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第35話:パートナーの進化と、運命の会談前夜
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コアが安定した擬人化形態を獲得してから、俺のダンジョンマスターとしての仕事は、格段に効率化された。いや、効率化という言葉だけでは足りない。まるで、優秀な右腕であり、信頼できるパートナーを得たかのような、心強さと安心感があった。
「コア、地下二階層の魔力循環シミュレーション、パラメータB-3で再実行してみてくれ。水場の魔力吸収率を5%上げた場合の影響が見たい。」
俺がコア安置室で、設計図を睨みながら指示を出すと、隣に立つ銀髪の少女――コアは、その碧い瞳に複雑な数式やグラフを瞬時に映し出し、淀みなく答えた。
「了解しました、マスター。パラメータB-3、水場吸収率+5%でシミュレーション実行…結果出ました。フロア全体の魔力安定性は維持可能ですが、水棲モンスター(仮配置)の活性度が予測値を7%上回ります。暴走リスクが許容範囲を超過する可能性がありますね。」
コアは、俺が理解しやすいように、専門用語を避けつつ、要点を的確にまとめて報告してくれる。以前の光球状態でも情報提供はしてくれたが、擬人化してからは、まるで俺の思考を先読みするかのように、最適な形で情報を提示してくれるようになった。
「活性度が7%上昇か…やはり、吸収率を上げすぎると制御が難しくなるな。パラメータはB-2に戻して、別の方法で魔力効率を上げる方法を検討しよう。例えば…」
俺が新たなアイデアを口にしようとすると、コアは微笑んで続けた。
「例えば、特定の通路に魔力増幅効果を持つ鉱石(魔力水晶など)を配置し、指向性を持たせた魔力流を生成するのはいかがでしょう? 全体のバランスを崩さずに、局所的な効率を高められるかと。」
「…そうか、その手があったか! さすがだな、コア!」
俺の思考を補い、さらに発展させる。まさに、理想的なパートナーだ。
コアは、俺の賞賛に「えへへ」と嬉しそうに笑った。その笑顔は、俺の仕事の疲れを癒してくれる、何よりの清涼剤でもあった。彼女は、ダンジョンコアとしての高度な演算能力や魔力制御能力だけでなく、俺の体調や精神状態にも気を配ってくれるようになった。
「マスター、少し休憩しませんか? 連続思考時間が長すぎます。美味しいお茶(DP生成だが、フレーバーは多彩だ)でも淹れますから。」
そう言って、俺の分のカップまで用意してくれる。その気遣いが、前世のブラックな環境で擦り切れた心を、じんわりと温めてくれるのだった。
そんな、俺とコアとの新しい関係性が築かれる一方で、ダンジョン外部との情報戦は、静かに、しかし確実に進行していた。
斥候任務を続けていたゴブジから、新たな報告が入る。
『マスター、例の黒い奴ら(インプ)、最近、動きが変わってきた。以前より大胆に、ダンジョン入口近くまで接近してくる。それに、何か…小さな袋のようなものから、キラキラ光る粉を撒いているのを見た。』
「光る粉…? ジン、何か心当たりはあるか?」
俺は、工房でゴブジに金属加工を教えていたジンに尋ねた。
「光る粉、ねぇ…斥候が使う道具なら、いくつか思い当たるぜ。例えば、魔力の痕跡を可視化する『魔力ダスト』とか、あるいは、隠された罠や結界に反応する『探知の粉』とか。どっちにしろ、厄介な代物だ。こっちの魔力妨害フィールドを突破しようとしてるか、あるいは、ダンジョンの防御機構を探ろうとしてるんだろうな。」
「なるほどな…相手も、ただ偵察しているだけではない、ということか。」
ロザリア(であろう敵)は、こちらの防御を探り、弱点を見つけ出そうとしている。このまま放置すれば、いずれ本格的な攻撃や侵入を仕掛けてくる可能性が高い。
「コア、魔力妨害フィールドの出力を一時的に上げ、インプが撒いた粉の効果を無力化できないか? 副作用として、こちらの魔力消費が増えるのは覚悟の上だ。」
『可能です。フィールド強度をレベル3(一時的)に引き上げます。DP消費は増加しますが、低レベルの探知系アイテムの効果は大幅に減衰させられるでしょう。』
「よし、実行しろ。それと、ゴブジには、インプが粉を撒いた地点を特定させ、サンプルを回収するように指示。どんな粉か分析できれば、相手の狙いが分かるかもしれん。」
『了解しました。』
情報戦は、ますます高度化していく。相手の動きを読み、先手を打つ。まるで、チェスか、あるいはサイバー攻撃の応酬のようだ。負けるわけにはいかない。
ダンジョン内部では、明後日に迫ったガルバス会長との会談に向けて、最終準備が進められていた。
工房では、ゴブジが最後の仕上げとして、交渉用の見栄えの良いミスリルインゴットを数本、丁寧に磨き上げていた。
訓練スペースでは、ゴブキチがスケルトン部隊(補充して10体体制にした)と共に、警備用の最終フォーメーションを確認している。オークのオーキチとオーゾウも、条件反射訓練の成果で、なんとか「待て」と「進め」くらいはできるようになった。彼らは、会談場所から離れた場所で待機させ、万が一の際の「最終兵器」として温存する予定だ。
リナは、ミリアと共に、会長に渡す手作りの(?)お守りのようなものを作っていた。ミリアが描いた絵を、リナが魔法でささやかな祝福を込めて加工したものだ。交渉の場で、少しでも和やかな雰囲気を作るための小道具として、俺が提案したものだった。
そして、俺とコアは、コア安置室で、会談の最終シミュレーションを行っていた。会長の想定される質問、それに対する回答、交渉の落とし所、そして、万が一交渉が決裂した場合のプランB、プランC…。
「…これで、準備は万全、のはずだ。」
俺は、シミュレーション結果を最終確認し、頷いた。
「はい、マスター。あとは、明後日を待つだけですね。」
コアが、俺の隣で静かに微笑む。その表情には、信頼と、そしてわずかな不安が入り混じっているように見えた。
「ああ。この会談が成功すれば、俺たちの計画は大きく前進する。」
俺は、窓の外(もちろんダッシュボード上の仮想ウィンドウだ)に広がる、まだ見ぬ地下二階層のイメージを思い描いた。水が流れ、霧が立ち込め、巧妙な罠が侵入者を待ち受ける、戦略的なフロア。それを実現するためのDPが、もうすぐ手に入るかもしれないのだ。
だが、同時に、胸の奥には一抹の不安も残っていた。
ガルバス商会との繋がりは、俺たちを外部世界へと引きずり出す。それは、ロザリアのような敵対的な存在の注意を、さらに引くことになるかもしれない。
内なる進化と、外なる脅威。
安定と、変化。
チャンスと、リスク。
俺のダンジョンは、今、その狭間で、次なるステージへと進もうとしている。
「まあ、どんな問題が起きても、一つずつ解決していくしかないさ。俺には、お前という最高のパートナーがいるんだからな。」
俺は、隣に立つコアの肩に、軽く手を置いた。
「…! は、はい! マスター!」
コアは、顔を真っ赤にして、しかし力強く頷いた。
その反応が、なんだかとても愛おしく思えた。
運命の会談前夜。
俺は、進化したコアという頼もしい存在を傍らに感じながら、静かに決意を固めていた。
どんな困難が待ち受けていようとも、俺はこのダンジョンを、俺の理想とする「ホワイト」な場所へと導いてみせる。
そして、そのためならば、どんなリスクも取る覚悟はできていた。
全ては、この異世界で、俺自身の「最適解」を見つけ出すために。
ダンジョンマスター、ワタルの本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
**(第一部・完 / 第二部へ続く)**
「コア、地下二階層の魔力循環シミュレーション、パラメータB-3で再実行してみてくれ。水場の魔力吸収率を5%上げた場合の影響が見たい。」
俺がコア安置室で、設計図を睨みながら指示を出すと、隣に立つ銀髪の少女――コアは、その碧い瞳に複雑な数式やグラフを瞬時に映し出し、淀みなく答えた。
「了解しました、マスター。パラメータB-3、水場吸収率+5%でシミュレーション実行…結果出ました。フロア全体の魔力安定性は維持可能ですが、水棲モンスター(仮配置)の活性度が予測値を7%上回ります。暴走リスクが許容範囲を超過する可能性がありますね。」
コアは、俺が理解しやすいように、専門用語を避けつつ、要点を的確にまとめて報告してくれる。以前の光球状態でも情報提供はしてくれたが、擬人化してからは、まるで俺の思考を先読みするかのように、最適な形で情報を提示してくれるようになった。
「活性度が7%上昇か…やはり、吸収率を上げすぎると制御が難しくなるな。パラメータはB-2に戻して、別の方法で魔力効率を上げる方法を検討しよう。例えば…」
俺が新たなアイデアを口にしようとすると、コアは微笑んで続けた。
「例えば、特定の通路に魔力増幅効果を持つ鉱石(魔力水晶など)を配置し、指向性を持たせた魔力流を生成するのはいかがでしょう? 全体のバランスを崩さずに、局所的な効率を高められるかと。」
「…そうか、その手があったか! さすがだな、コア!」
俺の思考を補い、さらに発展させる。まさに、理想的なパートナーだ。
コアは、俺の賞賛に「えへへ」と嬉しそうに笑った。その笑顔は、俺の仕事の疲れを癒してくれる、何よりの清涼剤でもあった。彼女は、ダンジョンコアとしての高度な演算能力や魔力制御能力だけでなく、俺の体調や精神状態にも気を配ってくれるようになった。
「マスター、少し休憩しませんか? 連続思考時間が長すぎます。美味しいお茶(DP生成だが、フレーバーは多彩だ)でも淹れますから。」
そう言って、俺の分のカップまで用意してくれる。その気遣いが、前世のブラックな環境で擦り切れた心を、じんわりと温めてくれるのだった。
そんな、俺とコアとの新しい関係性が築かれる一方で、ダンジョン外部との情報戦は、静かに、しかし確実に進行していた。
斥候任務を続けていたゴブジから、新たな報告が入る。
『マスター、例の黒い奴ら(インプ)、最近、動きが変わってきた。以前より大胆に、ダンジョン入口近くまで接近してくる。それに、何か…小さな袋のようなものから、キラキラ光る粉を撒いているのを見た。』
「光る粉…? ジン、何か心当たりはあるか?」
俺は、工房でゴブジに金属加工を教えていたジンに尋ねた。
「光る粉、ねぇ…斥候が使う道具なら、いくつか思い当たるぜ。例えば、魔力の痕跡を可視化する『魔力ダスト』とか、あるいは、隠された罠や結界に反応する『探知の粉』とか。どっちにしろ、厄介な代物だ。こっちの魔力妨害フィールドを突破しようとしてるか、あるいは、ダンジョンの防御機構を探ろうとしてるんだろうな。」
「なるほどな…相手も、ただ偵察しているだけではない、ということか。」
ロザリア(であろう敵)は、こちらの防御を探り、弱点を見つけ出そうとしている。このまま放置すれば、いずれ本格的な攻撃や侵入を仕掛けてくる可能性が高い。
「コア、魔力妨害フィールドの出力を一時的に上げ、インプが撒いた粉の効果を無力化できないか? 副作用として、こちらの魔力消費が増えるのは覚悟の上だ。」
『可能です。フィールド強度をレベル3(一時的)に引き上げます。DP消費は増加しますが、低レベルの探知系アイテムの効果は大幅に減衰させられるでしょう。』
「よし、実行しろ。それと、ゴブジには、インプが粉を撒いた地点を特定させ、サンプルを回収するように指示。どんな粉か分析できれば、相手の狙いが分かるかもしれん。」
『了解しました。』
情報戦は、ますます高度化していく。相手の動きを読み、先手を打つ。まるで、チェスか、あるいはサイバー攻撃の応酬のようだ。負けるわけにはいかない。
ダンジョン内部では、明後日に迫ったガルバス会長との会談に向けて、最終準備が進められていた。
工房では、ゴブジが最後の仕上げとして、交渉用の見栄えの良いミスリルインゴットを数本、丁寧に磨き上げていた。
訓練スペースでは、ゴブキチがスケルトン部隊(補充して10体体制にした)と共に、警備用の最終フォーメーションを確認している。オークのオーキチとオーゾウも、条件反射訓練の成果で、なんとか「待て」と「進め」くらいはできるようになった。彼らは、会談場所から離れた場所で待機させ、万が一の際の「最終兵器」として温存する予定だ。
リナは、ミリアと共に、会長に渡す手作りの(?)お守りのようなものを作っていた。ミリアが描いた絵を、リナが魔法でささやかな祝福を込めて加工したものだ。交渉の場で、少しでも和やかな雰囲気を作るための小道具として、俺が提案したものだった。
そして、俺とコアは、コア安置室で、会談の最終シミュレーションを行っていた。会長の想定される質問、それに対する回答、交渉の落とし所、そして、万が一交渉が決裂した場合のプランB、プランC…。
「…これで、準備は万全、のはずだ。」
俺は、シミュレーション結果を最終確認し、頷いた。
「はい、マスター。あとは、明後日を待つだけですね。」
コアが、俺の隣で静かに微笑む。その表情には、信頼と、そしてわずかな不安が入り混じっているように見えた。
「ああ。この会談が成功すれば、俺たちの計画は大きく前進する。」
俺は、窓の外(もちろんダッシュボード上の仮想ウィンドウだ)に広がる、まだ見ぬ地下二階層のイメージを思い描いた。水が流れ、霧が立ち込め、巧妙な罠が侵入者を待ち受ける、戦略的なフロア。それを実現するためのDPが、もうすぐ手に入るかもしれないのだ。
だが、同時に、胸の奥には一抹の不安も残っていた。
ガルバス商会との繋がりは、俺たちを外部世界へと引きずり出す。それは、ロザリアのような敵対的な存在の注意を、さらに引くことになるかもしれない。
内なる進化と、外なる脅威。
安定と、変化。
チャンスと、リスク。
俺のダンジョンは、今、その狭間で、次なるステージへと進もうとしている。
「まあ、どんな問題が起きても、一つずつ解決していくしかないさ。俺には、お前という最高のパートナーがいるんだからな。」
俺は、隣に立つコアの肩に、軽く手を置いた。
「…! は、はい! マスター!」
コアは、顔を真っ赤にして、しかし力強く頷いた。
その反応が、なんだかとても愛おしく思えた。
運命の会談前夜。
俺は、進化したコアという頼もしい存在を傍らに感じながら、静かに決意を固めていた。
どんな困難が待ち受けていようとも、俺はこのダンジョンを、俺の理想とする「ホワイト」な場所へと導いてみせる。
そして、そのためならば、どんなリスクも取る覚悟はできていた。
全ては、この異世界で、俺自身の「最適解」を見つけ出すために。
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