異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第66話:反乱の狼煙

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春の柔らかな日差しが王都の石畳を暖かく照らしていた。市場には活気のある声が響き、人々は冬の終わりと新しい季節の到来を謳歌しているように見えた。
だがその平和な日常の薄皮一枚下では、王国を根底から揺るがす巨大な嵐が刻一刻とその勢力を増していた。
アシュフォードの屋敷は、もはや司令部そのものだった。
壁には巨大な王国地図が張り巡らされ、そこには反乱の可能性のある貴族たちの領地に赤い印がいくつも付けられている。電信機はクラウスの執務室と直接繋がり、途切れることなく最新の情報をもたらし続けていた。
「来たわ」
エリアーナが解読を終えたばかりの電信文を手に、険しい表情で俺の元へ駆け込んできた。
その短い一文が全ての始まりを告げていた。
『東部トリスタン伯爵、蜂起。周辺十二貴族、これに同調。「奸臣リオを討ち、王権を正す」との檄文を各地に発布』
ついに反乱の狼煙が上がったのだ。
予期していたことだった。だが実際にその報せを突きつけられると、ずしりと重い現実が部屋の空気を圧し潰すようだった。
立て続けに、電信機がけたたましい音を立て始める。
『反乱軍、東部最大の都市パールを無血占領!』
『国境警備隊の一部、反乱軍に寝返る!』
『反乱軍の総兵力、一万二千を突破。王都への進軍を開始!』
次々と飛び込んでくる絶望的な報せに、司令部に詰めていた者たちの顔がこわばっていく。
反乱軍の勢いは俺たちの想像を遥かに超えていた。帝国の潤沢な資金援助と最新の武具の供与。それが雪だるま式に彼らの兵力を膨れ上がらせていたのだ。彼らはもはや単なる烏合の衆ではない。明確な目的とそれを支える兵站を持った本物の軍隊だった。

同じ頃、王城の会議室も重苦しい雰囲気に包まれていた。
「なんということだ! あの裏切り者どもめ!」
国王アルベール三世は玉座で拳を叩きつけ、怒りを露わにした。
だがその怒りは、すぐに深い憂慮へと変わっていく。
「クラウス、現状を報告せよ」
「はっ」
クラウスは冷静な声で各地から集まった情報を分析し、報告を始めた。
「反乱軍の進軍速度は予想以上です。彼らは主要な街道を確保しながら一切の略奪行為を行わず、規律を保って進軍しています。これは民衆の支持を得るための計算された行動でしょう」
「小賢しい真似を」
「彼らの掲げる大義名分は、あくまで『奸臣リオの誅伐』。陛下に弓を引く意思はないと公言しています。これにより日和見派の貴族たちが反乱軍に同調するのを躊躇しているのが唯一の救いです」
クラウスは地図を指し示した。
「問題は王都です。マリウス公爵とヴァイス伯爵は病と称して屋敷に閉じこもったままですが、彼らが水面下で王都内の不満分子を扇動しているのは間違いありません。反乱軍が王都に到達した時、内部から呼応する者が出れば我々は挟み撃ちにされる危険性があります」
国王は苦渋の表情で頷いた。
「……リオ・アシュフォードは何と?」
「彼は冷静です」とクラウスは答えた。「すでに王都防衛のための具体的な作戦をいくつか提案してきています。彼の頭脳こそがこの国難における我々の最大の武器となりましょう」
「うむ……」
国王は深く息を吸い込むと、決然とした声で命じた。
「全軍に伝えよ! 王都に戒厳令を敷き、防衛体制を固めよ! そしてクラウス、そなたはリオ・アシュフォードと緊密に連携し、この国難を乗り切れ! 全権はそなたに委ねる!」
「御意」
クラウスは静かに頭を下げた。彼の双肩に王国の全ての運命が託された瞬間だった。

王都にけたたましく鐘の音が鳴り響き、戒厳令が発令された。
市民は、ようやく自分たちの足元で戦争が始まろうとしていることを知った。街は一瞬にしてパニックに陥った。食料を買い占めようとする人々が店に殺到し、王都から逃げ出そうとする者たちで城門はごった返した。
俺たちの屋敷の前には、アシュフォードから鉄道で到着した精鋭三百名が整然と隊列を組んでいた。彼らは王都の混乱をよそに微動だにせず、俺の命令を待っている。その規律の取れた姿は、不安におののく王都の市民たちにわずかな安心感を与えているようだった。
バルガスが俺の元へ駆け寄ってきた。
「リオ様、兵士たちの準備は万端です。新型ライフルもカノン砲も、いつでも使えます」
その顔には決戦を前にした武人の凄まじい気迫が満ちていた。
「分かった。国王軍の指揮官と合流し、指定された防衛地点へ移動しろ。だが決して深入りはするな。俺たちの本当の戦場はここではない」
「はっ!」

その夜、俺はエリアーナと共に司令部で最後の作戦会議を行っていた。
「反乱軍の補給線は、予想通り東部の街道に集中しているわ」
エリアーナが地図に赤い線を書き込みながら言う。「彼らは数が多い分、消費する食料も膨大よ。この補給線を叩くことができれば、あるいは……」
「いや、今はその時じゃない」
俺は彼女の提案を退けた。「敵は俺たちが補給線を狙うことを当然警戒しているはずだ。下手に手を出せば返り討ちに遭うだけだ」
俺は地図の一点、王都の東に広がるグラウ平原を指で強く叩いた。
「俺たちの戦場はここだ。ここで敵の主力を一気に叩き潰す。それ以外にこの戦争を早期に終わらせる方法はない」
その作戦は、あまりにも大胆で危険な賭けだった。
エリアーナは俺のその狂気とも思えるほどの自信に何かを言おうとしてやめた。彼女はただ、俺を信じることを選んでくれた。
「……分かったわ。あなたが好きになさい。私は私の戦場であなたの勝利を支えるだけよ」

決起の狼煙が上がってから五日が過ぎた。
反乱軍の先鋒部隊がついに、王都からわずか三日の距離にある最後の砦を陥落させたという報せが電信によってもたらされた。
もはや王都との間を遮るものは何もない。
俺は屋敷の屋上から東の空を見つめた。
夕焼けの赤い光が、まるで戦火の炎のように地平線を染め上げている。
あと三日。
三日後にはこの王都は一万を超える大軍に包囲されることになるだろう。
王国の運命を決する最大の戦いが、もうすぐ始まろうとしていた。
俺は静かに、しかし激しく燃え盛る闘志を胸の奥に感じていた。
「……始めようか」
俺は誰に言うでもなく呟いた。
「俺たちの、戦争を」
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