元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ

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第36話:流通する資源、蠢く影

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ガルバス会長との最初の会談から、約一月半が経過した。あの緊張感に満ちた交渉は、結果的に成功裏に終わり、俺のダンジョンは新たな局面を迎えていた。

約束通り、第一回目のミスリルインゴット(中品質)10本と、おまけとして魔力水晶の欠片少量を、護衛につけたゴブジ(隠密状態)とジン(交渉役・変装済み)の手によって、フロンティア郊外の指定倉庫へと無事に納品された。ガルバス会長は、約束通りの品質と量に満足し、その場で高額の代金(DP換算で約50,000DP!)を支払ってくれた。まさに濡れ手に粟だ。

そして、それと引き換えに、ミリアは父であるガルバス会長の元へと無事に送り届けられた。別れの際、ミリアはリナに抱きついて大泣きし、俺にも「ワタルさん、リナお姉ちゃん、ありがとう! 絶対また会いに来るからね!」と涙ながらに約束してくれた。その健気な姿に、俺もリナも、そして意外にもジンまでもが、少しだけ感傷的な気分になったものだ。

ガルバス商会との間に築かれた、この細く、しかし確かなパイプラインは、俺のダンジョン運営に革命的な変化をもたらした。

「DP残高、58,750DP…! すごいな、一気に富豪だ。」

コア安置室で、ダッシュボードに表示された数字を見て、俺は思わず感嘆の声を漏らした。これだけのDPがあれば、地下二階層の建設はもちろん、さらなる戦力増強や研究開発にも、潤沢な予算を投入できる。ホワイトダンジョン計画が、一気に加速する。

『はい、マスター。ガルバス商会との安定した取引は、我々のリソース確保において非常に大きな意味を持ちます。ただし、それに伴うリスクも増大していることを忘れてはなりません。』
隣に立つ、擬人化形態のコアが、喜びつつも冷静に釘を刺す。彼女の言う通りだ。

富と力は、常に新たな脅威を呼び寄せる。ガルバス商会を通じて流通し始めた高品質(この辺境においては、だが)なミスリルインゴットや、時折市場に出回る魔力水晶は、フロンティアの町で静かな話題となっていた。

「よう、マスター。フロンティアの様子だが、やっぱり例の金属(ミスリル)と石ころ(魔力水晶)の出所を探る動きが出始めてるぜ。」
定期連絡でダンジョンに戻ってきたジン(本体)が報告する。「鍛冶屋ギルドや魔術師ギルドの連中が、ガルバスの爺さんに探りを入れてるらしいが、あの狸爺、上手くはぐらかしてるようだ。だが、時間の問題かもしれねえな。」

「だろうな。特に、領主の動きはどうだ?」
俺が最も警戒しているのは、この地域を治める領主の存在だ。

「ああ、そっちもだ。領主の代官とかいう役人が、フロンティアに何度か足を運んで、情報収集してるって話だ。ガルバスの爺さんにも会ってたらしい。今のところ、具体的な動きはないが、明らかに何かを探ってる目つきだった、とラット(ジンの助手兼パシリ)が報告してきたぜ。」

領主…その名は、アルフレッド・フォン・ベルクシュタイン。この辺境地域を統括する伯爵であり、厳格だが公正な人物として知られているらしい(ジンが集めた情報による)。彼が、自分の領内で流通し始めた未知の資源と、それに伴う不穏な噂(モンスターの目撃情報増加など)に関心を抱くのは当然の流れだろう。

(いずれ、公式な接触があるかもしれないな…その時に備えて、こちらも準備を進めておく必要がある。)

情報隠蔽の徹底はもちろん、領主に対して、我々が「管理可能な、有益な存在」であることを示す必要が出てくるかもしれない。それは、ダンジョンマスターとしての新たな「交渉」の始まりを意味する。

一方、ダンジョン内部では、潤沢になったDPを元手に、様々な強化が進められていた。

地下二階層の建設が、ついに本格的に開始された。コアの精密な設計と、スケルトン作業部隊(採掘作業から建設作業へとシフト)の働きにより、「水没した遺跡」をテーマとする第一エリアが、徐々に形になりつつあった。深く淀んだ水路、視界を遮る濃霧発生装置(試作品)、水中からの奇襲を可能にする隠し通路、そして、新たな罠コンボ『アクア・スパイク』(水圧で侵入者を壁に叩きつけ、同時に水槍で串刺しにする陰湿な罠)の設置などが進められている。完成すれば、第一階層とは比較にならない難攻不落のフロアとなるだろう。

モンスターたちの強化も怠っていない。
工房では、ゴブジがミスリルインゴットだけでなく、回収した鉄や銅を使って、ゴブリンたちのための「量産型装備」の生産を始めていた。粗末ながらも金属製の兜、胸当て、手甲などが装備されるようになり、ゴブリンたちの生存率は格段に向上した。ゴブキチには、特別製のミスリル混合の棍棒が与えられ、彼はそれを振り回してご満悦だ。

オークのオーキチとオーゾウも、条件反射訓練によって、多少はコントロール可能な「動く壁」あるいは「攻城兵器」として運用できる目処が立ってきた。彼らには、ゴブジが骨や鉄くずから作り出した、巨大で頑丈な盾と、破壊力を重視した巨大な鉄槌が与えられた。彼らの突進力と破壊力は、特定の状況下では大きな戦力となるだろう。ただし、食料コストと、待機所の壁の修繕費は依然として悩みの種だが…。

ゴブゾウは、回復後も後方支援任務に専念していた。バーサーカー化の兆候は見られないが、コアによる監視は継続している。彼は、工房で生産された装備品の管理や、ダンジョン内の整理整頓、そしてなぜかスライムたちの世話(毛繕いならぬ、粘液拭き?)などに、奇妙なほどの才能を発揮していた。もしかしたら、彼は戦闘よりも、こういう裏方仕事の方が性に合っているのかもしれない。

リナは、ミリアがいなくなったことで少し寂しそうにしていたが、ゴブリンたちへの教育(特に、文字や簡単な計算、そして魔法の基礎理論)に、以前にも増して熱心に取り組むようになっていた。ゴブキチやゴブジが、たどたどしいながらも文字で簡単な報告を書けるようになったり、リナが教えた初歩的な防御魔法(のようなもの)を真似てみたりする姿を見て、彼女なりに達成感を感じているのかもしれない。ジンから「ゴブリン相手にムキになるなよ、先生」と揶揄われながらも、彼女はこのダンジョンにおける自分の役割を見つけつつあるようだった。

そんな、内部の充実が進む一方で、外部からの干渉――特にロザリアの影――も、より明確になってきていた。

『マスター、ゴブジより報告。ダンジョン北西部の森林地帯で、インプの活動拠点と思われる場所を発見しました。ただし、強力な魔術的迷彩と警備結界が施されており、内部への侵入は困難です。周辺には、焦げたような匂いと、微弱な火属性の魔力残滓が確認されます。』

火属性の魔力残滓…やはり、ロザリアか。
彼女は、単に偵察するだけでなく、この周辺に前線基地のようなものを構築し始めているのかもしれない。

「拠点まで突き止めたか、ゴブジ、よくやった。だが、深入りはするな。相手はこちらの動きにも気づいているはずだ。下手に手を出せば、本格的な衝突になりかねん。」

『ギッ…了解。監視を継続する。』

情報戦は、新たな段階に入った。互いの存在を認識し、牽制し合う。いつ、その均衡が崩れてもおかしくない状況だ。

(ロザリア…紅蓮の魔女。火属性魔法の使い手で、強力なモンスターを使役する。そして、性格は傲岸不遜…か。俺の効率化ダンジョンとは、まさに正反対のタイプだな。)

いずれ、彼女とは何らかの形で決着をつけることになるだろう。その時に備えて、こちらも戦力を整え、彼女の弱点を探っておく必要がある。火属性に強いモンスターや、水属性・土属性の罠などを、意識的に導入していくべきかもしれない。

ダンジョンの内部発展、ガルバス商会との交易開始、領主の監視、そしてロザリアとの情報戦。俺が管理すべき「プロジェクト」は、ますます複雑化し、多岐にわたってきた。

俺は、コアが淹れてくれた温かいお茶を飲みながら、ダッシュボードに表示された膨大な情報を整理し、今後の優先順位を決定していく。

1.  地下二階層の早期完成と、対魔法・対火属性防御の強化。
2.  ガルバス商会との関係維持と、安定したDP収入の確保。
3.  領主への対応準備(情報隠蔽と、接触時の交渉戦略)。
4.  ロザリアへの警戒と情報収集、及び対抗策の準備。
5.  モンスターの継続的な育成と、新たな戦力(ゴーレムなど?)導入の検討。
6.  ゴブゾウのバーサーカー化の謎の解明と制御。
7.  ミリア(鑑定眼)との将来的な関係性構築。

(…やることが、多すぎるな。)

前世のデスマーチを思い起こさせるようなタスクの山。だが、不思議と、嫌な気はしなかった。むしろ、この複雑な状況を、自分の采配でコントロールしていくことに、ある種の興奮とやりがいを感じていた。

「マスター、少し顔色が悪いですよ? 無理は禁物です。」
隣に立つコアが、心配そうに俺の顔を覗き込む。

「ああ、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ。」
俺は苦笑し、コアの頭を軽く撫でた。彼女の存在が、この複雑な状況を乗り切る上での、何よりの支えだった。

「さあ、コア。次のタスクだ。領主アルフレッド・フォン・ベルクシュタインについて、さらに詳細な情報を収集・分析してくれ。性格、政策、弱点…どんな情報でもいい。来るべき『交渉』に備えるぞ。」

『承知いたしました、マスター。情報収集・分析タスクを開始します。』

領主の影が、すぐそこまで迫ってきている。俺たちのダンジョンが、この地域社会の中で、どのような存在として認識され、扱われることになるのか。それは、俺のダンジョンマスターとしての手腕にかかっている。

ホワイトダンジョンへの道は、単なる内部の効率化だけでは達成できない。外部世界との関係性を、いかに最適化していくか。新たな挑戦が、始まろうとしていた。










本当に申し訳ございません。予約ミスって続きが別のページに飛んでしまいました。本当に申し訳ありませんがひとまず、このサイトでの、投稿はここまでとなってしまいます。このサイトで、続きを読まれる場合は少しの間お待ちください。本当に申し訳ございません。
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みんなの感想(1件)

すずしろ
2025.06.13 すずしろ

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29話の後、26~29話まで、同じものが掲載されています。

あれ?戻った?と、びっくりしました。

解除

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