異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第106話:新たなる誓い

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凱旋の熱狂が過ぎ去り、王都が日常を取り戻し始めた頃、俺は自らの公爵としての執務室で、一つの新しい計画書を作成していた。
それは、鉄道網の延伸計画でも、新しい工場の建設計画でもない。
ガルニア帝国との戦争で、心と体に深い傷を負った兵士たちのための、総合的な支援計画だった。
戦争の代償は、死者の数だけでは測れない。
生き残った者たちの中にも、戦争は消えない傷跡を残していく。
手足を失った者、心を病んだ者、そして故郷に帰っても社会に馴染めず、居場所を失ってしまう者。
俺は彼らを見捨てるつもりは毛頭なかった。
国のために戦った者たちを、使い捨ての駒のように扱う国に未来はない。
彼らが再び誇りを持って社会の一員として生きていける道を創り出すこと。
それこそが、この戦争を本当の意味で終わらせるための、俺の最後の、そして最も重要な責務だと考えていた。

俺はエリアーナ、クラウス、そして医学部の代表者たちを執務室に集めた。
そして、俺が立案した『帰還兵支援法案』の骨子を説明し始めた。
「第一に、戦傷を負った全ての兵士に対し、国が生涯にわたる医療支援と生活保障を提供する。『義肢研究所』を設立し、失われた手足に代わる最新の義手や義足を無償で提供する」
俺は、アシュフォード鋼と精密な歯車の技術を応用した可動式の義肢の設計図を広げた。
「第二に、心の傷、すなわち我々が『戦争神経症(シェルショック)』と呼ぶ目に見えない病に苦しむ兵士たちのために、専門の療養施設とカウンセリング制度を設立する」
「そして、第三に最も重要なことだ。全ての帰還兵に対し、彼らの新しい人生を再設計するための職業訓練と就労支援を、国が全面的に行う」
俺は力強く宣言した。
「彼らはもはやただの兵士ではない。鉄道の機関士として、工場の技術者として、あるいは新しく生まれる産業の担い手として。この国の復興とさらなる発展のための最も貴重な人材なのだ。我々は、彼らの第二の人生に投資するんだ」
その計画は、この世界の誰もが考えたこともなかった、あまりにも先進的で人道的なものだった。
負傷した兵士は用済みとして社会の片隅に追いやられるのが当たり前の時代だったからだ。
エリアーナとクラウスは、俺のその計画の本当の意味を即座に理解した。
これは単なる福祉政策ではない。
これは、戦争という最大の破壊行為から、未来を創造するための人材を生み出すという高度な国家戦略なのだ。
「……素晴らしいわ」
エリアーナが心の底から感嘆の声を漏らした。「これなら兵士たちは真に報われる。そして国はさらに強く、豊かになる。完璧な計画よ」
クラウスもまた、深く頷いた。
「……リオ殿。あなたはやはり、我々の百年先を歩いておられるようだ」

法案は国王の絶対的な支持のもと、異例の速さで可決された。
王都の郊外には、最新の医療設備を備えた広大な帰還兵のための総合病院が建設され始めた。
大学には義肢工学と臨床心理学という新しい学部が設立された。
そして、その計画の実行責任者として、俺は一人の男に白羽の矢を立てた。
バルガスだ。
「俺に、ですかい?」
士官学校の校長室で、バルガスは俺からの突然の指名に驚きの声を上げた。
「ああ。あんたしかいない。あんたは誰よりも兵士たちの痛みと誇りを理解しているはずだ。彼らを再び社会の光の中へと導いてやってほしい」
バルガスはしばらく黙り込んでいた。
彼は不器用な男だ。だが、その心根は誰よりも温かく、そして誠実だ。
やがて、彼は決意を固めたように顔を上げた。
「……分かりました。このバルガス、リオ様より賜ったこの大役、我が生涯最後の仕事として全霊を以て務めさせていただきます」
その目には、新しい、そして何よりもやりがいのある戦場へと赴く、武人の静かな覚悟が宿っていた。

そして俺は、俺自身の新たなる誓いを立てるために、一人の少女の元を訪れていた。
王立魔導科学大学、シルフィの研究室。
彼女は戦争で得られた様々なデータを元に、マナというエネルギーの平和的な利用法について研究を再開していた。
「……リオ」
俺の姿を認めると、彼女は少し寂しそうな顔で微笑んだ。
戦争中、彼女は空から誰よりも多くの死と破壊をその目に焼き付けてきた。その心の傷は、まだ完全には癒えてはいないだろう。
俺は彼女の前に静かに向き合った。
そして、俺の新しい決意を告げた。
「シルフィ。俺は誓うよ」
俺のその真剣な声に、彼女はじっと耳を傾けた。
「俺はもう二度と人を殺すための新しい兵器は作らない。俺のこれからの人生の全ての時間を、俺の持つ全ての知識を、人を豊かにするためだけに注ぎ込む、と」
それは戦争の罪を一身に背負った俺が、俺自身に課した贖罪の誓いだった。
俺のその言葉を聞いたシルフィの翡翠色の瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。
だが、その顔には悲しみではなく、心の底からの安堵の笑みが浮かんでいた。
「……うん」
彼女はこくりと頷いた。「私も手伝う。リオと一緒に。私のこの力も、もう誰も傷つけない。人を幸せにするためだけに使うって、私も誓うよ」
俺たちの新たなる誓い。
それは、戦争という巨大な悲劇の瓦礫の中から生まれた、小さな、しかし何よりも尊い希望の光だった。
俺の目標は、戦争の克服とより豊かな世界の創造へと明確にシフトした。
その途方もなく遠いゴールへと向かう新しい旅が、今、この瞬間から始まろうとしていた。
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