捨てられ王女ですが、もふもふ達と力を合わせて最強の農業国家を作ってしまいました

夏見ナイ

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第八十九話 もふもふ達の活躍

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エデンの戴冠式と結婚式の準備は、人間たちだけが進めているのではなかった。私たちのかけがえのない仲間であるもふもふ達もまた、それぞれのやり方でこの歴史的な日のために大活躍していた。

もふもふ達のリーダーであるフェンは、誰よりも張り切っていた。
彼は子犬の姿のままでは威厳が足りないとでも思ったのか、最近では半獣化した少年の姿でいることが多くなった。銀色の髪を風になびかせ、鋭い蒼い瞳をしたその姿は、凛々しくも美しかった。
「主の晴れの日に、不届き者が紛れ込んではならぬからな」
彼はそう言って、バルトの警備隊に自らアドバイザーとして参加した。聖獣としての鋭い五感は、人間の見張りが見逃すような些細な異変も見逃さない。彼は警備ルートの盲点を的確に指摘し、獣しか通れないような隠れた道の存在を教え、エデンの防衛網を完璧なものへと引き上げていった。

夜になれば、彼は巨大な銀狼の姿に戻り、エデンの周囲の丘という丘を駆け巡った。その神々しい姿と夜空に響き渡る遠吠えは、この地が聖獣に守られた神聖な領域であることを周囲の魔獣たちに知らしめるのに十分だった。彼の活躍のおかげで、式典当日の周辺警備は万全と言えるものになった。

空の番人ピピの任務は、招待状を届けるだけでは終わらなかった。
彼は、その広大な飛行範囲と鳥たちのネットワークを駆使して、大陸中の情報を集めるエデンの『情報長官』のような役割を担っていた。
「ピピの情報によれば、南の大帝国は皇帝陛下自らが百名の近衛騎士を率いてこちらへ向かっているそうです」
「商業国家連合は、マルコ殿を含む大規模な祝賀使節団を編成中とのこと」
ギルバートは、ピピが足に結び付けて持ち帰る小さな報告書を読み解きながら、各国の動向を正確に把握していた。その情報収集能力は、どんな国の諜報機関をも凌駕していたかもしれない。

そして、式典会場の建設現場では、土の友モグ族がその真価を発揮していた。
ガンツの設計は、時にドワーフならではの奇抜で大規模なものになることがあった。
「よし、この丘とあの丘の間に大理石の橋を架けるぞ!招待客どもをあっと言わせてやるんだ!」
そんな無茶な要求にも、モグ族たちは嫌な顔一つせず「オ任セアレ!」と陽気に答えた。

彼らは、まるで自分の体の一部のように大地を操った。巨大な土の腕を地面から生み出して橋桁を支え、驚くべき速さで土台を築き上げていく。その光景はもはや土木工事というより、大地の魔法そのものだった。彼らの働きがなければ、あの壮麗な式典会場は決して一月という短期間で完成することはなかっただろう。

森の中では、医療長であるルナがエルフとしての能力を存分に発揮していた。
彼女は会場を飾るための花々を集めるだけでなく、森の木々そのものに語りかけ、その枝を自然な形で編み込ませて美しい緑のアーチやガゼボを作り上げていった。
「森も、アリシアの門出を祝福しているのよ」
彼女はそう言って、誇らしげに微笑んだ。

さらに彼女は、森の奥深くで暮らす小さな妖精たちにも協力を仰いだ。普段は人前に姿を見せないシャイな彼らも、ルナの説得とアリシアの持つ世界樹の巫女の力に惹かれて、喜んで力を貸してくれることになった。
彼らは木の実や花の蜜を集めて、宴で出される特別なデザートや飲み物を用意してくれた。また、夜になるとホタルのように淡く光る自分たちの体で会場までの道を照らす、天然のイルミネーションとなってくれることも約束してくれた。

人間、獣人、ドワーフ、エルフ、聖獣、風鳥、土竜、そして妖精。
エデンに住むありとあらゆる種族が、それぞれの得意な分野で自分たちにできる最高の形で女王の門出を祝おうとしていた。

私は、そんな皆の姿を感謝と、そして少しだけ申し訳ないような気持ちで見守っていた。
「私のために、皆さん頑張りすぎです……」
私がそう呟くと、隣にいたギルバートが穏やかに言った。
「いいえ、アリシア。皆、貴女のためだけにやっているのではないのです」
「え?」

「彼らは、このエデンという国を自分たちの手で作り上げたという誇りを持っています。そして、その国の素晴らしさを大陸中の人々に見せつけたい。自分たちの女王がどれほど偉大であるかを自慢したいのです。これは、エデンの民全員にとっての晴れ舞台なのですよ」

彼の言葉に、私ははっとした。
そうだ。これは私だけの式典ではない。この国に生きる全ての者のための建国祭なのだ。

私は、胸に込み上げてくる熱いものを感じながら、改めて皆の姿を見渡した。
汗水流して働くその全ての顔が、喜びに満ち溢れている。
私は本当に素晴らしい国に来た。そして、素晴らしい仲間たちに巡り会えた。

その幸福を、私は改めて噛みしめていた。
もふもふ達の活躍は、ただの労働力ではない。彼らがこの国の一員として心から建国を祝ってくれている。その事実こそが、このエデンの何よりの強さの証だった。
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