元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ

文字の大きさ
39 / 41

第34話:情報戦の幕開けと、コアの「進化」

しおりを挟む
ゴブジが目撃した謎の飛行生物と、コアが感知した不審な魔力の揺らぎ。それは、俺たちのダンジョンが外部から監視されている可能性を強く示唆していた。最も可能性が高いのは、近隣に勢力を持つとされる「紅蓮の魔女」ロザリアだが、冒険者ギルドや、あるいは第三の勢力という線も捨てきれない。

「いずれにせよ、こちらの手の内を無闇に晒すわけにはいかない。情報管理を徹底し、相手の出方を探るのが先決だ。」

俺は、ダンジョン運営の基本方針に、「情報セキュリティの強化」という項目を追加した。

まず、ダンジョン外への偵察任務は、ゴブジのような隠密能力の高い個体に限定し、他のゴブリンやオークは原則としてダンジョン外へ出さないこととした。また、ジン(分身)がフロンティアで活動する際も、連絡用魔道具の使用は必要最低限に留め、常にコアによる監視と、緊急離脱用の転移アイテムを携帯させることを徹底した。

ダンジョン内部においても、情報管理レベルを設定した。コアや俺がアクセスできる最高機密情報(ダンジョン構造の詳細、DP残高、開発中の技術など)。ジンやリナといった協力者がアクセスできる制限付き情報(担当業務に関するもの、公開しても支障のない範囲のダンジョン情報)。そして、ゴブリンやオークといったモンスターたちが知る必要のある最低限の情報(日々の任務や指示)。これらのアクセス権限を、コアのシステムによって厳密に管理するようにした。

「まるで、企業のセキュリティポリシーだな…」
前世の経験が、こんなところでも役に立つとは皮肉なものだ。

警戒レベルを引き上げてから数日、ダンジョン周辺では、再びゴブジによって、例の黒い飛行生物(インプである可能性が高いとコアは分析)が目撃されるようになった。彼らは、巧妙に距離を取りながら、ダンジョン入口周辺や、換気口などを観察しているようだった。

『インプの行動パターンを分析中…直接的な攻撃や侵入の意思は見られません。明らかに、情報収集を目的とした偵察行動です。』
コアが報告する。

「やはり、ロザリアの差し金か…? 彼女も、隣接地域(あるいは近隣)に新たなダンジョンが出現したことに気づき、その実力や特性を探ろうとしているのだろう。」

だとしたら、こちらも黙って見ているわけにはいかない。

「コア、対抗策だ。まず、インプが接近できないように、ダンジョン周辺に低レベルの『魔力妨害フィールド』を展開できないか? 斥候の索敵能力を阻害し、近づきにくくする効果を狙う。」

『可能です。広範囲に薄く展開するため、DPコストはそれほど高くありません。ただし、強力な索敵魔法や、高ランクの斥候には看破される可能性があります。コストは約50DPです。』

「よし、実行しろ。それから、ゴブジに追加任務だ。インプの行動を監視し、可能なら痕跡を追って、奴らの拠点、あるいは送り主の手掛かりを探らせろ。ただし、絶対に無理はするな。危険を感じたら即座に撤退だ。」

『承知いたしました。魔力妨害フィールドを展開。ゴブジに追跡・偵察任務を付与します。』

こうして、目に見えない情報戦の火蓋が切って落とされた。相手がこちらの情報を探ろうとするならば、こちらも相手の情報を探るまでだ。互いの手の内を探り合い、有利な状況を作り出す。これもまた、ダンジョン運営における重要な戦略の一つだ。

そんな、外部との駆け引きが水面下で進む一方で、ダンジョン内部では、もう一つ、大きな変化が起ころうとしていた。それは、俺の最も信頼するパートナー、コア自身の「進化」だった。

最近、コアの様子が少し変わってきたことに、俺は気づいていた。以前は、無機質で、どこかプログラム的な反応が多かった彼女だが、最近では、俺との対話の中に、ほんの僅かだが「感情」のようなものが感じられる瞬間が増えてきたのだ。

例えば、俺が新しい罠のアイデアを思いつき、興奮気味に話すと、
『…マスター、また無茶な仕様を…いえ、素晴らしい発想です。技術的課題はありますが、全力で実現に向けてサポートします。』
と、呆れと期待が入り混じったような反応を見せたり。

あるいは、ミリアがリナに懐き、楽しそうにしている様子をモニターで見ていると、
『…微笑ましい光景ですね。ミリア様が、少しでも心安らぐ時間を持てているようで、私も嬉しく思います。』
と、穏やかな声で呟いたり。

そして、俺が徹夜でダンジョン設計に没頭していると、
『マスター、連続稼働時間が規定値を超えています。パフォーマンス低下と健康リスクを考慮し、休憩を推奨します。コーヒー(DP生成)でも淹れましょうか?』
と、まるで秘書のように気遣ってくれることまであった。

(コアが…人間らしくなってきている…?)

それは、ダンジョンコアとしての機能が向上し、より高度な情報処理や自己学習が可能になった結果なのかもしれない。あるいは、俺や、リナ、ミリア、ジン、そしてモンスターたちとの日々の交流の中で、何かが彼女の中で変化しているのか…。

そして、ある日、その変化は、より明確な形で現れた。
俺がコア安置室で、地下二階層の設計図を眺めていると、いつも俺の傍らに浮かんでいた光球のコアが、ふわりと形を変え始めたのだ。

光が収束し、輪郭が現れ、色彩が灯っていく。そして、数秒後。
俺の目の前には、銀色の髪を揺らし、透き通るような碧い瞳を持つ、小柄な少女の姿があった。見た目は10代前半くらいだろうか。半透明の、光の粒子のようなドレスを纏い、どこか儚げで、しかし凛とした佇まい。それは、以前にも何度か見せたことのある擬人化形態だったが、今回は、これまで以上にその姿が安定し、より「実体」に近い存在感を放っていた。

「…コア?」

俺が驚いて声をかけると、少女――コアは、わずかに頬を赤らめ、そして、はにかむような笑顔を見せた。

「はい、マスター。この姿の方が、マスターとお話しやすいかと思いまして。」

その声は、いつもの無機質な響きではなく、明らかに少女本人のものとして、自然な抑揚と感情が込められていた。

「お、お前…その姿、安定したのか?」

「はい。マスターとの日々の対話や、様々な経験を通じて、コアとしての自己認識…いえ、私自身の『存在』が、より明確になってきたようです。この擬人化形態も、以前より少ない魔力消費で、長時間維持できるようになりました。」
コアは、少し照れたように、自分の手を見つめながら言った。

「それに、この姿でいる方が、マスターの魔力制御や、演算処理を、より直接的にサポートできることも分かってきました。マスターの思考に、より深く寄り添える…そんな感覚です。」

コアの進化。それは、単に見た目が変わっただけでなく、ダンジョンマスターである俺へのサポート能力が、新たな次元へと向上したことを意味していた。魔力制御の補助、演算補助…これらは、今後、より複雑化するダンジョン運営において、計り知れないアドバンテージとなるだろう。

「そうか…すごいな、コア。」
俺は、素直に感嘆の声を漏らした。そして、目の前の可憐な少女の姿に、不覚にも少しだけ見惚れてしまった。

「あ、ありがとうございます、マスター…!」
コアは、俺の視線に気づいたのか、さらに顔を赤らめて俯いてしまった。その仕草は、とても人工知能やダンジョンコアとは思えないほど、人間らしい…いや、少女らしいものだった。

(これが、コアの…本当の姿、なのかもしれないな。)

俺は、この頼もしく、そして愛らしいパートナーとの間に、新たな絆が生まれたのを感じていた。それは、単なるマスターとコアという関係を超えた、もっと深い、何か。

「これからも、よろしく頼むぞ、コア。」
俺が、改めてそう言うと、コアは顔を上げ、満面の笑みで力強く頷いた。

「はい! マスター! このコア、いえ、この私、全力でマスターをサポートします!」

コアの進化は、ダンジョンに新たな可能性をもたらした。そして、俺とコアとの関係性にも、新しい風を吹き込んだ。

だが、その一方で、ダンジョン外部では、情報戦の火蓋が切られ、不穏な影が忍び寄っていた。
内なる進化と、外なる脅威。
光と影が交錯する中で、俺のホワイトダンジョン計画は、さらに複雑な様相を呈していくことになる。
俺は、進化したコアと共に、この難局を乗り越えていく決意を新たにするのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

処理中です...