元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ

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第18話:罠コンボ試作と、ゴブリン部隊の進化(の兆し)

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第一階層の完成からしばらくが経ち、ダンジョン運営は一定の安定期に入っていた。コア安置室のダッシュボードは、平穏な稼働状況を示している。DPは侵入者(主に単独ゴブリンや小動物)の撃退と自然回復によって、少しずつだが着実に増加し、現在は580DPほどになっている。

ゴブリンたちの訓練も継続され、それぞれの役割において僅かながらも成長が見られた。特にゴブジの斥候能力の向上は目覚ましく、ダンジョン内の巡回や罠のチェックなどを任せられるようになってきた。ゴブキチも、コアのスパルタ指導とスケルトン指揮経験を経て、以前のような無謀な暴走は減り、多少は命令を聞くようになってきた…まだ課題は多いが。

しかし、俺の頭の中には、次なるステージ――地下二階層――の構想が常にあった。地形効果、属性(闇・水)、そして罠の連動(コンボ)。これらを実現するには、圧倒的にDPが不足している。

「時給0.5DPの自然回復と、たまに来るゴブリン一体15DPじゃ、目標の1500DPには程遠いな…このペースだと、二階層着工は何か月先になるか分からん。」

俺はダッシュボードのDP収支グラフを眺めながら、ため息をついた。安定は手に入れたが、停滞は望むところではない。より効率的なDP獲得手段を考えなければならない。

『マスター、DP獲得効率の向上策として、以下の二つのアプローチが考えられます。第一に、より強力な侵入者を誘引、あるいは撃退すること。第二に、ダンジョン外部への能動的なアプローチ(例:周辺モンスターの狩り)です。』

コアが冷静に選択肢を提示する。

「強力な侵入者の誘引…か。今の防衛力で、Dランク以上が来たら、また苦戦は必至だ。リスクが高いな。外部への狩りも、こちらの戦力をダンジョン外に出すのは危険が伴う…」

どちらも一長一短だ。もう少し、地力をつけてから考えるべきだろう。

「となると、やはり今は、既存の防衛システムをさらに強化し、少ない侵入者から確実にDPを回収する効率を高めるのが先決か。」

そこで重要になるのが、罠の改良と、罠コンボの開発だ。俺は、罠開発コンサルタント(兼捕虜)のジンを呼び出した。彼は、まだ脚の傷が完治していないものの、松葉杖(コアがDPで生成した)を使えば歩ける程度には回復していた。

「ジン、お前の専門家の視点から見て、今の第一階層の罠ゾーン、どう思う? 改善点はあるか?」

俺はダッシュボードに罠ゾーンの構造図を表示し、ジンに意見を求めた。

ジンは、図面を睨みつけ、時折唸りながら、プロの目でチェックしていく。
「ふん…潤滑床でバランスを崩させ、落とし穴(スパイクピット)に落とす、か。悪くない発想だが、いくつか穴があるな。」

「ほう、例えば?」

「まず、潤滑床だが、俺みたいに感知用の粉を使われたら、効果がないことがバレる可能性がある。それに、バランス感覚の良い奴なら、転倒せずに突破されるリスクもある。」
「落とし穴は強力だが、場所が特定されれば、ワイヤーや魔法で回避される可能性があるのは、あんたも経験済みだろ? あの魔術師の姉ちゃんがいなくても、俺なら別の方法で回避できたかもしれん。」
「トリップワイヤーは単純すぎる。引っかかっても、大したダメージにはならん。せいぜい時間稼ぎか、他の罠の起動スイッチくらいにしかならんだろう。」

的確な指摘だ。さすが、その道のプロ。

「では、どう改善すべきだと思う?」

「潤滑床は、もっと広範囲に、かつ薄く塗布して、存在を悟られにくくするべきだな。可能なら、特定のタイミングでだけ床を滑りやすくするような仕掛けがあれば、さらに効果的だろう。」
「落とし穴は、回避された場合の次善策を用意しておくべきだ。例えば、穴の周囲の壁から、回避行動を取った侵入者を狙う槍や矢が飛び出すとか。あるいは、落とし穴自体が移動するとか…まあ、それは高度すぎるか。」
「トリップワイヤーは、もっと巧妙に隠し、複数のワイヤーを組み合わせる。そして、単なる警報ではなく、他の罠と確実に連動させるべきだ。例えば…」

ジンは、そこで言葉を切ると、ニヤリと笑った。
「例えば、ワイヤーに引っかかった瞬間、通路の天井が低い位置まで一気に下がり、侵入者を圧迫、あるいは身動きを取れなくするとか。そこに、壁から毒針がニュッと出てくる…なんてのはどうだ?」

「天井降下と毒針…!?」

なんと陰険な…いや、効率的なアイデアだ! 狭い空間で動きを封じられ、毒で確実に仕留める。回避はほぼ不可能だろう。

「面白いな、それ…! 実現可能か、コア?」

『天井の昇降ギミック、及び壁内からの毒針射出機構…どちらも技術的には可能です。ただし、コストは比較的高くなります。天井昇降(3m x 3m範囲)で約80DP、毒針射出(複数本、毒液補充機能付き)で約60DP程度と試算されます。』

合計140DPか…今のDP残高(580DP)でも十分に手が届く範囲だ。

「よし、そのコンボ、試作してみよう! 場所は…第一階層の、あまり使っていない分岐通路の奥がいいな。テスト用だ。」

『承知いたしました。指定箇所に、罠コンボ・プロトタイプ『プレス&ニードル』を設置します。』

コアが早速、設置工事を開始する。ジンは、自分のアイデアが採用されたことに満足したのか、あるいは自分の知識が通用することにプロとしての矜持をくすぐられたのか、口元に笑みを浮かべている。

「それから、ジン。お前に頼みたいことがある。ゴブジに、お前の持つスキル…特に罠解除と隠密術の基礎を教えてやってくれ。もちろん、悪用されない範囲でな。」

「…ゴブリンにか? まあ、あの緑のチビ、妙に筋は良さそうだったからな。いいだろう、暇つぶしにはなる。」

ジンは、意外にもあっさりと引き受けた。

罠コンボの試作と並行して、俺はスケルトンをさらに3体追加召喚した(コスト120DP)。これで、スケルトンは合計8体。ゴブキチが指揮する部隊も、それなりの規模になってきた。

「ゴブキチ! スケルトン8体を率いて、フォーメーション訓練だ! 横一列、縦一列、防御方陣! 俺の指示通りに動かせ!」

『グ、グオオオ! やってやる!』

ゴブキチは、まだぎこちなさは残るものの、以前よりは格段に落ち着いてスケルトンたちに指示を出せるようになっていた。スケルトンたちは、彼の命令に寸分違わず反応し、整然と陣形を変えていく。その光景は、なかなか壮観だ。

(よしよし、少しはリーダーらしくなってきたじゃないか。)

一方、リナの授業は相変わらず難航していた。
「だから! 3たす2は5! なんで6になるのよ! このゴブリン、足し算もできないの!?」
『ウガー? 指、足りない…』
リナは、頭を抱えて天を仰いでいる。ゴブリンの知性の限界に、彼女の忍耐も限界に近いようだ。

「まあまあ、リナ先生。焦らず、根気良くな。」
俺が声をかけると、リナは般若のような形相で俺を睨みつけた。
「あなたが簡単に言うから! ちょっと代わってみなさいよ!」
…やはり、教師役はストレスが溜まるらしい。彼女のケアも考えないといけないな。何か、彼女の興味を引くような報酬(例えば、簡単な魔法の研究許可とか?)を与えるのも手かもしれない。

そんなこんなで、ダンジョン内では様々な活動が同時進行していく。罠の開発、モンスターの育成、捕虜との(奇妙な)交流。DPは少しずつ消費されていくが、それ以上に、ダンジョンというシステムが着実に進化・強化されている実感があった。

数時間後、コアから罠コンボ『プレス&ニードル』の試作品が完成したとの報告があった。

「よし、早速テストだ。ゴブジ、出番だぞ。」

俺は、斥候訓練を終えたゴブジを呼び寄せ、試作罠が設置された通路へと向かわせた。

「ゴブジ、あの通路の先に、新しい罠を仕掛けた。お前のスキルで、それを見破り、可能なら解除してみろ。ただし、絶対に無理はするな。危険を感じたらすぐに報告しろ。」

『ギ…! わ、分かった! やってみる!』
ゴブジは、緊張した面持ちで、慎重に通路へと入っていった。

俺は、コア安置室からダッシュボードでゴブジの様子をモニターする。ジンも、興味深そうに画面を覗き込んでいる。

ゴブジは、まずトリップワイヤーを警戒し、ジンの教え通り、特殊な粉末(コアが再現したもの)を撒きながら進む。ワイヤーは巧妙に隠されていたが、ゴブジはそれを見事に発見した。

「ほう、やるじゃないか。」
ジンが感心したように呟く。

次に、ゴブジはワイヤーを切断しようと、小さなナイフを取り出した。だが、その瞬間――

ガシャン!

ゴブジの前後の天井が一気に下降し、通路を塞いだ! 同時に、壁から無数の毒針が突き出してくる!

『マスター! 罠作動! ゴブジが閉じ込められました!』
コアが警告を発する。

「なっ!?」
ジンも驚きの声を上げる。「ワイヤーに触れたら作動する仕組みだったのか!」

画面には、狭い空間に閉じ込められ、毒針に囲まれてパニックに陥るゴブジの姿が映し出されていた。

「ゴブジ! 落ち着け! 針にはまだ毒は入っていない! 周囲をよく見ろ! 解除スイッチがあるはずだ!」

俺はマイク(コアが用意した)を通じて、ゴブジに指示を飛ばす。

『ヒィィィ! スイッチ!? どこ!?』
ゴブジは必死に周囲を見回す。天井は低いままで、圧迫感がすごいだろう。

「壁のどこかだ! よく探せ!」

ゴブジは、震える手で壁を探り始める。そして、数秒後。

「あ、あった! これか!?」
ゴブジが、壁に埋め込まれた小さなボタンのようなものを見つけ、それを押した。

プシュー…という音と共に、毒針が壁に収納され、天井が元の高さに戻っていく。

『罠、解除されました。ゴブジ、無事です。』

「はぁ……はぁ……」
ゴブジは、その場にへたり込み、荒い息をついていた。

「…見事だ、ゴブジ! よくやった!」
俺は、マイク越しに彼を称えた。

「…ふん、まあ、合格点ってとこか。だが、解除まで時間がかかりすぎだ。実戦なら、毒が回る前に解除できるかどうか…」
ジンは、プロの目で厳しく評価している。

テストは成功だ。罠コンボは想定通りに作動し、そしてゴブジのスキルも試すことができた。もちろん、まだ改良の余地はあるが、この『プレス&ニードル』は、地下二階層の主力トラップの一つになり得るだろう。

DPは、スケルトン召喚と罠開発で、残り321DPまで減少した。だが、それに見合うだけの進歩はあったはずだ。

俺は、ダッシュボードに表示されたダンジョンの全体像を改めて見渡した。
第一階層は、より洗練された防衛拠点へ。
モンスターたちは、それぞれの役割に応じて進化を(あるいは変化を)遂げつつある。
そして、地下二階層への設計図と、それを彩る新たな罠のアイデア。

着実に、しかし確実に、俺の理想とするホワイトダンジョンは形になりつつあった。

だが、その一方で、俺の心の片隅には、拭えない懸念も存在していた。
DP稼ぎの遅さ。そして、未だ姿を見せない、より強力な侵入者や、隣接する(かもしれない)ダンジョンマスターからの干渉。

(今は嵐の前の静けさ、なのかもしれないな…)

俺は、索敵範囲を最大にして表示させた周辺マップに目を凝らした。今はまだ、不穏な動きはない。だが、いつまでもこの平穏が続く保証はないのだ。

気を引き締め、次なる脅威に備えなければならない。俺は、DP獲得効率向上のための新たな計画――リスクを伴うかもしれないが、より積極的な計画――について、再び思考を巡らせ始めた。安定と停滞は、紙一重なのだから。
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