ワールド・リクリエイター 〜不遇職『地形師』は、サーバーごと世界を創り変える〜

夏見ナイ

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第7話:土塊の防壁

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けたたましい破壊音と共に、暗い回廊の奥から姿を現したのは、黒を基調とした禍々しいデザインの鎧に身を包んだ五人組のプレイヤーだった。その全員が、プレイヤーキラー(PK)であることを示す赤いドクロのマーカーを名前の横に表示させている。先頭に立つ大剣を担いだ男が、下卑た笑みを浮かべて広間を見渡した。

「ヒャッハー! 見つけたぜ! ここが噂の隠し神殿か!」
「リーダー、あのNPC、間違いありません。フォーラムのリーク情報にあった『ユニークNPC』です」
横にいた盗賊風の男が、リリアを見て興奮したように言う。

リーダーと呼ばれた男――その名は『ギルガ』――の視線が、獲物を定めるようにリリアに突き刺さる。そして、彼女を守るように立つカナデたちを一瞥し、鼻で笑った。

「なんだァ? 先客がいたのか。おい、そこのお前ら。その女はこちらがいただく。命が惜しけりゃ、アイテム全部置いてとっとと失せな」
その態度は、あまりにも傲慢で、一方的だった。

「あなたたち、一体何なの! ここは神聖な場所よ!」
メイプルが盾を構え、怒りを露わに叫ぶ。
「神聖? 知るかよ、そんなもん。ゲームだろ? 強い奴が弱い奴から奪う。当たり前のルールじゃねえか」
ギルガは肩をすくめると、カナデの腰にあるつるはしに気づき、腹を抱えて笑い出した。
「おいおい、なんだそいつの職業! スコップだか、つるはしか知らねえが、土方でもやりに来たのか? ああ? 『地形師』か何かか? そんなゴミ職、まだやってる奴がいたんだな!」

仲間たちが一斉に下品な笑い声を上げる。その嘲笑は、カナデではなく、彼の隣に立つメイプルとケンの怒りに火をつけた。

「……言わせておけば!」
「愚か者が」

「口答えするか。後悔させてやるぜ! 野郎ども、やっちまえ! まずはあの女騎士からだ! 囲んで叩け!」
ギルガの号令一下、PKたちが一斉に襲い掛かってきた。前衛職の戦士とモンクが二人、メイプルに殺到する。後方からは、魔術師と弓兵が援護射撃の準備に入った。見事な連携。彼らが数々のプレイヤーを葬ってきた手練れであることが窺えた。

「させるもんですか!」
メイプルは盾を大地に突き立て、防御スキル《ガーディアンウォール》を発動。光の壁が彼女の前面に展開され、PKたちの初撃を完全に防ぎきった。
「やるじゃないか。だが、いつまで持つかな?」

戦士が挑発するように笑い、大剣を連続で叩きつけてくる。モンクはメイプルの側面に回り込み、素早い拳打で光の壁の耐久力を削っていく。その間にも、後方から矢と魔法が絶え間なく飛来し、メイプルのHPとMPがみるみるうちに削られていった。

「ケン、援護を!」
「くっ……!」

ケンが魔法を詠唱しようとするが、盗賊風の男――素早い動きから、職業はアサシンだろう――が巧みにケンの周りを動き回り、詠唱を妨害する。一撃でも攻撃を受ければ、詠唱は中断されてしまう。

「リリアさん、俺の後ろに!」
カナデは戦闘能力のないリリアを背にかばいながら、冷静に戦況を分析していた。敵は五人、こちらは三人。まともに戦えば、数の利で押し切られる。メイプルの防御が破られるのも時間の問題だ。

(敵の連携が厄介だ……。前衛と後衛が、見事に役割分担されている。なら、その連携を断ち切ればいい!)

カナデは、リリアと広間の中央に立つ巨大なクリスタルを守るように、半円を描く立ち位置を取った。そして、つるはしを地面に突き立てる。

「メイプルさん、あと五秒だけ、持ちこたえてください!」
「任せなさい!」

カナデの叫びに、メイプルが覚悟を決めたように歯を食いしばる。
カナデはMPを集中させ、一気に二つのスキルを連続で発動させた。

「『ディグ』! そして『モウルディング』!」

彼が狙ったのは、メイプルと敵前衛たちが戦っている場所と、敵後衛が陣取る場所との、ちょうど中間地点。地面が轟音と共に隆起し、瞬く間に高さ三メートルほどの分厚い土の壁が出現した。

「なっ!?」

後方から援護射撃をしていた魔術師と弓兵の視界から、前線の光景が完全に消え去った。彼らの攻撃が、虚しく土の壁に突き刺さる。

「チッ! 何だこの壁は!?」
「リーダー! 前が見えません!」

突然の地形変化に、敵後衛が混乱の声を上げる。前衛と後衛の連携が、完全に分断されたのだ。

「よし!」
「カナデ、ナイス!」

好機を逃さず、ケンが即座に動いた。邪魔な援護がなくなったことで、彼の詠唱を妨害していたアサシンは孤立無援となる。
「――風よ、刃となりて敵を切り裂け! 《ウィンドカッター》連射!」

ケンの杖から放たれた不可視の風の刃が、立て続けにアサシンに襲いかかる。回避する場所のないアサシンは、なす術もなく数発の直撃を受け、HPを大きく削られて後方へと飛び退いた。

「てめえら、壁なんざぶち壊せ!」
ギルガが叫び、戦士と共に土の壁に攻撃を仕掛けるが、カナデが創り出した壁は予想以上に頑丈だった。数発の攻撃では、びくともしない。

その間に、メイプルは一対一の状況に持ち込んだ敵モンクを、得意のシールドバッシュでいなしていた。数の有利が失われ、敵の焦りが目に見えて伝わってくる。

「ふざけやがって……! あの土方、先に潰すぞ!」

ギルガがターゲットをカナデに変更し、土の壁を回り込んで突進してくる。その巨体が、一直線にカナデと、その背後にいるリリアに迫る。

「カナデ、危ない!」
メイプルが叫ぶが、距離があって間に合わない。
リリアが「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。

だが、カナデは落ち着いていた。彼の目は、突進してくるギルガの足元だけを見ていた。
「……そこだ」

ギルガがカナデの目前に到達し、大剣を振りかぶった、その瞬間。
「スキル、『ディグ』」

カナデのスキルが、ギルガの足元の地面を抉った。それは、深さも幅も大したことのない、ほんの小さなくぼみ。しかし、全力で突進してきたギルガにとって、それは致命的なトラップだった。

「ぐおっ!?」

軸足がくぼみにはまり、ギルガの巨体がバランスを崩して前のめりに倒れ込む。振り上げた大剣はあらぬ方向を向き、がら空きの胴体を無防備に晒した。

「ケンさん!」
「言われるまでもない!」

その一瞬の隙を、ケンの魔法が見逃すはずがなかった。
「《ファイアボール》!」

灼熱の火球が、完璧なタイミングでギルガの腹部に直撃する。
「ぐああああああっ!」

鎧の上からでも分かるほどのダメージ。ギルガのHPゲージが、一気に半分近くまで削り取られた。

「リーダー!」
「くそっ、あの地形師、厄介すぎる!」

仲間たちが慌ててギルガに駆け寄る。彼らの連携は完全に崩壊し、戦況は一瞬にしてカナデたちの優勢へと傾いていた。

「もう一度壁を作る! メイプルさん、今度はこっちをお願い!」
カナデは再び土の壁を作り、今度はギルガたちを狭い一角に閉じ込めるように陣形を整える。その壁を盾にしながら、メイプルが敵の攻撃を完全にシャットアウトした。

「どうなってやがる……。たかが三人相手に、俺たちが押し込まれてるだと……?」
ギルガは、信じられないといった表情で、つるはしを片手に冷静に戦場を支配するカナデを睨みつけた。戦闘力ゼロの、ただの土方。そう侮っていた男に、自分たちの必勝パターンがズタズタに引き裂かれている。この現実に、彼のプライドはひどく傷つけられていた。

「こうなったら……!」
ギルガが回復薬を呷り、何かを決意したように叫んだ。
「あのデカいクリスタルを狙え! あれを人質にすりゃあ……」

彼の指示で、弓兵が狙いを広間の中央に立つ巨大な青いクリスタルへと変えた。もしあれが破壊されれば、この神殿そのものがどうなるか分からない。リリアが息を呑んだ。

しかし、カナデはその動きすら予測していた。
「遅いですよ」

弓兵が矢を放つ、その直前。カナデのスキルが、クリスタルと弓兵との間に、新たな土の壁を隆起させた。放たれた矢は、またしても分厚い土壁に阻まれる。

「な……! どこからでも壁を出してきやがる!」

もはや、打つ手はなかった。彼らの攻撃は、ことごとくカナデの地形操作によって無力化される。戦場は、完全にカナデの掌の上にあった。

「……撤退だ! 引くぞ!」

ついに、ギルガが屈辱に顔を歪ませながら、撤退を命令した。PKたちは捨て台詞を吐く余裕もなく、蜘蛛の子を散らすように神殿から逃げ出していく。

「待ちなさい!」
メイプルが追いかけようとするが、カナデはそれを手で制した。
「深追いは危険です。罠があるかもしれない」

PKたちが完全に去り、神殿に再び静寂が戻る。緊張の糸が切れ、メイプルはその場にへたり込んだ。

「はぁ……疲れた……。でも、勝ったのね、私たち」
「ああ。君の地形操作がなければ、危なかった」
ケンも、安堵のため息をつきながらカナデに言った。

カナデは、自分の作り出した土の壁や溝を見回した。戦いが終われば、ただの土塊だ。だが、この力で、仲間と、そしてリリアを守ることができた。その事実が、何よりも嬉しかった。

彼が振り返ると、そこには翡翠色の瞳を潤ませたリリアが立っていた。彼女は、震える唇で、しかしはっきりと感謝の言葉を紡いだ。

「……ありがとうございました。カナデさん」
その声には、単なるNPCとしての応答ではない、心の底からの感謝と安堵が込められていた。

「あなたは、本当に……私の、希望です」
リリアはそう言うと、広間の中央にあるクリスタルへと歩み寄った。
「あの者たちが言っていたように、私はこの世界のユニークNPCなのかもしれません。ですが、それはレアアイテムをドロップするからではないのです」

彼女はクリスタルにそっと手を触れた。すると、クリスタルが呼応するように輝きを増し、その表面に複雑な幾何学模様が浮かび上がる。

「私は、この世界の“歪み”そのものから生まれた存在。そして、この神殿は、その歪みが世界に溢れ出さないようにするための、最後の封印なのです」

リリアの口から語られたのは、このクエストの、そしてこの世界の根幹に関わる、衝撃的な真実の始まりだった。カナデは、自分がただのゲーム攻略ではなく、もっと大きな何かに足を踏み入れてしまったことを、この時、はっきりと自覚した。
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