元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ

文字の大きさ
38 / 52

第三十八話:日常に響く不協和音 - 混沌の足音はすぐそこに

しおりを挟む
オリジン・コアとの死闘から約二週間。神崎グループ本社ビル地下の封印チャンバーは厳重に管理され、世界はひとまずの静寂を取り戻したかのように見えた。だが、それは嵐の前の凪。俺、神崎蓮と白鳥栞は、地下オペレーションルームで、その静寂の下で確実に広がりつつある異変の兆候を捉えていた。

「……やはり、増加しています」
栞が、厳しい表情でモニターに表示されたグラフを指し示した。それは、東京都内で報告されている原因不明の小規模な異常現象――ポルターガイスト、原因不明の発火現象、電子機器の誤作動――の発生件数を示すものだった。新宿での一件以降、その数は緩やかに、しかし確実に増加傾向にあった。
「アルカナム・ソサエティの分析によれば、これは『カオス』エネルギーが現実世界に干渉し、物理法則をわずかに歪めている影響だそうです。まだエネルギーレベルは低いですが、放置すればより大規模な異常現象を引き起こす可能性も……」

「物理法則の歪み……か。厄介だな」
俺は、オペレーターチェアで腕を組み、思考を巡らせた。カオスの脅威は、単なる精神汚染に留まらないらしい。
「人々の精神状態への影響は?」
「こちらも、看過できない状況です」
栞は、別のモニターに都内の精神科クリニックの受診者数や、SNS上のネガティブな感情表現のトレンド分析結果を表示させた。
「原因不明の不安感、攻撃性の高まり、悪夢……これらの報告が、特に若年層を中心に増加しています。新宿周辺だけでなく、都内全域に、カオスの『ノイズ』が広がっているようです」

その兆候は、俺たちの足元、帝聖学園にも現れていた。
以前にも増して、生徒同士の些細な口論や、感情的な対立が目立つようになった。授業中に突然泣き出す生徒や、逆に、理由もなく高揚し、奇妙な言動をとる生徒も現れ始めた。備品の破損や、原因不明の機材トラブルも頻発している。
学園側は、ストレスや受験のプレッシャーとして片付けようとしているが、俺にはこれがカオスの影響であることは明らかだった。

「なあ、神崎君……やっぱり、最近おかしいよ、この学園」
昼休み、橘葵が心配そうに話しかけてきた。彼女の表情にも、疲労の色が見える。陸上の練習に打ち込んでいる彼女でさえ、この重苦しい空気の影響を受けているのかもしれない。
「ああ、少しピリピリしているな。大きな行事が終わった後だから、気が緩んでいるのかもしれない」
俺は、当たり障りのなく答えるしかない。真実を知れば、彼女は恐怖に苛まれるだろう。
「そうだといいんだけど……。ねぇ、もし葵が何かおかしくなっちゃったら……神崎君、助けてくれる?」
彼女は、不安げな瞳で俺を見つめてきた。その問いに、俺は言葉を詰まらせた。
「……馬鹿なことを言うな。君は大丈夫だ」
そう答えるのが精一杯だった。だが、心の中では、この日常を守り切れるのかという、重い不安が渦巻いていた。

高嶺椿も、学園内の異変に気づいているようだった。生徒会長として、彼女は生徒たちの悩みやトラブルの報告を直接受ける立場にある。屋上で顔を合わせた際、彼女は厳しい表情で言った。
「……尋常ではないわ。生徒たちの精神的なバランスが、明らかに崩れ始めている。単なるストレスや環境の変化だけでは説明がつかない。……やはり、『あれ』の影響なのね?」
彼女は、俺が世界の裏側で戦っていることを確信しており、学園で起きている異変も、それと無関係ではないと考えているのだ。
「……おそらくはな」
「私たちに、何かできることはないの? このまま手をこまねいているわけにはいかないわ」
彼女の瞳には、強い危機感と、リーダーとしての責任感が宿っている。
「……今はまだ、下手に動くべきではない。だが、君には、生徒たちの心のケアと、異常な兆候を見せる生徒の情報を集めておいてほしい。いざという時に、役立つかもしれない」
「……分かったわ。あなたも、一人で抱え込まないで」
彼女は、俺の身を案じる言葉を残し、足早に去っていった。

***

オペレーションルームでは、プライムの能力開発と、カオス対策の研究が急ピッチで進められていた。
プライムは、俺との精神リンクを通じて、自らの能力――高次元感知と限定的なエネルギー制御――を、驚くべき速さで習得しつつあった。彼女の精神は安定を取り戻し、以前の怯えた少女ではなく、自らの運命と向き合う、強い意志を持つ存在へと成長していた。

『……見える……。街の中に……黒い靄(もや)みたいなのが……漂ってる……。人の心の、弱いところに……入り込んでる……』
プライムは、精神リンクを通じて、彼女だけが捉えることのできる、カオスの汚染状況を俺たちに伝えてくれた。それは、まるで都市全体を覆う、見えない感染症のようだった。
『でも……全部が黒いわけじゃない……。キラキラした……温かい光も……たくさんある……!』
彼女は、人々の持つ善意や希望といった、ポジティブな精神エネルギーも同時に感知できるようになっていた。

「プライムの能力は、カオスの動きを探る上で、強力なセンサーになる。だが、同時に、彼女自身がカオスの影響を受けやすいというリスクもある……」
栞が、プライムの精神波形データを分析しながら懸念を示す。
「ああ。彼女を守るための、より強力な精神防御が必要だ。アルカナムの知識を応用した結界術式の開発を急ごう。それと……」
俺は、モニターに表示された、プライムが見た「黒い影が人々の心の隙間に入り込んでいる」というビジョンの解析データを見た。
「この『心の隙間』……つまり、人々の負の感情が、カオスの侵入経路になっている可能性がある。ならば、それを逆手に取ることはできないか?」

「逆手に取る……?」
「ああ。カオスが負の感情に引き寄せられるなら、逆に、ポジティブなエネルギー……希望や、喜びや、絆といった力を増幅させることで、カオスの影響を中和、あるいは押し返すことができるかもしれない」
それは、アルカナムの文献にも示唆されていた、精神エネルギーの応用理論だった。科学的な根拠はまだ薄いが、試してみる価値はあるかもしれない。
「……理論的には、可能かもしれません。でも、どうやって、都市全体のポジティブなエネルギーを増幅させるなんて……」
栞が、困惑した表情を見せる。

「……例えば……音楽、とか」
俺は、ふと呟いた。以前、音楽室で即興演奏をした時の、あの高揚感と一体感を思い出したのだ。
「音楽……?」
「ああ。優れた音楽は、人々の心を動かし、感情を浄化し、一体感を生み出す力がある。もし、特別なエネルギーを込めた音楽を、多くの人々に届けることができれば……それは、カオスに対する、有効な『ワクチン』になるかもしれない」
それは、突飛なアイデアに聞こえるかもしれない。だが、俺の持つ芸術的才能と、エネルギー制御能力を組み合わせれば、あるいは……。

***

そんな新たな可能性を探り始めた矢先、栞が新たな情報を掴んだ。
「神崎君! 『龍脈の一族』が、再び活動を開始したようです!」
彼女が、モニターに表示させたのは、都内各所のパワースポットと呼ばれる場所――古くからの神社仏閣や、龍脈が交差する地点――で、彼らのものと思われる術式反応が観測されたというデータだった。
「彼らは、カオスの影響が強まっている地域で、何かを探している……あるいは、『浄化』のための準備を進めているようです。目的は依然として不明ですが……」

(龍脈の一族……。彼らもまた、カオスの活性化を察知し、動き出したか)

彼らが敵となるか味方となるか、まだ分からない。だが、彼らの行動が、俺たちの計画に影響を与える可能性は高い。監視を強化する必要がある。

さらに、アルカナム・ソサエティからも、警告がもたらされた。
『契約者よ、警戒せよ。『混沌の仔ら』の活動が、より巧妙化、組織化している兆候がある。彼らは、単に精神に干渉するだけでなく、特定の人間を『憑代(よりしろ)』として、現実世界に顕現しようとしている可能性がある。特に、強い負の感情や、特殊な精神構造を持つ者が狙われやすい』

(憑代……? カオスが、人間に乗り移るだと……?)

事態は、俺の想像以上に深刻化していた。見えない脅威は、確実に、そして多様な形で、俺たちの日常を侵食し始めている。

俺は、オペレーションルームの窓から、再び夜の東京を見下ろした。
煌びやかなネオンの光。その下で、どれだけの人間が、見えない混沌の足音に怯え、あるいは蝕まれ始めているのだろうか。

(もう、待っているだけではダメだ)

俺は、決意を固めた。
守勢に回るのではなく、攻勢に出る。
カオスの根源、それを手引きする存在、そして、この状況を利用しようとする者たち。その全てを、俺自身の手で暴き出し、叩き潰す。

「栞、プライム、そして父さん。準備はいいか?」
俺は、仲間たちに呼びかけた。
「……はい!」
「……うん!」
「……いつでも行ける」
それぞれの場所から、力強い返事が返ってきた。

「オペレーション・カウンターカオス、開始する」
俺は、静かに宣言した。
それは、見えない戦線における、俺たちの反撃の狼煙だった。

日常に響く不協和音は、やがて激しい狂想曲へと変わるだろう。
だが、俺たちは、その混沌の中で、必ずや希望の旋律を奏でてみせる。
新たな夜明けを、この手で掴み取るために。
俺たちの戦いは、新たなフェーズへと突入した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

処理中です...