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第8話:スキル成長限界バグ? 異常な成長速度
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ゴブリンの洞穴からリューンの町へ戻った俺は、まず冒険者ギルドへ直行した。目的は、戦利品であるゴブリンの耳の換金だ。カウンターで袋いっぱいの耳(十数対あった)を差し出すと、対応してくれたギルド職員――前回と同じ、眼鏡の女性職員だった――は、一瞬だけ眉を上げたが、特に何も言わずに手際よく検品し、査定してくれた。
「ゴブリンの耳、14対ですね。状態は良好。一体あたり銅貨2枚、合計で銅貨28枚になります」
差し出された銅貨を受け取る。銅貨28枚。大金ではないが、ポーション代や宿代の足しにはなる。何より、自分の力(とスキルのバグ利用)で稼いだ初めてのまともな収入だと思うと、感慨深いものがあった。
「ありがとうございます」
礼を言ってギルドを後にする。換金した銅貨を革袋に入れながら、俺は今日の成果を反芻していた。壁抜けバグによる臨時収入、そしてAIバグを利用した効率的なゴブリン狩り。初日のダンジョン探索としては、間違いなく成功と言えるだろう。
(この調子でいけば、装備を整え、さらに高ランクの依頼やダンジョンにも挑戦できるようになるかもしれない)
安宿に戻り、相部屋の他の宿泊者に気配りしつつ、俺はベッド(というより藁が敷かれた粗末な寝床)に横になった。身体は疲労しているはずなのに、妙に意識は冴えている。経験値を獲得したことによる高揚感か、あるいは未知のスキルと世界への好奇心か。
翌日、俺は再びゴブリンの洞穴へと向かった。昨日と同じルートを辿り、洞窟へ入る。内部の構造は既に頭に入っている。ゴブリンの出現パターンもある程度把握できた。二日目にして、早くもホームグラウンドのような感覚すら覚え始めていた。
今日もAIバグを利用したヒットアンドアウェイ戦法で、効率的にゴブリンを狩っていく。魔鋼のダガーの扱いにも少し慣れてきたのか、昨日よりもスムーズに敵を仕留められるようになっている気がした。
「グギャ!」
「ギャッ!」
岩陰から飛び出し、一撃。すぐに隠れる。混乱したところを、もう一撃。数分もしないうちに、三匹のゴブリンが骸(むくろ)を晒す。昨日よりも明らかに戦闘時間が短縮されている。
(……明らかに、動きが良くなっている)
身体が軽い。反応速度が上がっている。スタミナも、昨日ほど消耗していない。これは、気のせいではないだろう。レベルアップによる身体能力の向上だ。
経験値を獲得するたびに、脳内に微かな感覚があった。それが積み重なり、ある閾値を超えると、フワリと身体が軽くなるような、あるいは視界がクリアになるような感覚と共に、「レベルアップ」を実感する。明確な通知があるわけではないが、身体の変化がそれを教えてくれる。
その日も、俺は順調にゴブリンを狩り続け、おそらく数回のレベルアップを果たしただろう。体感では、元の世界の自分とは比較にならないほど身体能力が向上しているはずだ。
そんな時、洞窟の少し開けた場所で、別の冒険者パーティーと遭遇した。三人組のパーティーで、おそらく俺と同じFランクか、少し上のEランクくらいだろう。重装備の戦士、弓使いの斥候、そして杖を持った見習い魔法使いといった構成だ。彼らは、ちょうど二匹のゴブリンと交戦している最中だった。
「くそっ、しぶとい!」
戦士が大盾でゴブリンの棍棒を受け止めながら叫ぶ。
「援護しろ! ファイアボールはまだか!?」
「ま、魔力が……! もう少し!」
魔法使いの少年は、必死に呪文を詠唱しているが、なかなか魔法が発動しないようだ。弓使いも牽制射撃をしているが、決定打にはなっていない。
二匹のゴブリン相手に、かなり苦戦している様子が見て取れた。俺が一人で三匹を比較的楽に倒せるようになったのとは、対照的な光景だ。
(あれが、普通のFランク冒険者の戦い方なのか……?)
彼らの動きは、決して下手ではないのだろう。連携も取ろうとしている。だが、攻撃力、防御力、そして魔法の発動速度、どれも俺から見ると、どこか物足りなく感じてしまう。
結局、彼らは数分間の激闘の末、なんとかゴブリン二匹を倒すことができたようだが、戦士は軽傷を負い、魔法使いは魔力切れでぐったりしていた。
「ちっ、ポーション代も馬鹿にならねえな」
戦士が悪態をつきながら、傷口にポーションを振りかけている。
俺は彼らに気づかれないように、その場をそっと離れた。彼らの戦いを見て、確信したことがある。
(俺の成長速度は、明らかに異常だ)
たった二日間のダンジョン探索で、ここまで戦闘能力が向上するのは、普通ではないだろう。壁抜けバグによる装備の強化もあったが、それだけでは説明がつかない。レベルアップの速度、あるいはレベルアップによる能力上昇率が、異常に高いのではないか?
疑問が頭をもたげる。これは、単なる幸運なのか? それとも、ここにも何らかの「バグ」が潜んでいるのだろうか?
(自分自身を、【デバッガー】で調べてみるか……?)
これまで、自分の身体やスキルそのものを対象に【デバッガー】を使うという発想はなかった。だが、この異常な成長の謎を解き明かすには、それしかないかもしれない。
安全な場所まで移動し、俺は試しに自分自身に【情報読取】を使ってみた。
『対象:相馬 譲(ユズル)
分類:人間(転生者)
状態:正常(軽度の疲労)
ステータス:
レベル:??(表示不可:自己解析制限)
HP:??/??(表示限界超過)
MP:??/??(表示限界超過)
筋力:??
耐久力:??
敏捷性:??
魔力:??
器用さ:??
スキル:
【デバッガー】(ユニークスキル) - Lv ??
└ 【情報読取】 - Lv ??
└ 【バグ発見】 - Lv ??
└ 【限定的干渉】 - Lv ??
【剣術(基礎)】 - Lv 2 (New!)
【隠密(低級)】 - Lv 1 (New!)
備考:詳細情報の表示には、より高レベルの【情報読取】能力、または特定の条件が必要です。警告:自己解析は予期せぬ副作用を引き起こす可能性があります。』
「……レベルやステータスの詳細が見えないだと?」
表示された情報に、俺は眉をひそめた。「表示不可」「表示限界超過」という文字が並んでいる。自分のスキルレベルすら分からない。【デバッガー】スキルは、自分自身に対しては制限がかかるのだろうか? あるいは、俺のスキルレベルがまだ低いから?
しかし、収穫もあった。スキル欄に【剣術(基礎)】と【隠密(低級)】が追加されている! いつの間にか習得していたようだ。剣術は訓練場で素振りしたのと、実戦でダガーを使った経験からだろう。隠密は、ゴブリンから身を隠していた行動がスキルとして認められたのかもしれない。レベルはまだ低いが、スキルがあるのとないのとでは大違いだ。これは嬉しい誤算だ。
(だが、肝心の成長速度の謎は解けないままか……ならば)
俺はさらに踏み込み、【バグ発見】を自分自身、あるいはこの世界の「レベルアップシステム」そのものに向けて試みることにした。警告メッセージが気になるが、知的好奇心と、この異常の正体を突き止めたいという欲求が勝った。
(俺の経験値取得、レベルアップ処理、ステータス上昇……どこかに、バグはないか? 本来とは違う動作をしている箇所は?)
これまでで最も強い集中力を要する作業だ。自分の存在そのもの、あるいは世界の根幹システムの一部に干渉しようとしているのだから、当然かもしれない。激しい頭痛と目眩に耐えながら、情報の奔流の中から「歪み」を探し出す。
そして――見つけた。
『……バグ検出:複数件(システム関連)
①【経験値取得補正の異常乗算バグ】
詳細:特定の条件下(転生者?ユニークスキル所持者?詳細不明)において、本来加算されるべき経験値取得に関する補正値が、誤って乗算処理されている。結果、取得経験値が想定の数倍~数十倍に膨れ上がっている可能性。再現性:常時(対象者限定)。影響度:高。
②【レベルアップ必要経験値テーブル参照エラー】
詳細:レベルアップに必要な経験値テーブルを参照する際、稀にエラーが発生し、本来よりも低いレベル帯のテーブルを参照してしまうことがある。結果、レベルアップが通常より容易になっている可能性。再現性:低~中(レベル帯による?)。影響度:中。
③【ステータス上昇値計算式のオーバーフローバグ(潜在的)】
詳細:レベルアップ時のステータス上昇値を計算する内部ロジックに、特定の条件下で数値がオーバーフローし、予期せぬ異常な上昇を引き起こす潜在的なバグが存在する。現時点では未発現、あるいは軽微な影響に留まっている可能性が高いが、高レベル帯において顕在化するリスクあり。再現性:不明。影響度:潜在的に極めて高。
【警告】:これらのシステムレベルのバグは世界の根幹に関わる可能性があります。安易な干渉や悪用は、システム全体の不安定化や、管理者による強制介入(アカウント停止、ペナルティ付与など)を招く危険性があります。最大限の注意を推奨します。』
「……なんだ、これは……」
表示された内容を読み、俺はしばし呆然とした。
経験値が数倍~数十倍? レベルアップが容易に? ステータスが異常上昇する可能性?
まるで、チートコードでも入力したかのような、とんでもないバグのオンパレードだ。
俺の異常な成長速度は、単なる幸運などではなかった。それは、世界のシステムに内在する、深刻な「バグ」の恩恵(?)だったのだ。おそらく、俺が転生者であること、あるいは【デバッガー】というユニークスキルを持っていることが、これらのバグを引き起こすトリガーになっているのだろう。
(これが……俺が人より早く強くなっている理由か)
謎が解けた爽快感と同時に、背筋に冷たいものが走るのを感じた。「スキル成長限界バグ」などと悠長なことを考えていたが、これはもっと根が深く、危険な問題だ。
「管理者による強制介入(アカウント停止、ペナルティ付与など)」という警告文が、特に不気味だ。この世界には、やはり何らかの「管理者」が存在するのだろうか? そして、俺のようなバグ利用者は、いずれ排除される運命にあるのだろうか?
(どうする……? このバグを利用し続けるか? それとも……)
選択肢は二つ。
一つは、この異常な成長を最大限に利用し、誰にも追いつけない速度で強くなること。リスクは高いが、リターンも計り知れない。
もう一つは、目立たないように成長ペースを抑え、システムの監視から逃れること。安全策だが、それではいざという時に力不足になるかもしれない。エムデン村で感じた「魔力汚染」のような脅威に対抗するには、力が必要だ。
(……いや、選択の余地はないか)
俺は元SEだ。バグがあるなら、利用するのが道理だろう。もちろん、リスク管理は徹底する。システムの挙動を監視し、ヤバそうな兆候があればすぐに対応する。だが、このアドバンテージを捨てる手はない。
(ただし、今まで以上に慎重に行動する必要がある。目立ちすぎるのは危険だ)
他の冒険者との比較で異常性が露見したように、人との関わりは慎重にしなければならない。当面は、単独でダンジョンに潜り、効率的にレベルを上げ、スキルを磨くことに集中しよう。
俺は改めて気を引き締め、ダンジョンの奥へと進んだ。
異常な成長速度という、新たな「バグ」を手に入れた(あるいは、その存在に気づいた)俺。それは強力な武器であると同時に、いつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えているようなものだ。
この世界のシステム、そしてその「管理者」に気づかれる前に、俺はどこまで強くなれるだろうか?
そして、この先に待ち受けるであろう、さらなる「バグ」とは――?
期待と不安が渦巻く中、俺はゴブリンの耳を黙々と集め続ける。今はただ、目の前の「経験値」を稼ぐことだけを考えて。
「ゴブリンの耳、14対ですね。状態は良好。一体あたり銅貨2枚、合計で銅貨28枚になります」
差し出された銅貨を受け取る。銅貨28枚。大金ではないが、ポーション代や宿代の足しにはなる。何より、自分の力(とスキルのバグ利用)で稼いだ初めてのまともな収入だと思うと、感慨深いものがあった。
「ありがとうございます」
礼を言ってギルドを後にする。換金した銅貨を革袋に入れながら、俺は今日の成果を反芻していた。壁抜けバグによる臨時収入、そしてAIバグを利用した効率的なゴブリン狩り。初日のダンジョン探索としては、間違いなく成功と言えるだろう。
(この調子でいけば、装備を整え、さらに高ランクの依頼やダンジョンにも挑戦できるようになるかもしれない)
安宿に戻り、相部屋の他の宿泊者に気配りしつつ、俺はベッド(というより藁が敷かれた粗末な寝床)に横になった。身体は疲労しているはずなのに、妙に意識は冴えている。経験値を獲得したことによる高揚感か、あるいは未知のスキルと世界への好奇心か。
翌日、俺は再びゴブリンの洞穴へと向かった。昨日と同じルートを辿り、洞窟へ入る。内部の構造は既に頭に入っている。ゴブリンの出現パターンもある程度把握できた。二日目にして、早くもホームグラウンドのような感覚すら覚え始めていた。
今日もAIバグを利用したヒットアンドアウェイ戦法で、効率的にゴブリンを狩っていく。魔鋼のダガーの扱いにも少し慣れてきたのか、昨日よりもスムーズに敵を仕留められるようになっている気がした。
「グギャ!」
「ギャッ!」
岩陰から飛び出し、一撃。すぐに隠れる。混乱したところを、もう一撃。数分もしないうちに、三匹のゴブリンが骸(むくろ)を晒す。昨日よりも明らかに戦闘時間が短縮されている。
(……明らかに、動きが良くなっている)
身体が軽い。反応速度が上がっている。スタミナも、昨日ほど消耗していない。これは、気のせいではないだろう。レベルアップによる身体能力の向上だ。
経験値を獲得するたびに、脳内に微かな感覚があった。それが積み重なり、ある閾値を超えると、フワリと身体が軽くなるような、あるいは視界がクリアになるような感覚と共に、「レベルアップ」を実感する。明確な通知があるわけではないが、身体の変化がそれを教えてくれる。
その日も、俺は順調にゴブリンを狩り続け、おそらく数回のレベルアップを果たしただろう。体感では、元の世界の自分とは比較にならないほど身体能力が向上しているはずだ。
そんな時、洞窟の少し開けた場所で、別の冒険者パーティーと遭遇した。三人組のパーティーで、おそらく俺と同じFランクか、少し上のEランクくらいだろう。重装備の戦士、弓使いの斥候、そして杖を持った見習い魔法使いといった構成だ。彼らは、ちょうど二匹のゴブリンと交戦している最中だった。
「くそっ、しぶとい!」
戦士が大盾でゴブリンの棍棒を受け止めながら叫ぶ。
「援護しろ! ファイアボールはまだか!?」
「ま、魔力が……! もう少し!」
魔法使いの少年は、必死に呪文を詠唱しているが、なかなか魔法が発動しないようだ。弓使いも牽制射撃をしているが、決定打にはなっていない。
二匹のゴブリン相手に、かなり苦戦している様子が見て取れた。俺が一人で三匹を比較的楽に倒せるようになったのとは、対照的な光景だ。
(あれが、普通のFランク冒険者の戦い方なのか……?)
彼らの動きは、決して下手ではないのだろう。連携も取ろうとしている。だが、攻撃力、防御力、そして魔法の発動速度、どれも俺から見ると、どこか物足りなく感じてしまう。
結局、彼らは数分間の激闘の末、なんとかゴブリン二匹を倒すことができたようだが、戦士は軽傷を負い、魔法使いは魔力切れでぐったりしていた。
「ちっ、ポーション代も馬鹿にならねえな」
戦士が悪態をつきながら、傷口にポーションを振りかけている。
俺は彼らに気づかれないように、その場をそっと離れた。彼らの戦いを見て、確信したことがある。
(俺の成長速度は、明らかに異常だ)
たった二日間のダンジョン探索で、ここまで戦闘能力が向上するのは、普通ではないだろう。壁抜けバグによる装備の強化もあったが、それだけでは説明がつかない。レベルアップの速度、あるいはレベルアップによる能力上昇率が、異常に高いのではないか?
疑問が頭をもたげる。これは、単なる幸運なのか? それとも、ここにも何らかの「バグ」が潜んでいるのだろうか?
(自分自身を、【デバッガー】で調べてみるか……?)
これまで、自分の身体やスキルそのものを対象に【デバッガー】を使うという発想はなかった。だが、この異常な成長の謎を解き明かすには、それしかないかもしれない。
安全な場所まで移動し、俺は試しに自分自身に【情報読取】を使ってみた。
『対象:相馬 譲(ユズル)
分類:人間(転生者)
状態:正常(軽度の疲労)
ステータス:
レベル:??(表示不可:自己解析制限)
HP:??/??(表示限界超過)
MP:??/??(表示限界超過)
筋力:??
耐久力:??
敏捷性:??
魔力:??
器用さ:??
スキル:
【デバッガー】(ユニークスキル) - Lv ??
└ 【情報読取】 - Lv ??
└ 【バグ発見】 - Lv ??
└ 【限定的干渉】 - Lv ??
【剣術(基礎)】 - Lv 2 (New!)
【隠密(低級)】 - Lv 1 (New!)
備考:詳細情報の表示には、より高レベルの【情報読取】能力、または特定の条件が必要です。警告:自己解析は予期せぬ副作用を引き起こす可能性があります。』
「……レベルやステータスの詳細が見えないだと?」
表示された情報に、俺は眉をひそめた。「表示不可」「表示限界超過」という文字が並んでいる。自分のスキルレベルすら分からない。【デバッガー】スキルは、自分自身に対しては制限がかかるのだろうか? あるいは、俺のスキルレベルがまだ低いから?
しかし、収穫もあった。スキル欄に【剣術(基礎)】と【隠密(低級)】が追加されている! いつの間にか習得していたようだ。剣術は訓練場で素振りしたのと、実戦でダガーを使った経験からだろう。隠密は、ゴブリンから身を隠していた行動がスキルとして認められたのかもしれない。レベルはまだ低いが、スキルがあるのとないのとでは大違いだ。これは嬉しい誤算だ。
(だが、肝心の成長速度の謎は解けないままか……ならば)
俺はさらに踏み込み、【バグ発見】を自分自身、あるいはこの世界の「レベルアップシステム」そのものに向けて試みることにした。警告メッセージが気になるが、知的好奇心と、この異常の正体を突き止めたいという欲求が勝った。
(俺の経験値取得、レベルアップ処理、ステータス上昇……どこかに、バグはないか? 本来とは違う動作をしている箇所は?)
これまでで最も強い集中力を要する作業だ。自分の存在そのもの、あるいは世界の根幹システムの一部に干渉しようとしているのだから、当然かもしれない。激しい頭痛と目眩に耐えながら、情報の奔流の中から「歪み」を探し出す。
そして――見つけた。
『……バグ検出:複数件(システム関連)
①【経験値取得補正の異常乗算バグ】
詳細:特定の条件下(転生者?ユニークスキル所持者?詳細不明)において、本来加算されるべき経験値取得に関する補正値が、誤って乗算処理されている。結果、取得経験値が想定の数倍~数十倍に膨れ上がっている可能性。再現性:常時(対象者限定)。影響度:高。
②【レベルアップ必要経験値テーブル参照エラー】
詳細:レベルアップに必要な経験値テーブルを参照する際、稀にエラーが発生し、本来よりも低いレベル帯のテーブルを参照してしまうことがある。結果、レベルアップが通常より容易になっている可能性。再現性:低~中(レベル帯による?)。影響度:中。
③【ステータス上昇値計算式のオーバーフローバグ(潜在的)】
詳細:レベルアップ時のステータス上昇値を計算する内部ロジックに、特定の条件下で数値がオーバーフローし、予期せぬ異常な上昇を引き起こす潜在的なバグが存在する。現時点では未発現、あるいは軽微な影響に留まっている可能性が高いが、高レベル帯において顕在化するリスクあり。再現性:不明。影響度:潜在的に極めて高。
【警告】:これらのシステムレベルのバグは世界の根幹に関わる可能性があります。安易な干渉や悪用は、システム全体の不安定化や、管理者による強制介入(アカウント停止、ペナルティ付与など)を招く危険性があります。最大限の注意を推奨します。』
「……なんだ、これは……」
表示された内容を読み、俺はしばし呆然とした。
経験値が数倍~数十倍? レベルアップが容易に? ステータスが異常上昇する可能性?
まるで、チートコードでも入力したかのような、とんでもないバグのオンパレードだ。
俺の異常な成長速度は、単なる幸運などではなかった。それは、世界のシステムに内在する、深刻な「バグ」の恩恵(?)だったのだ。おそらく、俺が転生者であること、あるいは【デバッガー】というユニークスキルを持っていることが、これらのバグを引き起こすトリガーになっているのだろう。
(これが……俺が人より早く強くなっている理由か)
謎が解けた爽快感と同時に、背筋に冷たいものが走るのを感じた。「スキル成長限界バグ」などと悠長なことを考えていたが、これはもっと根が深く、危険な問題だ。
「管理者による強制介入(アカウント停止、ペナルティ付与など)」という警告文が、特に不気味だ。この世界には、やはり何らかの「管理者」が存在するのだろうか? そして、俺のようなバグ利用者は、いずれ排除される運命にあるのだろうか?
(どうする……? このバグを利用し続けるか? それとも……)
選択肢は二つ。
一つは、この異常な成長を最大限に利用し、誰にも追いつけない速度で強くなること。リスクは高いが、リターンも計り知れない。
もう一つは、目立たないように成長ペースを抑え、システムの監視から逃れること。安全策だが、それではいざという時に力不足になるかもしれない。エムデン村で感じた「魔力汚染」のような脅威に対抗するには、力が必要だ。
(……いや、選択の余地はないか)
俺は元SEだ。バグがあるなら、利用するのが道理だろう。もちろん、リスク管理は徹底する。システムの挙動を監視し、ヤバそうな兆候があればすぐに対応する。だが、このアドバンテージを捨てる手はない。
(ただし、今まで以上に慎重に行動する必要がある。目立ちすぎるのは危険だ)
他の冒険者との比較で異常性が露見したように、人との関わりは慎重にしなければならない。当面は、単独でダンジョンに潜り、効率的にレベルを上げ、スキルを磨くことに集中しよう。
俺は改めて気を引き締め、ダンジョンの奥へと進んだ。
異常な成長速度という、新たな「バグ」を手に入れた(あるいは、その存在に気づいた)俺。それは強力な武器であると同時に、いつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えているようなものだ。
この世界のシステム、そしてその「管理者」に気づかれる前に、俺はどこまで強くなれるだろうか?
そして、この先に待ち受けるであろう、さらなる「バグ」とは――?
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