捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

文字の大きさ
87 / 94

第八十七話 国中が祝福

しおりを挟む
夜が明け、エデンの丘は朝日に染め上げられていた。
私とギルバートは手を取り合って、ゆっくりと丘を下った。夜通し語り合ったせいで少し眠かったけれど、心は不思議なくらい軽やかで満たされていた。隣を歩く彼の横顔を見上げるたびに、左手の薬指にはめられた指輪が朝の光を受けてキラリと輝く。それは夢ではなかった。

村へ戻ると、すでに皆が朝の仕事の準備を始めていた。
「おはようございます、女王陛下! ギルバート様!」
すれ違う人々が元気よく挨拶をしてくれる。その誰もが私たち二人を見て一瞬だけ目を丸くし、それから何かを察したように、にやにやと意味ありげな笑みを浮かべていく。
私たちの間に流れる、昨日までとは明らかに違う空気を皆は見逃さなかった。

広場に着くと、朝食の準備をしていたリーナとルナが私たちの姿を見てぴたりと動きを止めた。
「アリシア……あなた、その指輪……」
ルナの鋭い目が私の左手の変化をすぐに見抜いた。リーナも口に手を当てて、信じられないといった顔で私とギルバートを交互に見ている。

もう隠しておくことはできない。いや、隠すつもりもなかった。
私は皆の注目が集まる広場の中央へと進み出た。ギルバートも覚悟を決めた顔で私の隣に立つ。
私は一度深く息を吸い込むと、集まってくれた愛すべき民たちに向かって、少しだけ震える声で、しかしはっきりと告げた。

「皆さん、聞いてください。私、アリシアは……ギルバート・アークライトと婚約いたしました」

私の言葉が終わると、広場は一瞬、時間が止まったかのような静寂に包まれた。
誰もが驚きに目を見開いて、私たちを凝視している。

その静寂を最初に破ったのは、バルトの地響きのような雄叫びだった。
「よっしゃあああああああっ!!」
彼は持っていた槍を天に突き上げ、子供のようにはしゃいだ。

その声が合図だった。
次の瞬間、広場は割れんばかりの歓声と嵐のような拍手に包まれた。
「おめでとうございます、女王陛下!」
「ギルバート様! よくやった!」
「待ってました!」

皆がまるで自分のことのように、私たちの婚約を喜んでくれた。元盗賊も獣人も難民も、種族や過去など関係なく、ただ純粋に自分たちの国の父と母の誕生を心の底から祝福してくれていたのだ。

ガンツは鍛冶場から駆けつけてくると、ギルバートの背中をバンバンと力強く叩いた。
「でかしたぞ、ギルバート! これで、お前もようやくただの石頭から国の一本柱になりやがった! こりゃあ、建国の時より盛大な祭りをやらねえとな!」
リーナは目に涙を浮かべ、「本当におめでとうございます」と私の手を固く握りしめてくれた。
ルナはやれやれと肩をすくめながらも、その口元には満面の笑みが浮かんでいた。
「まったく、二人とも遅すぎるくらいよ。でも、本当におめでとう」

もふもふ達もそれぞれのやり方で祝福を表現してくれた。
フェンは私の足元に駆け寄ると、くんくんと指輪の匂いを嗅いだ後、ギルバートを見上げて一つため息をついた。
『仕方ナイナ。主ヲ泣カセタラ、本気デ噛ミ殺スゾ』
そのツンデレな思念に、ギルバートも思わず苦笑した。

上空ではピピが祝福の歌のように高らかに鳴き、くるくると宙返りを繰り返している。彼の羽ばたきに合わせて、森の木々から色とりどりの木の葉がまるで花吹雪のように広場に舞い落ちた。
モグ族たちは地面のあちこちからひょっこりと顔を出し、「オメデトウゴザイマス!」と叫びながら、自分たちの掘り出したキラキラ光る雲母のかけらを紙吹雪のように撒き散らしていた。

その日のエデンの仕事は全て休みになった。
村は国中を挙げてのお祭り騒ぎに突入した。
男たちは宴のための薪を集め、女たちは腕によりをかけてご馳走の準備を始める。子供たちは花を摘んで広場を飾り付け、村中が幸福な熱気に包まれていた。

私はその祝福の輪の中心で、ギルバートと手を取り合っていた。
少し照れくさかったけれど、それ以上に胸がいっぱいだった。
この国はただ私が治めるだけの場所ではない。私と共に笑い、泣き、そして私の幸せを自分のことのように喜んでくれる、大きな、大きな家族なのだ。

ギルバートはそんな私の心を見透かしたように、そっと囁いた。
「アリシア。私は貴女だけでなく、この国も私の全てをかけて守ります。貴女が愛するこの家族を、私も愛し続けると誓います」

彼の言葉に、私は力強く頷いた。
私たちの幸せは、この国の幸せと共にある。
私は愛する人と、そして愛する民と共に、このエデンで永遠に生きていくのだ。
その確信が何よりも温かい幸福感となって、私の心を隅々まで満たしていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

覚えてないけど婚約者に嫌われて首を吊ってたみたいです。

kieiku
恋愛
いやいやいやいや、死ぬ前に婚約破棄! 婚約破棄しよう!

「何の取り柄もない姉より、妹をよこせ」と婚約破棄されましたが、妹を守るためなら私は「国一番の淑女」にでも這い上がってみせます

放浪人
恋愛
「何の取り柄もない姉はいらない。代わりに美しい妹をよこせ」 没落伯爵令嬢のアリアは、婚約者からそう告げられ、借金のカタに最愛の妹を奪われそうになる。 絶望の中、彼女が頼ったのは『氷の公爵』と恐れられる冷徹な男、クラウスだった。 「私の命、能力、生涯すべてを差し上げます。だから金を貸してください!」 妹を守るため、悪魔のような公爵と契約を結んだアリア。 彼女に課せられたのは、地獄のような淑女教育と、危険な陰謀が渦巻く社交界への潜入だった。 しかし、アリアは持ち前の『瞬間記憶能力』と『度胸』を武器に覚醒する。 自分を捨てた元婚約者を論破して地獄へ叩き落とし、意地悪なライバル令嬢を返り討ちにし、やがては国の危機さえも救う『国一番の淑女』へと駆け上がっていく! 一方、冷酷だと思われていた公爵は、泥の中でも強く咲くアリアの姿に心を奪われ――? 「お前がいない世界など不要だ」 契約から始まった関係が、やがて国中を巻き込む極上の溺愛へと変わる。 地味で無能と呼ばれた令嬢が、最強の旦那様と幸せを掴み取る、痛快・大逆転シンデレラストーリー!

処理中です...