異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

文字の大きさ
80 / 118

第82話:株式会社と証券取引所

しおりを挟む
プロジェクト・ミネルヴァが本格的に始動し、王国はかつてない規模の建設ラッシュに沸いていた。
全国に伸びる鉄道網、主要都市に建設される工場群、そして王都で始まった大学の拡張工事。そのどれもが、国家の未来を形作る重要な事業だった。
だが、その壮大な計画は一つの大きな壁にぶつかりつつあった。
資金だ。
内乱で没収したマリウス公爵らの財産や、国王直轄の鉱山からの収益だけでは、この巨大すぎるプロジェクトの費用を全て賄うことは、もはや不可能になりつつあったのだ。

「……厳しいわね」
アシュフォード商会の王都本店、エリアーナの執務室で、彼女は分厚い帳簿の束を前に深いため息をついた。
「このままでは、あと半年もすれば国家予算は完全に底をつくでしょう。計画の規模を縮小するか、あるいは国民に重税を課すしかない。どちらにしても、民衆の不満を招き、改革そのものが頓挫しかねないわ」
その顔には、辣腕経営者としての初めて見る焦りの色が浮かんでいた。
俺は、そんな彼女を見て静かに一つの提案をした。
「エリアーナ。金がないなら、集めればいい」
「集めるですって? どうやって? これ以上、国庫から絞り出すことはできないのよ」
「国からじゃない。民からだ」
俺の言葉に、エリアーナは眉をひそめた。「それは、増税と同じことではないの?」
「違う。これは、税じゃない。『投資』だ」
俺は、この世界にはまだ存在しない、全く新しい資金調達の仕組みを彼女に説明し始めた。
「例えば、ここに新しい製鉄所を建設する計画があるとする。建設には莫大な金が必要だ。だが、完成すればそれ以上の莫大な利益を生み出すことが期待できる」
俺は、羊皮紙に簡単な図を描いた。
「この『未来の利益』を担保にするんだ。製鉄所という事業そのものを小さな権利に分割して、それを『株』という名前で人々に売り出す。株を買った人間は、その事業の共同出資者、つまり小さなオーナーになる」
「オーナーに……?」
「そうだ。そして、事業が成功し利益が上がれば、その利益の一部を株の保有率に応じてオーナーたちに『配当』として分配する。もし、事業がもっと大きく成長すれば、株そのものの価値が上がり、買った時よりも高い値段で他の人に売ることもできる」
株式会社。
そして、株式投資。
それは、リスクを多くの人々に分散させ、同時に多くの人々から巨大な資本を集めることを可能にする、資本主義の根幹をなす偉大な発明だった。
エリアーナは、初めはきょとんとしていたが、俺の説明を聞くうちにその瞳が次第に熱を帯びていくのが分かった。彼女の商人としての血が、この新しい仕組みの革命的な可能性を即座に理解したのだ。
「……信じられない」
彼女は震える声で呟いた。「つまり、事業の成功を信じる人々が、自らの意思でその夢に『お金を託す』ということ……。そして、成功すればその見返りを得られる。それはもはや単なる金儲けではないわ。未来を皆で創り上げるための共同作業じゃない!」
「その通りだ」
俺は満足げに頷いた。「国民はもはや単なる納税者ではない。国の発展に直接参加する『株主』になるんだ。国の成功が自分自身の利益に繋がる。そうなれば、国全体にこれまでにないほどの活気と一体感が生まれるはずだ」

エリアーナの行動は早かった。
彼女は、俺が考案した株式会社の制度をクラウスと協力して、法的な枠組みへと落とし込んでいった。会社の設立方法、株の発行ルール、そして投資家を保護するための厳格な情報開示の義務。
そして、その数ヶ月後。
王都の商業地区の中心に、荘厳な石造りの建物がその姿を現した。
その正面には、金色の文字でこう刻まれている。
『王立証券取引所』と。

取引所の開所式の日。
集まったのは、王都の富裕な商人たち、新しい時代の波に乗ろうとする意欲的な貴族たちだった。彼らはまだ半信半疑ながらも、アシュフォード公爵と辣腕で知られるエリアーナが進める新しい計画に強い興味を抱いていた。
取引所のホールには巨大な黒板が設置され、そこにはいくつかの会社の名前がチョークで書き出されていた。
『王立鉄道会社』
『王都製鉄株式会社』
『アシュフォード海運商会』
これらは、プロジェクト・ミネルヴァの中核をなす最初の「株式会社」として、国が設立したモデルケースだった。
エリアーナは壇上に立つと、集まった人々に向かって力強く宣言した。
「皆様! 本日、この王国に新しい経済の時代が幕を開けます! もはや、富は一部の人間が独占するものではありません! 未来を信じ、その未来に投資する全ての者に、富を得るチャンスが開かれるのです!」
彼女の言葉に、会場は熱気に包まれた。
鐘の音と共に、最初の取引が開始される。
「鉄道会社株、一枚金貨十枚より!」
「買いだ! 百株買う!」
「いや、俺は二百だ!」
人々の欲望と未来への期待が渦を巻く。
株価はみるみるうちに上昇していった。人々は自分たちのお金が、ただの数字ではなく、国を走る鉄道や鉄を生み出す工場という具体的な未来に変わっていくのを目の当たりにしていた。
それは熱狂的な、しかし健全な投資熱の始まりだった。
たった一日で取引所に集まった資金は、国家予算の数ヶ月分に匹敵するほどの莫大な額に達した。
プロジェクト・ミネルヴァは、枯渇しかけていた資金という血液を得て、再び力強く脈打ち始めたのだ。

その日の夜、取引所の最上階にあるエリアーナの新しい執務室で、俺たちは眼下に広がる活気に満ちた王都の夜景を眺めていた。
「……やったわね、リオ」
エリアーナが満足げに呟いた。「あなたはまたしても、この国の常識を根底からひっくり返してしまった」
「あんたの手腕のおかげさ。俺はアイデアを出しただけだ。それを現実の形にしたのは、君の力だよ」
俺たちの間には、もはやビジネスパートナーという言葉だけでは表せない、深い信頼と同志としての絆が確かに存在していた。
株式会社と証券取引所。
それは単なる資金調達の手段ではなかった。
それは、この国に住まう全ての人々を、国の発展という一つの大きな物語の当事者へと変えるための壮大な仕掛けだったのだ。
経済がダイナミックに動き始める。
その力強い鼓動は、北の帝国との来るべき決戦に向けて、この国を内側からさらに強く、さらに豊かに鍛え上げていくことになるだろう。
俺たちの革命は、また一つ大きな歯車を未来へと向けて力強く回し始めたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第2巻発売中です!】 逞しく成長したリューク、そしてジーナ、ユフィオ、キスティーが大活躍します! 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【書籍第3巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。アニスもレムも超カワで、表紙もカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【2024年10月23日コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。 そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。 両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。 気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが…… 主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

処理中です...