捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

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第八十三話 エデン王国の正式承認

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私の提案は、大陸諸国会議の空気を一変させた。
それまでの醜い利権の奪い合いは鳴りを潜め、代わりに『共同統治による復興』という建設的な議題がテーブルの中心に据えられた。各国の王たちはもはや私を侮りの対象としてではなく、尊重すべき交渉相手として扱い始めていた。

「エデン女王の提案は実に理に適っている」
最初に口火を切った南の大帝国の皇帝が、重々しく言った。彼の言葉は議場の方向性を決定づける重みを持っていた。
「我が帝国は旧クローデル領南部の治安維持を担当しよう。ただし、それによって得られる関税収入の一部は帝国の取り分とさせてもらう」

彼の発言を皮切りに、各国の王たちが次々と具体的な協力案を提示し始めた。
「ならば我が国は街道や橋の修復といったインフラ整備を担おう。我が国の土木技術は大陸一だ」
「我々商業国家連合は、復興のための資金援助と新たな交易路の開拓をお約束いたします」
あれほどいがみ合っていた権力者たちが、共通の目標の下にそれぞれの役割を分担し始めている。私は歴史が動く瞬間を目の当たりにしていた。

議論が白熱する中、皇帝が再び私に視線を向けた。その瞳には試すような光が宿っている。
「して、女王よ。お前の国エデンは最も重要な食糧支援を担うと言ったな。具体的にはどう動くつもりだ?」

私は地図を指差した。それは旧クローデル王国領の中でも、エデンに隣接する最も荒廃し見捨てられていた北部地域だった。
「私たちはまずこの地域に大規模な食糧支援拠点を設けます。そして、私たちの農業技術を持ち込み、この痩せた土地そのものを再び作物が実る豊かな大地へと蘇らせてみせます。ただ食料を与えるだけでなく、彼らが自らの手で食料を生み出せるように自立を支援するのです」

私の言葉に、議場は静まり返った。それはただの支援ではない。国家再建そのものを一手に引き受けるという宣言に等しかった。

「……ほう。言うことは大きいな、小娘」
皇帝は面白そうに口の端を上げた。
「つまり、その地域の実質的な統治権をエデンが担うということか。それは事実上の領土併合と見なされても文句は言えんぞ」

「併合ではありません。復興のための『管理』です」
私はきっぱりと訂正した。
「その土地が豊かさを取り戻し、民が自らの足で立てるようになった時、彼らが望むのであれば新たな独立国として認めることも厭いません。私たちの目的は領土の拡大ではなく、ただ苦しむ民を救うこと。それだけです」

そのあまりに清廉で、しかし揺るぎない理念。
それはこれまで権力闘争に明け暮れてきた王たちの心を強く打った。彼らは目の前の若き女王が持つ、自分たちとは全く違う『王の器』の大きさを思い知らされたのだ。

皇帝はしばらく黙って私を見つめていたが、やがて満足げに深く頷いた。
「……見事だ。よかろう。旧クローデル領北部の管理はエデン王国に一任する。異論のある者は、おるか」
彼の言葉に反対する者は一人もいなかった。

そして、皇帝は立ち上がった。その威厳に満ちた姿に、議場にいる全ての者が息を呑む。
彼は議場全体に響き渡る声で、最後の動議を提出した。

「諸君、これにて議決は定まった。だが最後に、我々が認めねばならぬ最も重要なことがある」
彼は私をまっすぐに見据え、高らかに宣言した。
「私は、この大陸諸国会議の名において正式に提案する! 『エデン王国』を我々大陸諸国の一員として、対等な主権国家として承認することを! そして、その指導者であるアリシア女王陛下に我々と並び立つ資格を認めることを!」

その言葉が議場に響き渡った瞬間。
私の脳裏にこれまでの道のりが走馬灯のように駆け巡った。
『雑草王女』と蔑まれた日々。
絶望の中で追放された、あの寒い誕生日。
不毛の地でたった一人、私を信じてくれた騎士の姿。
傷ついた子狼との出会い。
仲間たちと共に、汗と涙で築き上げた私たちの楽園。

込み上げてくる熱いものを、私は必死でこらえた。涙を見せるわけにはいかない。私はもうただの少女ではない。一つの国を背負う女王なのだから。

「異議なし!」
最初に声を上げたのは、商業国家連合の代表だった。
「我が国もエデン王国の正式な承認に心から賛同する!」
尚武の国の王も立ち上がった。
「異議などあろうはずもない! 女王陛下の器量は我々が認めるところだ!」

賛成の声が次々と上がる。
やがて議場は割れんばかりの拍手に包まれた。それは大陸の全ての国が、エデン王国の誕生を祝福した瞬間だった。

私は民を代表し、深く、深く一礼した。
その時、隣に立つギルバートが誰にも聞こえない声でそっと囁いた。
「……おめでとうございます、我が女王陛下」
その声は誇りと、そして深い感動に震えていた。

会議が終わった後、各国の王たちが次々と私の元へ挨拶に訪れた。彼らの態度は会議が始まる前とはまるで違い、心からの敬意に満ちていた。
大帝国の皇帝も私の前に立つと、その威圧的な顔に珍しく穏やかな笑みを浮かべた。
「女王よ、見事であった。お前のような者がこの大陸に現れたことを嬉しく思う。いずれ、我が帝国にも来るといい。歓迎しよう」
それは大陸の覇者からの最大限の賛辞だった。

数日後。
私たちはエデンへの帰路についていた。
馬車の中は来た時とは比べ物にならないほどの達成感と希望に満ちていた。
『エデン王国は、大陸の全ての国から正式な国家として承認された』
その事実が何よりも大きな土産だった。

私は窓の外を流れる景色を見ながら、静かに思った。
私たちの国は認められた。
しかし、これはゴールではない。本当の始まりなのだ。
一つの国として私たちがこれからどのような歴史を紡いでいくのか。その重い責任が、私の両肩にずっしりとのしかかっていた。

だが、私の心に不安はなかった。
馬車の隣で私を誇らしげに見守る忠実な騎士がいる。
そして遥かエデンでは、私の帰りを待つかけがえのない仲間たちがいる。
彼らと一緒なら、きっとどんな未来も乗り越えていける。
私はそう強く信じていた。
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