元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ

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第19話:リソースの再評価と、内部経済循環の可能性

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ダンジョン運営は安定期に入ったものの、DP獲得効率の低さという課題は依然として重くのしかかっていた。地下二階層という次なる目標を見据えるには、現状のままではあまりにも時間がかかりすぎる。

「やはり、根本的にDP収入を増やす方法を考えなければ…」

俺はコア安置室で、ダッシュボードに表示された各種パラメータを睨みながら、解決策を模索していた。より強力な侵入者を呼び込むのはリスクが高い。外部への狩りも同様だ。

(待てよ…収入を増やす、という発想だけではない。支出を抑える、あるいは内部でリソースを循環させるという考え方はどうだろうか?)

ダンジョン運営における最大の支出は、DPを使ったモンスター召喚、罠の設置・強化、そしてダンジョン拡張だ。これらのコストを、DP以外のリソースで代替、あるいは補助することはできないか?

ダンジョン内では、侵入者を撃退する過程で、様々な副産物が生まれている。倒したモンスターの残骸(骨、皮、牙など)、侵入者が落とした装備品(粗末なものが多いが)、そしてダンジョン自体の壁や床から、時折わずかに剥離する鉱石片や、魔力が結晶化したような小さな石(魔石の欠片?)。

これらは、これまでほとんど顧みられず、清掃担当のスラきちやゴブゾウによって、ゴミとして処理(溶解またはダンジョン外への転移)されてきた。だが、もしこれらの「ゴミ」に価値があるとしたら?

「コア、ダンジョン内で発生するこれらの副産物について、もっと詳しく分析できるか? 特に、鉱石片や魔石らしきものの組成や価値について。」

『了解しました、マスター。ダンジョン内環境サンプリング及び、回収済み副産物データの再分析を開始します。リナ及びジンが持つ外部世界の知識データベースとの照合も行います。』

コアが高速で分析を開始する。その間、俺はリナとジンを呼び出し、彼らの知識を借りることにした。

「リナ、ジン。お前たちの世界の常識でいい。ダンジョン内で手に入るような素材…例えば、ゴブリンの牙とか、スケルトンの骨、壁から出る石ころなんかに、価値はあるのか?」

リナは少し考えてから答えた。
「ゴブリンの牙や爪は、低級なポーションの材料になったり、魔除けの装飾品に使われたりすることはあるわね。でも、大した価値はないわ。スケルトンの骨は…もっと価値がないわね。アンデッドの素材は不吉だって嫌う人も多いし、加工も難しいし。」

「石ころ、か…」ジンが顎に手を当てて続ける。「普通の石ころなら価値はないが、もしそれが『魔石』の欠片だったり、特殊な『鉱石』だったりすれば話は別だ。魔石は燃料や魔法具の触媒として高値で取引されるし、ミスリルやオリハルコンみたいな希少鉱石なら、それこそ一攫千金も夢じゃないぜ?」

魔石と希少鉱石。やはり、その辺りが狙い目か。

「魔石というのは、どういうものなんだ? どうやって見分ける?」

「魔石は、魔力が結晶化したものよ。色や形は様々だけど、共通しているのは、微かに魔力を帯びていることね。魔力感知能力があれば、見分けるのは難しくないわ。純度が高いほど価値も上がるの。」リナが説明する。

「鉱石の方はどうだ?」

「そっちは俺の専門外だが…見た目や重さ、硬さである程度は判別できるだろうな。特殊な鉱石は、独特の色や輝きを持っていることが多い。フロンティアの町の鍛冶屋なら、鑑定してくれるかもしれんが。」ジンが付け加えた。

なるほど。魔力感知と、見た目や物理的な特徴。それが鑑定のポイントか。

ちょうどその時、コアの分析が終わったようだ。

『マスター、分析結果が出ました。
    *   モンスター素材:リナの証言通り、ゴブリンの牙や爪は低級素材としての価値はありますが、限定的です。スケルトンの骨は、現時点では利用価値は低いと判断されます。ただし、粉末にして特定の薬品と混ぜることで、硬化剤として利用できる可能性も示唆されています。
    *   鉱石類:ダンジョン壁面から剥離する鉱石片の多くは、一般的な岩石成分ですが、ごく稀に『鉄鉱石』や『銅鉱石』の微細な結晶が含まれています。また、第一階層の特定エリア(未調査)において、微弱ながら『ミスリル銀』の鉱脈反応を検知しました。
    *   魔石類:ダンジョン内に漂う魔力が、壁面などで極稀に結晶化し、『低品質魔石』の欠片となっているものを複数確認。純度は低いですが、集めれば燃料程度には利用可能です。さらに、コア安置室周辺の魔力濃度が高いエリアでは、より高品質な魔石が生成される可能性があります。』

鉄鉱石、銅鉱石、そして…ミスリル銀!? 魔石も生成されているだと!?
これは予想以上の成果だ! ゴミだと思っていたものが、宝の山だったとは!

「ミスリル銀だと!? それは本当か、コア!」

『はい、マスター。反応は微弱ですが、間違いなくミスリル銀特有の魔力パターンを検知しています。第一階層の北西区画、壁面の奥深くに存在すると推定されます。』

ミスリル銀と言えば、ファンタジー世界の定番レアメタルだ。軽くて硬く、魔力伝導率も高い。武具や装飾品、魔法具の材料として非常に高価で取引されるはずだ。

「これは…すごい発見だ!」

俺は興奮を隠しきれない。もし、まとまった量のミスリル銀が採掘できれば、DP不足問題が一気に解決するかもしれない。いや、それどころか、莫大な富を築ける可能性すらある。

「よし! 早速、採掘計画を立てるぞ!」

だが、ここで冷静さを取り戻す。焦りは禁物だ。

(待てよ…採掘するには、道具と人手が必要だ。つるはしのような道具をDPで購入するか? 人手は…ゴブリンか、スケルトンか? どちらが向いている?)

「コア、採掘作業に適したモンスターはどちらだと思う? ゴブリンか、スケルトンか?」

『単純な力仕事であれば、ゴブリンの方が筋力は上です。しかし、単調な作業の継続性、命令への忠実性、そして維持コストの観点からは、スケルトンの方が効率的であると考えられます。ただし、スケルトンは打撃に弱いため、落盤などの事故には注意が必要です。』

「ふむ…一長一短か。では、両方を使ってみるか。スケルトンに単純な掘削作業を担当させ、ゴブリン(ゴブゾウあたりか?)に土砂の運搬や、スケルトンの監視・補助をさせる。安全管理は、コアが常時モニターする。」

『それが最適解かと存じます。採掘用のつるはし(簡易的なもの)は、1本あたり5DPで生成可能です。』

「よし、つるはしを5本生成。スケルトン5体に採掘作業を、ゴブゾウに運搬・補助を命じろ。場所は、コアが特定したミスリル銀の鉱脈反応があるエリアだ。慎重に、安全第一で進めるように。」

『承知いたしました。採掘チームを編成し、作業を開始します。』

DPを25消費し、採掘プロジェクトが静かに始まった。スケルトンたちが無心につるはしを振るい、ゴブゾウが(少し怯えながらも)土砂を運び出す。その様子は、ダッシュボードを通じてリアルタイムで監視できる。

さて、鉱石だけでなく、魔石も重要だ。
「コア、低品質魔石の欠片は、ダンジョン内のどこで、どれくらいの頻度で発生しているんだ?」

『ダンジョン全域の壁面や床で、魔力溜りが自然発生・消滅する過程で、ごく稀に生成されます。平均すると、1日で1~2個(小指の爪程度の大きさ)発見できるかどうか、といった頻度です。』

「かなり少ないな…だが、これも塵も積もれば、か。ゴブゾウの清掃業務に、魔石の欠片収集も追加しておこう。」

『了解しました。ゴブゾウのタスクリストを更新します。』

さらに、コア安置室周辺で高品質な魔石が生成される可能性。これは興味深い。

「コア安置室周辺の魔力濃度を高める方法はあるか?」

『ダンジョンコア(私自身)のレベルアップ、あるいは外部から高濃度の魔力を引き込むことで可能ですが、現時点では困難です。あるいは、ダンジョン内に意図的に魔力を循環させ、特定の場所に集める『魔力循環システム』を構築することも考えられますが、これも高度な設計と相応のDPが必要になります。』

「魔力循環システム…か。面白そうだが、今はまだ先の話だな。」

とりあえず、ダンジョン内で自然発生する素材――鉱石と魔石――に着目し、それらを収集・活用する体制を整え始めた。

だが、問題は、これらの素材をどうやって「価値」に変換するかだ。

*   **選択肢1:外部に売却する。**
    *   メリット:直接的なDP収入、あるいはこの世界の通貨を得られる。
    *   デメリット:外部との接触が必要。商人を見つけ、交渉し、安全な取引ルートを確立しなければならない。情報漏洩のリスクもある。
*   **選択肢2:ダンジョン内で利用する。**
    *   メリット:外部との接触リスクがない。素材をモンスターの装備強化や、罠の材料、施設のエネルギー源などに活用できる。
    *   デメリット:直接的な収入にはならない。加工技術や設備が必要になる場合がある。

(どちらか一方を選ぶのではなく、両方を視野に入れるべきか。)

例えば、鉄鉱石や銅鉱石は、ダンジョン内で加工して、ゴブリンたちの武器や防具を強化するのに使えるかもしれない。ミスリル銀や高品質な魔石は、高値で売却してDPや資金に変える。低品質魔石は、ダンジョン内の施設の補助エネルギーとして使うとか…。

「内部経済循環…か。ダンジョン内で資源を生産し、加工し、消費する。そして、余剰分や高付加価値品を外部に販売する。まるで、一つの国家運営だな。」

俺は、ダッシュボードに「ダンジョン内リソース管理」という新しいタブを追加し、収集した素材の種類、量、保管場所、そして想定される用途や価値を記録していくことにした。

(まずは、素材のストックを増やすことが先決だな。ミスリル銀の採掘状況はどうだ…?)

俺が採掘現場のライブ映像(コアが設置した小型監視ゴーレムからの映像)に切り替えると、スケルトンたちが黙々と壁を掘り進んでいる様子が映し出された。そして…

『マスター! スケルトンの一体が、何か硬いものに突き当たりました! 魔力反応を確認…間違いなく、ミスリル銀の鉱脈です!』

コアの興奮した声。画面には、鈍い銀色の輝きを放つ金属質の岩盤が、わずかに顔を覗かせているのが見えた!

「やった! 本当にあった!」

ついに、お宝発見だ! これで、DP不足解消への道が大きく開けた!

俺は、採掘チームに、さらに慎重に作業を進めるよう指示を出した。ミスリル銀は貴重な資源だ。無駄なく、最大限回収しなければならない。

そんな興奮冷めやらぬ中、斥候任務に出ていたゴブジから、緊急報告が入った。

『マスター! 北東の森の中で、奇妙な痕跡を発見! 馬車の轍(わだち)と、荷物が散乱した跡がある! 近くに、人間…? いや、小さな獣人のような姿も見える!』

馬車の轍? 荷物の散乱? 獣人?
これは一体…?

『追跡しますか、マスター?』

ゴブジが問いかけてくる。
俺の脳裏に、プロットにあった「偶然迷い込んだ商人との邂逅」という一文がよぎった。

(まさか…このタイミングで?)

これは、単なる偶然か? それとも、俺のダンジョンが、何らかの形で外部世界に影響を与え始めている兆候なのか?

俺は、ゴブジに慎重な追跡と監視を命じながら、この予期せぬ出来事がもたらすであろう影響について、思考を巡らせ始めた。外部との接触は、チャンスであると同時に、リスクでもあるのだ。新たな局面が、すぐそこまで迫っているのを感じていた。
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