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第90話 創生vs奈落
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黄金のオーラをまとった俺の拳が、マハトの頭上へと振り下ろされる。それは神々の鉄槌にも似た、絶対的な破壊の意志を宿した一撃だった。
もはや彼にそれを防ぐ術はないはずだった。
だが、マハトは絶望の淵で嗤った。
「……ククク。素晴らしい。素晴らしいぞ、『創生の源』よ。それこそが我が主が求める力……!」
彼は砕け散った鎌の柄を最後の杖のように握りしめると、血反吐を吐きながら残された全ての魔力を解放した。
「―――来たれ、我が身に!奈落の深淵よ!」
彼の呼び声に応え、この大神殿の遥か地下深くから、おぞましいまでの邪悪な気配が奔流となって溢れ出した。それはこの地に封印されし『邪神の心臓』が放つ、根源的な闇の魔力だった。
闇は黒い奔流となってマハトの体に注ぎ込まれていく。彼の体は傷を癒すどころか、さらに異形へと変貌を遂げ始めた。皮膚は溶け落ち、その下から脈打つ黒い血管のようなものが無数に現れる。
「させるか!」
俺は彼の変貌が終わる前に、とどめを刺そうと拳を振り下ろす。
だが、マハトがその異形と化した腕で、俺の拳を正面から受け止めた。
ドゴォン!
再び広間を揺るがす衝撃。しかし、今度は拮抗していた。
「……無駄だ」
マハトの声はもはや幾重にも重なった、人のものとは思えない響きを持っていた。
「邪神様の御力と一体となった今の私に、貴様の力はもはや通じん!」
彼の腕から黒い闇が、俺の黄金のオーラを侵食し始める。生命を生み出す『創生』の力と、全てを無に帰す『奈落』の力。二つの相反する根源的な力が俺たちの腕を介して激しくせめぎ合っていた。
俺の拳が、じりじりと押し返されていく。
(……くそっ! 力が……!)
『超・気合一発泥水』の効果は絶大だった。だが、それはあくまで俺という人間の器を限界以上にブーストさせているに過ぎない。対するマハトは、邪神そのものの力を直接その身に降ろしている。力の総量が違いすぎた。
「終わりだ」
マハトが俺の腕を弾き飛ばし、その空いた胴体に闇のエネルギーを凝縮させた拳を叩き込んできた。
俺は咄嗟に腕を交差させて防御する。だが、その衝撃は完全に殺しきることはできなかった。
「ぐ……あああっ!」
俺の体は先ほどのマハトのように、いとも簡単に吹き飛ばされた。俺は広間の反対側の壁に激突し、崩れ落ちる。
全身を骨が砕けるような激痛が走った。口から、ごぼり、と血の塊が溢れ出す。黄金のオーラが風前の灯火のように弱々しく揺らめき始めた。
(……もう、もたない……)
俺の意識が遠のいていく。
「ルーク!」
「ルークの旦那!」
倒れていた仲間たちが悲鳴のような声を上げる。リゼットが、ノエルが、ギムリが、傷ついた体を引きずりながら俺の元へ駆け寄ろうとする。
「……動くな、と言ったはずだ」
マハトはそんな彼らを冷たい目で見下ろした。彼が指を軽く振るう。それだけで仲間たちの足元から黒い鎖が無数に出現し、彼らの体を地面に縫い付けた。
「ぐっ……! 離せ!」
「くそっ、体が……!」
仲間たちは必死にもがくが、邪神の力を帯びた鎖はびくともしない。
「……さて。これで本当に邪魔者はいなくなった」
マハトはゆっくりと、倒れる俺の元へと歩み寄ってきた。
「見事だったぞ、若者。一時はどうなることかと思った。だが、それもここまでだ。お前のその力、我が主のために有効に使わせてもらう」
彼は俺の目の前でしゃがみ込んだ。そして、その異形と化した手を俺の頭へと伸ばしてくる。
もう抵抗する力は残っていなかった。
俺は薄れゆく意識の中で、ミストラル村のあの穏やかな光景を思い出していた。
エリアナの笑顔。
リゼットの不器用な優しさ。
ノエルの好奇心に満ちた瞳。
ギムリの頑固だが温かい背中。
村人たちの屈託のない笑い声。
(……みんな……ごめん……)
約束、守れそうにないや。
俺が全てを諦めかけた、その時。
『―――まだよ』
頭の中に声が聞こえた。
それはノエルの声でも、リゼットの声でもない。
もっと清らかで神聖で、そして懐かしい響きを持つ少女の声。
(……セシリア様……?)
『ええ。私です、ルーク』
聖女セシリア。彼女の魂が俺の心に直接語りかけてきていた。
『あなたは一人ではありません。あなたの光は私の魂を呼び覚ましてくれました。今度は私があなたの光を支える番です』
彼女の声に応えるように、俺の体の奥底から新たな光が湧き上がってきた。それは俺自身の創生の力とは違う、もっと清浄で優しい、月の光のような聖なる力。
聖女の力が俺の創生の力を増幅させている。
「なっ!?」
俺の体に触れようとしていたマハトが、弾かれたように手を引いた。俺の体から再び黄金のオーラが、先ほどよりもさらに強く輝き始めたのだ。
『そして、ルーク。忘れないで』
セシリアの声が続ける。
『あなたの力はあなただけの力ではない。あなたを信じ、待ち望む、全ての人々の想いの力。その想いがある限り、あなたの光は決して消えはしない』
その言葉と共に俺の脳裏に、たくさんの顔が浮かび上がってきた。
ミストラル村の皆の顔。
王都で俺たちの帰りを祈る、神官長や騎士たちの顔。
そして、今、この場所で俺の名を叫び続けてくれる仲間たちの顔。
そうだ。俺は一人じゃない。
俺の背中には、こんなにもたくさんの想いがある。
「……うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は叫んだ。
俺の体から放たれる黄金の光は、もはやオーラの域を超え、大神殿のドーム全体を隅々まで照らし尽くす巨大な光の柱となっていた。
奈落の闇が、その圧倒的な光に押し返されていく。
創生の光と聖女の祈り。そして、仲間たちの想い。
その全てが一つになった時、奇跡は再び起ころうとしていた。
マハトは、その信じがたい光景を前に、初めてその顔に恐怖の色を浮かべていた。
もはや彼にそれを防ぐ術はないはずだった。
だが、マハトは絶望の淵で嗤った。
「……ククク。素晴らしい。素晴らしいぞ、『創生の源』よ。それこそが我が主が求める力……!」
彼は砕け散った鎌の柄を最後の杖のように握りしめると、血反吐を吐きながら残された全ての魔力を解放した。
「―――来たれ、我が身に!奈落の深淵よ!」
彼の呼び声に応え、この大神殿の遥か地下深くから、おぞましいまでの邪悪な気配が奔流となって溢れ出した。それはこの地に封印されし『邪神の心臓』が放つ、根源的な闇の魔力だった。
闇は黒い奔流となってマハトの体に注ぎ込まれていく。彼の体は傷を癒すどころか、さらに異形へと変貌を遂げ始めた。皮膚は溶け落ち、その下から脈打つ黒い血管のようなものが無数に現れる。
「させるか!」
俺は彼の変貌が終わる前に、とどめを刺そうと拳を振り下ろす。
だが、マハトがその異形と化した腕で、俺の拳を正面から受け止めた。
ドゴォン!
再び広間を揺るがす衝撃。しかし、今度は拮抗していた。
「……無駄だ」
マハトの声はもはや幾重にも重なった、人のものとは思えない響きを持っていた。
「邪神様の御力と一体となった今の私に、貴様の力はもはや通じん!」
彼の腕から黒い闇が、俺の黄金のオーラを侵食し始める。生命を生み出す『創生』の力と、全てを無に帰す『奈落』の力。二つの相反する根源的な力が俺たちの腕を介して激しくせめぎ合っていた。
俺の拳が、じりじりと押し返されていく。
(……くそっ! 力が……!)
『超・気合一発泥水』の効果は絶大だった。だが、それはあくまで俺という人間の器を限界以上にブーストさせているに過ぎない。対するマハトは、邪神そのものの力を直接その身に降ろしている。力の総量が違いすぎた。
「終わりだ」
マハトが俺の腕を弾き飛ばし、その空いた胴体に闇のエネルギーを凝縮させた拳を叩き込んできた。
俺は咄嗟に腕を交差させて防御する。だが、その衝撃は完全に殺しきることはできなかった。
「ぐ……あああっ!」
俺の体は先ほどのマハトのように、いとも簡単に吹き飛ばされた。俺は広間の反対側の壁に激突し、崩れ落ちる。
全身を骨が砕けるような激痛が走った。口から、ごぼり、と血の塊が溢れ出す。黄金のオーラが風前の灯火のように弱々しく揺らめき始めた。
(……もう、もたない……)
俺の意識が遠のいていく。
「ルーク!」
「ルークの旦那!」
倒れていた仲間たちが悲鳴のような声を上げる。リゼットが、ノエルが、ギムリが、傷ついた体を引きずりながら俺の元へ駆け寄ろうとする。
「……動くな、と言ったはずだ」
マハトはそんな彼らを冷たい目で見下ろした。彼が指を軽く振るう。それだけで仲間たちの足元から黒い鎖が無数に出現し、彼らの体を地面に縫い付けた。
「ぐっ……! 離せ!」
「くそっ、体が……!」
仲間たちは必死にもがくが、邪神の力を帯びた鎖はびくともしない。
「……さて。これで本当に邪魔者はいなくなった」
マハトはゆっくりと、倒れる俺の元へと歩み寄ってきた。
「見事だったぞ、若者。一時はどうなることかと思った。だが、それもここまでだ。お前のその力、我が主のために有効に使わせてもらう」
彼は俺の目の前でしゃがみ込んだ。そして、その異形と化した手を俺の頭へと伸ばしてくる。
もう抵抗する力は残っていなかった。
俺は薄れゆく意識の中で、ミストラル村のあの穏やかな光景を思い出していた。
エリアナの笑顔。
リゼットの不器用な優しさ。
ノエルの好奇心に満ちた瞳。
ギムリの頑固だが温かい背中。
村人たちの屈託のない笑い声。
(……みんな……ごめん……)
約束、守れそうにないや。
俺が全てを諦めかけた、その時。
『―――まだよ』
頭の中に声が聞こえた。
それはノエルの声でも、リゼットの声でもない。
もっと清らかで神聖で、そして懐かしい響きを持つ少女の声。
(……セシリア様……?)
『ええ。私です、ルーク』
聖女セシリア。彼女の魂が俺の心に直接語りかけてきていた。
『あなたは一人ではありません。あなたの光は私の魂を呼び覚ましてくれました。今度は私があなたの光を支える番です』
彼女の声に応えるように、俺の体の奥底から新たな光が湧き上がってきた。それは俺自身の創生の力とは違う、もっと清浄で優しい、月の光のような聖なる力。
聖女の力が俺の創生の力を増幅させている。
「なっ!?」
俺の体に触れようとしていたマハトが、弾かれたように手を引いた。俺の体から再び黄金のオーラが、先ほどよりもさらに強く輝き始めたのだ。
『そして、ルーク。忘れないで』
セシリアの声が続ける。
『あなたの力はあなただけの力ではない。あなたを信じ、待ち望む、全ての人々の想いの力。その想いがある限り、あなたの光は決して消えはしない』
その言葉と共に俺の脳裏に、たくさんの顔が浮かび上がってきた。
ミストラル村の皆の顔。
王都で俺たちの帰りを祈る、神官長や騎士たちの顔。
そして、今、この場所で俺の名を叫び続けてくれる仲間たちの顔。
そうだ。俺は一人じゃない。
俺の背中には、こんなにもたくさんの想いがある。
「……うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は叫んだ。
俺の体から放たれる黄金の光は、もはやオーラの域を超え、大神殿のドーム全体を隅々まで照らし尽くす巨大な光の柱となっていた。
奈落の闇が、その圧倒的な光に押し返されていく。
創生の光と聖女の祈り。そして、仲間たちの想い。
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