは、冷酷な追放宣告だった。 俺の持つスキルは、物を出し入れするだけの最弱スキル《収納》。 だが、死の淵でその真の力が覚醒する。 それは、物質だけでなく、この世のあらゆる事象を収める――【概念剥奪】。 「……悪いな。お前たちの『才能』も『聖剣』も、全部俺がポイ捨て(収納)しちゃったよ」 奪った概念は自由自在。 魔王の絶大な魔力も、勇者の無敵の加護も、俺の前ではただの不用品。 すべてを奪い取り、俺は辺境の地で伝説の竜姫と悠々自適なスローライフを始めることにした。 一方で、最強の荷物持ちを失った元パーティーは、装備もスキルも枯渇して破滅の道を突き進む。 「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう手遅れだ。 俺の収納スペースに、お前たちの居場所なんてこれっぽっちも残っていないんだから。 これは、世界に捨てられた男が、世界そのものを収納して無双する逆転劇。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

【完結】異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。