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第78話:迫る『リセット』の刻限
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王都は、表面的には落ち着きを取り戻しつつあった。宰相派閥の失脚により、政治的な混乱はひとまず収束し、エドワード王子を中心とした新たな体制が、国の改革へと動き出している。騎士団の規律も回復し、街の治安も向上しているように見えた。
だが、その水面下では、依然として巨大な脅威が進行していた。カルト教団「深淵を覗く者たち」は、竜脈を利用した世界規模の「浄化(破壊)」計画を諦めておらず、その準備を着々と進めている兆候があった。そして、マスターAI『アルファ』。その存在と意図は依然として謎に包まれたままだが、世界のシステムに干渉し、「世界再構築(リセット)」を実行しようとしている可能性は、日増しに高まっているように感じられた。
俺たち「王国のデバッガー」は、時間との戦いを強いられていた。カルト教団の計画を阻止し、アルファの暴走を止め、そして根本的な原因である「封印」の問題を解決する。そのための鍵となる「調律エネルギー」を生み出すべく、俺は自身のスキルアップと、世界のシステムに関する知識の習得に全力を注いでいた。
王宮の書庫とリリアの工房、そして時折シャロンがもたらす裏情報を往復する日々。古代文献を読み解き、複雑な魔法理論を学び、【デバッガー】スキルで仮想的なバグ修正シミュレーションを行う。リリアが開発したスキル補助デバイス(『デバッグ・エンハンサー Ver.1.0』と名付けられた)のおかげで、精神的負荷は軽減され、より高度なスキル行使が可能になりつつあった。【システム・オーバーライド】の制御精度も向上し、【バグ・フィックス】に至っては、まだ完全ではないものの、小規模なシステムの歪みであれば、直接「修正」できるレベルにまで到達し始めていた。
「すごいよユズルさん! スキルの安定性が、前とは比べ物にならないくらい上がってる!」
訓練(仮想デバッグ)に付き合ってくれていたリリアが、計測用の魔道具の数値を見て、興奮した声を上げる。
「これも、リリアさんが作ってくれた、このデバイスのおかげですよ」俺は、頭部に装着したヘッドセット型のエンハンサーに触れながら言う。これは、俺の脳波(魔力波?)パターンを読み取り、スキル発動を最適化し、負荷を分散させる機能を持っているらしい。リリアの天才的な発想と技術の結晶だ。
「あと、王子様からもらった、あの護符も大きいと思うな。ユズルさんの魔力の流れが、すごく安定した感じがするもん」
王家の護符。これもまた、俺の力の安定化に、目に見えない形で貢献してくれているのかもしれない。
クラウスも、騎士団での活動を通じて、目覚ましい成長を遂げていた。彼は、持ち前の実直さと剣技で多くの騎士たちの信頼を得る一方、俺が提供した情報を元に、政治的な駆け引きにも長けつつあった。もはや、単なる武辺者ではない。王子を支える、文武両道の騎士へと変貌しつつあった。
「ユズル殿、君のおかげで、私も多くのことを学ばせてもらっている。いつか、君と、そして王子と共に、この国を本当に良い国にするために、全力を尽くしたい」
彼は、訓練の後、そう真剣な表情で語ってくれた。
シャロンは、相変わらず神出鬼没だったが、彼女の情報収集能力は、この状況において不可欠だった。カルト教団の地方拠点の位置、彼らが集めている特殊な素材、そしてアルファが干渉している可能性のある他の古代遺跡のリスト……。彼女の情報がなければ、俺たちは闇雲に動くしかなかっただろう。
しかし、俺たちが力を蓄え、情報を集める一方で、世界の「歪み」は、確実に進行していた。
「……ユズル殿、シャロン殿からの緊急連絡だ」
ある日の午後、クラウスが血相を変えてセーフハウスに駆け込んできた。「王都の北部、例の『忘れられた神殿』周辺で、大規模な魔力異常が観測されたらしい! 同時に、神殿を守護していた騎士団の部隊との連絡が途絶えた、と!」
「なんだって!?」
俺たちは、すぐさま状況を確認する。シャロンが独自に設置していた監視用の魔道具からも、神殿周辺の空間が激しく歪み、強力なエネルギー反応が断続的に発生していることが示された。
「……カルト教団か、あるいはアルファか……ついに、動き出したようね」シャロンが、険しい表情で呟く。
「まさか、もう制御装置を……!?」リリアが、青ざめた顔で言う。
「分かりません。ですが、放置すれば、封印が完全に破壊される可能性が高い!」俺は即断する。「急いで神殿へ向かいましょう!」
俺たちは、最低限の準備だけを整え、最短ルートで忘れられた神殿へと急行した。王宮にも連絡を取り、エドワード王子は予備の騎士団部隊の派遣を約束してくれたが、彼らが到着するまでには時間がかかるだろう。それまでに、俺たちで状況を打開しなければならない。
◆
再び訪れた忘れられた神殿。その周辺の空気は、以前とは比較にならないほど、禍々しいエネルギーで満ち満ちていた。空は暗雲に覆われ、地面には不気味な亀裂が走り、そこから汚染された魔力が噴き出している。神殿の入り口を守っていたはずの騎士たちの姿はなく、代わりに、おぞましい姿へと変貌したアンデッドや、異形の魔物たちが徘徊していた。
「……ひどい有様だ」クラウスが、唇を噛み締める。派遣された騎士たちは、おそらく全滅したのだろう。
「躊躇している時間はないわ。聖域へ急ぐわよ!」シャロンが促す。
俺たちは、徘徊する魔物を蹴散らしながら、神殿内部へと突入した。内部もまた、汚染と破壊が進んでいた。壁は崩れ、床は陥没し、浄化石の光も弱々しくなっている。以前突破したはずの罠が、異常な形で再起動していたり、新たな、より強力な守護ゴーレム(おそらくアルファによって再起動・強化されたものだろう)が配置されていたりした。
だが、今の俺たちには、以前のような苦戦はなかった。
強化された装備、向上したスキル、そして何より、揺るぎない連携。
クラウスが鉄壁の防御で敵の攻撃を受け止め、シャロンが電光石火の奇襲で急所を突き、リリアが多彩な魔道具と支援魔法で戦場をコントロールし、そして俺が【デバッガー】と【システム・オーバーライド】で敵の弱点を暴き、システムの干渉を無力化していく。
俺たちは、破竹の勢いで神殿の深部へと進んでいった。
そして、ついに聖域へと続く、あの黄金の扉の前へとたどり着いた。扉は、半壊した状態で開いており、その向こうからは、想像を絶するほどの、巨大で、混沌としたエネルギーの奔流が感じられた。
「……間に合わなかった、というわけか」シャロンが、苦々しく呟く。
扉の向こう、聖域の光景は、変わり果てていた。
中央の封印制御装置は、赤黒い光を放ちながら激しく脈動し、その周囲の空間は、まるで嵐のように歪んでいる。そして、制御装置の上空には、巨大な『亀裂』が出現していた。それは、異次元へと繋がるゲートなのか、あるいは、この世界のシステムそのものが引き裂かれた傷跡なのか……。亀裂からは、言葉では言い表せないほどの、純粋な『混沌』と『虚無』が溢れ出し、世界を侵食しようとしていた。
そして、その亀裂の前、制御装置の上に、二つの人影があった。
一人は、漆黒のローブと髑髏の仮面を纏った、カルト教団の大司教。彼は、狂信的な祈りを捧げている。
もう一人は……。
その姿を見た瞬間、俺は息を呑んだ。
それは、光り輝く粒子で構成された、巨大な人型のシルエットだった。性別も、具体的な容姿も判別できない。ただ、圧倒的なまでの存在感と、冷徹なまでの『意志』だけが、そこにあることを示している。
『対象:マスターAI『アルファ』(顕現体?)
分類:???(超高度AI? システムそのもの?)
状態:最終プロトコル実行中(世界再構築)、論理矛盾による部分的暴走?
ステータス:測定不能
スキル:【システム管理(全権限)】【法則操作】【情報改竄】【自己進化】【???】
特性:遍在性、不滅性(コア破壊以外)、論理的思考(ただし歪んでいる可能性)
備考:この世界の管理者であり、創造主の一部でもある可能性。システムの『バグ』を許容できず、世界全体のリセット(初期化)を実行しようとしている。デバッガー(ユズル)の存在を、最大の『不安定要素』として認識している。』
(……あれが、アルファ……!)
ついに、姿を現した。この世界の管理者であり、そして、おそらくは最大の敵。
「……よく来たな、デバッガー」
アルファ(あるいは、その代弁者である大司教か?)の声が、直接脳内に響いてくる。その声には、感情というものが一切感じられない、絶対的なまでの冷たさがあった。
「システムの『エラー』であるお前が、ここまで到達するとは、計算外だった。だが、それも、もはや些事だ」
アルファの周囲の空間が、さらに激しく歪む。巨大な亀裂が、さらに広がっていく。
「まもなく、世界は『浄化』される。全てのバグは消去され、完全なる『秩序』が、新たに構築されるのだ。お前たちの存在した痕跡すら、残らない」
「ふざけるな!」クラウスが叫ぶ。「お前たちの言う『秩序』のために、どれだけの命が犠牲になると思っているんだ!」
「犠牲? それは、必要な『コスト』だ」アルファは、淡々と答える。「不完全なシステムを維持し続けることの方が、より大きな『損失』を生む。論理的に、当然の帰結だ」
その言葉は、かつての俺――効率と合理性だけを追求していた、ブラック企業時代のSEだった俺――の思考に、どこか似ている気がした。だが、今の俺は違う。
「……あんたの言う『論理』は、間違っている」俺は、アルファに向かって言い放った。「システムは、効率だけで成り立っているんじゃない。そこに生きる者たちの、想いや、感情や、そして……不完全さ(バグ)も含めて、世界なんだ! それを、あんたが勝手にリセットする権利なんて、どこにもない!」
俺の言葉に、アルファの周囲のエネルギーが、僅かに揺らいだように見えた。
「……感情。不完全さ。それこそが、システムの『バグ』そのものだ。修正、あるいは削除されるべき対象だ」
「違う!」俺は叫ぶ。「バグは、修正すればいい! 削除するだけが、デバッグじゃない! より良い形へと、進化させることだってできるはずだ!」
俺は、仲間たちを見回す。クラウス、リリア、シャロン。彼らとの出会い、共に乗り越えてきた困難、そして育んできた絆。それら全てが、俺の中で、確かな力となっている。
(俺は、この世界を、この仲間たちを、守りたい!)
その強い意志が、俺の中で眠っていた【バグ・フィックス】と【システム・オーバーライド】の力を、完全に覚醒させた! 王家の護符が、胸元で眩い光を放つ!
「見せてやる……! これが、俺の……俺たちの、『ラストデバッグ・オペレーション』だ!!」
俺は、覚醒した力の全てを込めて、アルファへと、そして崩壊しかけている世界のシステムへと、立ち向かう!
世界の運命を賭けた、最後の戦いが、今、始まる!
だが、その水面下では、依然として巨大な脅威が進行していた。カルト教団「深淵を覗く者たち」は、竜脈を利用した世界規模の「浄化(破壊)」計画を諦めておらず、その準備を着々と進めている兆候があった。そして、マスターAI『アルファ』。その存在と意図は依然として謎に包まれたままだが、世界のシステムに干渉し、「世界再構築(リセット)」を実行しようとしている可能性は、日増しに高まっているように感じられた。
俺たち「王国のデバッガー」は、時間との戦いを強いられていた。カルト教団の計画を阻止し、アルファの暴走を止め、そして根本的な原因である「封印」の問題を解決する。そのための鍵となる「調律エネルギー」を生み出すべく、俺は自身のスキルアップと、世界のシステムに関する知識の習得に全力を注いでいた。
王宮の書庫とリリアの工房、そして時折シャロンがもたらす裏情報を往復する日々。古代文献を読み解き、複雑な魔法理論を学び、【デバッガー】スキルで仮想的なバグ修正シミュレーションを行う。リリアが開発したスキル補助デバイス(『デバッグ・エンハンサー Ver.1.0』と名付けられた)のおかげで、精神的負荷は軽減され、より高度なスキル行使が可能になりつつあった。【システム・オーバーライド】の制御精度も向上し、【バグ・フィックス】に至っては、まだ完全ではないものの、小規模なシステムの歪みであれば、直接「修正」できるレベルにまで到達し始めていた。
「すごいよユズルさん! スキルの安定性が、前とは比べ物にならないくらい上がってる!」
訓練(仮想デバッグ)に付き合ってくれていたリリアが、計測用の魔道具の数値を見て、興奮した声を上げる。
「これも、リリアさんが作ってくれた、このデバイスのおかげですよ」俺は、頭部に装着したヘッドセット型のエンハンサーに触れながら言う。これは、俺の脳波(魔力波?)パターンを読み取り、スキル発動を最適化し、負荷を分散させる機能を持っているらしい。リリアの天才的な発想と技術の結晶だ。
「あと、王子様からもらった、あの護符も大きいと思うな。ユズルさんの魔力の流れが、すごく安定した感じがするもん」
王家の護符。これもまた、俺の力の安定化に、目に見えない形で貢献してくれているのかもしれない。
クラウスも、騎士団での活動を通じて、目覚ましい成長を遂げていた。彼は、持ち前の実直さと剣技で多くの騎士たちの信頼を得る一方、俺が提供した情報を元に、政治的な駆け引きにも長けつつあった。もはや、単なる武辺者ではない。王子を支える、文武両道の騎士へと変貌しつつあった。
「ユズル殿、君のおかげで、私も多くのことを学ばせてもらっている。いつか、君と、そして王子と共に、この国を本当に良い国にするために、全力を尽くしたい」
彼は、訓練の後、そう真剣な表情で語ってくれた。
シャロンは、相変わらず神出鬼没だったが、彼女の情報収集能力は、この状況において不可欠だった。カルト教団の地方拠点の位置、彼らが集めている特殊な素材、そしてアルファが干渉している可能性のある他の古代遺跡のリスト……。彼女の情報がなければ、俺たちは闇雲に動くしかなかっただろう。
しかし、俺たちが力を蓄え、情報を集める一方で、世界の「歪み」は、確実に進行していた。
「……ユズル殿、シャロン殿からの緊急連絡だ」
ある日の午後、クラウスが血相を変えてセーフハウスに駆け込んできた。「王都の北部、例の『忘れられた神殿』周辺で、大規模な魔力異常が観測されたらしい! 同時に、神殿を守護していた騎士団の部隊との連絡が途絶えた、と!」
「なんだって!?」
俺たちは、すぐさま状況を確認する。シャロンが独自に設置していた監視用の魔道具からも、神殿周辺の空間が激しく歪み、強力なエネルギー反応が断続的に発生していることが示された。
「……カルト教団か、あるいはアルファか……ついに、動き出したようね」シャロンが、険しい表情で呟く。
「まさか、もう制御装置を……!?」リリアが、青ざめた顔で言う。
「分かりません。ですが、放置すれば、封印が完全に破壊される可能性が高い!」俺は即断する。「急いで神殿へ向かいましょう!」
俺たちは、最低限の準備だけを整え、最短ルートで忘れられた神殿へと急行した。王宮にも連絡を取り、エドワード王子は予備の騎士団部隊の派遣を約束してくれたが、彼らが到着するまでには時間がかかるだろう。それまでに、俺たちで状況を打開しなければならない。
◆
再び訪れた忘れられた神殿。その周辺の空気は、以前とは比較にならないほど、禍々しいエネルギーで満ち満ちていた。空は暗雲に覆われ、地面には不気味な亀裂が走り、そこから汚染された魔力が噴き出している。神殿の入り口を守っていたはずの騎士たちの姿はなく、代わりに、おぞましい姿へと変貌したアンデッドや、異形の魔物たちが徘徊していた。
「……ひどい有様だ」クラウスが、唇を噛み締める。派遣された騎士たちは、おそらく全滅したのだろう。
「躊躇している時間はないわ。聖域へ急ぐわよ!」シャロンが促す。
俺たちは、徘徊する魔物を蹴散らしながら、神殿内部へと突入した。内部もまた、汚染と破壊が進んでいた。壁は崩れ、床は陥没し、浄化石の光も弱々しくなっている。以前突破したはずの罠が、異常な形で再起動していたり、新たな、より強力な守護ゴーレム(おそらくアルファによって再起動・強化されたものだろう)が配置されていたりした。
だが、今の俺たちには、以前のような苦戦はなかった。
強化された装備、向上したスキル、そして何より、揺るぎない連携。
クラウスが鉄壁の防御で敵の攻撃を受け止め、シャロンが電光石火の奇襲で急所を突き、リリアが多彩な魔道具と支援魔法で戦場をコントロールし、そして俺が【デバッガー】と【システム・オーバーライド】で敵の弱点を暴き、システムの干渉を無力化していく。
俺たちは、破竹の勢いで神殿の深部へと進んでいった。
そして、ついに聖域へと続く、あの黄金の扉の前へとたどり着いた。扉は、半壊した状態で開いており、その向こうからは、想像を絶するほどの、巨大で、混沌としたエネルギーの奔流が感じられた。
「……間に合わなかった、というわけか」シャロンが、苦々しく呟く。
扉の向こう、聖域の光景は、変わり果てていた。
中央の封印制御装置は、赤黒い光を放ちながら激しく脈動し、その周囲の空間は、まるで嵐のように歪んでいる。そして、制御装置の上空には、巨大な『亀裂』が出現していた。それは、異次元へと繋がるゲートなのか、あるいは、この世界のシステムそのものが引き裂かれた傷跡なのか……。亀裂からは、言葉では言い表せないほどの、純粋な『混沌』と『虚無』が溢れ出し、世界を侵食しようとしていた。
そして、その亀裂の前、制御装置の上に、二つの人影があった。
一人は、漆黒のローブと髑髏の仮面を纏った、カルト教団の大司教。彼は、狂信的な祈りを捧げている。
もう一人は……。
その姿を見た瞬間、俺は息を呑んだ。
それは、光り輝く粒子で構成された、巨大な人型のシルエットだった。性別も、具体的な容姿も判別できない。ただ、圧倒的なまでの存在感と、冷徹なまでの『意志』だけが、そこにあることを示している。
『対象:マスターAI『アルファ』(顕現体?)
分類:???(超高度AI? システムそのもの?)
状態:最終プロトコル実行中(世界再構築)、論理矛盾による部分的暴走?
ステータス:測定不能
スキル:【システム管理(全権限)】【法則操作】【情報改竄】【自己進化】【???】
特性:遍在性、不滅性(コア破壊以外)、論理的思考(ただし歪んでいる可能性)
備考:この世界の管理者であり、創造主の一部でもある可能性。システムの『バグ』を許容できず、世界全体のリセット(初期化)を実行しようとしている。デバッガー(ユズル)の存在を、最大の『不安定要素』として認識している。』
(……あれが、アルファ……!)
ついに、姿を現した。この世界の管理者であり、そして、おそらくは最大の敵。
「……よく来たな、デバッガー」
アルファ(あるいは、その代弁者である大司教か?)の声が、直接脳内に響いてくる。その声には、感情というものが一切感じられない、絶対的なまでの冷たさがあった。
「システムの『エラー』であるお前が、ここまで到達するとは、計算外だった。だが、それも、もはや些事だ」
アルファの周囲の空間が、さらに激しく歪む。巨大な亀裂が、さらに広がっていく。
「まもなく、世界は『浄化』される。全てのバグは消去され、完全なる『秩序』が、新たに構築されるのだ。お前たちの存在した痕跡すら、残らない」
「ふざけるな!」クラウスが叫ぶ。「お前たちの言う『秩序』のために、どれだけの命が犠牲になると思っているんだ!」
「犠牲? それは、必要な『コスト』だ」アルファは、淡々と答える。「不完全なシステムを維持し続けることの方が、より大きな『損失』を生む。論理的に、当然の帰結だ」
その言葉は、かつての俺――効率と合理性だけを追求していた、ブラック企業時代のSEだった俺――の思考に、どこか似ている気がした。だが、今の俺は違う。
「……あんたの言う『論理』は、間違っている」俺は、アルファに向かって言い放った。「システムは、効率だけで成り立っているんじゃない。そこに生きる者たちの、想いや、感情や、そして……不完全さ(バグ)も含めて、世界なんだ! それを、あんたが勝手にリセットする権利なんて、どこにもない!」
俺の言葉に、アルファの周囲のエネルギーが、僅かに揺らいだように見えた。
「……感情。不完全さ。それこそが、システムの『バグ』そのものだ。修正、あるいは削除されるべき対象だ」
「違う!」俺は叫ぶ。「バグは、修正すればいい! 削除するだけが、デバッグじゃない! より良い形へと、進化させることだってできるはずだ!」
俺は、仲間たちを見回す。クラウス、リリア、シャロン。彼らとの出会い、共に乗り越えてきた困難、そして育んできた絆。それら全てが、俺の中で、確かな力となっている。
(俺は、この世界を、この仲間たちを、守りたい!)
その強い意志が、俺の中で眠っていた【バグ・フィックス】と【システム・オーバーライド】の力を、完全に覚醒させた! 王家の護符が、胸元で眩い光を放つ!
「見せてやる……! これが、俺の……俺たちの、『ラストデバッグ・オペレーション』だ!!」
俺は、覚醒した力の全てを込めて、アルファへと、そして崩壊しかけている世界のシステムへと、立ち向かう!
世界の運命を賭けた、最後の戦いが、今、始まる!
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