異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第84話:首都に光が灯る日

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識字率革命が、静かに、しかし確実に国力を底上げしていく一方で、俺の研究開発はついに次のステージへと到達しようとしていた。
王立魔導科学大学の研究室で、俺たちが生み出した小さな光。
電灯。
それをただの実験室の奇跡で終わらせるつもりは、俺には毛頭なかった。
この光を、王都へ。いや、この国の全ての夜へと解き放つ。
電力革命の本格的な幕開けだ。

「……リオ、本気で言っているのか?」
クラウスは、俺が提出した新しいプロジェクト計画書を手に、信じられないという顔で俺を見ていた。
その計画書の名は、『王都電力供給計画』。
「王都の郊外に大規模な『発電所』を建設する。そこで魔導蒸気機関を使い、巨大な発電機を二十四時間回し続けるんだ。生み出された電力は銅線を伝って王都中に送られ、主要な施設やメインストリートに設置された電灯を、一斉に灯す」
その構想は、もはやSFの領域だった。
「馬鹿げている! そんな巨大な施設、どうやって建設するというのだ! そもそも、その『電気』とやら、本当に安全なものなのか? 下手をすれば、王都を丸ごと焼き尽くす大火事を引き起こしかねんぞ!」
クラウスの懸念はもっともだった。未知のエネルギーに対する人々の恐怖は根強い。
「安全性は俺が保証する」
俺はきっぱりと言った。「ヒューズやブレーカーといった安全装置の設計は、すでに完了している。火事の危険性は、そこら中の家で使われている蝋燭やランプの方がよほど高い」
そして、俺は国王とクラウスを大学の研究室に招いた。
俺は彼らの目の前で一つの実験を見せた。
小さな発電機と一本の電灯。そして、その間に小さな水車を設置する。
発電機を回し、電灯を灯す。
そして、その電力の一部を使い小さなモーターを回し、その力で水車を回転させ水を汲み上げてみせたのだ。
光と動力。
電気がその二つの奇跡を、同時に、そしてクリーンにもたらすことを、俺は彼らの目の前で実証してみせた。
国王アルベール三世は、その光景に完全に魅了されていた。
「……美しい」
彼は、まるで魔法でも見るかのように静かに輝く電灯を見つめながら呟いた。「これはただの明かりではない。我が王国の新しい時代の象徴となる光だ」
国王のその一言で全ては決まった。
王都電力供給計画は、国家の威信を賭けた最重要プロジェクトとして承認されたのだ。

発電所の建設は、アシュフォードの技術の集大成となった。
改良に改良を重ねられた最新鋭の魔導蒸気機関が、心臓部として設置される。
俺の弟子たちが設計した巨大な発電機が、その隣に鎮座する。
そして王都の地下には、まるで巨大な蜘蛛の巣のように絶縁処理を施された銅線のケーブルが張り巡らされていった。
メインストリートには、アシュフォード鋼で作られた美しい装飾の施された街灯が等間隔で設置されていく。
王都の市民たちは、自分たちの街が日に日に見たこともない姿へと変わっていくのを、期待とそして少しの不安を込めて見守っていた。
『夜がなくなるらしい』
『悪魔の光が街を照らすそうだ』
様々な噂が飛び交った。

そして建設開始から半年後。
ついに王都に最初の光が灯る日がやってきた。
その日は王国の建国記念日に合わせて、一大イベントとして執り行われた。
メインストリートには、王都中の人々が集まり、歴史的な瞬間を固唾をのんで見守っている。
国王陛下と俺、そしてこのプロジェクトに関わった全ての人間が、王城のバルコニーに設けられた特設のステージに立っていた。
夕闇がゆっくりと街を包み込んでいく。
やがて、辺りが完全に闇に沈んだその時。
国王アルベール三世が、高らかに宣言した。
「我が愛する民よ! 今宵、我らの王都は新しい光に包まれる! 古き時代の闇は終わりを告げたのだ!」
国王は、俺の隣に設置された黄金のスイッチにゆっくりと手を伸ばした。
そして力強く、それを押し込む。

次の瞬間。
世界は、変わった。

王城の壁面に取り付けられた数百の電灯が、一斉に眩いほどの光を放った。
その光は、波のようにメインストリートに設置された街灯へと伝播していく。
一本、また一本と、闇の中に光の道がどこまでも伸びていく。
これまでの頼りない蝋燭やガス灯の光とは比較にならない。
まるで昼間が戻ってきたかのような、圧倒的な光量。
闇は完全に駆逐された。
王都は、魔法ではない「電気の光」によって、天上の奇跡のように白く明るく照らし出されたのだ。
広場を埋め尽くしていた人々は、最初そのあまりの眩しさに目を細め、言葉を失っていた。
だがやがて、その静寂は一人の子供の純粋な歓声によって破られた。
「わあ! 明るい!」
その声が引き金だった。
次の瞬間、王都は建国以来最大の地鳴りのような大歓声に包まれた。
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
「光だ! 本当に夜が昼になったぞ!」
「なんて美しいんだ……!」
人々は抱き合い、涙を流し、天に掲げられた人工の太陽をただただ熱狂と感動の目で見上げていた。
それは、恐怖の対象だった「悪魔の光」が、希望の光へと変わった瞬間だった。

俺はバルコニーの上から、その熱狂の渦を静かに見下ろしていた。
隣に立つエリアーナの目にも、シルフィの目にも、美しい光の反射がキラキラと輝いている。
国王は感動に打ち震えながら、俺の手を力強く握りしめた。
「……やったな、リオ公爵。そなたは本当に、この国に新しい太陽をもたらしてくれた」
俺は何も言わずに、ただ頷いた。
この光は始まりに過ぎない。
俺たちの本当の革命は、この光の先にある新しい時代の闇を照らし出すことから始まるのだから。
首都に光が灯った日。
それは、王国の歴史が中世の闇から近代の光へと、大きくそして決定的に踏み出した記念すべき一日として、永遠に記憶されることになった。
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